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4月3日
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ギルドマスターの言うとおり、軍の人達が朝早くにギルド支部に現れ、軍のお偉いさんがマスターに向け「この度はご協力感謝する」と簡単なお礼を言ってから、軍は次々と荷物を支部に運びこんだ。
俺達も手伝い、次々とベッドを組み立てていく。
その間にマスターは先程のお偉いと会話を進めていた。
「因みに患者はどれぐらい運ばれてくるのでしょうか」
「既に基地の医療テントではベッドが満床状態です。近くの病院も満床状態で直ぐにでもベッドが欲しいくらいです。出来るだけつめて入れるだけそちらは受け入れていただきたい」
「分かりました」
マスターは覚悟をしてそう返事をした。
「午後には患者を此方に移します」
そして、その時刻になると俺達はその惨劇を目の当たりにする。
次々と患者が運ばれていき、包帯が巻かれた患者が次々とベッドを埋めていった。
痛みがあるのか、叫び声があちこちで聞こえてくる。
そのうち一人の患者が、ソフィーの腕を掴んだ。
「なぁ、頼むよ。薬をくれ。痛くて仕方がないんだ」
「どこが痛いんですか」
男の患者は指を指した。
そこには、左足が欠損した痛ましい姿で、包帯が施されてあった。
「そこが痛いんですね。分かりました、待ってて下さい」
ソフィーはそう言って看護師を呼んだ。
「あの、すいません。あの患者なんですが、痛み止めの薬が欲しいと言っています」
「あのね、まだ患者が来るのよ。あの患者ならさっき見たわ」
「でも」
「よくあることなのよ。それより新しく来る患者に備えて頂戴」
想像以上のバタバタ劇で、頭がパンクしそうになった。
戦場ではこんなことになっているんだ。
「俺の腕を食いやがったあの野郎! ぶち殺してやる! クソッ、クソッ!」
誰かが悪夢でうなされて叫ぶ声や泣き声や家族だろうか、恋人だろうか、名前を呼ぶ患者など様々な声がどんどん耳の奥に入っていっては離れようとはしなかった。
気づけば、ソフィーは涙を流していた。
この戦いは夜中まで続いた。
◇◆◇◆◇
時刻は23時30分。
もう直ぐで日付が変わるであろう時間になって、ようやく患者も眠りについてくれた。
その間も異変がないか交代で巡回していった。
ソフィーは壁に寄りかかって地べたに座り込んでいた。
彼女ももうくたくたな筈だ。
「大丈夫か」
俺は珈琲を差し出し、彼女はお礼を言って素直に受け取った。
「挨拶がまだだったわね。私はソフィーよ」
「俺はアサイだ」
「配属されて早々大変でしょう」
「だが、結果的に俺は何かの役にようやく立てている気分になった。でも、彼らの怪我を見ると、甘ったれたことなんだろうな」
「どうして?」
「昨日、若い志願兵が五人ここに訪れたんだ。その時、臆病者と言われちゃったよ。マスターは反論してくれたけど、あの五人が正しいよ。これで臆してるんだから事実だ」
「中には戦いたくても戦えない人もいるわ」
「年寄りとかはそうかもしれないけど、俺は違うだろ? でも、志願しなかった。俺の生まれ育った街はここよりもっと戦場から遠かった。そこにいるとさ、忘れちゃうんだよ。忘れちゃいけないのに、どっかでは戦争があって誰かが命を落としていることを」
「そもそも全部悪いのは魔王軍でしょ」
「だとしても、俺の臆病は否定できないよ」
「なら、私も臆病者?」
「え?」
「女だからってそんな理由言わないで。実際、女性だって戦ってるわ」
俺は返す言葉を見失った。
「戦争は誰だってしたくないんだと思う。でも、どう足掻いても戦いからは避けられないの。だから、怒ったんだと思う」
「え?」
「あなたが言った五人の話し」
「ああ……」
「でも、どうするの? ここをそのままにして志願するつもり?」
「俺は生きるのが辛いよ。こうしているだけでも責められちゃうんだから」
「死んだら終わりよ」
「だとしても、逃げちゃ駄目なんだよ」
「やめて!」
まさか、ソフィーにそんなふうに止められるとは思ってもみなかった。
「馬鹿な願いだと分かっているけれど、誰も死んで欲しくはないのよ」
「戦争でそれは無理だよ」
俺は天井を見た。
その横で、ソフィーは俺の肩に頭を乗せた。
「どこも行かないで」
