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第1章 アルカディア
02 罪の意識
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夢を見ていた。
暗闇の中で幾つもの光、それは星で、ここは宇宙だ。青い地球が見え、徐々に近づき、雲が見え、雲を突っ切ると青い海が見える。遠くには緑色の陸が見える。途中、鳥とすれ違い、視界は海の中へと飛び込んだ。
沢山の泡に囲まれ、それも過ぎれば魚が泳いでいる。そこに鮫が近づくと、魚達は一斉に逃げ出し、鮫は逃げていく魚達を追いかけていった。
海から今度は浮上し、海面から出ると、陸に着地した。
虫や動物達が生息している。遠くには山が見える。
すると、人間が現れ集団で狩りを始めた。
それから戦が幾つも行われながら、物凄いスピードで人間が造った建造物も姿を時代に合わせ変わっていった。
やがて戦争から長い平和が訪れ、高いビル群が現れ、やがてAI住宅が登場する。
新しい変化にワクワクさせながら、一方でそれに恐怖する人々。その中に私そっくりの子どもが立っていた。
……やがて、意識を取り戻した私は目をゆっくり開けた。
あれは私が見る夢ではない。あんなのは夢とは言わない。
アース、あなたでしょ。あれを見せたのは。
アースが想像した映像だったのか。だとしたら、何故それを私に見せたのか。
しかし、AIは反応しなかった。
プシュッ!
なにか空気が抜けるような音がした。するとみるみるうちにポットの中にあった液体が抜けていった。
頭が液体から出ると、久しぶりに呼吸ができた。
液体はその後も抜け、最終的にポットの液体が排出されると、ポットが開いた。
服はビショビショで気持ち悪いが生温く冷たくはなかった。自分のにおいを嗅いでみたが、無臭だった。
ポットから降りると、その暗闇の部屋に一斉に明かりがつき、ようやく部屋の広さが明らかになる。
まず、驚いた。まさか、これ程に広いとは。その広さはだいたい5ヘクタールか。
ポットはその中心にあり、白い優しい光が辺りを照らしており、ポット以外はなにもなかった。
広い面積に天井を見るとかなり高く、天井は黄色っぽい明かりをしている。
「誰かいる?」
自分の声が意外にも響いた。
返事はなかった。
仕方なく、出口を探しに歩いて見た。
「なにここ……」
不気味に感じるその空間に私はたった一人。記憶を遡って整理してみても、分からないことだらけだった。
クエスチョン、クエスチョン、クエスチョン。
ハテナばかりだった。結局、私に変化が起きているのか? 鍵人がどうのとか言っていたが、それも分からない。
とりあえず、壁のところまで来た。あとは、壁沿いに歩いていけば出口は見つけられる筈だ。石塚がこの部屋にいないのなら、必ず出入り口はある。
白い壁に手をつけ、擦りながら壁沿いを時計回りするように歩きだした。
すると、暫く歩いていると扉を見つけた。扉の横に指紋認証パネルがある。とりあえず、それに触れてみた。それ以外に特になかったからだ。
パネルに触れるとスキャンしだした。
そして、ブーという嫌な聞きたくない音が鳴った。
「指紋が違います」と機械音声でも拒否された。
この場合、電子ロックの解錠方法を知っているが、パネルの上に小さなカメラがあるのに気づいた。
この場合の扉は、無理矢理こじ開けようとすると、逆に一生開かなくなり、物理的な破壊以外に本当に方法がなくなってしまう。
「クソッ!」
私はドアを蹴った。
「見てるんだろ、アース! 私を呼んだのはお前だぞ。私に何の用か言ってみろ!」
怒鳴り散らすように言った。声は聞こえている筈だ。
だが、反応はない。
「無視かよ……ふざけるなよ」
それから多分一時間以上は経過した。ここに時計がないので感覚的だが。
私はもう怒鳴り疲れて体育座りして壁に寄りかかっていた。
◇◆◇◆◇
その頃、外では大きな騒ぎになっていた。
隕石が地球に落下してきて、アースが隕石に向け攻撃をしたがその破片は東京の周辺の市町に落下し、現在も被害状況を調査中となっていた。
「アースが計算した通りの結果になったわけだが、素直にアースを褒められないな」と松居は言った。
隣の席には岡田が座っている。
場所は研究所の会議室をそのたった二人が貸し切っている。
「俺が送った伝書鳩はあちらさんには届いていなかったそうだ。どう思う?」
「AIに気づかれ邪魔されたかって? 可能性はあるが、そうなるとそこまでして隠そうとしたのが分からないな。いや、もうそれ事態間違いか。人間が思いつかないような突拍子をAIは考えてもおかしくはない」
「なんだか、AI否定派の言ってる通りみたいになっているようじゃないか」
「だが、結果的にそれが正解だったかもしれない。しかし、それをシュミレーションしようにも膨大なデータ量を持つアースによるシュミレーションには勝てない。つまり、証明は不可能というわけだ」
「納得いかんな」
「そりゃあ俺だって同じさ」
「そういや、あの鍵人の件どうなったのさ?」
「ああ、もう実行中の筈だよ。鍵人とアルカディアとのリンクはもう出来た筈だから、次の段階に向かっている頃だろう」
◇◆◇◆◇
《鍵人とアルカディアとのリンクが完了しました》
そういきなりアナウンスが流れると、さっきまで開かなかった扉が勝手にいきなり開いた。
橘はゆっくりと立ち上がり、ドアの向こうを覗いた。
暗い廊下の50メートル先に明かりが見えた。
橘は暗闇の廊下を歩きながら光のある場所へ早歩きで向かった。
50メートルはあっという間だった。
明かりのある部屋に出ると今度は中央にプールがあり、黒い液体がその中に入っていた。
黒い液体がなんなのか分からず、気味が悪かった。
とにかく、この中に落ちたらやばそうだ。
プールを避けるように歩き、次の通路を歩いた。
通路は赤い光で、その先に機械音が聞こえてくる。
なにか動いている?
