異世界

アズ

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第一章

06 悪足掻き

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 敵円盤に近づくことが困難であることは今更説明するまでもないだろう。空からの無人機、都市に繋がる地下通路でさえ宇宙人の監視網は張り巡らせてあった。では、どうやったら円盤に近づき、生存者を救出出来るのか? その疑問に一つの提案を防衛省は会議の場で示した。それは既に敵に知られている地下通路を使わず、新たに地下通路を掘っていくというもの。そして、目標地点まで一気に進む。この計画には6日必要とされた。この計画に待ったをかけたのはマーティン博士だった。都市に地下道を走らせるには単純に掘り進めるだけでは駄目で慎重にやる必要がある。例えば、地下トンネル建設中に起こる周囲の地上での陥没事故もそうであるが、敵が地下に警戒をした場合、それを探知する備えをしている可能性もある。地中レーダ探査や揺れの感知を拾われたら計画は破綻する。敵の技術力を考えればそのあたりの装備はあるだろう。
 しかし、防衛省は断固として意見を譲らず会議は両者の平行線となった。
 対してマーティン博士の提案は生存者の救出より敵の兵器の分析を優先すべきという意見だった。特に星を消滅させた原因の突き止めは優先順位が高いと訴えた。
 だが、会議のほとんどは防衛省の提示した案に賛成多数で傾いた。大統領も防衛省の意見に賛同した。命が最優先事項であり、救出が何よりも最優先すべきことだからという理由だ。しかし、マーティン博士を支持する少数派はマーティン博士が言うように衛星からの映像で常に生存者の様子が確認出来る為、現状は全人類に対する危機の問題解決を優先すべきと折れることはなかった。
 だが、結局のところ計画は防衛省の提案した内容で確定し、準備が出来次第実行が予定された。
 マーティン博士が会議室を呆れながら出たのは、防衛省のデータの扱いのずさんさである。防衛省は度々データ改竄やら問題を起こしては謝罪の繰り返しでデータの重要性を本当に理解していない。それに肝心な細かい数字の詳細は会議の場で出されなかった。これが呆れないでいられるか。
 それから作戦が実行されたと聞いてからどうなるか様子を見ていたら、都市の外から始めた建設は都市の境に入った瞬間に大爆発を起こし、それは地上からでも黒煙で確認が出来た。つまり、作戦は失敗したのである。




「マーティン博士の言った通りになりましたね」
 ほぼ年齢が近く古い付き合いの政治家ブロイルズだ。防衛省に疑問を持ち自分の意見に賛同した数少ない理解者だ。白髪混じりの高身長な男はマーティンがいつものルーティンの散歩に合わせるかのように現れた。自然公園には犬の散歩やランニング等一般人が普通にいるのに、彼は護衛をつけてもいなかった。
「不用心だな」
「公園の外にはSPが待機してます」
「そばを離れているSPに何の意味がある?」
「今もSPは私から目を離していませんよ」
 そう言われマーティンは周囲を見渡した。周囲は木々と草、途中ベンチがあり、自分より年寄りが座っている。公園の外からでは今いる位置は木々が邪魔してしまう。そこで、マーティンは気がついた。もっと遠くから監視されている。例えば、公園周囲にあるビルの屋上からスコープでこちらを確認するとか。
「あなたと会話に集中するにはそばに護衛がいては邪魔になると思ったからです」
 聞いてもいないのに説明をしだした男にマーティンはとりあえず頷いた。
「マーティン博士はあちこちの惑星で研究をしてきましたが特に星の持つ資源に詳しい。あなたは確か発表された論文の中に宇宙にある硬い物質について素材としての利用方法を幾つかあげていましたね?」
「いかにも。そして、その次の言葉も予測出来る。当てようか? 軍事転用だろ?」
「話しが早くて助かります」
「だが、特に重要だった星Kは既に消滅した。他の星も同様に」
「もしや宇宙人が星を消滅していったのは素材が入手を不可能にする為だったとか?」
「素材はこの星に保管されてあるもので在庫は全てだ。それではとても足りない。それにだ、例え軍事転用を目指すにしても人類に残された時間を考えれば、むしろ目の前にある銀色の円盤や連中の技術を我々は盗む他ない。一から生み出している余裕はない。だが、そもそもアレを解明している時間が我々にあるかだ」
「マーティン博士はどう思っているんですか?」
 マーティン博士は鼻で笑った。
「考えるだけ無駄さ。人間に残された選択肢は少ない。最後まで足掻くか、諦めるかだ。私は諦めが悪い方でね」
「それは良かった。私もです」
「実はそれよりも気になることがある」
「何です?」
「アレの出現だが、この星に近づく円盤を見たわけでも、大気圏に侵入していくところを我々はいっさい目撃していないのに、あれは突然上空から出現した。まるで瞬間移動だ」
「瞬間移動ですか。アレを見てからは不可能だとは思えなくなりましたね。しかし、そうだとするなら何故一気に攻めてこないんです? まるで、タイムラグがあるかのように一斉に出現しないじゃないですか」
「まさにその通りだ。だから、私は本当にタイムラグが起きているんじゃないかと考えている」




