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25. もう、一人じゃない
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翌朝。
ふと目が覚めたメイリールは、まだ自分がディートハルトの腕の中にいることに気づくと、驚きで一気に意識が覚醒した。
いつもなら、自分の目が覚める前にいつの間にかディートハルトの方が起き出し、その気配でメイリールも目を覚ますのに、今日はどうしたことだろう。
ディートハルトを起こさないよう目だけ上げて様子を伺えば、寝ている部屋の入口から見える、洞窟の中に差し込む光の色からして、すでに日は昇っている。ルークももう目を覚まして羽繕いをしていた。
メイリールの起き出した気配が伝わってしまったのか、眠っていたディートハルトが身じろぎをし、やがて重そうに目蓋を上げた。
「ディー、……おはよう」
昨晩ほとんど無意識で、愛称のように名前を短くして呼んでしまったことを思い出し、今更元に戻すのもなんだか気恥ずかしくて妙な間が空いてしまった。
「珍しいね、いつもなら俺より早く起きるのに」
そう言うと、ディートハルトはようやく気づいたように、乱れた髪の毛をかきあげて上半身を起こした。
「そうだな……随分久しぶりに、なんの夢も見ずに眠れた」
「夢?」
意外な言葉に思わず聞き返すと、ディートハルトの表情に少し影が差した気がして、メイリールは不安を覚える。
何か別の話で気を逸らそうかと考えていると、ディートハルトがぽつりぽつりと話し出した。
「ああ……かつての、親友を、……この手にかける、夢だ」
言葉は出てこなかった。
その親友、という人物がディートハルトにとってどんな意味を持つ存在だったのかは、聞かなくても分かった。沈黙が流れる。
「すまん、つまらぬことを、」
どうすればいいのかなんて、分からなかった。ただ、気持ちが溢れて、身体が動いた。
「……っ」
そんな顔をしてほしくない。その想いだけで、メイリールはディートハルトを力いっぱい抱きしめた。
自分がそうしてもらったら、きっと安心するから。きっと、伝わるから。
「ディー、」
掠れた声で、呼びかける。何度でも、伝えよう。
「昨日の夜、俺が言ったこと……あれ、寝言じゃないから」
我ながら、なんて幼稚な表現しかできないのだろうと呆れる。だが、そんなことを気にしていられるような余裕はなかった。
「俺は、ディーのそばにいる。ずっといる」
それが自分の気持ちの押し付けだけではないと、今は信じられるから。
「ゆっくりでいい。もう、一人じゃない。全部、二人でやればいい」
ディートハルトの腕が、メイリールの背中に回される。ディートハルトの、言葉にならない気持ちが流れ込んでくるようだった。
「いい年して、情けないな」
どうしても離れがたくて、抱きしめたまま動かないメイリールを、ディートハルトが膝に抱え上げる。
向かい合う形で膝に乗り上げ、肩口に頭を乗せて甘えるメイリールに、ディートハルトが苦笑混じりの声で言った。
「何が?」
首筋に顔を埋めながら、メイリールが聞く。
「いや、ついこの前まで駄々っ子同然だったお前が、いつの間にそんなにしっかりしたことを言うようになったかと思ってな」
揶揄うような口ぶりに、メイリールが抗議する。
「俺、もうガキじゃないんだけど!」
そうだな、となおも笑いながら頭を撫でるディートハルトに拗ねた顔をして見せながら、メイリールは幸せで心がはち切れそうだった。
ふと目が覚めたメイリールは、まだ自分がディートハルトの腕の中にいることに気づくと、驚きで一気に意識が覚醒した。
いつもなら、自分の目が覚める前にいつの間にかディートハルトの方が起き出し、その気配でメイリールも目を覚ますのに、今日はどうしたことだろう。
ディートハルトを起こさないよう目だけ上げて様子を伺えば、寝ている部屋の入口から見える、洞窟の中に差し込む光の色からして、すでに日は昇っている。ルークももう目を覚まして羽繕いをしていた。
メイリールの起き出した気配が伝わってしまったのか、眠っていたディートハルトが身じろぎをし、やがて重そうに目蓋を上げた。
「ディー、……おはよう」
昨晩ほとんど無意識で、愛称のように名前を短くして呼んでしまったことを思い出し、今更元に戻すのもなんだか気恥ずかしくて妙な間が空いてしまった。
「珍しいね、いつもなら俺より早く起きるのに」
そう言うと、ディートハルトはようやく気づいたように、乱れた髪の毛をかきあげて上半身を起こした。
「そうだな……随分久しぶりに、なんの夢も見ずに眠れた」
「夢?」
意外な言葉に思わず聞き返すと、ディートハルトの表情に少し影が差した気がして、メイリールは不安を覚える。
何か別の話で気を逸らそうかと考えていると、ディートハルトがぽつりぽつりと話し出した。
「ああ……かつての、親友を、……この手にかける、夢だ」
言葉は出てこなかった。
その親友、という人物がディートハルトにとってどんな意味を持つ存在だったのかは、聞かなくても分かった。沈黙が流れる。
「すまん、つまらぬことを、」
どうすればいいのかなんて、分からなかった。ただ、気持ちが溢れて、身体が動いた。
「……っ」
そんな顔をしてほしくない。その想いだけで、メイリールはディートハルトを力いっぱい抱きしめた。
自分がそうしてもらったら、きっと安心するから。きっと、伝わるから。
「ディー、」
掠れた声で、呼びかける。何度でも、伝えよう。
「昨日の夜、俺が言ったこと……あれ、寝言じゃないから」
我ながら、なんて幼稚な表現しかできないのだろうと呆れる。だが、そんなことを気にしていられるような余裕はなかった。
「俺は、ディーのそばにいる。ずっといる」
それが自分の気持ちの押し付けだけではないと、今は信じられるから。
「ゆっくりでいい。もう、一人じゃない。全部、二人でやればいい」
ディートハルトの腕が、メイリールの背中に回される。ディートハルトの、言葉にならない気持ちが流れ込んでくるようだった。
「いい年して、情けないな」
どうしても離れがたくて、抱きしめたまま動かないメイリールを、ディートハルトが膝に抱え上げる。
向かい合う形で膝に乗り上げ、肩口に頭を乗せて甘えるメイリールに、ディートハルトが苦笑混じりの声で言った。
「何が?」
首筋に顔を埋めながら、メイリールが聞く。
「いや、ついこの前まで駄々っ子同然だったお前が、いつの間にそんなにしっかりしたことを言うようになったかと思ってな」
揶揄うような口ぶりに、メイリールが抗議する。
「俺、もうガキじゃないんだけど!」
そうだな、となおも笑いながら頭を撫でるディートハルトに拗ねた顔をして見せながら、メイリールは幸せで心がはち切れそうだった。
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