死にたがり令嬢が笑う日まで。

ふまさ

文字の大きさ
33 / 47

33

しおりを挟む
 しん。
 室内が静まり返る。やはり、望みを口にするなど、許されなかったのだ。ニアの鼓動が、徐々に落ち着きを取り戻していく。

「すみません。わたしなどが望みなど、図々し過ぎましたね」

 アラスターは「ちがっ」と口にしたあと、苦しそうに、オールディス伯爵に顔を向けた。

「……父上。ニア嬢を、信用できる誰かの養子にすることはできませんか」

 オールディス伯爵は、しばらくの間のあと「私を信用できるのか」と、訊ね返した。オールディス伯爵夫人が、あなた、と声を挟む。

「アラスターがせっかく頼ってきてくれたのですよ?!」

 それを、オールディス伯爵は手を上げて止め、続けた。

「お前の知る誰よりも、ニア嬢に心から寄り添えるのは、お前ではないのか?」

「……わたしは、そう思えません」

「ニア嬢はどうだ? アラスターが嫌いか?」

 オールディス伯爵に問われたニアは、いいえ、と首を左右にふった。

「アラスター様は、はじめてわたしに、優しさというものをくれた人だと思いますから」

「……っ」

 アラスターが言葉に詰まるのを見て、オールディス伯爵は、お前の除籍は後で考えよう、と言った。

「まずは、金貸しだな。あとは、ニア嬢への慰謝料の額の相談に、弁護士も必要だ」

「……はい。よろしくお願いします」

 深く頭を下げるアラスターの肩を、オールディス伯爵は、任せろと、ぽんと叩いた。




 三日後。

 アラスターだけでなく、オールディス伯爵まで屋敷に姿を現したことにすっかり怯えたカイラたちは、応接室の椅子に座るアラスターとオールディス伯爵を前に、横並びに立ち尽くしていた。

 カイラは何度もアラスターに話しかけようとしたが、その度に従者に止められ、また、アラスター本人にも完全に無視され続けたため、心が折れたように、下を向いていた。

「これが、お前たちが支払う慰謝料の額だ。二枚の書類があるから、確認しろ」

 オールディス伯爵に手渡された従者が、カイラたち四人に、それぞれ書類を配る。二つの慰謝料を確認した四人は、想像よりも大きい額に、膝から崩れ落ちそうになった。

「こ、こんな額、とても……」

 ブリアナが震えながら声を上げると、オールディス伯爵は「安心しろ。金貸しは呼んである」と、控えていた一人の中年男を呼んだ。

「大丈夫です。この私が責任を持って、仕事を紹介して差し上げますので。しかし、みなさん運がいい。平民が貴族に逆らうなど、本来なら、命を落とされても不思議ではないですよ。流石は領主様。器が違いますね」

 金貸しの科白に四人は震え上がり、それ以上、慰謝料のことについてなにも文句など言えるはずもなく、その場で、金貸しが用意した書類に、署名した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

処理中です...