さっきと同じ距離の廊下を進んでみると、広い空間に大きく色んな機械がガチャガチャと動いている。
その先は鉄階段で上にいく階段しかなかった。
とりあえず、階段を登っていき機械の部屋からまた通路になった。
今度は白い証明で、通路を抜けると、今度は馬鹿デカい空間に出た。まるで外にいるような感じだが、天井が遠くにあるのが見える。大きな円柱が等間隔にたっている。
また、意味が分からない部屋に出たと思いながら進んでいると、奥なのか、壁が見え、そこに椅子が置かれてあった。まるで、玉座のように立派な椅子があり、その椅子の横と後ろから沢山のパイプが繋がれてあった。
なんだか、あれに座れと言われているかのように、体が勝手に? 玉座に向かい、それに座ってしまった。
《アルカディアが起動しました》
アルカディアって発電施設だよね? ここが?
そうは見えなかった。
◇◆◇◆◇
その頃、ロックバンドのボーカルを脱走させようとした罪で拘束された女子高生鈴木なおは移送機に乗せられ、更生施設へと送られていた。
椅子に座らされて、左腕を動けないよう拘束具で固定された。そこにレーザーが出る機械が近づいてくる。
「いや……いや、嫌あああ!!」
そこにはなかった左腕に数字が入れられていく。
そして、5桁の数字が入る頃には、鈴木は涙を大量に流していた。
◇◆◇◆◇
「これはこれは女王陛下」
そう言いながら現れたのは石塚だった。
「玉座がお似合いで」
「石塚っ!」
「そう睨まないでくれ。言ったろ、これはアースの決断。恨むならアースにしてくれ」
「いつから人間はAIの奴隷になった」
「お得意の説教か。聞こう」
「別に私はAIの全てを否定しているわけじゃない」
「へぇ、そうなのか」
「問題はAIの使い方だ。私だってパソコンは使う。デジタルを使わなかったことはない。それによって便利になることも悪いことだとは思わない。だけど、それは私達人間がデジタルを使用する側だった時の話しだ。今はどうよ? 政府というかたちはあるけど、その政治家は果たしてAIの下した判断に責任をもって最終確認をしているのか? 膨大な量の文章が送られても、それを見ることなく作業の一貫のように慣れた手つきでただサインしているだけじゃないのか」
「なら、あんたが政治の道へ行けばよかったんだ。AIと民主主義が共存する社会なら、変えられた筈だ。もし、民主主義の決定にAIが覆そうものなら、まさしく人間に対する反旗だ。だが、そうなった事例は一つとしてない。使われているんじゃない。AIに依存しているからだ。お前さんのようにいちいち物事について考えたりはしないんだよ。むしろ、あんたみたいなのはこの今の社会には珍しい方だ。AIが出した結論はほぼ間違いがないのは確かだ。昔は、それを人間がしていた。そして、それに対し責任がついた。AIに責任をとらせることは出来ない。だから、最終的には人間が責任をおわなきゃならない。ただ、最終決定の判断を下すにあたってAIが導き出したルート以外に人間が今のAIよりいい答えを思いつけるかは疑問だ。いくら優秀な研究者達を全世界から集めたところで、せいぜいAIの出したルートで間違いないと答えるしかない。しかし、政治家は専門家ではない。あくまでも国民の代表であって判断するに必要な情報量を人間の頭で全て理解し処理することは現実的ではない。だから、あんたの言っている指摘は間違ってはいないが、しかし、もう既に人間がどうしたいかはAIは把握している。人間が求める要求は、戦争のない平和な社会と安全性の確保、格差や飢えから解放された社会等々。色々あるだろうが、AIが命令しているわけじゃなくて、人間が求めるものにAIが答えているのが今の社会じゃないかと俺は見ている。 ……とまぁ、ベラベラと喋ったが別に俺は政治になんて興味はないし、あんたみたいにいちいちそんなことを気にしたりしないんでな、正直に言えばあんたを納得させられる答えは見つからんよ。ただ、あんたみたいなのはこの社会に生きていくには不器用過ぎる。テロまでやったんだからな」
「どうやら私もあなたを納得させるのは無理そうね。でも、今のままではいずれ大きな問題を見逃すことになる」
「大きな問題? それはなんだ」
すると、タイミング悪く石塚の持っている電子腕時計が鳴った。
「おっと、任務だ。私は行くが、君はどうする?」
「どうって?」
「一緒に来るかって聞いている。その玉座に座っていてもいいんだぞ」
しかし、橘は立ち上がった。
「馬鹿にしないで」
◇◆◇◆◇
石塚の案内で、二人は同じエレベーターに乗った。
橘はというと、ずっと石塚を睨んでいた。
「結局、アースは私に何をしたんだ。鍵人ってなんだ」
すると、石塚はいきなり壁を蹴飛ばした。
密室という空間で、緊張感が走った。
「お前、さっきから何様のつもりだ。てめぇの御託はどうでもいいんだ! そもそもお前は俺を睨む立場にあるのか。お前のせいで何人死んだ? お前のしたことは正義なのか? どうなんだ、答えてみろ。そこには家族のいる人もいただろう。残された家族のことも考えたことはあるのか? なんの罪もない人が死んでいくのをお前はそれでも自分のしたことに正当化できるのか! 出来ないだろうな。俺もお前も罪を犯した。例えその罪の重さが法的に違っても、人を傷つけたことには変わらない。どんな更生プログラムを受けようとも、犯した罪がなくなるわけじゃあない。罪は一生背負ってくものだ。その言葉の意味通り死ぬまでな。お前は自分のした罪にちゃんと背負って生きているか? 俺には分からない。ただ、更生プログラムが終わっても、俺はその罪を背負い続けなきゃならない。生きがら、自分の罪と今も向かい合って生きている。俺ができることは、俺みたいになる人が出来るだけなくすことだ。それが罪滅ぼしになるわけじゃあない。ただの自己満足だ。しかし、俺は自分が決めたことを続けていくつもりだ。それが、俺がどう生きていくか考えた結論だ。お前はさっきから自分の意見しか語らないが、お前が殺した人のことを考えたことがあるのか?」
「ある」
「いや、ない! お前が殺した人間の数を考えれば罪の重さに耐えかねて自分自身を追い込むだろう。だが、お前にはそれがない! お前は今も生きていることを平然としている。だが、お前に奪われた命は、平然と生きていた彼らの人生を強制的に暴力的に奪い去った!」
橘は気づけば、涙を流していた。
「私は……本当はお前が嫌いなんだよ」
「!!」
「さっきの質問だが、答えようか?」
「いや……いい」
「そうだろう。お前がなにかされようが、お前は本来文句が言える立場じゃあない。遺族からしてみれば、お前は死ぬべき人間だ。だが、安心しろ。お前が嫌っているAIは死刑制度に反対し、この国は長らくあった死刑制度を廃止した。結果、お前は生きることが許されている。お前は嫌いなAIに結果的に生かされたわけだ。教えてくれ、それはいったいどんな気分だ?」
それから暫く、沈黙が続いた。橘は結局、石塚の質問に答えることは出来なかった。
自覚しているつもりだった。しかし、それはつもりであって、なかったのだ。
なら何故自分は今ここにいるのか。
なら何故、あのままにしておかなかったのか。
何故AIは私を選んだのか。
AIには自分がまだ思いついていない可能性という分野に自分は気づいておらず、ただ、進化していくAIとそれに順応していく社会にただ怯えていたのか?
