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番外編:妄想はこじらせると怖い
妄想はこじらせると怖い 1
※注意:男性妊娠について言及しています。
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ふ、とうたたねから目が覚めた。どんな夢を見たかも思い出せないけれど、浅く眠っていたみたいだ。この頃、引っ越しだなんだと疲れていたからな……と小さく伸びをする。俺には大きすぎるほどのソファは、足を伸ばして寝転がれるほどでベッドとしてぴったりだ。ゆっくりと体を起き上がらせると、後ろから機嫌のよさそうな低い声がした。
「差山、起きたのか」
「ゼン」
ゼンがキッチンから顔を出す。美味しそうな匂いを湯気と共に立ち上がらせるコーヒーを二つ手にリビングへと来ると、俺の横にどかりと腰を下ろした。
「起こしてくれればよかったのに」
「疲れていそうだったからな。人間はか弱いし、少しでも寝たほうがいい」
過保護にも思えるゼンの言葉に、俺はくすぐったい気分になりながら笑った。
ゼンは亜人だ。いまから700百年ほど前に突如として地球に降り立った、人間と似た姿かたちを持つ異星人だ。理性や知性などは人間の方が優れていると一般的には言われているが、亜人はそんなことを吹き飛ばすくらいに体が強い。何日も眠らず食べずに活動することができるし、筋力も人間とはくらべものにならないほど強力だ。
だからゼンは時折……いや、しょっちゅう俺のことをまるで子供のように甘やかす。最初はそのぬるま湯みたいな対応に少し違和感があったのに、今ではすっかり慣れてしまっている。俺も大人で対等な立場なのだからあまり寄りかかってはいけない、と心でブレーキをかけるけれど、ゼンはそんな俺の気持ちにはお構いなく、いつもとろとろと蕩けそうな笑顔で構い倒してくるのだ。
「大丈夫だよ。それより今、何時だろ」
「そんなに長くは眠っていないぞ」
ゼンがちらりと時計を見る。たしかにまだ昼過ぎで、どうやら昼食を食べた満腹感で眠ってしまったようだった。休日のこの時間にのんびりするのも久しぶりだ。惰性でテレビをつけると、動物番組がやっていた。コメンテーターがやかましいワイドショーよりもよっぽどいい。そう思って付けたままにしていると、パッと画面が移り変わり、巨大な動物が写しだされた。
「すご……大きいな」
映し出されたのは、でっぷりと太ったネコ科の動物。淡い黄色に太い脚。顔つきはライオンだけど大きすぎる。普通のライオンの倍以上ありそうだ。異様なその姿に、テレビのナレーションがこれは『ライガー』なのだと説明を始めた。
「ライオンと虎でライガーか。強そうだな。俺よりも重い」
ゼンの体重は優に100キロを超えるけれど、ライガーはその何倍も重いようだ。動物と体重を競うなんて発想は人間にはないから、張り合うようなゼンの言葉が面白くて小さく笑ってしまう。亜人は人間に近いようでやっぱり違う生き物なのだとこういう些細なところで感じさせられる。きっと知らないだけでもっと大きな違いがあるのだろうけど。
ライガーを食い入るように見つめるゼンの肩に、ぽすりと頭を預ける。ライガーか。自然界では交わることのない種を、人間が無理やり掛け合わせた生き物。頭の中で、そう言えば、と昔聞きかじった知識を引っ張り出す。
「強そうだね。けど、たしか生殖能力がなかった筈だよ」
滅多に成功しない繁殖だから仲間もいなくて、先天的な疾患も多かったはずだ。その中でも有名なのが繫殖能力の欠如。
可哀そうだな。そう思ってゼンの方を見上げると……なぜか熱っぽい目でこちらを見ていた。
「そうか。それは……俺とは違うな」
肩を抱いていた手が尻に降りてきて、さわさわと撫でまわしてくる。ちゅ、と頭のてっぺんに唇を落とされた。どういうことだ。さっきまで俺の疲れを心配していたはずじゃないか。もしかして生殖能力が、ゼンの方が優れているっていう誘い文句だと思ったのか? いやいやどれだけスイッチが入りやすいんだ。
