姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ

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 伯爵令嬢は学園に着くと、真っ直ぐに自身のクラスの教室へと向かった。時刻は昼。ちょうど、学園は昼休みに入ったところだった。

「あら、もう大丈夫なのですか?」

 教室に入ってきた伯爵令嬢に、学友たちが心配そうに声をかけてくる。伯爵令嬢は「ええ。私は情けなくも、気絶していただけですから」と返答した。

「そんなこと……私もあの場にいましたから、あなたの恐怖はよくわかりますわ」

「ありがとうございます。マイラ様が助けてくれなければ、きっと気絶ではすまなかったでしょうが」

 伯爵令嬢の科白に、学友たちがざわついた。

「パメラ様の話しによると、とても非情な方だということでしたが……」

「そうですよね。まさか、あんな行動をなさるとは、驚きですわ」

 伯爵令嬢は教室内にいるみんなを見渡したあと「みなさん、聞いてください」と、口火を切った。

「ど、どうなさったのですか?」

 目を丸くする学友たち。伯爵令嬢は、病室で聞いた全てのことを、あますことなく、みなに語った。それはたまたま教室の前を通りかかった生徒たちの耳にも、意図せず、入ることとなった。


 ──だが。

「ヘイデン殿下と、パメラ様がそのようなことを……?」

「あなたを疑うわけではありませんが、信じられませんわ」

 クラスメイトたちの言葉に、伯爵令嬢はこぶしを握りしめる。悔しいが、こうなる予感はしていた。自分とて、いきなりこんな話しをされたところで、とうてい信じられなかっただろう。それほどまでに普段のヘイデンとパメラは人当たりが良く、みなの憧れの的だったから。

「……ぼくは、あなたの言うこと、信じます」

 ぽそっと呟かれた言葉に、伯爵令嬢は振り返った。そこにいたのは、同じクラスの男子生徒だった。いつも教室の隅っこに一人でいる、そんな印象の、おとなしい男子だった。

「……ぼくは何度か、ヘイデン殿下に暴力を受けたことがあります。そんなぼくたちを、パメラ様は、いつも笑って見ていました……」

 目を見張ったのは、伯爵令嬢だけではなかった。クラス中が、驚愕していた。

「それは、本当……なのですか?」

 伯爵令嬢がおそるおそる訊ねると、男子生徒はこくりとうなずいた。

「暴行されていたのは、ぼくだけじゃありません……他にも何人か、います」

「ど、どうして今まで誰にも言わなかったのですか?」

「……言ったところで、信じてもらえるとは思えませんでしたから」

 男子生徒はうつむき、悔しそうにこぶしを震えさせていた。混乱するクラスメイトたち。確かにこのタイミングでなければ、無礼だ不敬だと罵っていたかもしれない。

 まだ信じたわけではない。それでも、マイラの行動。これまで関係を築き上げてきた伯爵令嬢の必死な訴え。言葉。加えて、男子生徒の思わぬ告白。

 それらは噂として──信じる、信じないは別として、瞬く間に学園中に広がっていった。

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