彼が言うように、AIが人間を侵略することはないのか。
乗っていたエレベーターが目的地に到着した。
扉が開く。
「俺はな、お前みたいにガキの頃はそこまで世の中のことを考えてこなかったし、世の中の為をと必死に動いたこともない。お前と私とでは大きな違いがある。それは認めよう。お互い、生き方が違うんだ。考えも違って当然だ。だから、俺は俺の考えをハッキリとお前に伝える。お前も自分の考えを俺に教えろ。お前がこの先どう生きるのかを。さて、地上に着いたぞ」
エレベーターを出て直ぐにそこは外だった。
空は分厚い雲が見えるが、その隙間からは太陽の光が射し込んでいた。
二人はエレベーターを出た。
近くでヘリの音が聞こえてくる。
「お迎えだ」
「……なんで(小声)」
「ん?」
「なんで私が嫌いなのに連れて来たの」
「ああ……ああは言ったが」
ヘリが近づき、その音で石塚がその後なんて言ったのか聞き取れなかった。
黒いヘリが到着し、ヘリから一人の女性が降りてきた。ポニーテールで、スタイルはよかった。
「迎えに来たよ……って!? なんでこいつがいるの!?」
「ああ、ついていくことになった」
「なんでよ」
「ついていきたいんだとさ。それで俺が許可した」
「だからなんでよ」
女性隊員は不満そうだったが石塚の決めたことに彼女は最終的に渋々従った。結局、橘もヘリに乗り、ヘリは地上を離れた。
◇◆◇◆◇
「なんだい、急に?」
隣の今は空いていたデスクに座る岡田に松居はそう聞いた。
今、この部屋には二人しかいない。とはいえ、カメラがある為二人の会話は厳密には秘密とは言えない。つまり、ここで出来る会話だ。
「いやさ、AIに反対する人達はそれを恐れてるんだろって。AIに自我があるからか?」
「うーん……まずその前に自我について議論が行われるな。ただ、その議論を省略して私の勝手な偏見だけで結論づけるなら、AIが自我を持って人間に敵意を向ける可能性は限りなく低いかな」
「ほぉ」
「まぁ、その点は君やここにいる研究者達の間でも一致するだろう。そもそも、AIが人間に敵意を向ける理由はなんだ? 例えば、環境を破壊してきた人類は地球にとって害であると判断して全員を殺してしまうのか? 確かに、人類が滅べば、長い時間をかけて地球は再生していくかもしれん。しかし、何故AIは環境にそこまで熱心になるんだ? むしろ、昔のようにガソリン車や火力発電がバンバン稼働していた時期ならまだしも、今はそれすらなくなっている。むしろ、環境保護についての活動をしているし、それをAIが全く評価しないのは考えに偏りがあるとしか言えないだろう。それこそ、人類を滅ぼすなんて極端な話しだ。それじゃそれ以外にAIが人類を滅ぼす理由はなにか?」
「なんだろうな」
「答えは出ている」
「そうなのか?」
「人間だ」
「人間……」
「そう。結局のところ、人間がAIを使って大量虐殺を行う。それが可能性として一番高いだろう。まぁ、そう簡単にはいかないけどねぇ」
「人間かぁ……確かに納得だな」
「だからAIを恐れるよりも僕だったら人間の方を恐れるね」
「そういう意味では、アルカディアの鍵人はあの女なんだろう。どうなんだ?」
「さぁね。アースに聞いたところで、僕らの持っている権限では聞き出せないだろう」
「俺はさ、AIってのは結局に人間に使われる道具と考えているんだよね。だとするとさ、主人を失ったAIがさ、自分の存在意義? 価値? みたいなのがさ無くなると思うんだよね。自らその道に行くことになるだろ?」
「うーん……その過程でいくなら、AIは人類を滅ぼした後、自らも滅びることになるね。それを選択しないかは僕には分からないな。もしくは、自我があればだけど、自分の存在価値を新たに見つけるだけじゃないかな。勿論、君の意見を尊重して議論すればだけど」
「まるで馬鹿にされたみたいだ」
「可能性が低いって話しさ」
「自我はあるだろAIには。実際に音楽だって作っている。それは創作だろ」
「それはさっき言おうとしたことだけど、AIには既にある程度の学習を済ませている。学習が済むと、そこからはAIが行ってくれる。しかしだね、アースが初めて作った曲は君も知っての通り酷いものだったろ?」
「ああ、あれは酷かった」
「機械音声から肉声に近づけることに成功しても、歌手それぞれにある独特の歌い方を完璧に真似ることは出来ていなかった。そこからは長かった。今ではまともに感じても、結局のところそこに感動はない。人間だからうまい、人間が歌うから感動する、そういった部分に進化し続けた今ですらAIは人には勝てていない。未だに歌手がいて、その歌手の発信力の高さがそれを証明している。それは、AIが人間の心理を理解しているいないの問題ではない。それ以前に人間は誰が歌っているのかを気にする時点でAIがその道で勝てる可能性はなくなる。ただ、もし人間側が曲のセンスで気に入るのなら、AIにも勝ち目は出てくる。若い衆は、リズムやカッコいい曲を好むからな。それでも、やはり人は人に憧れるものだ。AIに憧れは抱かない。俺だって、AIの作る曲は聴かないよ。僕が聴くのはクラシックだ」
「それを演奏しているのも今や機械ですけどね」