ソフィーとまともに会話したのは今日が初めてだ。そんな二人の関係が近くなったのは、お互いに今日が精神的に擦り減らし弱ったからだと、俺はそう思うことにした。
俺達も手伝い、次々とベッドを組み立てていく。
その間にマスターは先程のお偉いと会話を進めていた。
「因みに患者はどれぐらい運ばれてくるのでしょうか」
「既に基地の医療テントではベッドが満床状態です。近くの病院も満床状態で直ぐにでもベッドが欲しいくらいです。出来るだけつめて入れるだけそちらは受け入れていただきたい」
「分かりました」
マスターは覚悟をしてそう返事をした。
「午後には患者を此方に移します」
そして、その時刻になると俺達はその惨劇を目の当たりにする。
次々と患者が運ばれていき、包帯が巻かれた患者が次々とベッドを埋めていった。
痛みがあるのか、叫び声があちこちで聞こえてくる。
そのうち一人の患者が、ソフィーの腕を掴んだ。
「なぁ、頼むよ。薬をくれ。痛くて仕方がないんだ」
「どこが痛いんですか」
男の患者は指を指した。
そこには、左足が欠損した痛ましい姿で、包帯が施されてあった。
「そこが痛いんですね。分かりました、待ってて下さい」
ソフィーはそう言って看護師を呼んだ。
「あの、すいません。あの患者なんですが、痛み止めの薬が欲しいと言っています」
「あのね、まだ患者が来るのよ。あの患者ならさっき見たわ」
「でも」
「よくあることなのよ。それより新しく来る患者に備えて頂戴」
想像以上のバタバタ劇で、頭がパンクしそうになった。
戦場ではこんなことになっているんだ。
「俺の腕を食いやがったあの野郎! ぶち殺してやる! クソッ、クソッ!」
誰かが悪夢でうなされて叫ぶ声や泣き声や家族だろうか、恋人だろうか、名前を呼ぶ患者など様々な声がどんどん耳の奥に入っていっては離れようとはしなかった。
気づけば、ソフィーは涙を流していた。
この戦いは夜中まで続いた。
◇◆◇◆◇
時刻は23時30分。
もう直ぐで日付が変わるであろう時間になって、ようやく患者も眠りについてくれた。
その間も異変がないか交代で巡回していった。
ソフィーは壁に寄りかかって地べたに座り込んでいた。
彼女ももうくたくたな筈だ。
「大丈夫か」
俺は珈琲を差し出し、彼女はお礼を言って素直に受け取った。
「挨拶がまだだったわね。私はソフィーよ」
「俺はアサイだ」
「配属されて早々大変でしょう」
「だが、結果的に俺は何かの役にようやく立てている気分になった。でも、彼らの怪我を見ると、甘ったれたことなんだろうな」
「どうして?」
「昨日、若い志願兵が五人ここに訪れたんだ。その時、臆病者と言われちゃったよ。マスターは反論してくれたけど、あの五人が正しいよ。これで臆してるんだから事実だ」
「中には戦いたくても戦えない人もいるわ」
「年寄りとかはそうかもしれないけど、俺は違うだろ? でも、志願しなかった。俺の生まれ育った街はここよりもっと戦場から遠かった。そこにいるとさ、忘れちゃうんだよ。忘れちゃいけないのに、どっかでは戦争があって誰かが命を落としていることを」
「そもそも全部悪いのは魔王軍でしょ」
「だとしても、俺の臆病は否定できないよ」
「なら、私も臆病者?」
「え?」
「女だからってそんな理由言わないで。実際、女性だって戦ってるわ」
俺は返す言葉を見失った。
「戦争は誰だってしたくないんだと思う。でも、どう足掻いても戦いからは避けられないの。だから、怒ったんだと思う」
「え?」
「あなたが言った五人の話し」
「ああ……」
「でも、どうするの? ここをそのままにして志願するつもり?」
「俺は生きるのが辛いよ。こうしているだけでも責められちゃうんだから」
「死んだら終わりよ」
「だとしても、逃げちゃ駄目なんだよ」
「やめて!」
まさか、ソフィーにそんなふうに止められるとは思ってもみなかった。
「馬鹿な願いだと分かっているけれど、誰も死んで欲しくはないのよ」
「戦争でそれは無理だよ」
俺は天井を見た。
その横で、ソフィーは俺の肩に頭を乗せた。
「どこも行かないで」
ソフィーとまともに会話したのは今日が初めてだ。そんな二人の関係が近くなったのは、お互いに今日が精神的に擦り減らし弱ったからだと、俺はそう思うことにした。
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