可愛い姉より、地味なわたしを選んでくれた王子様。と思っていたら、単に姉と間違えただけのようです。

ふまさ

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 キースがベッカー公爵の屋敷を訪れてから、遅れること、一時間。

「アデラ嬢。迎えに来たよ」

 次に屋敷の玄関の扉から姿を現したのは、ヒューゴーだった。身支度を整えたアデラが、ぺこりとお辞儀をする。その顔は、何だか曇って見えた。

「何だか暗いね」

 どこまでも素直なヒューゴーが、ずばっと吐き捨てる。アデラの横に立っていたベッカー公爵が、慌てたように口を開いた。

「キース殿下が、リネットを迎えにいらして……それを聞かされていなかった私たちは、驚いてしまって」

「ふうん。僕はアデラ嬢とデートすることもみなに伝えたし、兄上がリネット嬢とデートすることも知っていたけど──きみたちはそんな話し、しないんだ。家族なのに」

「リネットは、ひねくれていまして……」

「へえ、そうなんだ。それで、何でそれでアデラ嬢が暗くなるの?」

「……キース殿下がデートに誘われた相手が、自分ではなく、リネットだったことがショックだったのでしょう」

 ヒューゴーは「僕じゃ不満だってこと?」と、腕組みをした。

「と、とんでもありません。ただ、ヒューゴー殿下も可笑しいとは思いませんか? どうしてキース殿下は、アデラではなく、リネットをデートに誘ったのでしょうか」

「リネット嬢に興味を持ったからだろ? そう言ってたよ」

 それまで黙っていたアデラが「……興味? リネットにですか……?」と顔をあげた。

「うん」

「……意味がわかりません。どうして私ではなく、リネットなんかに……」

 青い顔をして呟くアデラ。ヒューゴーは、キースに訊ねられたことを思い出していた。

『自分の妹を馬鹿にするような女性の、何処がいいんだ? わたしにはさっぱりわからない。お前は、アデラ嬢の何処に惹かれたんだ?』

 何処と問われれば、見た目だ。一目惚れに近い。あとは──何だろう。背が小さいことだろうか。

「──あ」

 ヒューゴーは、アデラの頭上を指差した。一歩後退り「……アデラ嬢。頭の上に、蜘蛛が」と言った。ベッカー公爵はぎゃあ、と見る間に遠ざかり、アデラは目を見開いたあと、悲鳴をあげた。

「とって! とってください! ヒューゴー殿下!!」

 泣きながら近付いてくるアデラに、ヒューゴーが「ち、近付くな!」と叫ぶ。すぐに近くにいた使用人が蜘蛛をはらったが、アデラはしばらくの間泣きじゃくっていた。

「……ひどい……ひどいです、ヒューゴー殿下……っ」

 流石にあの対応はなかったかとヒューゴーが「……ごめん」と素直に謝るものの。アデラは一向に許す気配もなく。

「私のこと、好いてはいなかったのですか……男は、女性を守るものではないのですか……たかが虫ごときからも守ってくださらないなんて……男のくせに何て情けない……っ」

 ベッカー公爵が自身のことはさておき「こ、こら。アデラ。言い過ぎだ!」と嗜める。ヒューゴーはアデラの吐き捨てた言葉に、自身の中の何かが急激に冷めていくのがわかった。

「──リネット嬢は、誰にでも苦手なものの一つや二つあるものだと言ってくれたけどね」

 そう呟き、ヒューゴーは踵を返した。

「今日きみをデートに誘ったのは、きみがどういう人かちゃんと知ろうと思ったからなんだけど。もういいや。帰るよ──さよなら」

「お、お待ちください! ヒューゴー殿下!!」

 ベッカー公爵が引き留めるのも構わず、ヒューゴーは馬車に乗り込み、王宮へと引き返していった。

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