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キースは約束の時間に遅れることなく、リネットを屋敷まで迎えに来てくれた。リネットはもう、それだけで満足だった。
「キース殿下。わざわざお屋敷まで迎えに来ていただいて、ありがとうございます」
「わたしが誘ったのだから、当然のことだよ。ではベッカー公爵。リネット嬢をおかりするよ」
ベッカー公爵とアデラは、玄関ホールで目を点にしていた。二人のこんな顔を見たのは、はじめてかもしれない。リネット付きの侍女は、口元をおさえ、笑いを堪えていた。
「……な、何故、キース殿下がここに」
ベッカー公爵が呟く。キースは、はてと首をひねりながら、リネットを見た。
「ベッカー公爵には、何も伝えていなかったのか?」
「はい。たぶん、伝えたところで信じてもらえなかったと思いますし……お姉様には、どうしても知らせたくなかったので」
「──なるほど。詳しい訳は、後で聞こうか。さあ、行こう」
それまで黙っていたアデラが、慌てたように口を開いた。
「あ、あの。いったい、妹に何のご用なのでしょうか」
「用と言うか。デートに誘ったんだよ。わたしが、リネット嬢に」
アデラが「……キース殿下が? リネットに?」と目を見開く。
「そうだ。了承してもらえたから、こうして迎えにきた。何か可笑しなことでも?」
「……い、妹は、ヒューゴー殿下の婚約者ですよ?」
キースは「きみがそれを言うのか」と眉をひそめた。
「ヒューゴーにデートに誘われ、すぐに了承したきみが、よくそんなことを言えたものだね」
アデラの顔から、見た目にもわかるほど血の気が引いていく。隣に立つベッカー公爵も、似たような顔色をしていたが。
「お、王族の方に誘われたら、誰でも断れないかと……だから我が娘は」
必死に、アデラを庇う。その父親を、リネットは冷めた双眸で見ていた。その姿に、キースは「社交界での噂は、本当だったみたいだね」と呟いた。ベッカー公爵が首をかしげる。
「噂、とは」
「ベッカー公爵は姉のアデラ嬢ばかりを可愛がっている、と」
ベッカー公爵は「な、何と無礼な!」と怒りをあらわにした。
「私はアデラと同じぐらい、リネットを大切に想っています。だからこそヒューゴー殿下に頭をさげ、婚約解消をひと月待ってもらったのです」
「リネット嬢はそれを望んではいないようだが?」
「その子は、わかっていないのです。アデラとは違い、例え間違いと言えど、この先婚約を申し込んでくれる人など現れないでしょう。だから」
「──何故?」
「……は?」
「どうしてこの先、リネット嬢に婚約を申し込む人はいないと断言する? その根拠は?」
鋭い視線を向けられ、ベッカー公爵は「そ、それは」と、目線を泳がせた。
「キース殿下。わざわざお屋敷まで迎えに来ていただいて、ありがとうございます」
「わたしが誘ったのだから、当然のことだよ。ではベッカー公爵。リネット嬢をおかりするよ」
ベッカー公爵とアデラは、玄関ホールで目を点にしていた。二人のこんな顔を見たのは、はじめてかもしれない。リネット付きの侍女は、口元をおさえ、笑いを堪えていた。
「……な、何故、キース殿下がここに」
ベッカー公爵が呟く。キースは、はてと首をひねりながら、リネットを見た。
「ベッカー公爵には、何も伝えていなかったのか?」
「はい。たぶん、伝えたところで信じてもらえなかったと思いますし……お姉様には、どうしても知らせたくなかったので」
「──なるほど。詳しい訳は、後で聞こうか。さあ、行こう」
それまで黙っていたアデラが、慌てたように口を開いた。
「あ、あの。いったい、妹に何のご用なのでしょうか」
「用と言うか。デートに誘ったんだよ。わたしが、リネット嬢に」
アデラが「……キース殿下が? リネットに?」と目を見開く。
「そうだ。了承してもらえたから、こうして迎えにきた。何か可笑しなことでも?」
「……い、妹は、ヒューゴー殿下の婚約者ですよ?」
キースは「きみがそれを言うのか」と眉をひそめた。
「ヒューゴーにデートに誘われ、すぐに了承したきみが、よくそんなことを言えたものだね」
アデラの顔から、見た目にもわかるほど血の気が引いていく。隣に立つベッカー公爵も、似たような顔色をしていたが。
「お、王族の方に誘われたら、誰でも断れないかと……だから我が娘は」
必死に、アデラを庇う。その父親を、リネットは冷めた双眸で見ていた。その姿に、キースは「社交界での噂は、本当だったみたいだね」と呟いた。ベッカー公爵が首をかしげる。
「噂、とは」
「ベッカー公爵は姉のアデラ嬢ばかりを可愛がっている、と」
ベッカー公爵は「な、何と無礼な!」と怒りをあらわにした。
「私はアデラと同じぐらい、リネットを大切に想っています。だからこそヒューゴー殿下に頭をさげ、婚約解消をひと月待ってもらったのです」
「リネット嬢はそれを望んではいないようだが?」
「その子は、わかっていないのです。アデラとは違い、例え間違いと言えど、この先婚約を申し込んでくれる人など現れないでしょう。だから」
「──何故?」
「……は?」
「どうしてこの先、リネット嬢に婚約を申し込む人はいないと断言する? その根拠は?」
鋭い視線を向けられ、ベッカー公爵は「そ、それは」と、目線を泳がせた。
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