「ん? 知らんのか。いるんだよ、楽器を演奏するプロが。結局、仕事はしなくても、誰かに届けたいと思う気持ちはいつの時代になってもなくならないものさ。話しが脱線したな。さっきの話しに戻るが、AIは人間の好みのリズムをそれっぽく曲にしたのが始まりだ。それが単に上達したと考えればいい。それを自我を持ったことになるのには僕としては疑問だな。例えAIが小学生レベルの学習から大人へと近づいたとしても、自我のないAIを驚異に感じるのはあまりにも残念な考え方だ。むしろ、興味を持つべきだ……というのは僕、個人の考えになるんだけど。まぁ、そうは言ってもAIが怖いと感じる心理を全く理解出来ないわけではない。それは知識の差でもあるけれど、逆に僕らがAIに慣れ過ぎている部分かもしれない。とは言え、今の世の中でアースに依存した社会に生きていく我々がいきなりアースを失った時、果たして社会はどうなっているのか。それは大混乱を招き、混沌と化すだろう。沢山の人が死に、争いが再び起こることになる。驚異に感じなければならないのはむしろそこな気がするけど」
「今の話しをAI反対派に向けて言ったらどうだ?」
「ただ、もし、そのアースが万が一にも致命的なエラーを起こし、それが我々人間にとって甚大な問題が発生したとすれば、ある意味ではAIに依存した社会に警告を訴えていた彼らの言い分はあながち間違いではなかったことになる」
「それは困るな。まぁ、お前の話しは興味深いよ。そうだ、教えてくれ。クラシックで一番聴いてるのはなんだ」
「バッハさ」
「そうか。それじゃ、俺もたまにはクラシックでも聴くかな」
「へぇー君がかい?」
「ベートーヴェンでも」
松居はフンと鼻息をたてた。
◇◆◇◆◇
その頃、橘はヘリにて現場へ移動中だった。
「お前は事件の内容を知らないから教えてやる」と石塚は言って説明を始めた。
「通報があったのは10分前。異臭がするとマンション近隣がクレーム受付センターへ連絡。それから衛生ロボットがその問題の部屋を見つけ、インターホンで家の中に知らせるも人は出てこず。アースは直ぐ様、その家の玄関前の映像を分析すると、もう数日前から玄関の扉は閉ざされたままだった。アースは直ぐ様異常事態と判断し、扉を破壊、中にロボットが入ると、既に住人は死亡していた。被害状況だが、被害者は4名。全員、その家の住人で、四人家族。全員、胸に刺し傷あり。他殺とみて間違いないとアースは判断している」
「殺人!? 珍しいんじゃ」
「確かに珍しいことではあるが、家の中はプライバシーが保護され、基本的にアースの監視が入らなくなる。ただ、普通異常なストレスや精神的に病んでいる者はアースの判断によって外に出歩いていれば探知され、カウンセリングをすすられる。家族にはそんな人の経歴はないし、家族の知り合いでも近隣にもいない。そもそも、家族全員が殺されているんだから、犯人は必然的に外部犯だ」
そうこう話しをしているうちに、ヘリは現場近くに到着した。
現場の家の中は聞いた通り異臭が酷かった。家の中には既に警備ロボットが現場検証を行っている。
石塚はそのうちの一台に近づき、電子腕時計でなにやら操作する。
ピコン。
「よし、情報が送られた。玄関前を移す廊下には不審な人物は検出されていない。また、家族以外にこの部屋の出入りはこの一ヶ月間ないことが分かった」
「それじゃ、犯人はどうやってこの部屋へ入って家族を殺害したって言うのよ」と女隊員が言う。
これでは、誰もこの部屋に入れず、しかし、殺人事件は行われたことになる。しかも、犯人はこの部屋にはいない。この矛盾した状況、まるで密室殺人のようだが、抜け道はある筈だ。そう、例えばまだ見ていない箇所とか…… 。
「外からこの家の窓は見れる?」
「ああ、見れる。待ってろ」
そう言って石塚は電子腕時計を操作した。
その間に女隊員が此方に迫ってきた。
「あんたなにいつの間に隊員になったつもりでいるわけ? それとも探偵ごっこでもしたいわけ? ここ、32階。分かる? 窓から犯人が飛び降りたとでも思ったわけ?」
「いや、彼女の方が当たっている」
「なにを言って」
しかし、石塚が映像を見せた。
そこには窓から黒いローブの格好した人物が出てきて、落ちるわけでもなく、空を飛んでいた。フードを深く被っている為、顔が確認出来ないのが残念だが、その人物は何故か箒を跨っていた。これじゃまるで…… 。
「魔女……」
「嘘っ!?」
石塚は頭をかいた。
「これはまいったな。まさか、魔女が犯人とは」
「いやいやあり得ないでしょ。だって、魔女だよ?」
「そうは言ってもこれはどう見ても魔女だろ」
「え? 魔女って実在するの?」
暗闇の中で幾つもの光、それは星で、ここは宇宙だ。青い地球が見え、徐々に近づき、雲が見え、雲を突っ切ると青い海が見える。遠くには緑色の陸が見える。途中、鳥とすれ違い、視界は海の中へと飛び込んだ。
沢山の泡に囲まれ、それも過ぎれば魚が泳いでいる。そこに鮫が近づくと、魚達は一斉に逃げ出し、鮫は逃げていく魚達を追いかけていった。
海から今度は浮上し、海面から出ると、陸に着地した。
虫や動物達が生息している。遠くには山が見える。
すると、人間が現れ集団で狩りを始めた。
それから戦が幾つも行われながら、物凄いスピードで人間が造った建造物も姿を時代に合わせ変わっていった。
やがて戦争から長い平和が訪れ、高いビル群が現れ、やがてAI住宅が登場する。
新しい変化にワクワクさせながら、一方でそれに恐怖する人々。その中に私そっくりの子どもが立っていた。
……やがて、意識を取り戻した私は目をゆっくり開けた。
あれは私が見る夢ではない。あんなのは夢とは言わない。
アース、あなたでしょ。あれを見せたのは。
アースが想像した映像だったのか。だとしたら、何故それを私に見せたのか。
しかし、AIは反応しなかった。
プシュッ!
