明々怪談

満奇

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やかたにすくうもの壱

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2015年8月27日
高校生の夏休みの醍醐味と言えば何だろうか。青い空白い雲、倒れそうなほどに暑い中の部活動、地元の夏祭り、家族との旅行、友達と駄弁りながら食べるコンビニのアイス。もしくは終わらない課題。少なくとも、肝試しでなくて良いはずだ。そんな思いを頭に巡らせながら、田町明は隣町の見慣れない住宅街を歩いていた。時刻は夜の10時をとっくに過ぎており、8月とはいえ、もう日はとっくに暮れている。
「なぁ後藤、もう遅いし帰ろう」
自分の少し先を歩く友人に声をかけるが「ビビってんのか?」と面白そうに笑うばかりで、相手にしてくれない。そろそろ高校生でも補導される時間になることも、明の頭にはよぎっていた。バカ真面目で通っている明としては、夜中に友達と外をうろつくこと自体が、好奇心を満たしてくれる楽しい冒険のようなものではなく、罪悪感を刺激する行動であった。
「田町、ほらもう着くからさ」
 道中、明の引き返したそうな発言を気にもとめず、ひたすら明の少し前を歩き続けていた後藤が、初めて明の方を振り返った。気づかないうちに知らない街の住宅たちはぽつぽつとその姿を消して、暗い木々の生えた空間が目立つようになっていた。後藤が目指していた心霊スポットは、どうやら有名な場所らしいから、近くに住みたい人もあまりいないだろうかと、明は思いを巡らせた。そんなことをしていると、後藤の「もう着く」は本当だったらしく、事前に聞かされていた大きくて不気味な日本家屋が目の前に現れた。住宅街からさほど離れていないはずなのに、鬱蒼とした木々に囲まれ、なんだか怖気づいてしまいそうな寒気を感じさせる風格があった。
「後藤、目当てのものは見たし、いいだろ? もう帰ろうぜ」
「は?何言ってんだよ。ここまで来たんだから中に入るにきまってるだろ」
 予想通りの返答に、明は小さくため息をつく。
「そういうと思った! 俺がなんでこんな普段なら絶対行かない心霊スポットに来たと思ってんだ! お前が絶対中に入ろうとするから。止めてやるためだよ! お前のやろうとしてることは不法侵入! 不法侵入は犯罪なの! 知ってる?」
 明は心霊だとかホラーだとか心底苦手だ。幼いころからホラー映画なんて一度も見たことないし、これからの人生で見る気もない。そんな明がなぜ心霊スポット訪問についてきたのか。それは好奇心で突き進むタイプの後藤を止めてやらなくてはという、友達思いの理由からだった。
「そんなこと言って、どうせ田町怖いだけだろ? いいよ、ここで待っててくれたら。俺ちゃちゃっと行って写真撮ってくるからさ」
「はぁ? 写真? さらに犯罪だわ。盗撮盗撮」
 喚く明を放って、後藤は物怖じしない様子で屋敷の中へと入っていった。
 取り残された明は、途端に日本家屋も自分の周りの空間もより一層不気味さを増しているような気がしてきた。夏の生温い風が明の短い黒髪を撫でる。そんなわけないのに、その風に生々しい感触を感じて、明は頭をぶるんぶるんと大きく振った。
 こんな場所に長時間いてたまるか。明は息を大きく吐くと、えいやっと力を込めて、後藤をひっ捕まえて帰るために、自らも屋敷の中へ飛び込んだ。

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