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10. 人間界で迎えた朝
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翌朝メイリールは、カサカサという物音と、何かが動き出す気配で目をぱちっと開けた。やはり相当疲れていたのか、思いの外ぐっすりと寝入ってしまっていたようだった。
目を開けて最初に飛び込んできた天井は見慣れない岩肌で、一瞬、ここはどこだっけ、と瞬きする。その後、じわじわと昨日の記憶が水底から浮上するように思い出されて、メイリールは身体にかけられていた布を跳ね除け、飛び上がるように起きた。
——あ……昨日、俺は、人間界に来て、ルーヴとあの天使が元いた洞窟に……
そして、あの人間の男だ。メイリールをまるで小さな子供のように扱い、プライドを傷つけられた。昨晩のことを思い出すと、羞恥とやり場のない怒りで腹の奥がカッと熱くなる。
——そもそも、あいつはもういなくなったのか……?
あの人間が何を目的にこの洞窟にいたのか、メイリールには知る由もない。一晩雨宿りしていただけの可能性だって十分にあった。
落ち着かなくなったメイリールは、男がいなくなったかどうか確認するために、そろっと部屋の中から目だけを出して、洞窟の中を見渡した。
——あ、いた……
男は、身支度をしているようで、大きなカバンに何やら詰めている。洞窟の中に差し込んでいる光の加減からして、朝はまだ早い時間のようだった。昨日の大雨はすっかり上がっていて、みずみずしい緑と土の匂いがする。
男がどこかへ行ってしまうような気がしたメイリールは、なぜか焦りを覚えて、部屋を飛び出して男の元へ駆け出した。
「あ……」
メイリールの足音に、男がこちらを振り向く。途端に、どうしたらいいのか分からなくなって、メイリールはその場に立ち止まった。
自分でも、男に何を言おうとしていたのか、そもそも何か言おうとしていたのか、考えてみてもよく分からない。
そうする間に男は再び外へ向かって歩き出そうとするから、メイリールはもう一度慌てて、今度はようやく声が出た。
「あ、えっと、どっか、行くのか」
声に出してから、メイリールはもう少しマシな言い方ができなかったのかと自分に腹を立てた。これでは置いていかれる子供だ。
「……水を浴びられるところを探す。あと、できれば食料も」
また無視されるかと思っていたが、意外にも、男はしっかりとした声で答えてくれた。
メイリールの立っているところからは男の顔は逆光になっていて、表情はよく見えない。だが、どこかへ行ってしまうわけではないと分かって、メイリールはなぜかほっとした。
それから、水を浴びる、という言葉を聞いて、メイリールは自分も昨日の服を着たままだということに急に気づいた。ついでに言えば、胃の方も空っぽだ。
「お、俺も、行く!」
男に断る隙を与えぬよう、答えを聞く前に自分の荷物に向かい、着替えを取り出す。
この際選んでいる余裕なんかないから、カバンの中に突っ込んであった服のうち一番上にあったものを腕に抱えて、男の前に仁王立ちした。洞窟の壁際で眠っていたらしいルークも、主の動きに目を覚まして肩に飛んできた。
男が小さくため息をつく。
「……好きにしろ。ただ、俺の邪魔はするな」
——やった!
男を根負けさせてやったような気になり、メイリールは心の中でガッツポーズをした。
目を開けて最初に飛び込んできた天井は見慣れない岩肌で、一瞬、ここはどこだっけ、と瞬きする。その後、じわじわと昨日の記憶が水底から浮上するように思い出されて、メイリールは身体にかけられていた布を跳ね除け、飛び上がるように起きた。
——あ……昨日、俺は、人間界に来て、ルーヴとあの天使が元いた洞窟に……
そして、あの人間の男だ。メイリールをまるで小さな子供のように扱い、プライドを傷つけられた。昨晩のことを思い出すと、羞恥とやり場のない怒りで腹の奥がカッと熱くなる。
——そもそも、あいつはもういなくなったのか……?
あの人間が何を目的にこの洞窟にいたのか、メイリールには知る由もない。一晩雨宿りしていただけの可能性だって十分にあった。
落ち着かなくなったメイリールは、男がいなくなったかどうか確認するために、そろっと部屋の中から目だけを出して、洞窟の中を見渡した。
——あ、いた……
男は、身支度をしているようで、大きなカバンに何やら詰めている。洞窟の中に差し込んでいる光の加減からして、朝はまだ早い時間のようだった。昨日の大雨はすっかり上がっていて、みずみずしい緑と土の匂いがする。
男がどこかへ行ってしまうような気がしたメイリールは、なぜか焦りを覚えて、部屋を飛び出して男の元へ駆け出した。
「あ……」
メイリールの足音に、男がこちらを振り向く。途端に、どうしたらいいのか分からなくなって、メイリールはその場に立ち止まった。
自分でも、男に何を言おうとしていたのか、そもそも何か言おうとしていたのか、考えてみてもよく分からない。
そうする間に男は再び外へ向かって歩き出そうとするから、メイリールはもう一度慌てて、今度はようやく声が出た。
「あ、えっと、どっか、行くのか」
声に出してから、メイリールはもう少しマシな言い方ができなかったのかと自分に腹を立てた。これでは置いていかれる子供だ。
「……水を浴びられるところを探す。あと、できれば食料も」
また無視されるかと思っていたが、意外にも、男はしっかりとした声で答えてくれた。
メイリールの立っているところからは男の顔は逆光になっていて、表情はよく見えない。だが、どこかへ行ってしまうわけではないと分かって、メイリールはなぜかほっとした。
それから、水を浴びる、という言葉を聞いて、メイリールは自分も昨日の服を着たままだということに急に気づいた。ついでに言えば、胃の方も空っぽだ。
「お、俺も、行く!」
男に断る隙を与えぬよう、答えを聞く前に自分の荷物に向かい、着替えを取り出す。
この際選んでいる余裕なんかないから、カバンの中に突っ込んであった服のうち一番上にあったものを腕に抱えて、男の前に仁王立ちした。洞窟の壁際で眠っていたらしいルークも、主の動きに目を覚まして肩に飛んできた。
男が小さくため息をつく。
「……好きにしろ。ただ、俺の邪魔はするな」
——やった!
男を根負けさせてやったような気になり、メイリールは心の中でガッツポーズをした。
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