俺が竜人の番に抱いてもらえない話する?

のらねことすていぬ

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大人

 



「……さんぜん、ひゃく?」
「ああ。年上過ぎて嫌か?」
「えっと、嫌とかそういう話じゃない、かな」


 落ち着け、俺。アスファーと付き合いは短いけれど彼は嘘は言わない男だ。そして今まで目の前で起こったこと……たとえば、彼が竜に変身するところだとかを見ている限り、この世界はどうやら俺の常識の範囲外のようだ。


「アスファー、俺の言うこと、よく聞いてくれるか?」


 俺はこの世界に来てからこの世界の常識を勉強した。けど、俺が逆に彼に俺の世界のことを教えることはなかった。アスファーは『俺』の好みや生い立ちのことなら何でも知りたがったけど、俺の世界については興味がなさそうだったから。むしろ俺があちらの世界について話すと、「帰りたいのか?」と何度も聞かれてしまって大変だったから、俺もいつしかあまり話さないようになっていた。


 そして彼はこの国では神様扱いで、きっと人間の生態について今まで知ろうとすることすらなかったんだろう。


 俺はなにから話そうか、と頭を悩ませながら、ゆっくりと口を開いた。





◇◇◇◇◇





 ……ベッドの上に二人で座り込み、人間の寿命やらについて話して早何分経っただろうか。俺の熱弁が功を奏したのか、ようやくアスファーは頑なに俺を『子供』と呼んでいたのを改め始めた。


「……つまり、ウィチは……本当に、成人しているのか?」


戸惑ったようにアスファーは首を傾げ、そっと俺に手を伸ばしてくる。


「とっくにしてるよ」

「見えないな。お前は無垢で愛らしいからてっきり子供だと……」

「いやいや無垢とか愛らしいとかありえないし。顔も体も子供じゃないし。あと、他の人の結婚年齢とかで分かんなかった?」

「ウィチ以外の人間に興味があったことはないからな。だがそうか……ウィチは、大人なのか」


 真っすぐな視線が俺の瞳の奥を覗き込んでくる。その瞳には揺らめくような情欲が浮かんでいて、それが俺の肌をゾクリと粟立たせる。


「じゃあ、ウィチに触れるのに、何の問題もないのか」
「……ッ!」
「本当に?」

 伸ばされた指先が俺の頬を撫で、首筋を伝い胸元にまで降りる。少しだけ官能を匂わせるその指先を俺は慌てて掴んだ。

「ちょ、ちょっと待って」
「ダメ? 年齢的にはいいんだろう? じゃあ俺のことが嫌い? それとも……まさか忘れられない恋人がいる?」
「違う、そうじゃなくて、」
「そうじゃないなら、俺のものにさせてくれ。お前が他の雄にベタベタ触られて、おかしくなりそうだ」


アスファーは、俺の腕を捕まえると、顔を寄せてまるで内緒話でもするかのように小声で囁く。
その独占欲を露わにするような言葉に、俺は少し胸が痛んだ。


「アスファーこそ恋人がいるだろ。だったら俺とこんなことしたらダメだよ。浮気して振られても知らないぞ」

「恋人?浮気?番が傍にいるのに、他によそ見するわけないだろう」


白々しい言葉に、俺は苦く笑って俯く。
俺の今までの恋人みたいに開き直らないだけマシなのか……それとも、まだヤってないから口説くようなことを言うのか。
それほど価値がある体だとは思っていないけど、散々経験した苦しさが喉にせり上がってきた。


「隠さなくていいよ。庭園で、抱き合ってるの見たんだ」

「庭園で?」

「そうだよ。あんな、あんな綺麗な人がいるなら、俺になんて手を出さなくていいだろ」

「綺麗……ウィチほど綺麗な存在はいないが、もしかして茶髪で色の白い男のことか?」


緩く頷き、視線を下げる。

あれは見間違えなんかじゃなくてアスファーだった。
彼が、俺を振り払って恋人とともにいるところを見たんだ。
俺は浮気は許せないし、他の人を不幸にすると分かっててアスファーに抱かれるようなことはできない。
どうせ一度だけだ、抱かれてしまえ、と弱い心が誘惑してくるけど……アスファーに恋人を裏切ることはして欲しくない。
浮気をされた時の痛みは、誰よりも知っているつもりだから。

彼から離れようと身を捩ると、強く肩を掴んで向きなおされた。


「待ってくれウィチ。あれは恋人なんかじゃなくて土竜だ。俺と同じ、竜人の」

「え……あの人が、竜人?」

「そうだ。竜人は竜人同士では番にはならない」

「でも、凄く親密そうだったし、見た目もずっとアスファーに釣り合ってたし、」


言い募る俺の頬にアスファーはそっと手を滑らせる。
その暖かい感触に、俺は口を噤んだ。


「あれと恋人になるなんてありえないし、あいつにも番がいる。この国の騎士で溺愛している。だからあいつは、ただの気安い友人だ」


じっと深く見つめられる深緑の瞳。
ゆっくりと彼の顔が近づいてきて、唇が重なってすぐに離された。


「信じてくれ。竜人には番が全てなんだ。お前に拒絶されたら、……俺は狂ってしまう」

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