獣人彼氏のことを童貞だと思って誘おうとしたら、酷い目にあった話

のらねことすていぬ

文字の大きさ
3 / 6

相談

 ハンスに手取り足取り、と妄想を始めたはいいが、俺にも仕事がある。ハンスの部屋に置いてある服に着替えると、街の中心部までのこのこと歩いていった。

 俺の仕事はレース編み職人だ。

 間違いじゃない。レース編み職人、だ。
 ミンネでハンドメイド作品を売っていそうな職業だけれど、こちらの『人間』には男女問わずメジャーな仕事だ。

 この世界の九割は獣人で、彼らは俺たちよりも遥かに指が太く不器用なのだ。だから繊細な、たとえばレースや刺繍、貝の細工や木彫りの物なんかを作ることができる獣人はほとんどいない。そしてそういった繊細なものを持つのが一種のステータスであるようで、金持ち獣人は家に何人も人間を雇って繊細な飾りつけをさせているらしい。

 で、身を寄せるところがなくて困っていた俺は、比較的はじめるのに元手がかからない仕事として、レース編み職人になった。一年前に見習いとして教えてもらい、最近ようやく商品としてまともなものを作れるようになったところだった。

 人間の親方のいる商店に入り、店に置いたままの自分用のレース編みの道具を引っ張り出す。他にも数人のレース編み職人が店にはいて、それぞれ作ったものを店に出し、その売上から売り場を貸してもらっている店に店賃を抜いたものを給料として払われているのだ。

「お、おはようアオ」
「アグ。おはよう」

 さて何から始めようかと机に向かって軽く首を回していると、少し長めの茶髪を揺らす若者が明るい笑顔で店に入ってきた。同じくレース編み職人のアグだ。中東系とアジア系を足して二で割ったような顔立ちの彼は生粋のこちらの世界の住人で、数年前に人間ばかりの村から街へと出てきたらしい。頼れる身内がこの街にはいないとのことで、一人で暮らせるようにレース編み職人になったらしい。

 朝陽に透かして美しいレース糸を選別している彼は、俺がこの世界の住人じゃないことを知ると沢山のことを教えてくれた。

 そうだ。それならこのことも彼に聞けばいいじゃないか。
 俺と同じような道具を掴んで机の向いへと座った彼に、一度周りを見回してから小さく声をかけた。

「なぁ。アグ。アグって、今までに童貞と付き合ったことある?」
「……は?」

 朝からする話題じゃないよな。明らかに何言ってんだこいつ、みたいな顔のアグに、なんだか気まずくて軽く笑いを浮かべる。だが口から出してしまったものは戻らない。

「いや、マジでここだけの話なんだけど……俺の好きな人、童貞らしくて」
「は!?」
「え、アグ声でか、」
「え、ええ!? ちょっと待て!」

 小さい声で話せよ! 慌てて口の前に指をたててしぃ、と言うけれどアグは止まらず、がたんと派手な音を立てて椅子から立ち上がって叫んだ。

「お前、第一騎士団のハンスさんと付き合ってなかったっけ!? なのに童貞の男好きになっちゃったの!?」
「いや、声でかい! そんで内緒な!」

 もはや止まらないレベルのアグの口を掌で覆うと、無理やり引っ張って窓際まで引っ張っていく。クソ、そうだった。こいつも獣人の世界の住人。つまり色々と力任せでデリカシーという概念のない男。同じ人間だからって甘く見ていた。

 完全に店内の耳目は集めてしまった。レース編み職人が数名と、間が悪いことにお客さんの獣人までいた。

 これじゃあハンスが童貞だってバレてしまうじゃないか。そういうことは勝手に言いふらしちゃダメなんだぞ。何でもないです、と周りに手を振って、それから小声でアグの耳元に口を寄せた。

