魔王退治

アズ

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4月2日

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 エルスキア支部に配属されてから二日目。
 8時前に出勤した俺は早速受け付けの仕事についた。
 本日ソフィーは休みらしい。受け付けの仕事は昨日見ての通りほとんどない為、基本一人でやることになる。
 因みに、ギルドマスターと自分含め職員は五人しかいない。うちレオンとソフィーに会っているので、あと一人になる。
 ため息をつきながら、無駄に広いロビーでも眺めながら受け付けの席についた。
 そう言えば、このギルドに登録しているメンバーは誰だろうか。
 俺は受け付けにある古いコンピュータに目を向ける。
「今どきブラウン管なんて珍し過ぎるぞ。よくまだ使ってられるよ」
 画質は勿論悪い。マウスを動かし、ギルド会員登録のデータのファイルを開く。
 すると、名前、登録日、登録番号の表が表示された。この登録番号でインターネットからギルド本部のホームページを開き、番号を入力すれば、そのギルド会員のこれまでの働きの成績が表示されるようになっている。
「どれどれ~」
 しかし、よく見て見ると驚いたことに登録された日付はどれもかなり古いもので、ここ最近で新規で登録された人はいない。それも数年はないみたいだ。
 これなら予算削減でここのギルド本部もなくなるんじゃないのか。
 有り得そうで怖い。
 すると、外の方でバイクの音が近づいてくるのが聞こえた。
 暫くすると、入口から少年が入ってきた。
 黒いヘルメットに新聞を持っており、ジーンズに半袖シャツ姿で、男子にしてはやや身長が低い。身長170もない。そんな彼は髭も生えておらず、笑顔で「新聞配達でーす」と言って、いつものように受け付けのカウンターに置くと立ち去っていった。
「新聞配達員か」
 少年は踵を返しあっという間に次の配達先へと向かっていった。それはバイクの遠ざかっていく音で分かった。
「新聞なんてこの町に需要があるのか?」
 首を傾げながら新聞を手に取り一面の記事を見た。
 見出しには『戦況膠着状態続く』とあった。
 以下、新聞の内容記事。



 現在、南下する魔王軍との戦争の状況について軍は膠着状態にあると会見で語った。軍の最前線では消耗戦が続き、苦しい戦いとなっている。
 専門家○○大学ハリス教授によれば、魔王軍の兵士は量産され、いくらでもかわりが作れるのに対し人間はそうはいかない。人間にとってこの状況はむしろ悪いと見るべきだと語っている。
 具体的には、魔王軍兵士はクローン兵士であり、枝分かれの下に位置するものを一般的な雑魚兵と呼ばれ、上位になるにつれ強さが増していく。
 人類はその下位となる雑魚兵の数で消耗されていると思われる。
 しかし、ハリス教授はこうも続ける。
 必ずしも悲観的なことばかりではない。例えば、軍は新兵器の開発に成功しており、今週中には最前線へそれが送られ使用される見込みだ。その新兵器の情報は当然のことながら軍の機密で我々一般人が知ることはないが、それが膠着状態を打破することが可能であれば、まだ逆転の可能性は見える。
 今後の戦況に注目したい。
 軍では志願を募っている。もし、志願する決心がついたら此方に連絡するように。電話番号は…… 。



 希望がまだあると新聞は言っているが、ミサイル攻撃ですら上位種に敵わなかったではないか。下位なら、ミサイルで一掃できる筈だ。
 軍の言っていることは嘘だ。
 今、戦っているのは雑魚兵じゃないだろ。
 明らかにそれより上だ。
 新聞の2頁目では経済の話しをしているが、どれも悲しことに折れ線グラフは下を向いている。
 やはり、経済は素直だ。
 だが、そんな暗澹あんたんな思いになったって仕方がなかった。
 皆、誰だって明るいニュースを望んでいる。笑えるような、喜ぶようなニュースを。



◇◆◇◆◇



 受け付けに座ってから2時間が経過したが、新聞配達員以外にまだ誰も来訪者がいなかった。
 まさか、単に座っているだけがこんなに辛く感じてしまうなんて。
 思わずあくびが出てしまう。
 駄目だ、二日目でそれじゃ。だが、一週間これが続いたならあくびくらいいいだろと思ってしまう。
 と、そこにようやく二人目が現れた。
「あれ?」
 瀟洒しょうしゃなネクタイをした小太りな中年男性は木箱を持って息をやや荒くしながら、カウンターの上に置いた。
「おや、見ない顔だね。新入りか。それともミスしてここへ飛ばされたか」
 男は笑いながら木箱の蓋を叩いた。
「これ、配達ね」
「何が入ってるんですか?」
「おたくらがうちに注文した物だよ。うちは商人やってるんだ。この辺りじゃ買い物がまともに出来るのはスーパーぐらいだろ? だから、遠くから取り寄せたい物があるなら、うちを頼るしかない。店はスタンドの近くだよ。それじゃ」
 男はそう言ってギルドを出ていった。
「配達しか来ないのか、ここは」
 思わず愚痴が出てしまった。
 しかし、本当に暇だ。



