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第一章
07 善悪
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○月△日。
記念すべき新しい大統領の就任式となる。大統領の任期は四年、最大八年と法律で定められている。それは独裁者を生まない為でもある。就任されたのはなんと私が支持していたペック氏だった。一方ノーブルの悲報は残念に思う。その裏にはミケルセンがいたわけだが、表社会の住人達が全てを知ることはない。
記念すべきことは実はこの日は大統領就任以外にもう一つある。私の誕生日だ。そして驚くべきことにサヤカは私にプレゼントがあると言ってネクタイをくれたのだ。彼女からのプレゼントは初めてになる。それから、私は彼女と珍しく普通の会話をした。彼女にとって話し相手は私くらいだろうに、私には無愛想なところがある。私をまだ道具として見ているのだろうかと思ったが、それは私の思い違いだった。彼女は単に私との距離感が掴めていないだけだった。それはその筈だ。ただ、私が鈍かっただけなのだ。彼女は私に興味を持ち、何故言語なのかと尋ねた。確かに、自分について誰かに話すことは学生達以外では久しぶりだった。
そもそも、私は色んな国の文化を知る為に色んな語学を勉強した結果、人よりも習得にかかる時間が短く数ヶ月あればだいたいその国の言葉は日常会話程度には出来てしまっていた。それ故に自分が中学の時には数カ国を話せる学生になっており、自分の得意分野を見つけられた気がした。
その予感は的中し、私は更に話せる言葉を増やし、一方で絶滅の危機にある言語を残す研究を行った。中には既に滅びてしまった言葉もあり、私はそれを復活させる為の調査や解読をしていくうちに、その功績が知れ渡り私はいつしかそれなりの知名度を得ていた。私が異世界の言葉に興味を持ったのはそれより後のことだ。
彼女はもう一つ私に尋ねた。それは、自分がミケルセンと関わっていることについて今も反対かという質問だった。私は素直に「そうだ」と答えた。
彼女の能力を考えれば、人助けに大いに役立つ。こんな場所でその能力を腐らせるべきではないと説明した。その能力を授かったのは何か意味があるのではないのか、人に使命があるとしたらその力を善に使うことだろう。ミケルセンは自分達をゾンビ兵(その名の通り死なない兵隊)と彼女を歓迎した。ミケルセンが彼女を手放さず手元に置いておけば彼に恐れるものはない。それはロクでもないことだ。不景気で治安が悪化したこの国で一番美味しく稼いでる連中が一番社会から消えるべき存在。私は彼女が考え直すのを期待している。
だが、彼女はそういった運命論や使命には関心がなかった。というよりも、彼女には宗教というものがないらしい。そもそも、彼女はこの能力は神とかの授かりものというよりむしろ悪魔みたいな力だと語った。それは他の能力者と戦った時に、あんな能力が人間が持っていい力なのか? そんな疑問があるらしく、これはむしろ使わないことが善ではないのか、ならば何故私はこの力を手にしたのか分からない。この世界に来てしまった理由も。
彼女も珍しく自分の本心を長く語った。
どうやらサヤカは自分は悪だと割り切ってしまっているようだった。
私は人は善にも悪にもなれ、それは行い次第だと答えた。性悪説や性善説の決着のつかない論争はあるものの、結局のところ人に選択肢があるならば、それは選択によって変わるというのが私の考えだ。
だが、彼女にはそれが伝わらなかった。ただ、分からないと答えた。
サヤカにはこの世界の居場所がない。自分で見つけるのを諦め、たまたま居場所を差し出したのがミケルセンだったというだけのことなのだ。
だから、これは巡り合わで、運命と言えるのだ。
この運命を断ち切るにはそれは自分次第だ。サヤカがその答えを見つけない限り、それより先へは進めないだろう。
◇◆◇◆◇
日記を書き終えた私はベッドの中に入った。
一日の出来事を記録するのが日課になってどれぐらいになるだろうか。もうずっと続けている。それは生き返ってからも続けていた。
日記はサヤカにも勧めてみたが、本人はやる気がないようだ。あげた日記は多分使われていないだろう。
それから翌日。
私はいつものように銃の練習の為に外に出て、案山子のような的に向けて銃を何発か撃っていると、そこにサヤカが現れた。
