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4.バニーボーイ
しおりを挟む「いや~いいね! 似合う似合う! 制服、ぴったりじゃないか!」
「はぁ……、ありがとうございます」
そうして、俺は煌びやかな店内を通り抜け、キャスト用の更衣室に引っ張りこまれて。店長だという中年の男に紹介されたと思ったら、あれよあれよという間に今まで存在すら知らなかったような制服に着替えさせられていた。
上半身は裸の上に黒のベストと蝶ネクタイ。下半身はぴちぴちの黒い皮のショートパンツに、ガーターベルトのついた網タイツ。袖の先の部分だけ切り取ったような白いカフスをつけられ、オマケのようにやたらと長いウサギ耳のついたヘッドバンドをつけられた。もちろんウサギの尻尾もついている。
ありえない。
なんだこれは。
頭が混乱しすぎて考えることを放棄しそうだ。
接客とは聞いていたし、制服に着替えてとも言われたけれど……だれが好き好んで、俺みたいな男のバニー姿なんかを見たがるんだ。なにかの罰ゲームか余興なんかで笑い物として出されるんだろうか。むしろそうであって欲しい。でも店長の反応を見る限り、どうにも違うような気がする。いやいや、でもありえないだろう。俺みたいな男、しかも別に特別綺麗だったり華奢だったりするわけでもない男にウサギの格好をさせて楽しむなんて、悪趣味にもほどがある。
頭がフリーズしかけた時、俺をこの店の中へといざなった金髪の男、木津根が姿を現した。
「おお、似合ってるじゃん。俺ってスカウト向いてるかも」
へらりと笑顔を見せる木津根。その能天気そうな顔をした男に、思わず詰め寄る。
「おい、この格好は何なんだ……!」
「なにってバニーボーイでしょ。あれ? 初めて見た?」
「バニーボーイって……普通はバニーガールだろう」
「世の中いろんな趣味の人がいるからねぇ。でもその分みんな口が堅いから、右崎さんには都合がいいんじゃない?」
当たり前のように言い切る木津根。いや、こんな格好をさせることを『いろんな趣味』の一言で片づけていいのか。たしかに会社の規定で副業禁止だし知人に見られたらたまったものじゃないから、口が堅いのはありがたいが。
やっぱり木津根についてくるんじゃなかった。今からでも断ろう。このままでいたら取り返しのつかないことになりそうな気がする。
やっぱり無理です。
そう口にしようと店長を振り返る。すると見計らったかのように木津根が俺の肩を押して、更衣室から外へと押し出した。
「とりあえず慣れるまでは半分裏方みたいな感じでお酒運んでおけばいいから。あんまりケツとか撫でられるようだったら言ってね」
「え、あ、」
一歩踏み出した外は、更衣室とはうってかわってあまりにも煌びやかで、雰囲気におされて言葉が出てこなくなってしまう。
「源氏名決めないとね。右崎さん、下の名前はなんていうの?」
「……素直(もとなお)。素直と書いて、もとなお」
「じゃあ、源氏名はスナオ君にしようか。なんか似合ってるし。あ、リツ君、この子スナオ君。今日から入るから仕事教えてあげて~」
木津根はバーカウンターの近くに佇んでいた少年にそう明るく声をかけると、さっさといなくなってしまった。嫌だったら帰ればいいとか言ったくせに、忙しなさげに立ちまわる後ろ姿をただ見つめるしかなかった。
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