6 / 6
再会
しおりを挟む
地下牢の階段を昇り切ると、そこは四方が石で作られた狭い通路になっていた。おそらく城の内部なのは間違いないだろうが、位置的には王族が住まうような場所から離れた外れといったところか?
まあ地下牢なんて物騒な場所を、城の中心部に設計するわけないか......。そんな都合のいい展開が起こるわけないわな。
「いたぞっ!! 脱獄囚だ!」
ほんでもって、もう脱獄がバレているとはな......、さすが王国騎士団とだけあってセキュリティがしっかりしてやがる。
なんて呑気にしてる場合ではないな。こっちは装備無しの完璧な丸腰なのだから......。あろうことか城内を全裸でさ迷うことになるとは思いもしなかったわ。
「いたぞーっ! 裸の囚人だ!」
裸の王様みたく言わないで。好きで露出してるわけじゃあないんだからさ......。
にしても弱ったな、こりゃ。全身鎧装備を固めた衛兵が背後から四人以上はこっちに近づいて来てやがる。うーん、まずいな。お縄につくのが目に見えてる。
「くそっ、邪魔だなこいつら......」
自分で言うのもなんだが、明らかに勇者のセリフではないよな、これ? 余裕がないってこともあるが、善悪の基準で判断すると明確に悪寄りの発言なのは間違いない。
それに肝心の勇者の剣が眠る宝物庫はどこへ行けばよいのやら......。
「見つけたぞー!!」
げっ、今度は前のほうから来やがった!
ヤバい、このままじゃあ挟み撃ちにされる!
そのときだった。
「ウロボロス」
囁きと同時に、前後から迫ってきていた衛兵の群れが、まるで瞬間冷凍でもされたかのように突如としてピタリと身体の動きが止まったのだ。メデューサにでも睨まれたかのように、衛兵達は皆固まってしまったようだ。
「? な、何が起こったんだ?」
まさか新手の攻撃か? だとすればまさしく前門の虎後門の狼といった状況だ。いや、でも俺自身の動きが止まっていないということは......、ひょっとして助けられたのか?
「やあ、出所おめでとう。未来の勇者君」
「あっ」
そしてその予想はどうやら的中していたようだ。前方から迫ってきていた(硬直状態の)衛兵の間を抜けて現れたのは、あの地下牢で俺に助言をくれた謎の黒ローブであった。
「ほほう、ずいぶん刺激的な格好じゃないか? 晴れて自由の身になって、色々と解放し過ぎじゃあないのかな?」
「うるせぇ! こちとらプライドやらモラルやら色々ズタズタだっての!? パンイチだけで脱獄するのにどれだけ苦労したか分かってんのか!?」
「そいつは失敬、けどここまで一人で来れたのは立派だよ。お陰で自分も格段に動きやすくなったしね。そんな君にほら、頑張ったご褒美だよ」
「あ?」
そうして黒ローブが指をパチンと鳴らすと、なんと丸裸の俺の身体にぴったりのサイズの衣服が着た状態のままで表れたではないか!?
ま、まさかこれが選ばれし勇者のみがその身に纏うとされる伝説のふ......、
「いや、ただの布の服だけど?」
「......だろうな」
見た目ですぐに判断できたよ......。どう考えてもこの無地でほんのり白い地味な服は勇者の服ではない。
「まあ服装なんてこの際どうでもいいや。着れるだけで十分ありがたいしな。それよりお前、ちょうど会えてよかったぜ! さっき宝物庫があるって話してたけどよ場所までは伝えてなかっただろ? どこにあるのか教えてくれよ?」
「ん? 宝物庫? それなら君と自分のちょうど横にある部屋がそうだ」
「へぇ、そうか。意外と近......」
近っ!!!? はぁっ!? ここ!? えっ、ここが目的の宝物庫なのか?
「そうだよ。何だ、てっきり分かっててここまで来てたのかと......、これも所謂勇者の豪運ってやつなのかね?」
いやはや、そうだとしても豪運にもほどがあるだろう。ラッキー中のラッキーだ。ここに来て勇者スキルの発動ってわけか?