「君は練習は必要ないだろ?」
「面白いこと考えついたの。見て」
そう言う彼女はリボルバーを手にしていた。彼女は適当に撃ちまくる。銃声が空へ響き渡った。そして、異変は直ぐに気づく。
リボルバーからは無限に何度も弾が発射されていた。
「どうなってる……いや、分かった」
「流石は教授」
「能力の応用だろ」
「教授の方はどう? って聞くまでもないか」
サヤカはそう言って的を見た。的は一発も命中していない。
「そもそも私は銃で人を撃ちたくはない」
「銃は人を撃つためにあるんでしょ? その目的の為に発明された」
「だからこそ私は銃規制には賛成の立場だ」
「意味あると思う? 銃を購入する条件を厳しくしても、手製で銃を用意してしまう人だっている」
「確かに。では、君はどう思う?」
「どうも思わない。どうにかなるものではないでしょ? 昨日の夜、ミケルセンの部下達は邪魔になる組織を襲撃して銃撃戦を起こした。ほぼ闇討ちみたいなものだけど、ミケルセンはきっとこの世界の闇の皇帝へと君臨すると思う。実際、沢山の死体がここに運ばれた。私は手下を生き返らせる仕事をさせられたわ」
「その報酬に何を貰ったんだ? いや、聞くまでもない。ミケルセンなら君に大きな宝石だろうと城だろうと土地だろうとくれてやるだろう。君は幹部だ。部下達は君の命令に従うし、部下は君を最高級にもてなすだろう。君を不機嫌にさせた者をミケルセンは許さず、そいつを断罪するだろう。部下は自然と君を恐れもし、崇拝もするだろう。誰もが君をミケルセンの右腕、ナンバー2と見るだろう。いずれミケルセンの後釜になれば次の皇帝は君だ。皇帝になった君は何をするつもりだ?」
「皇帝になれば、裏社会の全てを牛耳ることになる。全てのルート、政治家や経済界の汚職、知りたいものを私は知ることになる。私はそれらを使って甘い蜜を啜ってきた連中全てを表社会にさらけ出す」
「え!? 正気か?」
「私にしか出来ない事。あなたは私に言った。その力を善に使えと。これが私が考えたやり方」
「……」
私は思わず言葉を失った。
「教授、あなたの意見を聞かせて頂戴。教授は今の話を聞いて私について来てくれる? 私に従わされるのではなくて、あなたの考えとして」
「ついていくよ」
「ありがとう」
記念すべき新しい大統領の就任式となる。大統領の任期は四年、最大八年と法律で定められている。それは独裁者を生まない為でもある。就任されたのはなんと私が支持していたペック氏だった。一方ノーブルの悲報は残念に思う。その裏にはミケルセンがいたわけだが、表社会の住人達が全てを知ることはない。
記念すべきことは実はこの日は大統領就任以外にもう一つある。私の誕生日だ。そして驚くべきことにサヤカは私にプレゼントがあると言ってネクタイをくれたのだ。彼女からのプレゼントは初めてになる。それから、私は彼女と珍しく普通の会話をした。彼女にとって話し相手は私くらいだろうに、私には無愛想なところがある。私をまだ道具として見ているのだろうかと思ったが、それは私の思い違いだった。彼女は単に私との距離感が掴めていないだけだった。それはその筈だ。ただ、私が鈍かっただけなのだ。彼女は私に興味を持ち、何故言語なのかと尋ねた。確かに、自分について誰かに話すことは学生達以外では久しぶりだった。
そもそも、私は色んな国の文化を知る為に色んな語学を勉強した結果、人よりも習得にかかる時間が短く数ヶ月あればだいたいその国の言葉は日常会話程度には出来てしまっていた。それ故に自分が中学の時には数カ国を話せる学生になっており、自分の得意分野を見つけられた気がした。
その予感は的中し、私は更に話せる言葉を増やし、一方で絶滅の危機にある言語を残す研究を行った。中には既に滅びてしまった言葉もあり、私はそれを復活させる為の調査や解読をしていくうちに、その功績が知れ渡り私はいつしかそれなりの知名度を得ていた。私が異世界の言葉に興味を持ったのはそれより後のことだ。
彼女はもう一つ私に尋ねた。それは、自分がミケルセンと関わっていることについて今も反対かという質問だった。私は素直に「そうだ」と答えた。