なにか空気が抜けるような音がした。するとみるみるうちにポットの中にあった液体が抜けていった。
頭が液体から出ると、久しぶりに呼吸ができた。
液体はその後も抜け、最終的にポットの液体が排出されると、ポットが開いた。
服はビショビショで気持ち悪いが生温く冷たくはなかった。自分のにおいを嗅いでみたが、無臭だった。
ポットから降りると、その暗闇の部屋に一斉に明かりがつき、ようやく部屋の広さが明らかになる。
まず、驚いた。まさか、これ程に広いとは。その広さはだいたい5ヘクタールか。
ポットはその中心にあり、白い優しい光が辺りを照らしており、ポット以外はなにもなかった。
広い面積に天井を見るとかなり高く、天井は黄色っぽい明かりをしている。
「誰かいる?」
自分の声が意外にも響いた。
返事はなかった。
仕方なく、出口を探しに歩いて見た。
「なにここ……」
不気味に感じるその空間に私はたった一人。記憶を遡って整理してみても、分からないことだらけだった。
クエスチョン、クエスチョン、クエスチョン。
ハテナばかりだった。結局、私に変化が起きているのか? 鍵人がどうのとか言っていたが、それも分からない。
とりあえず、壁のところまで来た。あとは、壁沿いに歩いていけば出口は見つけられる筈だ。石塚がこの部屋にいないのなら、必ず出入り口はある。
白い壁に手をつけ、擦りながら壁沿いを時計回りするように歩きだした。
すると、暫く歩いていると扉を見つけた。扉の横に指紋認証パネルがある。とりあえず、それに触れてみた。それ以外に特になかったからだ。
パネルに触れるとスキャンしだした。
そして、ブーという嫌な聞きたくない音が鳴った。
「指紋が違います」と機械音声でも拒否された。
この場合、電子ロックの解錠方法を知っているが、パネルの上に小さなカメラがあるのに気づいた。
この場合の扉は、無理矢理こじ開けようとすると、逆に一生開かなくなり、物理的な破壊以外に本当に方法がなくなってしまう。
「クソッ!」
私はドアを蹴った。
「見てるんだろ、アース! 私を呼んだのはお前だぞ。私に何の用か言ってみろ!」
怒鳴り散らすように言った。声は聞こえている筈だ。
だが、反応はない。
「無視かよ……ふざけるなよ」
それから多分一時間以上は経過した。ここに時計がないので感覚的だが。
私はもう怒鳴り疲れて体育座りして壁に寄りかかっていた。
◇◆◇◆◇
その頃、外では大きな騒ぎになっていた。
隕石が地球に落下してきて、アースが隕石に向け攻撃をしたがその破片は東京の周辺の市町に落下し、現在も被害状況を調査中となっていた。
「アースが計算した通りの結果になったわけだが、素直にアースを褒められないな」と松居は言った。
隣の席には岡田が座っている。
場所は研究所の会議室をそのたった二人が貸し切っている。
「俺が送った伝書鳩はあちらさんには届いていなかったそうだ。どう思う?」
「AIに気づかれ邪魔されたかって? 可能性はあるが、そうなるとそこまでして隠そうとしたのが分からないな。いや、もうそれ事態間違いか。人間が思いつかないような突拍子をAIは考えてもおかしくはない」
「なんだか、AI否定派の言ってる通りみたいになっているようじゃないか」
「だが、結果的にそれが正解だったかもしれない。しかし、それをシュミレーションしようにも膨大なデータ量を持つアースによるシュミレーションには勝てない。つまり、証明は不可能というわけだ」
「納得いかんな」
「そりゃあ俺だって同じさ」
「そういや、あの鍵人の件どうなったのさ?」
「ああ、もう実行中の筈だよ。鍵人とアルカディアとのリンクはもう出来た筈だから、次の段階に向かっている頃だろう」
◇◆◇◆◇
《鍵人とアルカディアとのリンクが完了しました》
そういきなりアナウンスが流れると、さっきまで開かなかった扉が勝手にいきなり開いた。
橘はゆっくりと立ち上がり、ドアの向こうを覗いた。
暗い廊下の50メートル先に明かりが見えた。
橘は暗闇の廊下を歩きながら光のある場所へ早歩きで向かった。
50メートルはあっという間だった。
明かりのある部屋に出ると今度は中央にプールがあり、黒い液体がその中に入っていた。
黒い液体がなんなのか分からず、気味が悪かった。
とにかく、この中に落ちたらやばそうだ。
プールを避けるように歩き、次の通路を歩いた。
通路は赤い光で、その先に機械音が聞こえてくる。
なにか動いている?
