エレベーター

アズ

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エレベーター

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 その日の午前中、男は巡回に来た看護師に退院の希望を伝えた。この病院にいたらまた襲われる。だが、よく考えれば病院に運ばれる前に職場で自分は襲われていた。となると、自分はその時には既に呪われてしまい、それが引き続き起きていると見るべきかもしれない。となれば、お祓いすべきか。情報社会の時代インターネットで沢山のお祓いの方法やお寺などの紹介が出たが、どれも胡散臭く、ほとんどが情報ゴミであった。何が情報社会か。溢れているのは所詮ゴミじゃないか。
 男はスマホをベッドの上に投げ捨て瞼を閉じ考えた。どうしたらいいのか……原因は何だ? ここ最近の出来事を振り返ってみても心当たりは全く見当たらない。罰当たりをしたこともなければ、心霊スポットに自ら足を運ぶようなこともしていない。そこまで自分は愚かでない。いや……心霊スポット……まさか……
 男はスマホを拾いもう一度検索してみる。検索履歴のお祓いの方法を消して、今度はあのビルについての悪い噂がないか調べてみた。ビルの評価、連絡先、口コミがトップに出てきて、その口コミをタッチした。そして、上から順にざっと見てみるが、コメントは数件でどれも評価は五段階中3~4で、一つだけ5があり、逆に最低評価はなかった。そして、心霊現象というコメントは全くなかった。それからしつこいぐらいに過去の事件やビル建設前の事も調べてみたが、全くヒットすることはなかった。男は諦めスマホを布団の上に投げる。そして、また考え込んだ。
 もし、あのビルでないとしたら他に何がある?
 地域、心霊スポットで調べてみたが、どれもこれといったものはなかったし、こうなると突然心霊現象が起きたことになる。原因も無く? そんなことってあるのか?
 男に心霊体験はゼロだし、むしろ今まで信じていなかった。信仰心もゼロだ。
 そもそもよく考えれば車椅子が勝手にひとりでに動いているだけで、幽霊本体を見たわけじゃない。生霊というわけでもないだろうから、あの車椅子に何かあるのだろうか。無関係というわけではないだろう。
 すると、医者が現れ医者からはもう一日だけ検査入院してもらい、問題なければ後日退院出来ますと言われ、渋々それを男は受け入れた。
 あと一日だけ…… 。




 その日の夜。突然ぱっちりと目が開いた。尿意とかではない。しかし、眠気はすっかり無くなっていた。そして、それはとても嫌な予感がした。


 ギィ……ギィ……


 通路側から車椅子が近づく音がまた聞こえてきた。男は迷った。部屋に籠城すべきかここから脱するべきか。だが、車の時にそれをやったら痛い目を見た。やはり逃げるしかない。男はベッドから起き上がり部屋を出ると、その通路にやはり例のボロボロの車椅子があった。車椅子はいきなりスピードをあげて男に向かってきた。男は走った。

 くそっ……なんだって言うんだよ……

 男はエレベーターを見つけたがそれを無視し、階段に向かい、そこから走って駆け下りる。
 一階に着くと、階段近くにあったエレベーターが突然開き出した。


 ギィ……ギィ……


 男は走り出し病院出口へ向かった。だが、出口は施錠されており、それを開けようとしてもドアは全く微動だにしなかった。男は諦めず窓も試してみるが結果は同じだった。
 男は近くにあった消化器を手に取り窓に投げつけてみた。だが、窓は全く割れなかった。車の時と同じだ。そう直感した男のところに車椅子が追いついた。


 ギィ……ギィ……


 男は落ちた消化器を持ち上げ「それ以上近づくな!」と大声をあげた。だが、それで車椅子が止まるわけもなく進み出した。男は持ち上げた消化器を車椅子に投げつけた。消化器は車椅子に当たり、直後少女のような声がした。


 痛い


 明らかにそう聞こえた。男はまずいことをしたと直ぐに後悔した。直後、男に酷い悪寒が襲いだした。呼吸が荒くなり、明らかに体調が悪化していくのが分かる。
 車椅子は動き出し男に向け真っ直ぐになると、スピードをあげて突進しだした。男は悲鳴をあげながらそれを避けて走り出す。車椅子は壁に激突する手前で止まり、素早く方向転換して男を追いかけだした。
 男は走って逃げ出し、丁度開いていたエレベーターの中に逃げ込み閉めるボタンを押した。エレベーターが閉まり出した時に男はハッとした。
 あれ、なんでエレベーターに逃げ込んだんだ?
 男は慌ててエレベーターに出ようとしたが、既にエレベーターの外に車椅子が止まっていた。エレベーターは閉まりきり、車椅子が見えなくなると、エレベーターは勝手に動き出した。まだ、階数を押していないのに、地下へと。地下なんてボタン、このエレベーターにないのに。
 エレベーター内が急に真っ暗になると、女のうめき声が聞こえてきた。さっきの少女の声とは違う、別の声だ。枯れたような声は男の耳のそばで囁いた。
 男はとても振り向く勇気はなかった。ただ、息がかかり、何かいるのは分かった。エレベーターは止まり、扉が開く。その先は暗闇だった。
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