彼女の能力を考えれば、人助けに大いに役立つ。こんな場所でその能力を腐らせるべきではないと説明した。その能力を授かったのは何か意味があるのではないのか、人に使命があるとしたらその力を善に使うことだろう。ミケルセンは自分達をゾンビ兵(その名の通り死なない兵隊)と彼女を歓迎した。ミケルセンが彼女を手放さず手元に置いておけば彼に恐れるものはない。それはロクでもないことだ。不景気で治安が悪化したこの国で一番美味しく稼いでる連中が一番社会から消えるべき存在。私は彼女が考え直すのを期待している。
だが、彼女はそういった運命論や使命には関心がなかった。というよりも、彼女には宗教というものがないらしい。そもそも、彼女はこの能力は神とかの授かりものというよりむしろ悪魔みたいな力だと語った。それは他の能力者と戦った時に、あんな能力が人間が持っていい力なのか? そんな疑問があるらしく、これはむしろ使わないことが善ではないのか、ならば何故私はこの力を手にしたのか分からない。この世界に来てしまった理由も。
彼女も珍しく自分の本心を長く語った。
どうやらサヤカは自分は悪だと割り切ってしまっているようだった。
私は人は善にも悪にもなれ、それは行い次第だと答えた。性悪説や性善説の決着のつかない論争はあるものの、結局のところ人に選択肢があるならば、それは選択によって変わるというのが私の考えだ。
だが、彼女にはそれが伝わらなかった。ただ、分からないと答えた。
サヤカにはこの世界の居場所がない。自分で見つけるのを諦め、たまたま居場所を差し出したのがミケルセンだったというだけのことなのだ。
だから、これは巡り合わで、運命と言えるのだ。
この運命を断ち切るにはそれは自分次第だ。サヤカがその答えを見つけない限り、それより先へは進めないだろう。
◇◆◇◆◇
日記を書き終えた私はベッドの中に入った。
一日の出来事を記録するのが日課になってどれぐらいになるだろうか。もうずっと続けている。それは生き返ってからも続けていた。
日記はサヤカにも勧めてみたが、本人はやる気がないようだ。あげた日記は多分使われていないだろう。
それから翌日。
私はいつものように銃の練習の為に外に出て、案山子のような的に向けて銃を何発か撃っていると、そこにサヤカが現れた。
「君は練習は必要ないだろ?」
「面白いこと考えついたの。見て」
そう言う彼女はリボルバーを手にしていた。彼女は適当に撃ちまくる。銃声が空へ響き渡った。そして、異変は直ぐに気づく。
リボルバーからは無限に何度も弾が発射されていた。
「どうなってる……いや、分かった」
「流石は教授」
「能力の応用だろ」
「教授の方はどう? って聞くまでもないか」
サヤカはそう言って的を見た。的は一発も命中していない。
「そもそも私は銃で人を撃ちたくはない」
「銃は人を撃つためにあるんでしょ? その目的の為に発明された」
「だからこそ私は銃規制には賛成の立場だ」
「意味あると思う? 銃を購入する条件を厳しくしても、手製で銃を用意してしまう人だっている」
「確かに。では、君はどう思う?」
「どうも思わない。どうにかなるものではないでしょ? 昨日の夜、ミケルセンの部下達は邪魔になる組織を襲撃して銃撃戦を起こした。ほぼ闇討ちみたいなものだけど、ミケルセンはきっとこの世界の闇の皇帝へと君臨すると思う。実際、沢山の死体がここに運ばれた。私は手下を生き返らせる仕事をさせられたわ」
「その報酬に何を貰ったんだ? いや、聞くまでもない。ミケルセンなら君に大きな宝石だろうと城だろうと土地だろうとくれてやるだろう。君は幹部だ。部下達は君の命令に従うし、部下は君を最高級にもてなすだろう。君を不機嫌にさせた者をミケルセンは許さず、そいつを断罪するだろう。部下は自然と君を恐れもし、崇拝もするだろう。誰もが君をミケルセンの右腕、ナンバー2と見るだろう。いずれミケルセンの後釜になれば次の皇帝は君だ。皇帝になった君は何をするつもりだ?」
「皇帝になれば、裏社会の全てを牛耳ることになる。全てのルート、政治家や経済界の汚職、知りたいものを私は知ることになる。私はそれらを使って甘い蜜を啜ってきた連中全てを表社会にさらけ出す」
「え!? 正気か?」
「私にしか出来ない事。あなたは私に言った。その力を善に使えと。これが私が考えたやり方」
「……」
私は思わず言葉を失った。
「教授、あなたの意見を聞かせて頂戴。教授は今の話を聞いて私について来てくれる? 私に従わされるのではなくて、あなたの考えとして」
「ついていくよ」
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