◇◆◇◆◇



 結局、お昼になってしまいカップ焼きそばを食べて午後の勤務にあたった。
 昼過ぎになって、それまで訪れたのは二人。こんなに暇な仕事だとは思ってもみなかった。
 眠気をおさえる為にブラック珈琲を用意して席についた。
 時刻は13時を過ぎていた。
 パソコンからネットサーフィンや動画でも見ようかと思ったが、いちいち固まるポンコツにそんな気が起こらなかった。
 ただポカンとした間抜けな顔をしながら天井を見た。
 これならこんど本を買ってきて暇つぶしに読んでいた方がいいな。
 時間の潰し方を色々考えていると、昨日のソフィーの頭の中を空っぽにしたような様子が納得できた。
 と、そこに救世主が現れる。
「よ、ちゃんとやってるか」
「レオンさん、受け付けってこんなにやる事ないんですね」
「お、早速楽してるな」
「いや、むしろ退屈で楽なんかじゃありませんよ」
「贅沢な悩みだなぁ」
「レオンさんは今までどこにいたんですか?」
「俺か? そりゃ、溜まっている依頼を時たまギルドが請け負っているんだよ。その仕事を午前中してきたところだ」
「そんなこともするんですか?」
「本来はないな。普通、ギルド会員が日雇いでやる仕事だ。だが、ご覧の通りあんまりいなくてな」
「この街のギルド会員は何人いるんですか」
「8人だな」
「8人……」
「うち、真面目にやってるのは一人くらいだな」
「ダメダメじゃないですか」
「仕方がないだろ。何人かは老人で、もう働ける歳じゃない。真面目な一人はまだ若いからな。なんでも都会から来たそうだ。変わりもんさ」
「都会からわざわざ?」
「本人は都会の喧騒けんそうから逃げたかったとか言ってたな」
「だからってこんな街まで来ますか?」
「多分他に理由があるんじゃないのか? だが、俺なら詮索しないね。いいじゃないか、人それぞれ隠したい理由があったって」
 確かにその通りだ。
「俺はもう行くぜ」
「え? 行ってしまうんですか」
 レオンは笑った。
「そりゃ、午後の仕事もあるからな。まぁ、アサイもここに慣れたら仕事任されるようになるから、それまではここで受け付けな」
「あの、もう一人いるんでしたよね?」
「ああ、そいつは職業訓練の講師とかその辺の担当だから。頭使うことは頭のいい奴に任せるしかない。俺達じゃどっちみち出来ないだろ?」
「確かに……」
 結局、救世主はあっという間に去っていった。
 また、一人になった。



 一時間が経過し、14時になっていた。時計ばかり気になるようになり、早く終わらないか、早く終わらないかと念じていた。
 まるで、早く学校の退屈な授業が終わらないかと願う子どもみたいに。
 すると、五人の男女がこの支部に入ってきた。全員20代前半で若い。私服姿で女性が一人であと全員男だった。
 皆、目と髪が同じ黒色で、女性はズボンを履いていた。
 一人だけ身長が高く体も鍛えられた感じで、半袖の袖口から見える腕の筋肉がそれを物語っていた。
 巨漢、美女、普通、普通、普通。
 でも、皆スポーツが出来そうな集団だった。
 受付に全員が来ると、一番大きな男がまず俺に話しかけてきた。
「俺達はこれから軍に志願兵として入隊するんだが、その前に軍の方からギルド会員の登録がされたままなら、解約するよう言われてきた」
「あ、はい。全員ということでよろしいですか?」
「ああ、そうだ」
「それでしたら、書類をお持ちしますのでそこに登録番号とサインの方をお願いします」
 そう言って全員分の用紙と、ペンを用意した。
 一人一人が用紙にサインしていく。
 多分、近くの駅に向かい彼らはそこから軍の基地へと向かうのだろう。
 まだ若いのに、志願するなんて。



