異世界

アズ

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第一章

08 顔

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 人は悪である。故に神に服従しなければならない。そして、天から現れた光はまさに神だった。驚くべきことに、そう考えるのは一人ではなかったということ。
 そして、ここにいるほとんどが貧しさや孤独や不安から自由から不自由で最低限の生活保障を求めている傾向がある人達ばかりだった。それは、大量生産や激しい競争によって自動化が進められ、道具化された労働者が簡単に機械へととってかわり、仕事が奪われてきたことにある。
 脱資本主義や資本主義の問題点をあげる社会学者が現れたように、資本主義と個人主義によって自分が何者であるのか分からなくなった。それは、機械によって役割を失いスラム街へと追いやられ、社会の競争に敗北し、そこから這い上がることが困難になり格差は広がる人達は能力主義が正義であることを疑い始め、それは社会の不安となり、気づいた時には国家ごと世界の競争に敗北し、民を道連れにして暗闇の中へ沈んでいく泥船であり、そんな中で空から現れた侵略者は貧しい彼らからしたら光にさえ見えたのだ。
 カリラは資本主義を信じていた。支配と保護の交換はつまり、自由を手放すことを意味する。確かに、今の社会は自由と平等の両立が難しい。しかし、科学の発展は少なくとも環境問題のむしろ解決策を見つけ、更には医療分野で多くの命を救った。成長を悪と考えることに抵抗はあって当然だろう。しかし、彼らの思考は言ってしまえばアンチ科学なのだ。だからこそどこか宗教感がある。これは神VS神ではない科学だ。後退し再び支配と保護の交換に戻ることは単に歴史をなぞっているだけだ。むしろ、その先へ歩む必要がある。まだ、自由と平等の両立の方法が見つからないが、それが永遠にそうだとは限らない筈だ。
 とは言え、ここを長居したら私も彼らの考えに染まってしまうんじゃないかという恐怖があった。集団心理に個人がどこまで耐えられるか。
 外からやってきた考えはまさに資本主義を揺らがせ、それは侵略の攻撃を受けている。資本主義が倒れた時、人類は果たしてどこへ向かうのか…… 。




 2日目。
 今日はまだ解体が済んでいないコンサートホールに集められ、そこで定刻の9時丁度に明かりが消え、ステージのスクリーンに映像が流れた。そこには人間がこれまでした歴史、戦争、犯罪、環境破壊の映像が流れた。無音だったが、映像という情報だけで十分に伝わった。戦車の走る音、銃声、悲鳴、木がなぎ倒される音、それらは容易に想像できる。
 映像は次に切り替わる。今度は戦死した息子の棺を目の前に涙しながら神に祈り、災害で起こった被害の残骸を見て手を合わせる人々が映し出された。
 ステージに宇宙服を着た宇宙人達が現れた。人間のパソコンを使いキーを打ち込むとそれが音声として流れた。
「まず、言っておくことがある。我々は平和を求めていない。最初から平和的に行っていないのがその証拠だ。つまり、我々の目的はお前達の排除だ。だが、ここに来てお前達のことを知ろうと情報を得れば得るほど、迷いが深まるるばかりだ。悪だからと言って全てを排除すべきだろうか? アメリカの映画ではヒーローとヴィランが戦い常にヒーローは勝利した。だが、時にかつてのヴィランがヒーロー側になることもある。人間にはそのような部分が備わっているのではないかと。そこで、運良く生き残った君達で人類を試そうと我々は考えた。逃げ出そうとしても無駄だ。お前達に生かす理由がないと判断されればどのみち逃げ場などない。この星は消滅する。お前達に農作業をさせているのは、自分達の食料を自分達でつくることで労働は直接自分にかえる。それは最小限の労働で済み、大量生産の必要性が失われる。生産性は落ちても君達は幸福を自分達で得ることになる。つまり、我々に素直に従えばそこには今より幸せを得ることができる。資本家を太らせるだけの無駄な労働は必要なくなる」
 カリラ以外の全員が拍手をした。カリラは吐き気がした。
 お前達がそれを言うのか! 沢山の人間を殺しておいて、自分達は正義であるかのように喋るな! まるで独裁者だ。人間にこれ以上の発展にブレーキをかけさせ、強き者が永遠に支配する世界。それは単に権力が変わったに過ぎない。しかし、会場にいた全員は真剣に宇宙人の言葉に耳を傾けていた。
 私だけなのか? あの機械音声が耳障りな雑音にしか聞こえないのは?
 私は今直ぐにでも立ち上がり、あいつらに向かって汚い言葉を使いながら両手の中指を立てて「くたばれクソ野郎」と叫んでいたいが、なんとかその感情をおさえつける。
 くだらない演説がおわり昼前には解散すると、それから夕方までは自由時間となった。休みもしっかりあるようで、自由時間の移動は禁止エリアを除き基本自由だが、都市の外へは行けない。ドローンが警告を発するからだ。だが、自由時間のおかげで、周辺の地図を頭の中で描く時間はつくれた。まずは地図を頭の中に把握するところからだ。




 3日目。
 カリラは宇宙人に呼び出しを受け、昨日のコンサートホールへ連れて行かれた。
 ステージの上には一人の宇宙人が立っていた。
「君をずっと監視していた。あちこち散歩していたようだね?」
 カリラは鼻で笑った。
「監視ね」
「そうだ。この首都だった街から出ても変わらない。個人の情報はデータ化され、個人を番号で管理している。あらゆる個人のデータはその個人番号に紐付けされ、番号からプライバシーは全て筒抜けになる。君達を知る為にネットにアクセスし調べることは容易だ、カリラ・ウエスト。君は軍人だということも簡単に知れる」
 カリラは冷や汗をかいた。
「安心しろ。君を殺したりはしない。殺すつもりなら都市に入った時点で実行している」
「最初から?」
「あゝ」
「なら、何故私達を入れたの!?」
「その前に教えなければならないことがある」
 宇宙人はそう言うと、パソコンから手を離し、その手はヘルメットに向けられた。
 まさか!?
 そのまさかだった。宇宙人は自らそのヘルメットに手を伸ばし、それを外したのだ。
 ようやく敵の素顔が見れる。さぁ、いったいどんな醜い姿をしている? ヘルメットが頭から完全に離れる。興奮で心臓のバクバクする音が急に素早くなった。
「そんな!?」
 ヘルメットから見せた素顔は、想像した醜い宇宙人ではなかった。それは人間の男の顔だった。
「あなたは人間!?」
「どんな姿を想像した? それは醜い姿か? 俺の顔はどう見える? 醜いか?」
「どうして……」
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