「……待って。そういう意味で言ったんじゃないよ」
「違うのか」
今にも抱き上げてきそうなゼンの腕をぺしぺしと叩く。ゼンと抱き合うのは嫌いじゃない。……むしろ好きだと思う。これまで感じたことのない、狂うほどの快感は、俺の体を作り変えてしまった。だけど彼とのセックスは一発や数十分で終わるものじゃなくて、俺の体液という体液が全部搾り取られて、声が枯れ果てて、正気がどこかにいってしまうようなセックスだ。もしするなら、……俺なりに計画を持ってしないと後のスケジュールが狂ってしまう。でないと気が付いたら翌日の朝だ。
腕の中から逃げ出してテレビに視線を戻した。
「やっぱり異種間での交配は難しいんだね」
ゼンは少し唇を尖らせてこちらを見ていたが、仕方ないかとでもいうふうに肩をすくめて、彼も視線を画面に戻した。
「特に地球の生き物はあまり交わらないな。俺も知識としてしか知らないが、俺の母星では異種交配が多すぎるらしい。亜人を見ればわかるように生命力が強い生き物が多いし、きっと生殖能力も高いんだろうな。だがそのせいで新種の病気がでてきたり縄張り争いも多いらしいから、いいことばかりじゃない」
そうなのか。ゼンも行ったことのないゼンの母星。彼らが地球に来てから700年も経つけれど、彼らの母星についての情報は人間はあまり知らない。いや、政府の人とか研究者なら知っているかもしれないけど、一般人に開示されている情報はそれほど多くないのだ。
色々聞いちゃっていいのかな。そう思いながら彼の言葉に耳を傾けていると、ライガーを映していた画面が消え去り、明るい音楽とともに大食い自慢の芸人たちが映った。次の番組へと移ったみたいだった。大げさな笑い声や囃し立てる声になんとなく真面目な話をする雰囲気が霧散してしまう。それ以上しつこくするのも気が引けて、ふぅと体の力を抜いた。気になることはまた聞けばいいか。
「最近外食とかしてないなー……」
「そうだな……ああ、ところで。今度、俺の親が家に飯でも食いに来いって。時間つくれるか?」
「ご両親と? もちろん」
ゼンのご両親と。少し前に同棲の挨拶をさせてもらった二人の顔を思い出す。少し緊張するが、優し気な二人の顔を思い出して、俺は頷いた。
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ふ、とうたたねから目が覚めた。どんな夢を見たかも思い出せないけれど、浅く眠っていたみたいだ。この頃、引っ越しだなんだと疲れていたからな……と小さく伸びをする。俺には大きすぎるほどのソファは、足を伸ばして寝転がれるほどでベッドとしてぴったりだ。ゆっくりと体を起き上がらせると、後ろから機嫌のよさそうな低い声がした。
「差山、起きたのか」
「ゼン」
ゼンがキッチンから顔を出す。美味しそうな匂いを湯気と共に立ち上がらせるコーヒーを二つ手にリビングへと来ると、俺の横にどかりと腰を下ろした。
「起こしてくれればよかったのに」
「疲れていそうだったからな。人間はか弱いし、少しでも寝たほうがいい」
過保護にも思えるゼンの言葉に、俺はくすぐったい気分になりながら笑った。
ゼンは亜人だ。いまから700百年ほど前に突如として地球に降り立った、人間と似た姿かたちを持つ異星人だ。理性や知性などは人間の方が優れていると一般的には言われているが、亜人はそんなことを吹き飛ばすくらいに体が強い。何日も眠らず食べずに活動することができるし、筋力も人間とはくらべものにならないほど強力だ。
だからゼンは時折……いや、しょっちゅう俺のことをまるで子供のように甘やかす。最初はそのぬるま湯みたいな対応に少し違和感があったのに、今ではすっかり慣れてしまっている。俺も大人で対等な立場なのだからあまり寄りかかってはいけない、と心でブレーキをかけるけれど、ゼンはそんな俺の気持ちにはお構いなく、いつもとろとろと蕩けそうな笑顔で構い倒してくるのだ。
「大丈夫だよ。それより今、何時だろ」
「そんなに長くは眠っていないぞ」
