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その後の二人
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ウォーレンと両想いになり、伴侶になることが決まった。家族や故郷が欲しかった俺は、それがとてつもなく嬉しかったのだけど、困っていることもあった。それは……ウォーレンの執着が異常なほど重たい、ということだった。
「……なぁ、ウォーレン。いくら何でもこれはやりすぎじゃないか? 取ってよ」
「駄目だ」
俺の腕には、極太の縄が括り付けられて、その先はウォーレンの手首に巻き付いている。まるで囚人のような有様で、とても恋人になりたてとは思えない。これから伴侶になります、と報告しに行くのに、さすがにこれは体裁が悪すぎる。どうにか解いてもらえないか、と伺うけど、ウォーレンはきっぱりと俺の提案を断ると、首を横に振った。
「確かに村の奴らは良いオークだ。だけど何があるか分からないからな。お前の可愛さに目がくらんで、俺から奪おうとするかもしれない」
いや、そんなことあるわけないだろ。そう言いたいけど、ウォーレンはなんだか目が据わっているし、口調も厳しい。こんな状態じゃあ、たぶん何を言っても意味ない。
「いいか、ロルド。世の中には危険がいっぱいなんだぞ。この間の男を思い出せ。どこでお前に不埒なことをしようと敵が現れるか分からない」
「あぁ~……」
ここに来る道中、小さな町で一晩、宿をとることになった。その時に、俺を小間使いだと勘違いしたらしいオッサンに、尻を触られたのだ。それを察知したウォーレンが町ごと破壊しそうになり、あわや町が地図から消えるところだったのだ。ちなみにオッサンは遥か彼方まで吹き飛ばされてしまった。たぶん生きているだろうが、何かしかのトラウマができたんじゃないだろうか。
「ここも山道とは言え、なにが出るか……たとえば急にそこの木陰からスライムが飛び出して来たらどうする。可愛いくて美味しそうなロルドなんて格好の的だ」
「はぁ?」
「粘つく媚薬をお前の体にまとわりつかせ、服を溶かして、快感に狂わせたうえで苗床にしようとするかも……とろとろのスライムがお前の乳首にちゅうちゅう吸い付いて、乳汁もでないのに真っ赤に腫れあがるまで甚振られ、下肢も舐めまわされて精液を搾り取られて、あまつさえ後ろの蕾にも潜り込まれて……」
ぶつぶつと呟くウォーレンに、俺はため息を吐いた。
「いやそんな魔獣、こんなとこに出るわけないでしょ。それに、俺のシーフとしての腕を信用してよ」
「う……。だが、心配は心配なんだ……」
しゅん、と眉を下げるウォーレンが可愛らしくて、思わず許しそうになって、俺は慌てて顔を引き締めた。
まずい。俺はウォーレンに甘いから、このままでは流されてしまう。一度流されてしまったら、きっとどんどん自由がなくなって、生活すべてをウォーレンにからめとられてしまう。今日だってウォーレンは、俺が自分で歩くのさえ嫌がった。当然のように抱き上げて歩き出されて、慌てて抗議したのだ。そんな過保護なウォーレンの言う通りにしていたら、そのうち歩くことも食べることも、全部彼に頼らないとできなくなりそうだ。そんなことになったら、全然冒険なんて行けなくなってしまう。絶対にそんなのは嫌だ。
――やっぱり、村に着いたらご両親に忠告してもらおう。
毎日加速的に過保護になるウォーレンに困った俺が考え付いた案は、ウォーレンの親御さんにたしなめてもらう、ということだった。ウォーレンの悪いところを告げ口するようで嫌だが、それしか方法がない。俺の言うことは全く聞かないし、なんならもう流されそうだ。決意を新たにした俺は、ぐっと握りこぶしを作ると、こちらを伺うウォーレンから視線を逸らせた。
◇
オークの村へたどり着いたのは、夕暮れの少し前だった。日が陰り始め、あたりに涼しい空気が落ちてきたころ、オークたちの生活の音にあふれた村へとたどり着いた。木で作った柵に囲まれた村に踏み入ると、木造の小さな家があちこちに建っている。思ったよりも家々の作りはしっかりとしていて、人間の町とそう変わらない。どこからか漂ってくる夕飯の匂いも、俺に故郷があった頃に慣れ親しんだものだった。わずかな郷愁を胸に抱いていると、遠くから大柄なオークがこちらに向かって走り寄ってきた。
