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二人が十八歳になる年。
バートは王宮勤めの文官となった。職が決まると同時に、二人は結婚。住居も正式に王都へと移り、新しい生活がはじまった。
レイラの身体は、変わらず病弱で。父親からの持参金があるとはいえ、派手に使うわけにもいかず。通いの使用人を一人だけ雇い、レイラは自分なりに、バートの助けになろうと、せめて重荷になるまいと、家事を必死にこなした。
季節の変わり目や、疲労が少しでもたまると、レイラはよく風邪を引いた。一、二ヶ月に一度は、必ず体調を崩した。
「……ごめんなさい、あなた」
ベッドに上体を起こし、肩を落とすレイラに、いつものようにバートが優しく声をかける。
「謝ることなんてなにもないよ。いつも頑張ってくれてありがとう」
心がじんとする。申し訳なさもありつつ、やはりバートの存在にいつも助けられていることをあらためて実感する。心配も迷惑もかけたくなくて。多少身体が重くても、辛くても、なんでもない風を装えるように演じた。けれどバートは、それをいつも見抜いてくれる。
「駄目だよ、無理したら。きみになにかあったら、大変だからね」
身体が多少病弱でも、家族には恵まれていたから、レイラは境遇に、いつも感謝していた。
息子のマックスを授かったのは、結婚してから二年が経ったころ。出産も育児も、想像の何倍も大変で、正直、精神的にも体力的にも、泣きたくなるぐらいきつかった。情けないけれど、二人目は難しいと感じていた。
それを察したのか。
「きみの身体も心配だし、子どもを一人授かれただけでも充分にぼくは幸せだよ」
赤ん坊のマックスを抱きながら、バートの方から、こんな言葉をかけてくれた。
──ああ。わたしはなんて幸せ者なのかしら。
優しくて、いつも気遣ってくれる夫。
愛していた。心から。
病気になったときも、一度だって責められたことはない。呆れられたことすら。仕事が忙しく、夜遅く帰ってきたときも、愚痴一つこぼさない。
レイラにとってバートは、尊敬できる、自慢の夫だった。疑うことなくそう信じて、家事に育児にひたすら向き合って。多少の不調なんか、根性で耐えた。
そうして気付けば、十八年の時が過ぎようとしていた。
息子のマックスは、商会の娘とお付き合いをしていたが、このたびめでたく、結婚する運びとなった。
家族三人水入らずで過ごした一軒家から、マックスが巣立っていく。嬉しさより少しだけ寂しさが勝ってしまって、レイラは泣いてしまった。
どこか遠くに行くわけではない。同じ王都にいるのだからと、マックスが慰めてくれる。
「それよりも、これからは、父さんとの二人きりの時間を楽しみなよ」
マックスの言葉に、そうね、とレイラが小さく笑う。
「いつまでも泣いていたら、あなたも安心して、お婿にいけないものね」
マックスの結婚式前日。日も暮れた居間で、レイラとマックス、そしてバートは、惜しむように時を過ごした。
振り返ってみれば、このときのバートの様子を、レイラはあまり覚えていない。マックスとの小さな別れで、頭がいっぱいだったから。
結婚式が終わり、同時に子育ても完全に終了したという安堵のような、寂しさのようなものからか、レイラはそれから数日、体調を崩し、寝込んだ。
「今日も仕事で遅くなるかもしれないけど、ゆっくり寝ているんだよ」
バートの、いつもの優しい言葉。ベッドに横になりながら、レイラが申し訳なさそうに、ええ、と力なく返す。
「……ごめんなさい。最近、お弁当も作ってあげられなくて。家事も」
「いいんだよ。家事は、使用人に任せればいいし。昼食なんて、なんとでもなるから」
ニコニコ。ニコニコ。いつも崩されることのない笑顔。気のせいか。それはマックスが結婚してから、とみに強くなったような。
(……マックスが一人前になったようで、誇らしいのね)
レイラは、そう解釈していた。
でも、それはまったくの的外れだったのだ。
思い知らされたのは、それからふた月ほど経ったころのこと。
