理想の妻とやらと結婚できるといいですね。

ふまさ

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「……ええと。娘さんはいいのですか?」

「実は、姉上に取られてしまいまして。わたしは……外で一人で考えてきなさいと屋敷を追い出されてしまいました。きちんと決断するまで、おそらく、屋敷には入れてもらえないでしょう」

 なんのことやらと首を傾げるエミリアの鼻が、ぴくんと動いた。少し離れた位置にある露店から、肉の焼けるいい匂いが漂ってきていた。

 じっとそこに熱い視線を送るエミリアに気付いたのか、アシュリーは「肉、食べにいきません?」と提案してみた。すると、先ほどまで若干引き気味だったはずのエミリアが数秒間沈黙したのち「──はい」と、割とあっさり了承してくれた。




 アシュリーが連れて来てくれたのは、高くて美味しい肉料理を出すという、街でも評判のレストランだった。

「……ここ、貴族の方も利用するほどの、お高いお店なのですが」

「はい。姉上たちと何回か来たことがあるので、承知しています。大丈夫ですよ。持ち合わせはありますので。遠慮なく」

「無理です。遠慮します」

「いや、本当に──」

「無理です」

 などというやり取りを何回か繰り返し、結局、エミリアがじっと見詰めていた露店のところまで戻り、肉の串焼きを奢ってもらうことで決着が着いた。

「ありがとうございます」

「本当にそれでよかったのですか?」

「充分です。というかわたし、厚かましすぎましたね。お腹が減っていたもので、つい」
 
「いえ。もともと急なお願いをしたのはこちらですし。ああ、冷める前にどうぞ」

「では、遠慮なく」

 街の中央にある広場。そこにあるベンチに座る二人を、西日が赤く照らす。串焼きといえど、元貴族令嬢であるエミリアは口を小さく、行儀よく食していく。

 久しぶりのお肉にじんとしつつ、エミリアは一口目をごくんとのみ込んでから、アシュリーへと顔を向けた。

「わたし、食べるのが遅いもので。ご相談があるのなら、あまりお行儀よくはありませんが、このままお聞きします」

「そう、ですね。お時間を取るのも悪いですし、あなたがその串焼きを食べ終わる前には話し終えたいと思います」

 そんな深刻なものではなさそうだなと思った瞬間、アシュリーが「妻と離縁しようと考えているのですが」と、切り出してきたので、エミリアはびしっと動きを止めてしまった。

「……離縁ですか……?」

「はい。前にも一度、離縁を考えたことはあったのですが、そのときまだマリアンが一歳だったこともあり、もう二度と不倫はしないと妻が泣いて縋ってきたものですから」

「……まさか。二度目の不倫をした、とか?」

「そのまさかです」

「……でも。まだ娘さんが小さいから踏ん切りがつかない、ですか?」
 
「それが……マリアンは、母親がいてもいなくてもどちらでもいいと答えたんです。理由を聞いても、口を固く閉ざしていて。でもぼそっと、お母様に怒られるから、と言ったんです。わたしがいるから大丈夫だよと宥め、何時間も粘ると、ようやく教えてくれました。どうやら第三者がいるときと、娘と二人きりでいるときの妻は、まるで別人だったらしく。二人のときは目も合わせないし、なにをしようと話そうと、無視をされていたそうです」

 後悔の念からか、アシュリーの組まれた両手に力が込められ、わなわなと震えていた。

「母親を裏切るなんて考えていなかったのか。あるいは幼いマリアンが真実を語るなんて想定外だったのか。妻を問い詰めると、わたしへの言い訳をはじめると同時に、慌てたように娘の機嫌も取りはじめたんです。でも、もう遅かった。マリアンは突然すり寄ってきた妻を気味悪がり、怯え、逃げるしまつ。まあ、おかげでなんの迷いもなく離縁できると思っていたのですが──あたしが野垂れ死んでもいいのかと、泣き喚きながらよくわからない脅迫をしはじめてしまいましてね」

 甘すぎる、と感じた瞬間。アシュリーの目の色が、ふっと変化した。

「あいつがどうなろうが、もはや知ったことではないのですが。わたしと離縁してすぐ野垂れ死なれると、流石に寝覚めが悪いなと少し思ってしまって」

 穏やかな口調ながら、目がちっとも笑っていない。エミリアは思わず息をのんだが、アシュリーは、驚くぐらいの早さでぱっと元通りの雰囲気に戻った。
 

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