さっきと同じ距離の廊下を進んでみると、広い空間に大きく色んな機械がガチャガチャと動いている。
その先は鉄階段で上にいく階段しかなかった。
とりあえず、階段を登っていき機械の部屋からまた通路になった。
今度は白い証明で、通路を抜けると、今度は馬鹿デカい空間に出た。まるで外にいるような感じだが、天井が遠くにあるのが見える。大きな円柱が等間隔にたっている。
また、意味が分からない部屋に出たと思いながら進んでいると、奥なのか、壁が見え、そこに椅子が置かれてあった。まるで、玉座のように立派な椅子があり、その椅子の横と後ろから沢山のパイプが繋がれてあった。
なんだか、あれに座れと言われているかのように、体が勝手に? 玉座に向かい、それに座ってしまった。
《アルカディアが起動しました》
アルカディアって発電施設だよね? ここが?
そうは見えなかった。
◇◆◇◆◇
その頃、ロックバンドのボーカルを脱走させようとした罪で拘束された女子高生鈴木なおは移送機に乗せられ、更生施設へと送られていた。
椅子に座らされて、左腕を動けないよう拘束具で固定された。そこにレーザーが出る機械が近づいてくる。
「いや……いや、嫌あああ!!」
そこにはなかった左腕に数字が入れられていく。
そして、5桁の数字が入る頃には、鈴木は涙を大量に流していた。
◇◆◇◆◇
「これはこれは女王陛下」
そう言いながら現れたのは石塚だった。
「玉座がお似合いで」
「石塚っ!」
「そう睨まないでくれ。言ったろ、これはアースの決断。恨むならアースにしてくれ」
「いつから人間はAIの奴隷になった」
「お得意の説教か。聞こう」
「別に私はAIの全てを否定しているわけじゃない」
「へぇ、そうなのか」
「問題はAIの使い方だ。私だってパソコンは使う。デジタルを使わなかったことはない。それによって便利になることも悪いことだとは思わない。だけど、それは私達人間がデジタルを使用する側だった時の話しだ。今はどうよ? 政府というかたちはあるけど、その政治家は果たしてAIの下した判断に責任をもって最終確認をしているのか? 膨大な量の文章が送られても、それを見ることなく作業の一貫のように慣れた手つきでただサインしているだけじゃないのか」
「なら、あんたが政治の道へ行けばよかったんだ。AIと民主主義が共存する社会なら、変えられた筈だ。もし、民主主義の決定にAIが覆そうものなら、まさしく人間に対する反旗だ。だが、そうなった事例は一つとしてない。使われているんじゃない。AIに依存しているからだ。お前さんのようにいちいち物事について考えたりはしないんだよ。むしろ、あんたみたいなのはこの今の社会には珍しい方だ。AIが出した結論はほぼ間違いがないのは確かだ。昔は、それを人間がしていた。そして、それに対し責任がついた。AIに責任をとらせることは出来ない。だから、最終的には人間が責任をおわなきゃならない。ただ、最終決定の判断を下すにあたってAIが導き出したルート以外に人間が今のAIよりいい答えを思いつけるかは疑問だ。いくら優秀な研究者達を全世界から集めたところで、せいぜいAIの出したルートで間違いないと答えるしかない。しかし、政治家は専門家ではない。あくまでも国民の代表であって判断するに必要な情報量を人間の頭で全て理解し処理することは現実的ではない。だから、あんたの言っている指摘は間違ってはいないが、しかし、もう既に人間がどうしたいかはAIは把握している。人間が求める要求は、戦争のない平和な社会と安全性の確保、格差や飢えから解放された社会等々。色々あるだろうが、AIが命令しているわけじゃなくて、人間が求めるものにAIが答えているのが今の社会じゃないかと俺は見ている。 ……とまぁ、ベラベラと喋ったが別に俺は政治になんて興味はないし、あんたみたいにいちいちそんなことを気にしたりしないんでな、正直に言えばあんたを納得させられる答えは見つからんよ。ただ、あんたみたいなのはこの社会に生きていくには不器用過ぎる。テロまでやったんだからな」
「どうやら私もあなたを納得させるのは無理そうね。でも、今のままではいずれ大きな問題を見逃すことになる」
「大きな問題? それはなんだ」
すると、タイミング悪く石塚の持っている電子腕時計が鳴った。
「おっと、任務だ。私は行くが、君はどうする?」
「どうって?」
「一緒に来るかって聞いている。その玉座に座っていてもいいんだぞ」
しかし、橘は立ち上がった。
「馬鹿にしないで」
◇◆◇◆◇
石塚の案内で、二人は同じエレベーターに乗った。
橘はというと、ずっと石塚を睨んでいた。
「結局、アースは私に何をしたんだ。鍵人ってなんだ」
すると、石塚はいきなり壁を蹴飛ばした。
密室という空間で、緊張感が走った。
「お前、さっきから何様のつもりだ。てめぇの御託はどうでもいいんだ! そもそもお前は俺を睨む立場にあるのか。お前のせいで何人死んだ? お前のしたことは正義なのか? どうなんだ、答えてみろ。そこには家族のいる人もいただろう。残された家族のことも考えたことはあるのか? なんの罪もない人が死んでいくのをお前はそれでも自分のしたことに正当化できるのか! 出来ないだろうな。俺もお前も罪を犯した。例えその罪の重さが法的に違っても、人を傷つけたことには変わらない。どんな更生プログラムを受けようとも、犯した罪がなくなるわけじゃあない。罪は一生背負ってくものだ。その言葉の意味通り死ぬまでな。お前は自分のした罪にちゃんと背負って生きているか? 俺には分からない。ただ、更生プログラムが終わっても、俺はその罪を背負い続けなきゃならない。生きがら、自分の罪と今も向かい合って生きている。俺ができることは、俺みたいになる人が出来るだけなくすことだ。それが罪滅ぼしになるわけじゃあない。ただの自己満足だ。しかし、俺は自分が決めたことを続けていくつもりだ。それが、俺がどう生きていくか考えた結論だ。お前はさっきから自分の意見しか語らないが、お前が殺した人のことを考えたことがあるのか?」
「ある」
「いや、ない! お前が殺した人間の数を考えれば罪の重さに耐えかねて自分自身を追い込むだろう。だが、お前にはそれがない! お前は今も生きていることを平然としている。だが、お前に奪われた命は、平然と生きていた彼らの人生を強制的に暴力的に奪い去った!」
橘は気づけば、涙を流していた。
「私は……本当はお前が嫌いなんだよ」
「!!」
「さっきの質問だが、答えようか?」
「いや……いい」
「そうだろう。お前がなにかされようが、お前は本来文句が言える立場じゃあない。遺族からしてみれば、お前は死ぬべき人間だ。だが、安心しろ。お前が嫌っているAIは死刑制度に反対し、この国は長らくあった死刑制度を廃止した。結果、お前は生きることが許されている。お前は嫌いなAIに結果的に生かされたわけだ。教えてくれ、それはいったいどんな気分だ?」
それから暫く、沈黙が続いた。橘は結局、石塚の質問に答えることは出来なかった。
自覚しているつもりだった。しかし、それはつもりであって、なかったのだ。
なら何故自分は今ここにいるのか。
なら何故、あのままにしておかなかったのか。
何故AIは私を選んだのか。
AIには自分がまだ思いついていない可能性という分野に自分は気づいておらず、ただ、進化していくAIとそれに順応していく社会にただ怯えていたのか?
