異世界

アズ

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第一章

07 罪

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 カリラ達は生存者の証言通り一度円盤の中に入り、身につけている全てを脱いだ。生まれたままの姿となった男女は恥じらいながら次の過程へと進んだ。巨大なプールに一緒に入ると、全身に冷たさが襲ったが一般的なプールの温度とそこは変わらない。薬品が入れられ混ざり合うとプールの水は透明からカラフルになる。透明だったからこそ見えていたお互いの体はカラフルな色に隠れた。暫くプールの中でまるで洗濯されている体験を3人が受けると、プールから出るようスピーカーから命令が入る。機械音声で宇宙人が直接喋っている感じではない。
 3人はプールから出ると、タオルを渡されそれで全身の水滴を拭う。臭いは洗剤の香りではなく無臭だった。それから貫頭衣を渡され3人はそれを着た。ここに来るまでの所有物は当然として服も返されることはなかった。
 出口に向かわされ外に出ると、そこで3人は別れるようになる。宇宙服を着た案内人が男女それぞれ違う場所へと案内するからだ。これも情報通りだった。
 3人は顔を合わせ目でメッセージを送った。


 健闘を祈る。


 ここからはカリラは一人になった。まず、自分をどこか別の場所に案内する宇宙人を見た。その宇宙人の腰に銃のようなものがあった。流石に丸腰ではなかった。自分を案内する宇宙人は二人組だった。背は自分より大きかったが、一般的な成人男性の身長とあんまり変わらなかった。カリラは頭の中でイメージした。まず、背後から意表を突き一人からその腰にぶらさげている武器を奪い取って、相方を攻撃してからもう一人を殺すか人質として利用するか考えた。だが、自分の任務を思い出すとそんな馬鹿な考えは直ぐにふっとんだ。意外と自分は冷静だと気づいてホッとする。自分が感情的になれば作戦は失敗に終わっていた。なんとしてもまずこいつらの情報を探る。それからどう殺すかはじっくりと考えればいい。指揮官が自分を行かせてくれた恩をここで仇で返すわけには決していかない。
 案内されたのは広大な畑だった。女は農作業、男は力仕事だというこれも事前情報通りだった。野菜を育てて宇宙人は食料をつくらせているのだろうか? カリラは背後の円盤を見た。あの技術がありながら農作業は人間の労働一つで機械がここには見当たらない。
 カリラはじゃがいもを育てるエリアに案内され、そこで畑作業が命じられた。そこにいた同じ格好の白人で金髪の生存者にやり方を教わった。
「あまり深くに植えちゃだめよ」
 大学生くらいの外見のその女性は慣れたように手早く植えていく。
 遠くの畑では3人のグループが喋りながら作業をしていた。近くにはドローンが飛んでいるが、彼女達は気にせず会話をしていた。
「随分と自由ね」
「驚いたでしょ? 私もね、何で畑仕事させられてるんだろって思ったもの」
「理由は?」
「さぁ?」
「あれでは簡単に逃げ出せるんじゃないの?」
「ムリムリ。ドローンが飛んでるでしょ? 逃げ出したら奴らが直ぐに捕まえに来る。で、引き戻される」
「引き戻される? 殺されないの?」
「多分。最初は抵抗していた人達もいたけど、逃げられないと分かると素直に皆従ったわ」
 金髪女はそう言ってからカリラの表情を読み取って話を追加する。
「分かるわ、ゆるゆるだって言いたいんでしょ。最初は私達を殺しに奴らはやって来たと思ったわ。でも、そうじゃなかった。今ではこの暮らしに幸せを感じている人達もいる」
「どういう意味?」
