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「そ、そんなの、きみに決まっているじゃないか」
言いながら、デイルは僅かに視線を逸らした。その態度に、オリヴィアは、とてもじゃないが嬉しいとは思えなかった。あの悪夢を見る前なら違っていたのだろうかと考えながら、オリヴィアは冷静に黙考した。
(わたしとデイルの婚約は、親が決めたもの。貴族の婚約は、そんな軽いものじゃない。デイルだってそんなことぐらい、理解しているはずだわ)
そうだ。こんな聞き方じゃ、デイルは本音を吐かない。なら、どうすればいいのか。必死に思考を動かし、オリヴィアは口火を切った。
「ありがとう。でもね、わたしはもう、あなたが本当は誰を愛しているか、気付いているの。グレースの想いにもね」
デイルがあきらかに、ぎくりと動揺するのが伝わってきた。
「……ぼくが愛しているのはきみだ」
「デイル、わたしはね。あなたのことも、グレースのことも愛しているの。だから本音を聞かせて? わたしは二人に嫌われたくないの」
「……オリヴィア」
「わたしのことを想うなら、お願い。嘘はつかないで。そしたら二人のこと、全力で応援できるから」
デイルが「……そこまでぼくたちのことを」と、感動するように声を漏らした。
「……でも、きみを傷付けたくないんだ」
これまで散々グレースを優先し、庇い、オリヴィアに対して冷たい言葉を吐いてきたくせに、なにをいまさら。そもそもこの男は、グレースへの想いを隠すつもりがあったのかどうかさえ、いまのオリヴィアには疑わしく思えてならなかった。
そんな想いをぐっとこらえ、オリヴィアは続けた。相手はもう白状したも同然だったが、ちゃんとした答えが欲しかったから。
「あなたは、グレースが好き?」
できるかぎりの優しい口調で問いかけると、デイルは少しの間のあと、小さくこくりと頷いた。
ずきりと胸が痛む──ことは不思議となかった。むしろ、やっと言質をとれたという思いのほうが強かった。
「そう、教えてくれてありがとう」
「で、でも! きみのことも大事に思っている! それは本当だから!」
「そうなの?」
思わず素で返してしまったオリヴィアに、デイルが「あ、当たり前じゃないか」と狼狽える。
狼狽える理由を考えるのももはや面倒で、オリヴィアは「それじゃあ、時間をとらせてごめんね。おやすみなさい」と背を向けた。
デイルの「……え?」という声が背後から聞こえたオリヴィアは、なんだろうと振り返った。
「どうかしたの?」
「いや……きみがあまりにも冷静に見えて……でも、違うよね。ぼくに涙を見せまいとしてくれたんだよね……ごめん。無神経だった」
オリヴィアはなんだか、ぞわっとした。それは単純にデイルが気持ち悪かったからなのだが、ずっとデイルに依存していたオリヴィアは、すぐにその感情の正体を理解することができなかった。
「……ああ、うん。そうね」
そう答えるだけで、そのときのオリヴィアは精一杯だった。
言いながら、デイルは僅かに視線を逸らした。その態度に、オリヴィアは、とてもじゃないが嬉しいとは思えなかった。あの悪夢を見る前なら違っていたのだろうかと考えながら、オリヴィアは冷静に黙考した。
(わたしとデイルの婚約は、親が決めたもの。貴族の婚約は、そんな軽いものじゃない。デイルだってそんなことぐらい、理解しているはずだわ)
そうだ。こんな聞き方じゃ、デイルは本音を吐かない。なら、どうすればいいのか。必死に思考を動かし、オリヴィアは口火を切った。
「ありがとう。でもね、わたしはもう、あなたが本当は誰を愛しているか、気付いているの。グレースの想いにもね」
デイルがあきらかに、ぎくりと動揺するのが伝わってきた。
「……ぼくが愛しているのはきみだ」
「デイル、わたしはね。あなたのことも、グレースのことも愛しているの。だから本音を聞かせて? わたしは二人に嫌われたくないの」
「……オリヴィア」
「わたしのことを想うなら、お願い。嘘はつかないで。そしたら二人のこと、全力で応援できるから」
デイルが「……そこまでぼくたちのことを」と、感動するように声を漏らした。
「……でも、きみを傷付けたくないんだ」
これまで散々グレースを優先し、庇い、オリヴィアに対して冷たい言葉を吐いてきたくせに、なにをいまさら。そもそもこの男は、グレースへの想いを隠すつもりがあったのかどうかさえ、いまのオリヴィアには疑わしく思えてならなかった。
そんな想いをぐっとこらえ、オリヴィアは続けた。相手はもう白状したも同然だったが、ちゃんとした答えが欲しかったから。
「あなたは、グレースが好き?」
できるかぎりの優しい口調で問いかけると、デイルは少しの間のあと、小さくこくりと頷いた。
ずきりと胸が痛む──ことは不思議となかった。むしろ、やっと言質をとれたという思いのほうが強かった。
「そう、教えてくれてありがとう」
「で、でも! きみのことも大事に思っている! それは本当だから!」
「そうなの?」
思わず素で返してしまったオリヴィアに、デイルが「あ、当たり前じゃないか」と狼狽える。
狼狽える理由を考えるのももはや面倒で、オリヴィアは「それじゃあ、時間をとらせてごめんね。おやすみなさい」と背を向けた。
デイルの「……え?」という声が背後から聞こえたオリヴィアは、なんだろうと振り返った。
「どうかしたの?」
「いや……きみがあまりにも冷静に見えて……でも、違うよね。ぼくに涙を見せまいとしてくれたんだよね……ごめん。無神経だった」
オリヴィアはなんだか、ぞわっとした。それは単純にデイルが気持ち悪かったからなのだが、ずっとデイルに依存していたオリヴィアは、すぐにその感情の正体を理解することができなかった。
「……ああ、うん。そうね」
そう答えるだけで、そのときのオリヴィアは精一杯だった。
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