獣人彼氏のことを童貞だと思って誘おうとしたら、酷い目にあった話

のらねことすていぬ

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誤解?

 結局アグと話した後はあまり仕事にならなかった。今夜のプランで頭がいっぱいで、帰り際にアグが『アオの休暇申請しといたから頑張れよ。生きて帰れよ』と言われるまでほとんど記憶がない。


「……よし! いくぞ!」


 自分の部屋に戻って一通り抱かれるための支度をした俺は、自分を奮い立たせるために頬を二、三度強く叩いた。尻の準備はばっちりだ。あとは気合を入れて心の準備をするだけだ。

 大丈夫。童貞なんだから俺が優しくヤってやればいい話だ。なんなら縛って上に乗ってしまえばいい。誘惑して骨抜きになっている間に押し倒して、それで優しいセックスを教え込めば円満解決だ。いつか使おうと思ってしまっていたエロい下着を引っ張り出すと、俺は心の中でそう呟いた。

 ぴっちりと肌に張り付く薄い布地に、こちらの獣人受け抜群だという白いレースがあしらってある下着。薄すぎる布のせいで形はくっきり分かるし、ほんのり色味まで透けてしまう恥ずかしいやつだ。レースは隠すどころか陰茎を囲むようにあしらってあって存在感を際立たせている。アラサーの俺が着るのはなんとも微妙な気がしたが他にないので仕方ない。

 いそいそとそれを身に着けると最近買ったばかりの新品のズボンに、脱がせやすいシャツを着てコートを羽織った。






 ぎぃ、と古びた音を立てる扉を開く。

 たしか今日はハンスは日中勤務だから、そろそろ家に帰ってくる時間のはず。いつものように彼の部屋で待っていればいいか。夕食をなにか買って持って行こうかな。

 そんなことを考えながら一歩足をそとに踏み出した瞬間、なにかが扉の陰から伸びて来て俺の口を覆い隠した。



「……ん、ぅう!?」

 声を上げることもできずに、ぐ、と力強いなにかに顔を覆われるように掴まれる。同時に体に後ろから腕らしきものが巻き付いたと思ったら、足を踏み出したばかりの部屋の中へと引きずり戻された。無理やり引きずられたせいで視界が揺れる。

 待ち伏せされていた……!?
 なにか、が誰かの掌なのは分かった。けれど一体だれが。放せ、と叫ぶけれど声は掌に吸い込まれてしまって出てこない。こんな悪戯するような友人はいないはず。まさか。強盗、の二文字が脳裏によぎり、心臓が一気にバクバクと鳴り始める。

「ん、んんっ、」

 大声で叫んで掌に噛みつこうかと思うけれど得体のしれない相手が恐ろしくて、碌な抵抗ができない。背後から拘束されているせいで顔が見えないけれど相手はおそらく獣人だ。だとしたら力でかなうはずがない。それなら刺激しないように大人しくしてるべきなのか? 一瞬の間にそんなことを考えるけれど何が正解なのか分からなくて、体を太い腕でぎっちりと抱えられて部屋の中に足を踏み入れていく男のされるがままになってしまう。ハンス助けて、と心の中で祈っている間に侵入者はずかずかと玄関を通り過ぎた。
 迷いない足取りで俺を寝室まで連れていった男は、片手で俺を拘束したまま内鍵をかけた。

「あ……、は、あ、は、ぁ」

 口から手をはずされて荒く息をつく。一気に吸い過ぎて酸欠になったみたいに頭がくらくらした。もう片方の男の手は相変わらず俺の体を拘束しているけれど、俺の足が床に降ろされた。でもがくがくと震える足は真っすぐ立っていられなくて、後ろにいる男に支えられてしまった。

 後ろを振り向くのが怖い。一体どんな相手が……と思って固まっていると、頭の上から聞きなれた低い声が降ってきた。

「ア~オ」
「え、は……ハンス……?」

 ハンス。ハンス、なのか。
 顎を上げて振り仰ぐと、今朝も見た甘い顔立ちが俺を見つめていた。

「あ~~~、ハンス、もう、なにやって、」

 一気に体から力が抜ける。
 死ぬかと思った。いや殺されるかと思った。あんまりタチの悪い悪戯するなよ。はぁああ、と大きくため息をついてその場にうずくまってしまおう、と足の力を抜いた。

 が、腹に回されているハンスの腕からは力が抜けない。そのまま、抱きしめるというには強すぎる力で後ろからぎちりときつく締め付けられている。少し痛いくらいだ。

「ちょ、いた、なんで、」

 ハンス? どうした?
 そんなつもりで彼を見つめると、金色の瞳が俺の心の裡を探るように眇められる。
 そして俺は、彼の次の言葉に固まることになった。
 
「なぁアオ、どこ行くつもりだったんだ?」
「え? どこ、って、」
「変な噂聞いたんだよ。……お前が童貞の男のこと好きになったって」


 ――しまった。

 俺はこの世界の住人のデリカシーのなさを甘く見ていた。あの商店にいた数人の人間と獣人。きっと彼らが面白おかしく噂してしまったんだ。それで怒っているんだろうか。

 びりびりと肌を刺すような怒気が彼から発せられて、空気がピンと張りつめている。俺の次の言葉をハンスは厳しい表情で待っていて、俺はその真剣さにごくりと唾を飲みこんだ。
 
「ご、ごめんなさい。周りに漏れるとは思ってなくて……」
「本当だったのか」

 できるだけ真摯に謝らないと。そう思ったけれど言い訳めいた言葉を告げてしまった俺に、ハンスは一瞬呆然とした顔をして。それから回っていた腕に潰されそうなほどの力が入った。

「ぐ、ぇ……!?」
「クソ、人のもんに手ぇ出しやがって……ぜってぇ殺してやる」

 息が止まるほど強く圧迫されて潰れた声が漏れる。いままでにない乱暴さに体が強張り、ひぃと喉の奥で小さく悲鳴が漏れた。震える俺の体をハンスは腕一本で持ち上げるとベッドに放る。

「その前にまずアオにお仕置きだなぁ」

 ふー、とまるで何かを堪えるように息を吐き、ゆったりとした足取りで近づいてくる。でもそれは穏やかさなんてなくて、まるで地面に倒れた獲物をしとめにくる獣のようだった。

「アオ。浮気してごめんなさい、は?」
「う、浮気?」
「ああ、そっちが本命なんだっけ?」

 金色の瞳はいつもと同じように輝いているのに、鋭い光が肌に刺さる。言われていることが分からなくて首を横に振るけれど、ハンスは唇の端をそっと吊り上げて低く囁いた。

「簡単に別れられると思うなよ」

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