「確かに私達は自由を奪われた。でも、自由になれたところで全員が自立して生きていけるわけじゃあない。どんどん機械化が進み自動化された社会に私達が働く居場所は奪われていき、酷い国では若者ですら就職難でホームレスになる始末。国は全員を救えないどころか弱者を無視した政策を押し進めるばかり。ここには役割が与えられ、競争がいっさいない。そして、労働環境も私達がいた社会とは違い朝の9時から午後の4時まで。残業もないし、大嫌いな上司もいない。そもそも階級はないし、ここでは皆が同じなの」
「その為なら支配されても構わないというの?」
「そもそも人間が自由にやった結果の罰なんだと今ではそう思うようになったわ。人間が競争をやめればこんなに素晴らしい社会になるんだもの。人間は支配を甘んじて受け入れれば競争社会から逃げることができる」
「まるで侵略者が救世主のような言い草だ」
「本当にそうかもね! 暗い社会に空から突如現れた光は私達に新しい秩序を与えたんだわ」
「その結果大勢の命が奪われた。その犠牲はどう考えるの? それとも必要な犠牲とか言うんじゃないでしょうね」
「そういうのは私には分からないわ。アレが神とかそんなんじゃないとかそんなことは正直どうでもいいの。あなたも逃げられないんだから早く諦めることね」
「最後に聞かせて。あなたは罰だと言ったけど、人間は裁かれなきゃいけない罪人だって考えているわけ?」
「人間は環境破壊だけじゃ飽きたらず沢山の星の資源まで食い荒らしてきたわ。これは立派な罪よ」
「だとしたら裁くのは神になるわね。でも、アレはどう見ても神ではないわ。侵略者であって、この惑星は植民地、私達は奴らの奴隷よ。現実を見るべきよ」
「現実を見ろ? それこそあなたが現実を見るべきでしょ。アレに人類は勝てない。そうでしょ?」
「私は諦めたつもりはない。まだ、人類には可能性がある」
「可能性? どんな? 聞かせてよ」
「それを見つけるのは私ではない。私より遥かに賢い科学者が見つけてくれる。私は少なくとも今死んでやるつもりはない。復讐が果たされるまでは」
 女は鼻で笑った。
「核兵器が人類の科学でしょ。それが通用しなかった。人類は核兵器に自信たっぷりだった。誰もが宇宙人が侵略してきたら核兵器で攻撃すべきだと答えるでしょう。 で、結果人類は科学で敗北したのよ」
 私は信じたくなかった。まだ、科学は敗北したわけではない。たった一度の敗北で全てを捨てるのは早々な決めつけだ。何故、最後まで足掻こうとしないのか?
「それにほら、宗教にも原罪があるように私達は罪人でどのように裁かれるかは本当の意味で分からないでしょ。別に神が直接私達を裁くとは限らないわ。私達は生きているだけでも沢山の罪を犯し続けている。だから、神はあらゆる試練を人間に与える。私達はその罪と向き合い贖罪し、そして救われる」
 犠牲や代償を捧げて罪を償う意味である贖罪を宇宙人の侵略で受けた犠牲と考えるこの女にカリラは震えた。
 原罪については色んな見解が存在する。特に、罪が受け継がれるという点は性悪説の考え方だ。そして、それは現実にも当てはめて考えることができる。過去、敗戦国が今も戦争で犯した罪との向き合い方が課題であるように、この罪は永遠に受け継がれていくのならば、それこそ人類は本当に性悪説であると言える。しかし、性善説であった場合、原罪は否定される。原罪を犯す前は無垢であった。人が生まれた時の赤子もまた無垢である。裸であることを恥じることもない。そんな赤子にどんな罪があると言えるのか。
 歴史は今に至る過程であり、それを知り理解はしても、罪が全て受け継がれる考え方にカリラは否定の立場だった。それは原罪説の否定だ。故に歴史での罪も将来永遠に引き継がれるわけでもない。かと言ってそれは歴史の否定にはならない。罪はその人が生きている間に犯した罪に限定して裁かれるべきなのだ。でなければ、人は永遠に歴史という呪いに縛られ続けることになる。
 歴史は呪いにあらず。歴史は歩んだ道のりだ。
 カリラは目の前の女の説得を諦めた。しかし、カリラ自身の考えは変わらない。アレは敵であり、敵は必ず倒さなければならない。
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