 俺とは大きな違いだった。
 俺の中で志願は絶対にあり得ないと決めていた。それこそ徴兵でない限り、俺は軍に入って人類の為にと戦ったりしないだろう。
 俺は平和主義だ。平和ボケとも読む。
 人類が魔王軍から勝利する為に戦っているというのに自分は単に怖いという理由で戦争に行くのを嫌っている。
 だが、生死をかけた戦いの場において、怖くないというのはないだろう。
 戦争というものを俺は知らないが、知りたいとも思わなかった。
 だが、俺みたいな駄目人間が沢山いては人類はいよいよ滅んでしまうんだろうな。
 魔王が現れるまでは、人間は人間同士の争いをしていた。人間同士の戦争だ。国の為をと沢山の命が失われた。そこで得たものはなんだったのか。
 今、直面する明確な敵に人々は結束して戦いをしている。大義名分の名のもとに。
 しかしながら、それで人類が勝利して明確な敵が失われた時、人類のその先の未来は果たしてどうなっているのだろうか。
 それこそ、ようやく得た平和なのだろうか。
 平和を求めることがそこまでボケと呼ばれなければならないのは、直面する敵という現実からの逃避だからなのか。
 戦争が悪だというのなら、我々は素直に魔王軍によって直ちに侵略を受けることになるだろう。無条件降伏で、魔王による独裁支配が果たして我々の望んだ豊かで平和な暮らしとなるのだろうか。

 否。

 結局のところ平和の為の戦争をしているのだ。この戦争と平和という相反する関係を同時に人間は行っている。



「これで解約は完了となります」
「あんた、なんで志願しないんだ。どうせこのギルド支部にやってくる奴なんていないだろう。そんな無駄な時間を費やして、お前はいったい何をしてるんだ、この臆病者」
 俺は巨漢に上からそう言われ。俺は頭が上がらなかった。
 今、こうしていられるのも、誰かが命をかけて戦っているからだ。
 戦わなければならない。
 周りの四人もクスクスと笑い出した。
 その時だった。
「用が済んだのならとっとと出ていけ」
 それはマスターだった。
「なんだと」
 巨漢はマスターに向かって睨んだ。鋭い眼光はそれだけでも威圧におされ負けてしまいそうだが、マスターは怯まなかった。
「ギルドは単に職業案内所ではないわ。お前達が思っている程、ギルドの存在意義を甘くないわ」
「そりゃないぜ。こっちは命かけて世界を救おうとしているんだぜ。普通、俺達のような志願兵が讃えられなきゃいけないんじゃないのか、世の中的にはよ」
「まだ、お前さんは何もしてないだろ」
「なに!」
「ギルドは軍の武器や燃料の調達、武器の修理を担っている。負傷兵のケアや、その後の支援やリハビリも行っている。軍が負傷兵の全てを見れるわけじゃあない。だからこそ、病院とギルドが共同で支援会を立ち上げ、現在も裏方として世界に貢献している」
「ハッ! 笑わせる。戦いから逃れる為の言い訳だろ。実際、裏方が潤ったって人間が勝利しなきゃ意味ないだろ。それを誰がやると思ってやがる」
「お前さんはサッカーを知らないのか? サッカーはFWがいたってGKやDFがいなければチームとして成り立たんだろう。全員FWで戦うのか?」
「戦争はサッカーじゃねぇんだよ、ジジイ」
「誰かが百姓しなければ、お前達は餓死だ。いいか、人類全員戦争出撃して勝てるなら最初っからそうしているだろう。だがな、相手はそう単純じゃあない。長期戦になるならそれに備えた裏方は重要な意味を持つ。君らが兵士なら、他にも皆それぞれに役割がある。ここは明日には軍がやって来て、二階から上は負傷兵の治療に貸し出すことが既に決定している。その時、彼のような人手は必要だ。明日にはここも忙しくなる。君らが想像するよりもそう単純ではない」
 それは初耳だった。というか、俺が辞令で配属されたのってそれが理由!?
 だが、五人はまだ納得していない様子で舌打ちして「もういい」と吐き捨ててその場をあとにしていった。
「あのマスター、今の話しは本当でしょうか?」
「そうだ。今後、本来の職業案内、支援は全て停止、エルスキア支部は負傷兵の看護に全力であたる」
 これが戦争なのか。
 日常生活にも、仕事にすら影響を与え、人の心さえ蝕み、余裕が失われ、皆ギスギスしていた。
 それもこれも軍の計画が順調にいっていないからだった。
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