「内緒だって」

 他の人にバレさせるなよ。視線を鋭くして睨むが、アグはぶるぶると牛のように首を振った。

「いやいやいやいや、やべぇだろ。俺は恋人いるのにそういうの、よくないと思うけどな。つーか命知らず過ぎ」
「は? 命知らず?」
「え、命惜しくないくらい本気ってこと?」
「でなきゃ悩まないだろ。本気で好きだし」

 そうだよ。本気でハンスが好きじゃなかったらこんなに悩まない。ずっとずっと俺は最後まで進展しない関係にモヤモヤしていたんだ。多少獣人のセックスが荒っぽくてもハンスが早漏でも我慢する。決意を込めてそう呟くと、アグは俺の本気をさとったのか体の力を抜いた。

「そうか……アオが本気なら、俺には見守ることしかできねぇな」
「ああ、本気だよ。だからなんかこう、助言とかない? 俺は獣人について詳しくないからさ」
「相手、獣人なのか。……いや人間でも修羅場だけど」
「え? 修羅場なの?」
「そりゃそうだろ。獣人同士だなんて殺し合いかも……いや人間だったらなぶり殺し……」
「え、殺し合い? なぶり殺し?」

 アグの口から出てきた言葉にちょっと引く。殺し合いになぶり殺しって、そんなにセックス激しいの? 痛いレベルじゃすまないのか。さっき命が惜しくないのかとか言っていたけれど、本気でそんなに危険なのかよ。

「そんぐらいの覚悟はいるだろ」
「マジか……」
「マジだ」

 深く頷かれて、少したじろぐ。これはどうやら本気だ。

「いや、でも、ハンス優しいし……平気だよ、な? その、童貞だし……」
「童貞とか関係ねぇな」

 何言っているんだとぴしゃりと言われて言葉に詰まる。そうか、童貞でもそんなに激しいのか。

 どうしよう。獣人のアホみたいな怪力は知っている。たしかに全力でチンコを掴まれでもしたらぱちゅりと握りつぶされてしまうかもしれない。でも彼と別れるのも永遠にセックスしないのも絶対に嫌だ。ううう、と頭を抱えている俺をアグは憐れんだ瞳で見ると、そっと軽く肩を叩いてくる。

「アオ、やめるなら今だ。ハンスさんも謝れば許して……くれないかもだけど」
「……やめない。俺はやめないよ」

 俺は絶対にハンスとセックスするんだ。ちょっとくらい怖いのなんて我慢しろよ。俺は経験者なんだし。そう心の中で自分を鼓舞すると、ぎりりと唇を噛んだ。

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

初恋を諦めるために惚れ薬を飲んだら寵妃になった僕のお話

トウ子
BL
惚れ薬を持たされて、故国のために皇帝の後宮に嫁いだ。後宮で皇帝ではない人に、初めての恋をしてしまった。初恋を諦めるために惚れ薬を飲んだら、きちんと皇帝を愛することができた。心からの愛を捧げたら皇帝にも愛されて、僕は寵妃になった。それだけの幸せなお話。 2022年の惚れ薬自飲BL企画参加作品。ムーンライトノベルズでも投稿しています。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

余命半年の俺を、手酷く振ったはずの元カレ二人が手を組んで逃がしてくれません

スノウマン(ユッキー)
BL
半年以内に俺は一人寂しく死ぬ。そんな未来を視た。きっと誰も悲しむ人は居ないだろう。そう思っていたから何も怖くなかった。なのにそんな俺の元に過去手酷く振り、今では世界的スターとなった元カレ二人がやってきた。彼らは全てを知っていた。俺がどうして彼らを振ったのか、そして俺の余命も。 全てを諦めた主人公と、主人公を諦めきれないイケメンサッカー選手とシンガーソングライターの再会が導く未来は?

大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)

子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ 喰われるなんて聞いてないんだが(?) 俺はただ、 いちご狩りに誘われただけだが。 なのに── 誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に なぜか俺が捕まって食われる展開に? ちょっと待てい。 意味がわからないんだが! いちご狩りから始まる ケンカップルいちゃらぶBL ※大人描写のある話はタイトルに『※』あり