惚れた弱みにも、限度がありました。

ふまさ

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「…………ぁ」

 か細く、パスカルが掠れた声を出した。手を上げられたのは、これが人生ではじめてだったパスカルは、ショックで一瞬にして黙り込んでしまった。

 ゴンザレス子爵は「重ね重ね、申し訳ない」と頭を下げてから、応接室の扉へ向かった。あとに続く付き人の肩に担ぎ上げられたパスカルは、マーシアを視界に入れたとたんに我に返ったのか「た、助けて……」と、手を伸ばしてきた。

「いいのか、ぼくと離れ離れになって……ぼくが好きだろ……? なあ……」

 マーシアがきっぱり「嫌い。はやく消えて」と吐き捨てると、パスカルは一筋の涙を流した。

「……う、うぅ」

 それから堰を切ったように泣き始めたが、その姿はすぐに、閉められた扉によって、マーシアの視界から消えた。




 ──数ヶ月後。

 ゴンザレス子爵から、パスカルの仕事が無事に決まったこと。抵抗を諦め、おとなしくそこで働いている旨の手紙が、マーシアの元に届いた。

 実際のところ、慰謝料は全額、一括払いでゴンザレス子爵が支払ってくれたため、パスカルが働いた分の給金は、ゴンザレス子爵の元に送金されるようになっている。だからもう、支払いが滞ろうが、マーシアにはあまり関係なかったりする。

 そしてマーシアは、もう一人。パスカルの不貞行為の相手にも、慰謝料を請求していた。パスカルのことはもう、愛してはいない。それでも、相手に対してなにも思うところがなかったわけではない。それに、あの令嬢はちゃんとした婚約者がいると言っていたので、その婚約者が事実を知らないのは、気の毒だと思ったのも理由の一つだった。

 結果。あの令嬢は婚約を破棄され、パスカルと同じように学園から姿を消した。まわりからは同情の声と共に、やり過ぎとの声も囁かれたが、マーシアは後悔していなかったし、ちらとも心は痛まなかった。

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