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10.受け視点:魔王様の部下を辞めたら嫁にされました
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受け視点:ややコメディ
◇◇◇◇◇
昼でも薄暗い魔王様の寝室。ここに閉じ込められてどれくらい経っただろう。昼夜の区別がつかないせいで、何日経ったのか測る術がない。私は服も与えられず裸のまま寝台に転がされて、政務の合間に訪れる魔王様に甚振られていた。
「嫌……っ!も、……や、めてくださ、」
「あまり可愛げのないことを言うな」
嫌だ嫌だと言う私に、不機嫌そうに魔王様が眉を寄せる。ぴりりとした強い魔力が私の肌を刺して痛いほどだ。だけどどうしていいのか分からない私は、ただ首を横に振った。
「や、やめ、もう、許してくださ、」
なにかが気に障ったせいで私は魔王様に犯されているんだと思うけれど、気まぐれにしては長く続きすぎている。魔王様に触れられるとあっという間に熱に浮かされてしまって冷静に考えられなくなってしまう。恥ずかしいのと気持ちいいので頭の中がいっぱいになってしまう。だから少しでも何でこんなことになっているのか教えてほしくて、許してほしくて彼から距離を取ろうとするけど、そんな私に魔王様は怖い顔をさらに固くした。
「…………もう声を奪ってやろうか。なにも喋れないように」
「そんな……!」
「それが嫌なら黙っていろ」
つい、と私の喉を撫でられる。声を封じるなんて魔王様にとっては簡単なことだろう。きっと一生そのままにすることだってできる。恐ろしいことを告げる魔王様に私が震えあがっていると、不意に寝室の扉が強く叩かれた。
ガンガン、と激しく叩かれる重たい扉。明らかに侍従たちではないその叩き方に、魔王様は私の喉から手を放すと扉を睨んだ。
「誰だ」
「俺だよ、ゼーだ。入れてくれ」
ゼー将軍。大柄な彼の野太い声が響いてくる。久しぶりに聞いた魔王様以外の声。なんだか懐かしささえ感じるその声に、私はぼんやりと扉を見つめた。
「何の用だ。そこで言え」
「そう言うなって。それに俺が用事があるのは魔王様じゃなくてレヴィスの方だ」
苛立ちを隠さない魔王様に、ゼー将軍がのんびりと告げる。そして突如として名指しされて、私はぴくりと肩を揺らした。
「え、私……?」
「そ。レヴィス」
私に? ゼー将軍が用事って……。でも魔王様が私を解放してくれるのか分からない。ちらりと魔王様を見上げると、鋭い怒気をまとった視線とぶつかった。当然のように首を横に振られる。
「だめだ」
「そう言うなって。レヴィスにとってはめちゃくちゃ大事な話なんだ。このままじゃレヴィスが死んじまうかもしれないぞ」
「死ぬ……?」
ゼー将軍のその言葉に、今度は魔王様がぴくりと肩を動かす。じっと私の顔を見て、それからゼー将軍が控える扉へと振り返った。
「……本当だろうな」
「ああ。魔王様相手に嘘なんてつくやつはいねぇよ」
確かに魔王様に嘘をつく悪魔はいないだろう。そんなことしたら死ぬよりも怖い目に遭う。不遜な態度のゼー将軍でも、魔王様の強さの前には足元にも及ばないというのは昔聞いたことがある。
魔王様は一瞬迷うように黙り、それから私の体にきつくシーツを巻き付けた。動けないほどぐるぐる巻きにして、「入れ」と無機質な声で命じた。
「お楽しみ中すみませんね。レヴィスは久しぶりだなぁ。元気……にはあんまり見えないな」
「ゼー将軍……」
ゆっくりと扉が押し開かれてゼー将軍が中へと入ってくる。ずしりと地響きがしそうなほど太い脚が絨毯を踏み、その剛健な見た目には不似合いな明るい声が寝室に響き渡った。ゼー将軍はシーツにくるまれた私を見ると、どこか呆れたように笑ってみせた。そして魔王様に向かって意外なことを口にした。
「じゃあ魔王様、ちょっと外しておいてくれないか?」
「なんだと?」
魔王様を寝室から追い出す気なんだろうか。当然のようにそう言って、開いたままの扉を掌で指し示す。私が驚いて固まっていると、ゼー将軍は魔王様を宥めるようにへらりと笑った。
「魔王様がいたら話せないことなんだよ」
「隠し事をする気か?」
「隠し事じゃないさ。ただ本人に先に伝えておきたいだけだって。後から聞けばいい」
「……適当なことを言ってるんじゃないだろうな」
「そんなことないって。な、レヴィスのためだ。俺がレヴィスに変な真似しようとしたら、お前ならすぐ分かるだろ?」
言いながらゼー将軍はじわりじわりと寝台へと寄ってくる。大げさに手をひらひらと振って、ぺらぺらと喋っているうちに、いつの間にか私のすぐ傍に立っていた。そしてそのことに気が付いているだろう魔王様も、少し考えこむように黙ると、ゆっくりとした仕草で寝台から立ち上がった。
「指一本でも触れてみろ。塵も残さず消してやる」
「了解ですって」
「もしレヴィスを逃がしても殺すぞ」
「おー、怖い」