「まあ、本番はここからだろうけどね。この宝物庫こそが君の勇者としての最初の試練の場ってわけさ。さあ早く中に入って剣を手に入れて来なよ。追っ手はここで自分が止めておくからさ」
「? お、おう......?」
何だか含みのある言い方ではあるが、いちいち気にしていても仕方がないだろう。とにかく今は勇者の剣を入手しなければ......。
恐る恐る宝物庫の入口である木製扉の取っ手に手をかけ、そのままゆっくりと開いていく。
キィ
何と驚くことに、宝物庫には特に鍵は掛かっていなかった。さっきセキュリティを褒めたはずなのだが、こんな大事な部屋を戸締まりしないのはいくらなんでもまずくないか?
......いや、全然まずくはなかった。ふと宝物というワードを聞くと金銀財宝をつい想像してしまうのだが、このイルディス王国の宝部屋はそんなお宝の山などはなく、ただ広いだけの石造りの部屋であった。まさにもぬけの殻といった感じだ。
いや、よく室内を探ったところ完全なもぬけではなかった。部屋の一番奥、宝石などで装飾された小さな台座に、一振りの白を基調とした妙な雰囲気の剣が突き刺さっていた。
「まさかあれが勇者の......?」
だが他に剣らしきものは見当たらない。間違いない、あれがお目当ての勇者の剣だろう。ここまでずいぶんと長かったが、やっとのことで伝説を始められそうだ。
「よっしゃ! そんじゃあ早速......」
『? 誰か来たのか?』
「うおっ!?」
こ、声!? だ、誰かこの部屋にいるのか!?
......? あれ? でも今の声どこかで聞いたことがあるような......?
『! ふん、お前だったか。やはりここへ来たのか......。久しぶりだな、タクト?』
タクト? え、何で誰にもこっちの世界で名乗っていないはずなのに、俺の名前を知ってるんだ?
『どこを見てるんだよ、馬鹿兄? 僕はここだ!』
ばかあに?
そして俺は気づいてしまう。声のする方向がさっきから部屋の奥のほうからということに......、そしてこの声色、トーンや呼び方は......、覚えがある。いや、忘れようにも脳がしっかり記憶してしまっている。
「......ヒビキ?」
『......ああ、待っていたぞ。元兄の勇者さん』
勇者人生初日、俺は二度と会うことはないと思っていた実の弟と、異世界で再会を果たした。
勇者とその剣というあまりにも奇妙な関係となって......。
まあ地下牢なんて物騒な場所を、城の中心部に設計するわけないか......。そんな都合のいい展開が起こるわけないわな。
「いたぞっ!! 脱獄囚だ!」
ほんでもって、もう脱獄がバレているとはな......、さすが王国騎士団とだけあってセキュリティがしっかりしてやがる。
なんて呑気にしてる場合ではないな。こっちは装備無しの完璧な丸腰なのだから......。あろうことか城内を全裸でさ迷うことになるとは思いもしなかったわ。
「いたぞーっ! 裸の囚人だ!」
裸の王様みたく言わないで。好きで露出してるわけじゃあないんだからさ......。
にしても弱ったな、こりゃ。全身鎧装備を固めた衛兵が背後から四人以上はこっちに近づいて来てやがる。うーん、まずいな。お縄につくのが目に見えてる。
「くそっ、邪魔だなこいつら......」
自分で言うのもなんだが、明らかに勇者のセリフではないよな、これ? 余裕がないってこともあるが、善悪の基準で判断すると明確に悪寄りの発言なのは間違いない。
それに肝心の勇者の剣が眠る宝物庫はどこへ行けばよいのやら......。
「見つけたぞー!!」
げっ、今度は前のほうから来やがった!
ヤバい、このままじゃあ挟み撃ちにされる!
そのときだった。
「ウロボロス」
囁きと同時に、前後から迫ってきていた衛兵の群れが、まるで瞬間冷凍でもされたかのように突如としてピタリと身体の動きが止まったのだ。メデューサにでも睨まれたかのように、衛兵達は皆固まってしまったようだ。
「? な、何が起こったんだ?」
まさか新手の攻撃か? だとすればまさしく前門の虎後門の狼といった状況だ。いや、でも俺自身の動きが止まっていないということは......、ひょっとして助けられたのか?