「ウォーレン! 帰ったのか!」
岩のように大きいウォーレンと同じくらいの、大柄なオークだ。皮膚は緑色で、頭には小さな角が生え、口元からは牙が覗いている。筋肉質な体を包んでいるのは質素な腰巻だけで、上半身は裸だった。そのオークと、がっちりと抱き合ったウォーレンは、嬉しそうに顔をほころばせた。
「父さん!」
「え、あ、お父さん!?」
この人がそうなのか。たしかに体格は似ているかもしれない。ウォーレンは皮膚はまだらだし、顔立ちはエルフに似ているため、ぱっと見では分からなかった。オークが怖いのではなく、初めて会う伴侶の親だ、とぴしりと背筋を伸ばすと、オーク……いや、お父さんがこちらを向いた。
「ウォーレン、こちらが……」
「ああ、俺の伴侶、ロルドだ」
「は、はじめまして! シーフで冒険者の、ロルドと申します!」
しまった。腕の縄を解いてもらっていなかった。げ、と思うけど手遅れなので、そのままお父さんに向かって顔だけでも笑顔を作る。好感度なんて気にしたことなかった人生で、一番張り切った笑顔だ。だけど、俺の挨拶を聞いたお父さんは、ぴくりと額の角を動かした。
「シーフ?」
駄目だっただろうか。え、もしかしてもっと良い職業じゃないと、ウォーレンには相応しくないとか? 困惑に固まる俺を無視して、お父さんはウォーレンに向き直る。
「じゃあ、普通の家じゃ無理じゃないか。ウォーレン、大事なことは早く言え。あ~……いや、鍵だけ直せばいけるか?」
「父さん? 何言ってるんだよ。普通の家じゃ無理ってどういう意味だ?」
「いや、だって無理やり連れてきたんだろう? こんなに小さい子なのに手籠めにして」
「は? いや、父さん、」
「シーフじゃ、普通の外鍵だけじゃすぐ逃げられるな。新しい鍵はいくつか取り付けるとして……今夜は村の若い奴に見張らせようか」
「待てって……」
話の展開に俺とウォーレンがぽかんとしていると、俺たちの存在に気が付いたのか、他の家からもオークたちが飛び出してきた。三名の若いオークだ。彼らは嬉しそうに雄たけびを上げると、ウォーレンへと親し気に近寄ってきた。
「おーい、ウォーレン! 久しぶりだなぁ!」
「お、この子が噂の伴侶だな? おめでとう!」
「ウォーレン、伴侶が決まって良かったな~」
早口に祝福を告げる彼らの勢いに俺とウォーレンが押されていると、お父さんは腕を組んで困ったように言った。
「それがなぁ。シーフらしいんだよ」
その言葉に、青年たちは一様に目を大きく見開いた。
「ええ! じゃあ捕まえておくの大変じゃないか!」
「いや、待ってくれ。ロルドは……」
ウォーレンが否定しようとするけど、それよりも早く青年たちが口々にまくし立てる。
「こんなにちっこかったら、脚の腱とか切るのは可哀そうだしなぁ……」
「幻覚草あるぞ。使うか? ちなみに、ちょっと催淫効果のあるやつ」
「俺の家から手錠持ってくるよ! 呪いもかけられるし」
なんだか厚意からっぽいが、えげつないことを言っている気がする。
一番の年長者であるお父さんも、その様子にうんうん、と腕を組んで頷いていた。
「いや~それにしても懐かしいな。俺もお前の母さんを攫ってきたんだぞ。まぁ母さんはすぐに俺に惚れたとかで、俺の家で好き勝手していたけど。……あと強かったしな。エルフだから」
勝手に俺のピンチで懐かしまないでくれ。あとウォーレン、催淫効果、のところで耳をぴくっと動かしたの気が付いているからな。
ああ、クソ。過保護なウォーレンを諭してもらおうと思ったけど、これはたぶん無理だな。むしろウォーレンの過保護さはまだマシなくらいだ。
俺はでかいオークたちに囲まれ、半ば白目になりながら、どうやってこの状況から脱出しようか考えた。
◇
――誤解が解けて、ロルドが村に受け入れられるまで……たぶんあと少し。
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2023/11/11 文学フリマにて配布した「森の奥、その後の話」です。
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