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13. エピローグ:ある森に伝わる話
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「そっちへ行っちゃだめだよ! 戻っておいで」
明るい日の差す森の中で、籠を背負った男が息子に呼びかける。
「えー、大丈夫だよ、すぐ戻ってくるって!」
まだ10になるかならないかといった年頃の男の子が、父親に不服そうな声で叫び返した。
「だーめだ。いつも言っているだろう。森の奥には……」
「魔物が出る、だろ? そんなの大人が作った嘘に決まってら!」
「あっこら、待ちなさい!」
駆け出そうとした子供はあっという間に父親に追いつかれ、首根っこを掴まれてようやく大人しくなる。
「魔物だけじゃない」
「え……?」
「父さんは昔、森の奥に迷い込んだことがあるんだ。まだお前が生まれていない頃のことだよ」
子供をなだめるための単なる作り話ではないとわかる父親の表情と声に、男の子は、「えっ」と小さく声を発したまま、驚きと恐怖でその場に固まった。
「道に迷って歩いているうちに、いつの間にか、明らかに踏み込んではいけない場所に入ってしまったのが分かった。そして……今でも忘れられない。金色のたてがみに、金の目をした獣が……それが、父さんの目の前に、ゆっくりと現れた。そして、そのそばには……」
「そばには?」
先ほどまでの威勢も何処へやら、息子は父の話の続きを固唾を飲んで待つ。
「男が立っていた」
「人間が……?」
「人間かどうかは分からない。ものすごく年老いているようにも、まだ若者のようにも見えた。腰を抜かした父さんの前を、獣と男は悠々と通り過ぎていった」
「それで?」
誰かに聞かれてはいけないかのように、子供が声をひそめて聞く。
「父さんはその場で気を失った。気づいたら、森の外れ、この辺りに倒れていたんだ」
「……」
「あの時、一歩間違っていたら、父さんはここにはいない。だから、お前も近づいちゃだめだ」
「分かった……」
子供が神妙な顔つきで頷いた。
父親から解放された後、子供は少し離れたところで、今にもその獣と男が出てきやしないかと森の奥を透かすように見つめる。
だが、あたりにはどこまでも、長閑な鳥の声と風の音が響いているだけだった。
明るい日の差す森の中で、籠を背負った男が息子に呼びかける。
「えー、大丈夫だよ、すぐ戻ってくるって!」
まだ10になるかならないかといった年頃の男の子が、父親に不服そうな声で叫び返した。
「だーめだ。いつも言っているだろう。森の奥には……」
「魔物が出る、だろ? そんなの大人が作った嘘に決まってら!」
「あっこら、待ちなさい!」
駆け出そうとした子供はあっという間に父親に追いつかれ、首根っこを掴まれてようやく大人しくなる。
「魔物だけじゃない」
「え……?」
「父さんは昔、森の奥に迷い込んだことがあるんだ。まだお前が生まれていない頃のことだよ」
子供をなだめるための単なる作り話ではないとわかる父親の表情と声に、男の子は、「えっ」と小さく声を発したまま、驚きと恐怖でその場に固まった。
「道に迷って歩いているうちに、いつの間にか、明らかに踏み込んではいけない場所に入ってしまったのが分かった。そして……今でも忘れられない。金色のたてがみに、金の目をした獣が……それが、父さんの目の前に、ゆっくりと現れた。そして、そのそばには……」
「そばには?」
先ほどまでの威勢も何処へやら、息子は父の話の続きを固唾を飲んで待つ。
「男が立っていた」
「人間が……?」
「人間かどうかは分からない。ものすごく年老いているようにも、まだ若者のようにも見えた。腰を抜かした父さんの前を、獣と男は悠々と通り過ぎていった」
「それで?」
誰かに聞かれてはいけないかのように、子供が声をひそめて聞く。
「父さんはその場で気を失った。気づいたら、森の外れ、この辺りに倒れていたんだ」
「……」
「あの時、一歩間違っていたら、父さんはここにはいない。だから、お前も近づいちゃだめだ」
「分かった……」
子供が神妙な顔つきで頷いた。
父親から解放された後、子供は少し離れたところで、今にもその獣と男が出てきやしないかと森の奥を透かすように見つめる。
だが、あたりにはどこまでも、長閑な鳥の声と風の音が響いているだけだった。
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