「やあ、出所おめでとう。未来の勇者君」
「あっ」
そしてその予想はどうやら的中していたようだ。前方から迫ってきていた(硬直状態の)衛兵の間を抜けて現れたのは、あの地下牢で俺に助言をくれた謎の黒ローブであった。
「ほほう、ずいぶん刺激的な格好じゃないか? 晴れて自由の身になって、色々と解放し過ぎじゃあないのかな?」
「うるせぇ! こちとらプライドやらモラルやら色々ズタズタだっての!? パンイチだけで脱獄するのにどれだけ苦労したか分かってんのか!?」
「そいつは失敬、けどここまで一人で来れたのは立派だよ。お陰で自分も格段に動きやすくなったしね。そんな君にほら、頑張ったご褒美だよ」
「あ?」
そうして黒ローブが指をパチンと鳴らすと、なんと丸裸の俺の身体にぴったりのサイズの衣服が着た状態のままで表れたではないか!?
ま、まさかこれが選ばれし勇者のみがその身に纏うとされる伝説のふ......、
「いや、ただの布の服だけど?」
「......だろうな」
見た目ですぐに判断できたよ......。どう考えてもこの無地でほんのり白い地味な服は勇者の服ではない。
「まあ服装なんてこの際どうでもいいや。着れるだけで十分ありがたいしな。それよりお前、ちょうど会えてよかったぜ! さっき宝物庫があるって話してたけどよ場所までは伝えてなかっただろ? どこにあるのか教えてくれよ?」
「ん? 宝物庫? それなら君と自分のちょうど横にある部屋がそうだ」
「へぇ、そうか。意外と近......」
近っ!!!? はぁっ!? ここ!? えっ、ここが目的の宝物庫なのか?
「そうだよ。何だ、てっきり分かっててここまで来てたのかと......、これも所謂勇者の豪運ってやつなのかね?」
いやはや、そうだとしても豪運にもほどがあるだろう。ラッキー中のラッキーだ。ここに来て勇者スキルの発動ってわけか?
「まあ、本番はここからだろうけどね。この宝物庫こそが君の勇者としての最初の試練の場ってわけさ。さあ早く中に入って剣を手に入れて来なよ。追っ手はここで自分が止めておくからさ」
「? お、おう......?」
何だか含みのある言い方ではあるが、いちいち気にしていても仕方がないだろう。とにかく今は勇者の剣を入手しなければ......。
恐る恐る宝物庫の入口である木製扉の取っ手に手をかけ、そのままゆっくりと開いていく。
キィ
何と驚くことに、宝物庫には特に鍵は掛かっていなかった。さっきセキュリティを褒めたはずなのだが、こんな大事な部屋を戸締まりしないのはいくらなんでもまずくないか?
......いや、全然まずくはなかった。ふと宝物というワードを聞くと金銀財宝をつい想像してしまうのだが、このイルディス王国の宝部屋はそんなお宝の山などはなく、ただ広いだけの石造りの部屋であった。まさにもぬけの殻といった感じだ。
いや、よく室内を探ったところ完全なもぬけではなかった。部屋の一番奥、宝石などで装飾された小さな台座に、一振りの白を基調とした妙な雰囲気の剣が突き刺さっていた。
「まさかあれが勇者の......?」
だが他に剣らしきものは見当たらない。間違いない、あれがお目当ての勇者の剣だろう。ここまでずいぶんと長かったが、やっとのことで伝説を始められそうだ。
「よっしゃ! そんじゃあ早速......」
『? 誰か来たのか?』
「うおっ!?」
こ、声!? だ、誰かこの部屋にいるのか!?
......? あれ? でも今の声どこかで聞いたことがあるような......?
『! ふん、お前だったか。やはりここへ来たのか......。久しぶりだな、タクト?』
タクト? え、何で誰にもこっちの世界で名乗っていないはずなのに、俺の名前を知ってるんだ?
『どこを見てるんだよ、馬鹿兄? 僕はここだ!』
ばかあに?
そして俺は気づいてしまう。声のする方向がさっきから部屋の奥のほうからということに......、そしてこの声色、トーンや呼び方は......、覚えがある。いや、忘れようにも脳がしっかり記憶してしまっている。
「......ヒビキ?」
『......ああ、待っていたぞ。元兄の勇者さん』
勇者人生初日、俺は二度と会うことはないと思っていた実の弟と、異世界で再会を果たした。
勇者とその剣というあまりにも奇妙な関係となって......。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
お気に入りに登録しました~
ありがとうございます