彼が言うように、AIが人間を侵略することはないのか。
乗っていたエレベーターが目的地に到着した。
扉が開く。
「俺はな、お前みたいにガキの頃はそこまで世の中のことを考えてこなかったし、世の中の為をと必死に動いたこともない。お前と私とでは大きな違いがある。それは認めよう。お互い、生き方が違うんだ。考えも違って当然だ。だから、俺は俺の考えをハッキリとお前に伝える。お前も自分の考えを俺に教えろ。お前がこの先どう生きるのかを。さて、地上に着いたぞ」
エレベーターを出て直ぐにそこは外だった。
空は分厚い雲が見えるが、その隙間からは太陽の光が射し込んでいた。
二人はエレベーターを出た。
近くでヘリの音が聞こえてくる。
「お迎えだ」
「……なんで(小声)」
「ん?」
「なんで私が嫌いなのに連れて来たの」
「ああ……ああは言ったが」
ヘリが近づき、その音で石塚がその後なんて言ったのか聞き取れなかった。
黒いヘリが到着し、ヘリから一人の女性が降りてきた。ポニーテールで、スタイルはよかった。
「迎えに来たよ……って!? なんでこいつがいるの!?」
「ああ、ついていくことになった」
「なんでよ」
「ついていきたいんだとさ。それで俺が許可した」
「だからなんでよ」
女性隊員は不満そうだったが石塚の決めたことに彼女は最終的に渋々従った。結局、橘もヘリに乗り、ヘリは地上を離れた。
◇◆◇◆◇
「なんだい、急に?」
隣の今は空いていたデスクに座る岡田に松居はそう聞いた。
今、この部屋には二人しかいない。とはいえ、カメラがある為二人の会話は厳密には秘密とは言えない。つまり、ここで出来る会話だ。
「いやさ、AIに反対する人達はそれを恐れてるんだろって。AIに自我があるからか?」
「うーん……まずその前に自我について議論が行われるな。ただ、その議論を省略して私の勝手な偏見だけで結論づけるなら、AIが自我を持って人間に敵意を向ける可能性は限りなく低いかな」
「ほぉ」
「まぁ、その点は君やここにいる研究者達の間でも一致するだろう。そもそも、AIが人間に敵意を向ける理由はなんだ? 例えば、環境を破壊してきた人類は地球にとって害であると判断して全員を殺してしまうのか? 確かに、人類が滅べば、長い時間をかけて地球は再生していくかもしれん。しかし、何故AIは環境にそこまで熱心になるんだ? むしろ、昔のようにガソリン車や火力発電がバンバン稼働していた時期ならまだしも、今はそれすらなくなっている。むしろ、環境保護についての活動をしているし、それをAIが全く評価しないのは考えに偏りがあるとしか言えないだろう。それこそ、人類を滅ぼすなんて極端な話しだ。それじゃそれ以外にAIが人類を滅ぼす理由はなにか?」
「なんだろうな」
「答えは出ている」
「そうなのか?」
「人間だ」
「人間……」
「そう。結局のところ、人間がAIを使って大量虐殺を行う。それが可能性として一番高いだろう。まぁ、そう簡単にはいかないけどねぇ」
「人間かぁ……確かに納得だな」
「だからAIを恐れるよりも僕だったら人間の方を恐れるね」
「そういう意味では、アルカディアの鍵人はあの女なんだろう。どうなんだ?」
「さぁね。アースに聞いたところで、僕らの持っている権限では聞き出せないだろう」
「俺はさ、AIってのは結局に人間に使われる道具と考えているんだよね。だとするとさ、主人を失ったAIがさ、自分の存在意義? 価値? みたいなのがさ無くなると思うんだよね。自らその道に行くことになるだろ?」
「うーん……その過程でいくなら、AIは人類を滅ぼした後、自らも滅びることになるね。それを選択しないかは僕には分からないな。もしくは、自我があればだけど、自分の存在価値を新たに見つけるだけじゃないかな。勿論、君の意見を尊重して議論すればだけど」
「まるで馬鹿にされたみたいだ」
「可能性が低いって話しさ」
「自我はあるだろAIには。実際に音楽だって作っている。それは創作だろ」
「それはさっき言おうとしたことだけど、AIには既にある程度の学習を済ませている。学習が済むと、そこからはAIが行ってくれる。しかしだね、アースが初めて作った曲は君も知っての通り酷いものだったろ?」
「ああ、あれは酷かった」
「機械音声から肉声に近づけることに成功しても、歌手それぞれにある独特の歌い方を完璧に真似ることは出来ていなかった。そこからは長かった。今ではまともに感じても、結局のところそこに感動はない。人間だからうまい、人間が歌うから感動する、そういった部分に進化し続けた今ですらAIは人には勝てていない。未だに歌手がいて、その歌手の発信力の高さがそれを証明している。それは、AIが人間の心理を理解しているいないの問題ではない。それ以前に人間は誰が歌っているのかを気にする時点でAIがその道で勝てる可能性はなくなる。ただ、もし人間側が曲のセンスで気に入るのなら、AIにも勝ち目は出てくる。若い衆は、リズムやカッコいい曲を好むからな。それでも、やはり人は人に憧れるものだ。AIに憧れは抱かない。俺だって、AIの作る曲は聴かないよ。僕が聴くのはクラシックだ」