バートは王宮勤めの文官となった。職が決まると同時に、二人は結婚。住居も正式に王都へと移り、新しい生活がはじまった。
レイラの身体は、変わらず病弱で。父親からの持参金があるとはいえ、派手に使うわけにもいかず。通いの使用人を一人だけ雇い、レイラは自分なりに、バートの助けになろうと、せめて重荷になるまいと、家事を必死にこなした。
季節の変わり目や、疲労が少しでもたまると、レイラはよく風邪を引いた。一、二ヶ月に一度は、必ず体調を崩した。
「……ごめんなさい、あなた」
ベッドに上体を起こし、肩を落とすレイラに、いつものようにバートが優しく声をかける。
「謝ることなんてなにもないよ。いつも頑張ってくれてありがとう」
心がじんとする。申し訳なさもありつつ、やはりバートの存在にいつも助けられていることをあらためて実感する。心配も迷惑もかけたくなくて。多少身体が重くても、辛くても、なんでもない風を装えるように演じた。けれどバートは、それをいつも見抜いてくれる。
「駄目だよ、無理したら。きみになにかあったら、大変だからね」
身体が多少病弱でも、家族には恵まれていたから、レイラは境遇に、いつも感謝していた。
息子のマックスを授かったのは、結婚してから二年が経ったころ。出産も育児も、想像の何倍も大変で、正直、精神的にも体力的にも、泣きたくなるぐらいきつかった。情けないけれど、二人目は難しいと感じていた。
それを察したのか。
「きみの身体も心配だし、子どもを一人授かれただけでも充分にぼくは幸せだよ」
赤ん坊のマックスを抱きながら、バートの方から、こんな言葉をかけてくれた。
──ああ。わたしはなんて幸せ者なのかしら。
優しくて、いつも気遣ってくれる夫。
愛していた。心から。
病気になったときも、一度だって責められたことはない。呆れられたことすら。仕事が忙しく、夜遅く帰ってきたときも、愚痴一つこぼさない。
レイラにとってバートは、尊敬できる、自慢の夫だった。疑うことなくそう信じて、家事に育児にひたすら向き合って。多少の不調なんか、根性で耐えた。
そうして気付けば、十八年の時が過ぎようとしていた。
息子のマックスは、商会の娘とお付き合いをしていたが、このたびめでたく、結婚する運びとなった。
家族三人水入らずで過ごした一軒家から、マックスが巣立っていく。嬉しさより少しだけ寂しさが勝ってしまって、レイラは泣いてしまった。
どこか遠くに行くわけではない。同じ王都にいるのだからと、マックスが慰めてくれる。
「それよりも、これからは、父さんとの二人きりの時間を楽しみなよ」
マックスの言葉に、そうね、とレイラが小さく笑う。
「いつまでも泣いていたら、あなたも安心して、お婿にいけないものね」
マックスの結婚式前日。日も暮れた居間で、レイラとマックス、そしてバートは、惜しむように時を過ごした。
振り返ってみれば、このときのバートの様子を、レイラはあまり覚えていない。マックスとの小さな別れで、頭がいっぱいだったから。
結婚式が終わり、同時に子育ても完全に終了したという安堵のような、寂しさのようなものからか、レイラはそれから数日、体調を崩し、寝込んだ。
「今日も仕事で遅くなるかもしれないけど、ゆっくり寝ているんだよ」
バートの、いつもの優しい言葉。ベッドに横になりながら、レイラが申し訳なさそうに、ええ、と力なく返す。
「……ごめんなさい。最近、お弁当も作ってあげられなくて。家事も」
「いいんだよ。家事は、使用人に任せればいいし。昼食なんて、なんとでもなるから」
ニコニコ。ニコニコ。いつも崩されることのない笑顔。気のせいか。それはマックスが結婚してから、とみに強くなったような。
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でも、それはまったくの的外れだったのだ。
思い知らされたのは、それからふた月ほど経ったころのこと。
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