姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ

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「……ヘイデン殿下の婚約者になってから、あの屋敷に帰らなくてよくなって……王妃教育の先生も、とても優しくて……」

 マイラは呆然としながら、ぼそぼそと語りはじめた。ライナスは驚きながらも「うん」と静かに耳を傾ける。

「……それにバイオリンが、好きなときに弾けるようになったんです……お屋敷では、うるさいと怒鳴れるので弾けなくなってしまって……」

 ライナスが眉尻を下げる。そうだったのか。哀しそうに呟く。

「……そしたらライナス殿下に出逢えて……大好きなバイオリンを褒めてもらえて……はじめて人を好きになれて……わたしはもう、それだけで幸せだったんです」

 マイラはライナスの手を、強く握り返した。

「……だから、それ以上の幸せがあるなんて、思ってもいませんでした」

 涙をこらえ、マイラが必死に想いを伝える。

「これが夢でもかまいません。わたしは、ライナス殿下と一緒にいたいです。傍に、いさせてください……っ」

 ライナスは「ありがとう」と目を細め、床に膝をつき、マイラを抱き締めた。マイラの目から、こらえていた涙が溢れ出す。こんな風に誰かの温もりを感じたのは、いつ以来だろう。温かい。はなれたくない。ずっとこうしていたい。恥ずかしい想いよりも、そんな願いが大きくて。


「きみをわたしの国に連れて行くよ。何か未練や、やり残したことはない?」

 首にまわした手をはなそうとしないマイラに、ライナスがしばらくしてから、そのままの体勢で問いかけた。

「未練……」

 マイラはつかの間黙考してから「……一つだけ」と呟いた。


 気付けば空には眩しい太陽がその姿を覗かせ、街中を照らしていた。
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