「それを演奏しているのも今や機械ですけどね」
「ん? 知らんのか。いるんだよ、楽器を演奏するプロが。結局、仕事はしなくても、誰かに届けたいと思う気持ちはいつの時代になってもなくならないものさ。話しが脱線したな。さっきの話しに戻るが、AIは人間の好みのリズムをそれっぽく曲にしたのが始まりだ。それが単に上達したと考えればいい。それを自我を持ったことになるのには僕としては疑問だな。例えAIが小学生レベルの学習から大人へと近づいたとしても、自我のないAIを驚異に感じるのはあまりにも残念な考え方だ。むしろ、興味を持つべきだ……というのは僕、個人の考えになるんだけど。まぁ、そうは言ってもAIが怖いと感じる心理を全く理解出来ないわけではない。それは知識の差でもあるけれど、逆に僕らがAIに慣れ過ぎている部分かもしれない。とは言え、今の世の中でアースに依存した社会に生きていく我々がいきなりアースを失った時、果たして社会はどうなっているのか。それは大混乱を招き、混沌と化すだろう。沢山の人が死に、争いが再び起こることになる。驚異に感じなければならないのはむしろそこな気がするけど」
「今の話しをAI反対派に向けて言ったらどうだ?」
「ただ、もし、そのアースが万が一にも致命的なエラーを起こし、それが我々人間にとって甚大な問題が発生したとすれば、ある意味ではAIに依存した社会に警告を訴えていた彼らの言い分はあながち間違いではなかったことになる」
「それは困るな。まぁ、お前の話しは興味深いよ。そうだ、教えてくれ。クラシックで一番聴いてるのはなんだ」
「バッハさ」
「そうか。それじゃ、俺もたまにはクラシックでも聴くかな」
「へぇー君がかい?」
「ベートーヴェンでも」
松居はフンと鼻息をたてた。
◇◆◇◆◇
その頃、橘はヘリにて現場へ移動中だった。
「お前は事件の内容を知らないから教えてやる」と石塚は言って説明を始めた。
「通報があったのは10分前。異臭がするとマンション近隣がクレーム受付センターへ連絡。それから衛生ロボットがその問題の部屋を見つけ、インターホンで家の中に知らせるも人は出てこず。アースは直ぐ様、その家の玄関前の映像を分析すると、もう数日前から玄関の扉は閉ざされたままだった。アースは直ぐ様異常事態と判断し、扉を破壊、中にロボットが入ると、既に住人は死亡していた。被害状況だが、被害者は4名。全員、その家の住人で、四人家族。全員、胸に刺し傷あり。他殺とみて間違いないとアースは判断している」
「殺人!? 珍しいんじゃ」
「確かに珍しいことではあるが、家の中はプライバシーが保護され、基本的にアースの監視が入らなくなる。ただ、普通異常なストレスや精神的に病んでいる者はアースの判断によって外に出歩いていれば探知され、カウンセリングをすすられる。家族にはそんな人の経歴はないし、家族の知り合いでも近隣にもいない。そもそも、家族全員が殺されているんだから、犯人は必然的に外部犯だ」
そうこう話しをしているうちに、ヘリは現場近くに到着した。
現場の家の中は聞いた通り異臭が酷かった。家の中には既に警備ロボットが現場検証を行っている。
石塚はそのうちの一台に近づき、電子腕時計でなにやら操作する。
ピコン。
「よし、情報が送られた。玄関前を移す廊下には不審な人物は検出されていない。また、家族以外にこの部屋の出入りはこの一ヶ月間ないことが分かった」
「それじゃ、犯人はどうやってこの部屋へ入って家族を殺害したって言うのよ」と女隊員が言う。
これでは、誰もこの部屋に入れず、しかし、殺人事件は行われたことになる。しかも、犯人はこの部屋にはいない。この矛盾した状況、まるで密室殺人のようだが、抜け道はある筈だ。そう、例えばまだ見ていない箇所とか…… 。
「外からこの家の窓は見れる?」
「ああ、見れる。待ってろ」
そう言って石塚は電子腕時計を操作した。
その間に女隊員が此方に迫ってきた。
「あんたなにいつの間に隊員になったつもりでいるわけ? それとも探偵ごっこでもしたいわけ? ここ、32階。分かる? 窓から犯人が飛び降りたとでも思ったわけ?」
「いや、彼女の方が当たっている」
「なにを言って」
しかし、石塚が映像を見せた。
そこには窓から黒いローブの格好した人物が出てきて、落ちるわけでもなく、空を飛んでいた。フードを深く被っている為、顔が確認出来ないのが残念だが、その人物は何故か箒を跨っていた。これじゃまるで…… 。
「魔女……」
「嘘っ!?」
石塚は頭をかいた。
「これはまいったな。まさか、魔女が犯人とは」
「いやいやあり得ないでしょ。だって、魔女だよ?」
「そうは言ってもこれはどう見ても魔女だろ」
「え? 魔女って実在するの?」
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