20 / 21
20
「…………ぁ」
か細く、パスカルが掠れた声を出した。手を上げられたのは、これが人生ではじめてだったパスカルは、ショックで一瞬にして黙り込んでしまった。
ゴンザレス子爵は「重ね重ね、申し訳ない」と頭を下げてから、応接室の扉へ向かった。あとに続く付き人の肩に担ぎ上げられたパスカルは、マーシアを視界に入れたとたんに我に返ったのか「た、助けて……」と、手を伸ばしてきた。
「いいのか、ぼくと離れ離れになって……ぼくが好きだろ……? なあ……」
マーシアがきっぱり「嫌い。はやく消えて」と吐き捨てると、パスカルは一筋の涙を流した。
「……う、うぅ」
それから堰を切ったように泣き始めたが、その姿はすぐに、閉められた扉によって、マーシアの視界から消えた。
──数ヶ月後。
ゴンザレス子爵から、パスカルの仕事が無事に決まったこと。抵抗を諦め、おとなしくそこで働いている旨の手紙が、マーシアの元に届いた。
実際のところ、慰謝料は全額、一括払いでゴンザレス子爵が支払ってくれたため、パスカルが働いた分の給金は、ゴンザレス子爵の元に送金されるようになっている。だからもう、支払いが滞ろうが、マーシアにはあまり関係なかったりする。
そしてマーシアは、もう一人。パスカルの不貞行為の相手にも、慰謝料を請求していた。パスカルのことはもう、愛してはいない。それでも、相手に対してなにも思うところがなかったわけではない。それに、あの令嬢はちゃんとした婚約者がいると言っていたので、その婚約者が事実を知らないのは、気の毒だと思ったのも理由の一つだった。
結果。あの令嬢は婚約を破棄され、パスカルと同じように学園から姿を消した。まわりからは同情の声と共に、やり過ぎとの声も囁かれたが、マーシアは後悔していなかったし、ちらとも心は痛まなかった。
か細く、パスカルが掠れた声を出した。手を上げられたのは、これが人生ではじめてだったパスカルは、ショックで一瞬にして黙り込んでしまった。
ゴンザレス子爵は「重ね重ね、申し訳ない」と頭を下げてから、応接室の扉へ向かった。あとに続く付き人の肩に担ぎ上げられたパスカルは、マーシアを視界に入れたとたんに我に返ったのか「た、助けて……」と、手を伸ばしてきた。
「いいのか、ぼくと離れ離れになって……ぼくが好きだろ……? なあ……」
マーシアがきっぱり「嫌い。はやく消えて」と吐き捨てると、パスカルは一筋の涙を流した。
「……う、うぅ」
それから堰を切ったように泣き始めたが、その姿はすぐに、閉められた扉によって、マーシアの視界から消えた。
──数ヶ月後。
ゴンザレス子爵から、パスカルの仕事が無事に決まったこと。抵抗を諦め、おとなしくそこで働いている旨の手紙が、マーシアの元に届いた。
実際のところ、慰謝料は全額、一括払いでゴンザレス子爵が支払ってくれたため、パスカルが働いた分の給金は、ゴンザレス子爵の元に送金されるようになっている。だからもう、支払いが滞ろうが、マーシアにはあまり関係なかったりする。
そしてマーシアは、もう一人。パスカルの不貞行為の相手にも、慰謝料を請求していた。パスカルのことはもう、愛してはいない。それでも、相手に対してなにも思うところがなかったわけではない。それに、あの令嬢はちゃんとした婚約者がいると言っていたので、その婚約者が事実を知らないのは、気の毒だと思ったのも理由の一つだった。
結果。あの令嬢は婚約を破棄され、パスカルと同じように学園から姿を消した。まわりからは同情の声と共に、やり過ぎとの声も囁かれたが、マーシアは後悔していなかったし、ちらとも心は痛まなかった。
あなたにおすすめの小説
学生のうちは自由恋愛を楽しもうと彼は言った
mios
恋愛
学園を卒業したらすぐに、私は婚約者と結婚することになる。
学生の間にすることはたくさんありますのに、あろうことか、自由恋愛を楽しみたい?
良いですわ。学生のうち、と仰らなくても、今後ずっと自由にして下さって良いのですわよ。
9話で完結
第一王子様が最後に選んだのは、妹ではなく私だったようです
睡蓮
恋愛
姉であるオルシナと、妹のマリーシア。マリーシアは小さな時から周囲の人物を次々と味方につけ、オルシナの事を孤立させていった。マリーシアに対しては誰もがちやほやと接してくるのに、オルシナに対しては冷たい態度を取る者がほとんどで、それがこれから先も続くものと思われていた。そんな中、二人のもとに一通の手紙が届く。差出人はフォルグ第一王子であり、二人のうちのいずれかを婚約者として迎え入れるということが書かれていた…。
捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?
ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」
ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。
それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。
傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……
【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢
美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」
かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。
誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。
そこで彼女はある1人の人物と出会う。
彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。
ーー蜂蜜みたい。
これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。
あなたにとって、わたしはただの道具だったということですね。
ふまさ
恋愛
「──ごめん。ぼくと、別れてほしいんだ」
オーブリーは、頭を下げながらそう告げた。
街で一、二を争うほど大きな商会、ビアンコ商会の跡継ぎであるオーブリーの元に嫁いで二年。貴族令嬢だったナタリアにとって、いわゆる平民の暮らしに、最初は戸惑うこともあったが、それでも優しいオーブリーたちに支えられ、この生活が当たり前になろうとしていたときのことだった。
いわく、その理由は。
初恋のリリアンに再会し、元夫に背負わさせた借金を肩代わりすると申し出たら、告白された。ずっと好きだった彼女と付き合いたいから、離縁したいというものだった。
他の男にとられる前に早く別れてくれ。
急かすオーブリーが、ナタリアに告白したのもプロポーズしたのも自分だが、それは父の命令で、家のためだったと明かす。
とどめのように、オーブリーは小さな巾着袋をテーブルに置いた。
「少しだけど、お金が入ってる。ぼくは不倫したわけじゃないから、本来は慰謝料なんて払う必要はないけど……身勝手だという自覚はあるから」
「…………」
手のひらにすっぽりと収まりそうな、小さな巾着袋。リリアンの借金額からすると、天と地ほどの差があるのは明らか。
「…………はっ」
情けなくて、悔しくて。
ナタリアは、涙が出そうになった。
※この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】悪役令嬢の反撃の日々
ほーみ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
私から略奪婚した妹が泣いて帰って来たけど全力で無視します。大公様との結婚準備で忙しい~忙しいぃ~♪
百谷シカ
恋愛
身勝手な理由で泣いて帰ってきた妹エセル。
でも、この子、私から婚約者を奪っておいて、どの面下げて帰ってきたのだろう。
誰も構ってくれない、慰めてくれないと泣き喚くエセル。
両親はひたすらに妹をスルー。
「お黙りなさい、エセル。今はヘレンの結婚準備で忙しいの!」
「お姉様なんかほっとけばいいじゃない!!」
無理よ。
だって私、大公様の妻になるんだもの。
大忙しよ。