 2日後、衝撃的なニュースが世界に震撼しんかんさせた。独裁国家が首都を取り戻す為に大量の兵器と命を消費し抵抗し続けた結果、光の雨が降り注ぎ、その国はその攻撃によって滅んだ。宇宙人によって国が滅んだのは今回が初となる。この結果がもたらす影響は世界に広がった。
 抵抗すれば全滅。この結果に多くが軍事的解決に反対をした。小さな反撃能力は徹底的で圧倒的な抹殺攻撃を受けると知ったからだ。
 これは核兵器を持たない国が核を持つ国に対して核の驚異に常にさらされているのに近い。抵抗はより大きな被害をもたらす可能性があり、それが現実のかたちとして世界に示された。
 世界が非核化出来ないのは単なる抑止力だけでなく、国の軍事力を示すにこれ以上分かりやすいものはないからだ。
 そして、今は核を恐れず、核より上回る兵器を持った宇宙人が現れた。これまでのパワーバランスは一つの存在によって崩されたことになる。
 早速マーティンのパソコンからブロイルズとリモートで繋がり連絡を取り合っていた。
「防衛省は次の手を探しているようだが、正直あてにならない」
「だろうね」
「防衛省の中では君の提案を参考に志願者を集め、敵地に乗り込むという案があるらしい。わざと捕まり、密かに連中の目的を探る案だ」
「都市内に入れば外との通信は不可能になる。どうするつもりだ?」
「方法は幾つかあげられた。一つは情報を持って外へ脱出する方法だ。希望は薄い。もう一つは外に向けて合図を送る案だ。だが、都市の監視網から気づかれないよう合図を送れるかが問題だ。実はもう一つ案があって生き物を使う案だ。小さな小動物の胃の中にメッセージを隠し都市の外へ届けるものだ」
「それは難しい。どう訓練させる? 犬なら可能性はあるが。犬は利口だからな」
「犬の首輪にメッセージを忍ばせることも考えているが、気づかれたりしないだろうか?」
「もしくは非道な手を使うか」
 ブロイルズはそれには返事をしなかった。沈黙がかわりに答えた。
「だが、問題は志願者が出てくるかだ」
「それは問題ない。志願者は数名出ている。その中にカリラ・ウエストもいる」
「カリラ・ウエストが!? 確かウエストは砂漠の方の基地じゃなかったか?」
「問題ないそうだ」
「できれば、彼女には行ってもらいたくはないな」
「軍は彼女が作戦に加わることを許可するようです」
「ジャンヌ・ダルクにでもなるつもりか」
「彼女の幸運と奇跡に期待しましょう」




 一週間後。新たな作戦に集められた3人は任務の説明を受けてから、お互い自己紹介をし合った。任務は敵地へ行き、わざと敵に捕まった後で敵の情報をできるだけ集め、それを外へ送るというものだ。当然、命の保証はない。だが、それでも人類の為に戦うことを選択した勇敢な兵士達に迷いはなかった。
 3人の名前を紹介しよう。ブライアン・ノリス、ジェラルド・ガルシア、そしてカリラ・ウエスト。
 3人は記念に写真を撮り、そして首都へと踏み込んだ。
 まだ銀色の巨大な円盤に押し潰されず残っていた所はあったが、人がいなくなるとまるでゾンビ映画のような場と化していた。
 大きな通りを歩いていると、直ぐにドローンが飛んできて3人をあっという間に囲んだ。複数あるドローンを3人は見ていると、そこに宇宙服を着た宇宙人が3人の前に現れた。3人は降伏を示すポーズ、両手を上げて見せた。
 カリラ・ウエストは宇宙人をじっと見た。顔はJの証言通り見えない。
 こいつがあの円盤の中で操縦し仲間を殺してきた敵。いつか、そのヘルメットを剥いで素顔を晒してやる。そんな強い復讐心を潜めながら、カリラ達は宇宙人達に連行されていった。
 まずは侵入成功。ここから始まる。人類の反撃が。
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