本当に怖いと思っているんだろうか。わざとらしく震えてみたゼー将軍。彼の顔はそう言いながらも余裕たっぷりで、そんな彼と広い寝室に二人きりで取り残されてしまった。
◇◇◇◇◇
昼でも薄暗い魔王様の寝室。ここに閉じ込められてどれくらい経っただろう。昼夜の区別がつかないせいで、何日経ったのか測る術がない。私は服も与えられず裸のまま寝台に転がされて、政務の合間に訪れる魔王様に甚振られていた。
「嫌……っ!も、……や、めてくださ、」
「あまり可愛げのないことを言うな」
嫌だ嫌だと言う私に、不機嫌そうに魔王様が眉を寄せる。ぴりりとした強い魔力が私の肌を刺して痛いほどだ。だけどどうしていいのか分からない私は、ただ首を横に振った。
「や、やめ、もう、許してくださ、」
なにかが気に障ったせいで私は魔王様に犯されているんだと思うけれど、気まぐれにしては長く続きすぎている。魔王様に触れられるとあっという間に熱に浮かされてしまって冷静に考えられなくなってしまう。恥ずかしいのと気持ちいいので頭の中がいっぱいになってしまう。だから少しでも何でこんなことになっているのか教えてほしくて、許してほしくて彼から距離を取ろうとするけど、そんな私に魔王様は怖い顔をさらに固くした。
「…………もう声を奪ってやろうか。なにも喋れないように」
「そんな……!」
「それが嫌なら黙っていろ」
つい、と私の喉を撫でられる。声を封じるなんて魔王様にとっては簡単なことだろう。きっと一生そのままにすることだってできる。恐ろしいことを告げる魔王様に私が震えあがっていると、不意に寝室の扉が強く叩かれた。
ガンガン、と激しく叩かれる重たい扉。明らかに侍従たちではないその叩き方に、魔王様は私の喉から手を放すと扉を睨んだ。
「誰だ」
「俺だよ、ゼーだ。入れてくれ」
ゼー将軍。大柄な彼の野太い声が響いてくる。久しぶりに聞いた魔王様以外の声。なんだか懐かしささえ感じるその声に、私はぼんやりと扉を見つめた。
「何の用だ。そこで言え」
「そう言うなって。それに俺が用事があるのは魔王様じゃなくてレヴィスの方だ」
苛立ちを隠さない魔王様に、ゼー将軍がのんびりと告げる。そして突如として名指しされて、私はぴくりと肩を揺らした。
「え、私……?」
「そ。レヴィス」
私に? ゼー将軍が用事って……。でも魔王様が私を解放してくれるのか分からない。ちらりと魔王様を見上げると、鋭い怒気をまとった視線とぶつかった。当然のように首を横に振られる。
「だめだ」
「そう言うなって。レヴィスにとってはめちゃくちゃ大事な話なんだ。このままじゃレヴィスが死んじまうかもしれないぞ」
「死ぬ……?」
ゼー将軍のその言葉に、今度は魔王様がぴくりと肩を動かす。じっと私の顔を見て、それからゼー将軍が控える扉へと振り返った。
「……本当だろうな」
「ああ。魔王様相手に嘘なんてつくやつはいねぇよ」
確かに魔王様に嘘をつく悪魔はいないだろう。そんなことしたら死ぬよりも怖い目に遭う。不遜な態度のゼー将軍でも、魔王様の強さの前には足元にも及ばないというのは昔聞いたことがある。
魔王様は一瞬迷うように黙り、それから私の体にきつくシーツを巻き付けた。動けないほどぐるぐる巻きにして、「入れ」と無機質な声で命じた。
「お楽しみ中すみませんね。レヴィスは久しぶりだなぁ。元気……にはあんまり見えないな」
「ゼー将軍……」
ゆっくりと扉が押し開かれてゼー将軍が中へと入ってくる。ずしりと地響きがしそうなほど太い脚が絨毯を踏み、その剛健な見た目には不似合いな明るい声が寝室に響き渡った。ゼー将軍はシーツにくるまれた私を見ると、どこか呆れたように笑ってみせた。そして魔王様に向かって意外なことを口にした。
「じゃあ魔王様、ちょっと外しておいてくれないか?」
「なんだと?」
魔王様を寝室から追い出す気なんだろうか。当然のようにそう言って、開いたままの扉を掌で指し示す。私が驚いて固まっていると、ゼー将軍は魔王様を宥めるようにへらりと笑った。
「魔王様がいたら話せないことなんだよ」
「隠し事をする気か?」
「隠し事じゃないさ。ただ本人に先に伝えておきたいだけだって。後から聞けばいい」
「……適当なことを言ってるんじゃないだろうな」
「そんなことないって。な、レヴィスのためだ。俺がレヴィスに変な真似しようとしたら、お前ならすぐ分かるだろ?」
言いながらゼー将軍はじわりじわりと寝台へと寄ってくる。大げさに手をひらひらと振って、ぺらぺらと喋っているうちに、いつの間にか私のすぐ傍に立っていた。そしてそのことに気が付いているだろう魔王様も、少し考えこむように黙ると、ゆっくりとした仕草で寝台から立ち上がった。
「指一本でも触れてみろ。塵も残さず消してやる」
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「おー、怖い」
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