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最初の恋
1-1. 亜人
最悪だ。
最悪過ぎる。
どうしよう、と俺は唇を噛みしめるが脳みそがショートしたような頭じゃいい案なんて浮かんでこない。
ああもう消えてなくなってしまいたい。
◇◇◇◇◇
この世界には、俺たち人間と、『亜人』たちがそれなりに上手いこと共存して生きている。
『亜人』は、今から700年ほど前に地球に現れた異星人だ。
亜人は同じく知的な生物ではあるけれど、人間に比べると理性が薄くやや本能的。
だが人間とは比べ物にならないくらい体力や反射神経に優れ生命力が強い。
亜人は男女ともに背が高く筋骨隆々としていて、浅黒い肌に赤い瞳なのが特徴だ。
彼らが現れた当初は、両種族の間で相当な諍いがあったらしいけど、今ではすっかり地球に溶け込んでいる。
お互い見た目や性格に多少の差はあるものの、付かず離れず社会を構成している。
亜人の子供は隔離されて育てられるけど、ある程度年齢が上がると人間社会に徐々に溶け込んでいく。
差別は特にお互いになく、人間は理知的だから、亜人の優れた点をしっかりと理解し敬意を払っている。
亜人だって本能的なところがあると言っても、みな鷹揚で穏やかな種族だ。
お互いのことを認め合い、上手く共生している。
全く問題はない。
問題はないのだけれど、人間と亜人、この二つの種族は交わって生きているわけでは決してないのだ。
亜人は人間のことを差別もしないし嫌っているわけでもない。
だけど。
だけど、亜人は必要以上に人間には近づかない。
そして両種族の間では、恋愛も結婚もなされない。
二つの種が交わることはない。
人間側には別に亜人との結婚を規制する法律もなにもないんだけど、亜人側が絶対に人間と『親密』な関係にならないようにしている。
それは人間の間では周知の事実だから、どれだけ好みの亜人がいてもどれだけロマンチックなことがあったとしても彼らを恋愛対象として見たりはしない。
『残念、彼が亜人じゃなければ好きになっていたのに』
そんな言葉が女性たちの間で交わされるのを、俺は今まで何度聞いたか分からないほどだ。
だが俺は人間でありながら、亜人が好きな……亜人フェチとでも言うんだろうか。
ともかく亜人でないと恋愛対象にできない男だ。
俺が、俺自身の違和感に気が付いたのは、12歳を少し過ぎたころだった。
初恋は小学校の時。
相手は亜人の男の子だったのだ。
亜人学校が俺の住むマンションの近くにあって、彼らは、人間学校へ行く俺と同じ通学路と通っていた。
生まれた時からそのマンションに住んでいたから、別に違和感なんてなかった。
小学校に入学したてくらいのころは別に亜人に興味はそれほどなかったし、亜人のほうは僕たち人間の小学生を避けているようだった。
お互いに関わることはないし、興味もない。
そんな普通の小学校生活だった。
だけど小学校4年生くらいの頃だっただろうか。
俺の両親は共働きで帰りが遅い。
学校が終わったら家に真っすぐ帰るように言われていたけど、それでも遊びたい盛りだ。
友達の家に遊びに行って、日が暮れて慌てて帰ろうとして……変な奴に捕まった。
通学路じゃなくて、少しだけ近道しようと雑居ビルの間をすり抜けた時だった。
なにやら男が立っているな、と思ったら急に口を塞がれた。
そのまま非常階段の踊り場まで引きずり込まれて圧し掛かられた。
カチカチと光る蛍光灯。
階段を引きずられた時に靴が片方脱げていて、足をばたつかせるとその足首を掴まれた。
『騒ぐな!』
男の上ずった声が鋭く響き、それまで怒鳴られたことなんてほとんどなかった俺は恐怖に固まった。
大人しくなった俺をにやけた顔で見下ろして来た男は、ますます体を密着させてくる。
ハァハァ男が吐く息が顔にかかって気持ちが悪い。
圧し掛かってくる体が重い。
訳の分からない恐怖に俺の目からぽろりと涙が零れた。
その時。
『なにやってるんだ!』
俺を押さえつけていた男の体が、ふわりと浮いた。
いや、正確には浮いたのじゃなくて掴み上げられて、投げ飛ばされていた。
呆然と見上げる俺の目の前には、逞しい亜人の少年。
少年と言っても、彼は既に170センチは超えていただろう。
彼がまだ少年だと分かったのは、その筋骨隆々とした背は亜人用のランドセルを背負っているからだった。
浅黒い肌を怒りのために朱に染めた彼は、そのまま変質者のことを何度か殴る。
大人とは言え人間の変質者は、あっさりと意識を失ってその場に伸びた。
変質者が意識を失ったのを確認した亜人の彼は、まだ床に座り込んだままの俺のもとにそっと膝をついて、助け起こそうと手を差し伸べてくれて。
『大丈夫か……?』
その瞬間、俺は恋に落ちてしまった。
結局、その後変質者を交番まで引きずって行き、飛んできた親が彼と彼の両親に丁重にお礼を言って終わりになった。
彼とはそれ以来会えなくなってしまった。
親には亜人学校までお礼に行きたいと言ったが、亜人学校は人間が立ち入ることを禁じている。
問い合わせても彼の名前すら教えてくれなくて、俺は、この初恋は諦めなければいけないのだとゆっくりと理解した。
俺が亜人にしか惹かれないと気が付いたのは、それから数年経った後だった。
中学に入って同級生同士で付き合ったり、誰が好きとかみんなが噂話をしたりする時に、俺の頭に浮かんだのは彼の逞しい背中だけだった。
クラスで一番かわいい女の子にも、スポーツが得意な男の子にも誰にも興味が湧かない。
そのことに気が付いた時、まだまだ思春期まっさかりの俺は深く頭を悩ませた。
同性であることだってすでに高いハードルなのに、更になんで亜人なんだ。
ただでさえ低い恋が実る可能性が、100分の1から100万分の1以下、それどころかゼロまで落ちていく。
なぜなら、亜人は絶対に人間と恋愛しないんだ。絶対に、だ。
そんなの一般常識なのに。
ぜったいに叶わない恋なんて、諦めなければいけない恋なんてしたくない。
自分が亜人の男にしか惹かれないということに気が付いてから、俺はそれでも努力した。
亜人に似た、人間の男……背が高くて逞しい人間と恋愛をしてみたり。
諦め悪く、亜人の好むタイプはどんなのかと探ってみたり。
ダメもとで亜人の男に粉をかけてみたり。
でもどれもが駄目だった。
人間と付き合っても、亜人に似たところばかり探してしまって虚しくなる。
亜人の好むタイプは千差万別だが、彼らにとって一番大事なことは同じ『亜人』であること。
玉砕覚悟で声を掛けてみても、誰もが困ったような顔で俺から距離を取った。
バーなんかで引っ掛けたわけじゃなくて、それまで『友人』だと思っていたような間柄の亜人でも、俺に好意があると分かるとそれとなく離れていった。
そんなことを繰り返していけば、いくら間抜けな俺でも分かる。
人間からの好意など、彼らには迷惑でしかないのだと。
それならばしょうがない、俺は亜人しか好きになれないんだから恋人を作るのは諦めよう。
俺には遠くから見ているだけがお似合いのようだ。
たとえ誰にも恋人として愛されることのない寂しい人生でも、それが運命なんだろう。
そうようやく思えたのが今から3年前だ。
もう20代も後半になっていた。
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