ゼンがちらりと時計を見る。たしかにまだ昼過ぎで、どうやら昼食を食べた満腹感で眠ってしまったようだった。休日のこの時間にのんびりするのも久しぶりだ。惰性でテレビをつけると、動物番組がやっていた。コメンテーターがやかましいワイドショーよりもよっぽどいい。そう思って付けたままにしていると、パッと画面が移り変わり、巨大な動物が写しだされた。
「すご……大きいな」
映し出されたのは、でっぷりと太ったネコ科の動物。淡い黄色に太い脚。顔つきはライオンだけど大きすぎる。普通のライオンの倍以上ありそうだ。異様なその姿に、テレビのナレーションがこれは『ライガー』なのだと説明を始めた。
「ライオンと虎でライガーか。強そうだな。俺よりも重い」
ゼンの体重は優に100キロを超えるけれど、ライガーはその何倍も重いようだ。動物と体重を競うなんて発想は人間にはないから、張り合うようなゼンの言葉が面白くて小さく笑ってしまう。亜人は人間に近いようでやっぱり違う生き物なのだとこういう些細なところで感じさせられる。きっと知らないだけでもっと大きな違いがあるのだろうけど。
ライガーを食い入るように見つめるゼンの肩に、ぽすりと頭を預ける。ライガーか。自然界では交わることのない種を、人間が無理やり掛け合わせた生き物。頭の中で、そう言えば、と昔聞きかじった知識を引っ張り出す。
「強そうだね。けど、たしか生殖能力がなかった筈だよ」
滅多に成功しない繁殖だから仲間もいなくて、先天的な疾患も多かったはずだ。その中でも有名なのが繫殖能力の欠如。
可哀そうだな。そう思ってゼンの方を見上げると……なぜか熱っぽい目でこちらを見ていた。
「そうか。それは……俺とは違うな」
肩を抱いていた手が尻に降りてきて、さわさわと撫でまわしてくる。ちゅ、と頭のてっぺんに唇を落とされた。どういうことだ。さっきまで俺の疲れを心配していたはずじゃないか。もしかして生殖能力が、ゼンの方が優れているっていう誘い文句だと思ったのか? いやいやどれだけスイッチが入りやすいんだ。
「……待って。そういう意味で言ったんじゃないよ」
「違うのか」
今にも抱き上げてきそうなゼンの腕をぺしぺしと叩く。ゼンと抱き合うのは嫌いじゃない。……むしろ好きだと思う。これまで感じたことのない、狂うほどの快感は、俺の体を作り変えてしまった。だけど彼とのセックスは一発や数十分で終わるものじゃなくて、俺の体液という体液が全部搾り取られて、声が枯れ果てて、正気がどこかにいってしまうようなセックスだ。もしするなら、……俺なりに計画を持ってしないと後のスケジュールが狂ってしまう。でないと気が付いたら翌日の朝だ。
腕の中から逃げ出してテレビに視線を戻した。
「やっぱり異種間での交配は難しいんだね」
ゼンは少し唇を尖らせてこちらを見ていたが、仕方ないかとでもいうふうに肩をすくめて、彼も視線を画面に戻した。
「特に地球の生き物はあまり交わらないな。俺も知識としてしか知らないが、俺の母星では異種交配が多すぎるらしい。亜人を見ればわかるように生命力が強い生き物が多いし、きっと生殖能力も高いんだろうな。だがそのせいで新種の病気がでてきたり縄張り争いも多いらしいから、いいことばかりじゃない」
そうなのか。ゼンも行ったことのないゼンの母星。彼らが地球に来てから700年も経つけれど、彼らの母星についての情報は人間はあまり知らない。いや、政府の人とか研究者なら知っているかもしれないけど、一般人に開示されている情報はそれほど多くないのだ。
色々聞いちゃっていいのかな。そう思いながら彼の言葉に耳を傾けていると、ライガーを映していた画面が消え去り、明るい音楽とともに大食い自慢の芸人たちが映った。次の番組へと移ったみたいだった。大げさな笑い声や囃し立てる声になんとなく真面目な話をする雰囲気が霧散してしまう。それ以上しつこくするのも気が引けて、ふぅと体の力を抜いた。気になることはまた聞けばいいか。
「最近外食とかしてないなー……」
「そうだな……ああ、ところで。今度、俺の親が家に飯でも食いに来いって。時間つくれるか?」
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