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そんなリックに、ネイトは僅かな希望を抱いた。
「リック……そうだ、お前ならわかってくれると思っていたよ。突然除籍なんて、あんまりだ。それにぼくが愛しているのは、エリンだって──」
リックは手を伸ばしてくるネイトには目もくれず、一気に捲し立てた。
「今すぐにお返事をとは言いません。ですが、どうか僕を、エリン様の婚約者候補に加えてはいただけませんか?!」
しん。
応接室が、水を打ったように静まり返った。わなわなとこぶしを震えさせたのは、侯爵だった。
「お、お前まで馬鹿なことを言うな! こんなことをしでかした男の弟と婚約など、エリン様が望むと思うのか!?」
リックはこぶしを握り、うつ向いた。
「わかっています。ですが、僕は前からエリン様を慕っていました……だから、少しの可能性にすがりたくなってしまったのです──申し訳ありませんでした。今の言葉は、どうかお忘れください」
リックがゆっくりと腰を折る。侯爵も、続けて腰を深く折った。公爵と公爵夫人は、間にいるエリンにそっと顔を向けた。すると。
「……エリン、どうした。顔が少し赤いようだが」
公爵の言葉に、リックと侯爵が勢いよく顔をあげた。確かに、先ほどまでの凛とした顔が緩み、僅かに頬が赤くなっているように見えた。
「──気のせいです」
言いながら、リックと目線を合わせようとしないエリン。これほどまで真っ直ぐに想いをぶつけられたことなどなかったエリンにとって、これは完全なる不意打ちだった。まして、実の兄ではなく、ずっとエリンの味方をしてくれていたリックには、良い印象しかない。
エリンの態度に、ネイトは目を見張った。胸のあたりが、妙にざわつくのを感じた。
「……なに、その顔。ぼくにアデラとのことを散々責めておいて、きみだって同じじゃないか。おかしいと思ってたんだよ。リックとやけに楽しそうにおしゃべりしていてさ」
ネイトの顔が、醜く歪む。侯爵は、はあと息をつき、ネイトの前に立ちはだかった。
「お前、まだいたのか。さっさと出ていけ。謝罪をしたかどうか、明日、確かめるからな。もししていなければ、問答無用で警察につき出すぞ」
「……父上はぼくが、野垂れ死にしてもよいと言うのですか」
「ああ、構わんさ。馬鹿なお前のために、一族を路頭に迷わせるわけにはいかんからな──おい。こいつを早く、屋敷から摘まみ出せ」
命じられた男の使用人が二人、左右からネイトの両腕を掴んだ。ネイトが「待ってください!」と叫ぶ。
「お金は? まさか無一文で放り出すつもりじゃありませんよね?」
「そのまさかだが」
「……は? 馬車は? まさか徒歩で移動しろと!?」
「お前は平民なのだから、当然だろう。もう口を開くな。イライラして仕方ない」
抵抗するも、ズルズルと屋敷の外まで連れ出され、ついには門の外に放り出されたネイトは、しばらくそのまま、茫然と立ち尽くしていた。
「リック……そうだ、お前ならわかってくれると思っていたよ。突然除籍なんて、あんまりだ。それにぼくが愛しているのは、エリンだって──」
リックは手を伸ばしてくるネイトには目もくれず、一気に捲し立てた。
「今すぐにお返事をとは言いません。ですが、どうか僕を、エリン様の婚約者候補に加えてはいただけませんか?!」
しん。
応接室が、水を打ったように静まり返った。わなわなとこぶしを震えさせたのは、侯爵だった。
「お、お前まで馬鹿なことを言うな! こんなことをしでかした男の弟と婚約など、エリン様が望むと思うのか!?」
リックはこぶしを握り、うつ向いた。
「わかっています。ですが、僕は前からエリン様を慕っていました……だから、少しの可能性にすがりたくなってしまったのです──申し訳ありませんでした。今の言葉は、どうかお忘れください」
リックがゆっくりと腰を折る。侯爵も、続けて腰を深く折った。公爵と公爵夫人は、間にいるエリンにそっと顔を向けた。すると。
「……エリン、どうした。顔が少し赤いようだが」
公爵の言葉に、リックと侯爵が勢いよく顔をあげた。確かに、先ほどまでの凛とした顔が緩み、僅かに頬が赤くなっているように見えた。
「──気のせいです」
言いながら、リックと目線を合わせようとしないエリン。これほどまで真っ直ぐに想いをぶつけられたことなどなかったエリンにとって、これは完全なる不意打ちだった。まして、実の兄ではなく、ずっとエリンの味方をしてくれていたリックには、良い印象しかない。
エリンの態度に、ネイトは目を見張った。胸のあたりが、妙にざわつくのを感じた。
「……なに、その顔。ぼくにアデラとのことを散々責めておいて、きみだって同じじゃないか。おかしいと思ってたんだよ。リックとやけに楽しそうにおしゃべりしていてさ」
ネイトの顔が、醜く歪む。侯爵は、はあと息をつき、ネイトの前に立ちはだかった。
「お前、まだいたのか。さっさと出ていけ。謝罪をしたかどうか、明日、確かめるからな。もししていなければ、問答無用で警察につき出すぞ」
「……父上はぼくが、野垂れ死にしてもよいと言うのですか」
「ああ、構わんさ。馬鹿なお前のために、一族を路頭に迷わせるわけにはいかんからな──おい。こいつを早く、屋敷から摘まみ出せ」
命じられた男の使用人が二人、左右からネイトの両腕を掴んだ。ネイトが「待ってください!」と叫ぶ。
「お金は? まさか無一文で放り出すつもりじゃありませんよね?」
「そのまさかだが」
「……は? 馬車は? まさか徒歩で移動しろと!?」
「お前は平民なのだから、当然だろう。もう口を開くな。イライラして仕方ない」
抵抗するも、ズルズルと屋敷の外まで連れ出され、ついには門の外に放り出されたネイトは、しばらくそのまま、茫然と立ち尽くしていた。
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