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police
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畳の部屋で着物姿の男は正座をし、目の前の原稿用紙に向かいペンを走らせていた。その男は年寄りで、長い人生のほとんどが物書きに向けられた。いったい幾つ作品を手掛けてきたか。しかし、世に出回る傑作と呼ばれるまでには長い道のりがあった。それまでは世に出回ることはなく、彼の脳みその片隅に埋もれるだけで、知られることも、誰かの記憶に残ることもなかった。大半がそんなものであった。それでもペンを走らせ続けれたのは、最初は自己満足にやっていたからだろう。つまり、趣味である。それが仕事にできたのは運が良かったからだろう。
しかし、その運も長く続けばいいのだが。
いきなり、許可なく襖は開かれた。その音で、年寄りの手が止まる。
襖は男の背後だ。
因みに、彼は一人暮らし。家族がいるわけではない。
男はゆっくりと後ろに座り直す。
襖を開けたのは、土足でそこに立つ婦警であった。紺色に、丸眼鏡のお嬢ちゃん。そう、老人の目からは見えた。
オカッパ頭で腰には警棒がある。
「お巡りさん、せめて靴を脱いでから上がって欲しいな。それに、インターホンは鳴った覚えはないが」
童顔で、弱々しい体をしている。これが、警官。だが、外見で人を判断してはならない。意外にも魔力は人並み以上には感じられる。だが、単なる見せかけかもしれない。
様子を伺う老人に対し、警官は咳払いをした。
(緊張しているのか? まさか、驚いた。新人だったとは。しかし、その割には堂々とした登場だったが……)
「あの……あなた! あなた、リンさんですね」
「ええ、いかにも」
(声が震えている……全く、今の警察は人手不足なのか?)
「あなたには逮捕状が出ています。大人しく、捕まる気ありますか?」
「逮捕状ですか? はて、心当たりがありませんが」
「あなたには殺人の容疑がかけられています。凶器はあなたがさっき持っていたペンです」
「ペン? いや、お巡りさん。いくらなんでもペンで人は殺せないでしょう。まぁ、仮に可能だったとしても、凶器にペンをわざわざ選びますかな。殺すのに大変でしょう? いくら、ペンは剣よりも強しと言いましても、それで殺人などは」
「意味は知っています。ペンで実際戦うわけじゃないことくらいは」
「しかし、あなたは実際私がペンで殺人をしたと言ったではないか」
「ペンは凶器ですが、ペンで実際に殺したわけではなくて、あなたの魔法ですよね?」
「……」
「ミステリーを現実にしちゃダメですよ」
(おや? 声の震えが消えている……)
「私が殺したという証拠はあるんでしょうか」
確かに、女の言う通り私の魔法は小説を現実にする魔法だ。しかし、例えそれが分かったところで、その原稿は燃やしてもうない。
(まさに、証拠が残らない完全犯罪)
「あの、証拠ならあります」
「え!?」
「警察には証拠を消しても復元できる優秀な鑑識がいるんです」
「まさか……」
「あなたが燃やした原稿は復元済みです。ですから、観念しましょ? 正義は必ず勝利します。ですから」
老人はゆっくりと立ち上がる。
「どうやら、私もここまでのようだ」
(仕方がないか……事前に書いておいた、警官が万が一この家に訪れることがあれば物語が発動するようになっている。この家を失うのは残念だが)
原稿には、警官が家に訪れた時から物語は始まっており、結末は家は突然爆発し、警官を巻き込んだ。私は間一髪で生き残る。
だが、いくら待っても自分が書いた物語が発動しなかった。
(どうなってる?)
「あ、忘れていましたが私の魔法は幸運なんです」
「え?」
「運がいいんです、私。因みに今も」
「運?」
「はい。だから、あなたがどんなに運を願おうとも、あなた百パーセント不幸です。大凶です」
「それはまた予想外な結末だ」
「ですね」
(なら、さっきの自信なさげはなんだったんだ?)
結局、その理由は逮捕された後でも分からなかった。
しかし、その運も長く続けばいいのだが。
いきなり、許可なく襖は開かれた。その音で、年寄りの手が止まる。
襖は男の背後だ。
因みに、彼は一人暮らし。家族がいるわけではない。
男はゆっくりと後ろに座り直す。
襖を開けたのは、土足でそこに立つ婦警であった。紺色に、丸眼鏡のお嬢ちゃん。そう、老人の目からは見えた。
オカッパ頭で腰には警棒がある。
「お巡りさん、せめて靴を脱いでから上がって欲しいな。それに、インターホンは鳴った覚えはないが」
童顔で、弱々しい体をしている。これが、警官。だが、外見で人を判断してはならない。意外にも魔力は人並み以上には感じられる。だが、単なる見せかけかもしれない。
様子を伺う老人に対し、警官は咳払いをした。
(緊張しているのか? まさか、驚いた。新人だったとは。しかし、その割には堂々とした登場だったが……)
「あの……あなた! あなた、リンさんですね」
「ええ、いかにも」
(声が震えている……全く、今の警察は人手不足なのか?)
「あなたには逮捕状が出ています。大人しく、捕まる気ありますか?」
「逮捕状ですか? はて、心当たりがありませんが」
「あなたには殺人の容疑がかけられています。凶器はあなたがさっき持っていたペンです」
「ペン? いや、お巡りさん。いくらなんでもペンで人は殺せないでしょう。まぁ、仮に可能だったとしても、凶器にペンをわざわざ選びますかな。殺すのに大変でしょう? いくら、ペンは剣よりも強しと言いましても、それで殺人などは」
「意味は知っています。ペンで実際戦うわけじゃないことくらいは」
「しかし、あなたは実際私がペンで殺人をしたと言ったではないか」
「ペンは凶器ですが、ペンで実際に殺したわけではなくて、あなたの魔法ですよね?」
「……」
「ミステリーを現実にしちゃダメですよ」
(おや? 声の震えが消えている……)
「私が殺したという証拠はあるんでしょうか」
確かに、女の言う通り私の魔法は小説を現実にする魔法だ。しかし、例えそれが分かったところで、その原稿は燃やしてもうない。
(まさに、証拠が残らない完全犯罪)
「あの、証拠ならあります」
「え!?」
「警察には証拠を消しても復元できる優秀な鑑識がいるんです」
「まさか……」
「あなたが燃やした原稿は復元済みです。ですから、観念しましょ? 正義は必ず勝利します。ですから」
老人はゆっくりと立ち上がる。
「どうやら、私もここまでのようだ」
(仕方がないか……事前に書いておいた、警官が万が一この家に訪れることがあれば物語が発動するようになっている。この家を失うのは残念だが)
原稿には、警官が家に訪れた時から物語は始まっており、結末は家は突然爆発し、警官を巻き込んだ。私は間一髪で生き残る。
だが、いくら待っても自分が書いた物語が発動しなかった。
(どうなってる?)
「あ、忘れていましたが私の魔法は幸運なんです」
「え?」
「運がいいんです、私。因みに今も」
「運?」
「はい。だから、あなたがどんなに運を願おうとも、あなた百パーセント不幸です。大凶です」
「それはまた予想外な結末だ」
「ですね」
(なら、さっきの自信なさげはなんだったんだ?)
結局、その理由は逮捕された後でも分からなかった。
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