俺が竜人の番に抱いてもらえない話する?

のらねことすていぬ

文字の大きさ
19 / 27

誤解

-








 広すぎる玄関を抜け、大階段を上る。

 長い廊下には敷き詰められた美しい深紅の絨毯。その上をアスファーは音もなく進んでいった。


 あちこちで誰かが動くような気配はするのに人影は見られない。
大の男が抱きかかえられているところを見られなくて良かったと考えるべきなんだろうが、少しの不気味さを感じた。

 俺も成人男子だしそこそこ重いのに、腕が疲れないんだろうかと思っているうちに、アスファーは大きな扉の前で足を止めた。

 手を触れることなく強い風がその扉を押し開く。不思議な光景に、彼が確かに人とは違うんだと改めて見せつけられて小さく身震いした。



 抱えられたまま入った部屋は、アスファーの瞳の色と同じグリーンの壁紙が美しい部屋だった。

 緑色の壁と天井には、金の繊細な細工が施され、大きな窓から陽の光が明るく差し込んでいる。豪奢なのに華美ではなく、どこか落ち着く雰囲気を持っている。

 その室内に入ってもアスファーは俺を腕から解放することなく足を進める。部屋の中を突っ切り、さらにもう一つの部屋に入って、そこに鎮座している大きなベッドの上にようやく俺を下ろした。






 肩を押され転がされて、背中に当たる柔らかい感触。間抜けにアスファーを見上げると、彼の顔が近づいてきた。


「ん、っ、……!」


 驚きに目を見開いたまま俺は固まってしまって、それをアスファーは気にする様子もなく、何度も唇を触れ合わせてくる。

 軽く啄むように触れられるだけなのに、そこからびりびりしたような刺激を感じる。


「ちょ、……、ぁ、」

「ウィチ、怖いことはしないから。大人しくしてくれ」

「ぅ、あ……、ん」


 顔を背けようとすると指先で顎を掴んで引き戻されて、今度は舌でぺろりと唇を舐められる。

 待ってくれと抗議するために開いた口に舌が潜り込んでくる。そのまま咥内をねっとりと舐められて、ぶるりと背中が震えた。


「っ、は、ぁ、」


 長く濃厚なキスに体の力が抜ける。舌を吸われ唾液を啜られ、ようやく口づけが止んだ時には、俺の頭はすっかり靄がかっていた。

 何なんだ。

 あんな綺麗な恋人がいるくせに、俺のことも摘まみ食いしてみる気にでもなったのか。彼のことは好きでもそんなのは酷すぎる。


「も、やめ、……」


 緩慢な仕草でアスファーの腕から逃れようとするが、腰を掴んで引き戻された
大きな体に乗り上げられて身動きが取れない。


「ウィチ、怒らないから教えて欲しい。今まで、こういうことを誰かにされたことがあるね?」


 涙目でベッドに沈められている俺に、覆いかぶさったアスファーがそっと囁く。どこか押し殺す怒りのような気配を感じさせる声に、俺は何でそんなことを聞かれているのかも分からず頷いた。あまりに地味すぎて、経験が欠片もないように見えたんだろうか。

 肯定する俺を見て、アスファーは顔を苦しそうに歪めて、絞り出すような声で呟いた。


「そうか。だからお前は恋愛経験だなんて言って…………殺してくるから、相手の名前と特徴を教えてくれるか?」

「は? い、いや、それは、」


 殺すって、何言っているんだ。
 いくらモテなくても俺だって大人だし、付き合っている人がいたらセックスもする。

 デニスを吹き飛ばした時もそうだったけど、アスファーは一体何に対して怒っているんだ。まさか昔の巫女みたいに、番は穢れていたらいけないとかいう決まりでもあるのか。だからって殺すなんて言い過ぎだろう。

 だがアスファーが次に呟いた言葉に、俺は目を見開いた。





「そいつは、まだ子供のお前を、恋人だなんて言って手籠めにしたんだろう? 庇う必要なんてない」


子供の、……俺?

 それに手籠めって、あれだよな。
レイプ的な意味だよな? 別に無理やりされたことはないんだけど。

 俺、まさか自己紹介の時に29歳じゃなくて9歳とか言ってたか?でも言い間違いにしたって変だって気が付くだろう。


「いや、アスファー……? 俺、29歳って言った、よな?」

「ッ! ……まだウィチが幼いのは分かっている。今まで怖かったな? 俺は優しくするから、怯えなくていい」


 アスファーが言いながら、俺の体をぎゅうぎゅう抱きしめてくる。


「済まない。本当なら俺もまだ子供のウィチに手を出すつもりはなかったが、他の雄に触られたなら、上書きしないと我慢できないんだ」


 耳元で優しく囁かれて、耳朶に口づけられる。それだけでぞくぞくしたものが腰を痺れさせるけど、俺はアスファーの顔を引っぺがした。


「いや、だから、俺が子供って! んなわけあるかよ!」

「まだ子供だろう。100……いや、50歳にも届かないのに。今までの雄は、お前を大人だと言って弄んだのか?」


 50歳って。
 俺の歳が子供なら、世の中は子供だらけになってしまう。なんでこうも会話がかみ合わないんだ。


「は? アスファー、何言ってるんだ! 成人は俺の国なら20歳だよ! 俺はとっくに大人だ!」



 思わず喚くように叫ぶ。
 その言葉を聞いてアスファーは、秀麗な眉を不可解だとでも言いたげに顰めた。


「20歳……? そんなの、生まれたてと変わらないじゃないか」


生まれたて。
20歳で、生まれたて?
おかしい。
もしかして、と嫌な予感が頭によぎる。

「アスファー……もしかして……その、今、いくつなんだ?」


 俺が恐る恐る尋ねると。アスファーは、まるで見たら分かるだろうとでも言いたげに、口を開いた。


「俺は、3100を少し過ぎたところだ」













あなたにおすすめの小説

グラジオラスを捧ぐ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
憧れの騎士、アレックスと恋人のような関係になれたリヒターは浮かれていた。まさか彼に本命の相手がいるとも知らずに……。

幼馴染が結婚すると聞いて祝いに行ったら、なぜか俺が抱かれていた。

夏八木アオ
BL
金髪碧眼の優男魔法使いx気が強くてお人好しな元騎士の幼馴染の二人です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後

結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。 ※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。 全5話完結。予約更新します。

俺の彼氏は真面目だから

西を向いたらね
BL
受けが攻めと恋人同士だと思って「俺の彼氏は真面目だからなぁ」って言ったら、攻めの様子が急におかしくなった話。

「じゃあ、別れるか」

万年青二三歳
BL
 三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。  期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。  ケンカップル好きへ捧げます。  ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。

好きだから手放したら捕まった

鳴海
BL
隣に住む幼馴染である子爵子息とは6才の頃から婚約関係にあった伯爵子息エミリオン。お互いがお互いを大好きで、心から思い合っている二人だったが、ある日、エミリオンは自分たちの婚約が正式に成されておらず、口約束にすぎないものでしかないことを父親に知らされる。そして、身分差を理由に、見せかけだけでしかなかった婚約を完全に解消するよう命じられてしまう。 ※異性、同性関わらず婚姻も出産もできる世界観です。 ※毎週日曜日の21:00に投稿予約済   本編5話+おまけ1話 全6話   本編最終話とおまけは同時投稿します。