可愛い姉より、地味なわたしを選んでくれた王子様。と思っていたら、単に姉と間違えただけのようです。

ふまさ

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「キース殿下。妹と何を話していらっしゃるの? 私もまぜてくださいな」

 ほわほわとした口調で、アデラがキースの前で首を少し傾けさせながら笑った。来ると思ったわ。リネットがため息をつく。滅多にないことだが、リネットが男性と話しているのを見かけると、アデラは必ずと言っていいほど、会話に割って入ってくる。そして相手の男性は、見た目と話術で、アデラとの会話に夢中になるのだ。

「では。わたしはこれで」

 アデラに夢中になる前に、声をかけておこう。そう思い、リネットは頭をさげた。でも。

「申し訳ないが、今はリネット嬢と大事な話をしているので」

 きっぱりと告げるキースに誰より驚いたのは、アデラだろう。絶句し、声をなくしている。けれどリネットも、目を丸くしていた。

(……学園でのお姉様の評判をご存知なのかしら)

 だとしても、こうもはっきりアデラの誘いを断る男性は、はじめてのような気がした。

「ここは騒がしいな。バルコニーの方へ行こう、リネット嬢」

 キースがリネットに声をかける。アデラが「わ、私も」と、なおも食い下がろうとするが。

「わたしは、リネット嬢と二人で話たい。ご遠慮願えるか」

 先ほどよりも強めの口調でキースが吐き捨てると、アデラはその場で立ち尽くした。リネットの学友たちは、心の中でキースに拍手を送っていた。アデラの評判を知っていたとしても、いざアデラを前にすると、とたんに何も言えなくなる男子生徒たちをたくさん見てきたから。男たちは言う。どうしても、あの見た目の可愛さにやられてしまうのだと。


「きみの姉のことをあまり悪く言いたくはないが……わたしはどうも、苦手だな」

 バルコニーで二人になるなり、キースが吐露した。リネットはますます驚き、目を見張った。苦手。あの姉を。そんな男性に出逢ったのははじめてだった。

「苦手、ですか」

「ああ。気を悪くしたらすまない」

 どう答えたらいいのかわからず「……いえ。大丈夫、です」と、リネットはたどたどしく返事をすることしか出来なかった。

「それより、きみのことを聞いていいか?」

「? わたしのことですか?」

「そう」

「どうして──あ、ヒューゴー殿下のためでしょうか。なら、先ほども申し上げた通り」

 キースは「違うよ」と小さく笑った。

「わたしが個人的に知りたいんだ──例えば、きみがフェンシング大会で優勝したことがあるというのは、本当かい?」

 リネットは、うっと言葉に詰まりながらも「……はい」と答えた。小さなころから、お前に嫁の貰い手があるか心配だ。そう父に繰り返されたリネットは、将来を一人で生き抜いていけるように、何事も必死に頑張った。勉学も、剣の稽古も。ただ、がむしゃらに。その結果だった。

 リネットの返答に、キースの表情がぱっと明るくなった。

「しつこい元婚約者を気絶させ、ご令嬢を助けたという話は事実?」

 誰から聞いたのだろう。理想のレディからはかけ離れた自身の行いに、リネットは居心地悪そうに顔を伏せる。

「……事実、です」

 リネットの重い声音に対し、キースの声色がどんどん明るくなっていく。

「そうか。凄いな。きみがあれだけ女性に慕われる訳が少しだけ、わかった気がするよ」

「そ、そうですか……ありがとうございます」

 褒めてくれているのはわかる。馬鹿にしているわけでもないだろう。けれど、リネットの心は晴れない。

(……どうせわたしは、女性にしか慕われない女ですよ)

 リネットは心の中で、そっと拗ねた。けれど、続けられたキースの科白に、ゆっくりと顔をあげた。

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