つぎはぎだらけの異世界

アズ

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04 希望

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 正直に告白すると、俺は今まで宇宙の外がどうなっているのかとか、世界は多世界なのかとか、時間についてとか……そういった知りようもない事についてどれだけ思考しようと、生きていく上ではどうでもいい知識だ。そんなことを真剣に考えるだけ暇なんだなと思ってしまう。実際、ほとんどの人は自分のことでいっぱいだ。お金のこと、将来のこと、結婚のこと、子どものこと、老後のこと。
 だけどどうだろうか……今、俺は砂と汗まみれになりながら見知らぬ荒野を一人彷徨っている。
 SFという膨大な情報量と、それを理解しようと頭を働かせ、普段から怠けている俺の脳みそは簡単に煙をあげパンク状態になるSFが苦手なこの俺が、今まさにそのSFという体験をしながら原因を突き止めようとして動いた結果がこれだ。
 無駄に藻掻いた結果、状況を悪化させ、端から見れば結果だけを見て嘲笑いながら大人しくしていれば良かったのにと馬鹿を扱うような感想を思いつくのではないのか。
 確かに、自分は賢い方ではない。だが、何もせず他人の失敗を笑って自分を棚にあげるゲスな連中とは俺は違うのだ。俺は自分を使ってこの世界を知ろうとしている。
 考えをまとめると以下の4つの構成になる。
 1、現象
 2、原因、仮説
 3、実験、立証
 4、結論
 そして、俺は自分を使って実験をした。そして、余計よく分からなくなったということを結果で知ったのだ。
 これは決して後退ではない。
「何をブツブツ言ってるの?」
「うわっ!?」
 全く気づかなかった。
 そこにいたのは少女だ。小柄で足にはスニーカー、グレーの半ズボンに白の半袖シャツにイルカの絵がプリントされてある。肩まで伸びたストレートの黒髪に顔立ちは日本人。年齢はまだ20歳いかないのではないのか。
「暑さで頭おかしくなった?」
「いや……それより君はいつからそこに?」
「私は天羽照」
「日本人……」
 俺は自分の名を名乗った。
「それで、ここはどこか分かる?」
「さぁ? 私も気づいたらここにいて。ここはついさっき初めてなの。そしたらあなたを見つけてあなたにそれを聞こうとしたのよ」
「俺は分からないよ。俺も気づいたらここにいたんだ」
「本当に? その格好、どう見ても私と同じ状況に思えないんだけど」
 俺は状況を彼女に分かるように説明した。
「なるほどね……つまり、私達は別世界に来ちゃったわけね」
「随分と冷静なんだね……」
「そう? いっそ泣き崩れてママーって必死に叫んで呼んでれば良かったわけ?」
「いや……」
「こんな暑い場所でそんな余計暑くなるようなことはしないわよ。それに、泣いたって状況が変わるわけないしね」
「普通は混乱したりすると思うんだけど」
「あら、じゃああなたは普通なわけ?」
「どうだろ……」
「あなただって冷静じゃない」
「俺にとってこれは初めてじゃないから」
「そうだったわね。とにかくここで長話しするよりこの状況を二人でなんとかしない?」
「どうするつもり?」
「とりあえず、近くの町か村、家でもいいわ。とにかく人がいそうな痕跡を探す。いいわよね?」
「あぁ、同意見だ」
「それじゃ行きましょ。暗くなる前に」
 だが、天羽の思うように日が出ているうちにそれらを見つけることは叶わず、すっかり辺りは暗くなってしまった。
 天羽は夜空を見て「星がない……」と呟いた。
「俺も驚いたよ。この世界の宇宙は他の星はないのか、それともずっと遠くにあるのかもしれないね」
「ないわよ」
「そう?」
 天羽は無口になった。
 それかは二人は暗闇での移動は危険だと判断し、日が出るまではその場で休むことにした。
 野宿も中々勇気が必要で、目が開いたままだが、それでも体を少しでも休めようと横に寝そべった。
 天羽は横で一人小さく「星がないなんてロマンチックじゃないわね」と愚痴をこぼしていた。



◇◆◇◆◇



 朝。天羽と俺は再び歩きだした。
「あなたの仮説だけど、仮説一つ目多世界は分岐によって生まれたという説には反論があるわ。理由はまるで自分達の世界が中心でそこから枝分かれしたような考えには当然その逆に自分達の世界が枝である可能性もある筈よ。でも、にしても似てないわね。分岐とは関係ないけど多世界のようだ、というのが私の見解ね。仮説二つ目、宇宙は広く、多世界に見えて実は遠いどこかの惑星ではないのか? だとしたら何故私達はその惑星にいるのかしら? それは単に未知の超常現象という言葉では足りないくらい説明にはならないわよ。まだ、宇宙の外側で私達の知る世界では通用しない法則、ルールがあるっていう話しならまだ聞ける内容だけど。そして、あなたが自分を犠牲にして行った実験の結果は世界を跨ぐ移動が可能だということ。意図的ではないにしてもね。そして、私達は何かしらのルールに気づかず巻き込まれ世界を跨いでしまったってところかしら」
「昨日の夜で考えてたのか?」
「それぐらいわね。もう何回か実験したらもっと分かるようにはなると思うんだけど」
「だけどそしたらその度に知らない世界へ飛ばされるんだぞ。そう何回も出来ないよ」
「でも、何回かやればいつかは元の世界に戻れるかもしれないよね?」
「どう考えてもリスクの方が高い」
「えぇ、ただ単に何回か繰り返すだけだったらね」
「え?」
「可能性が見えたなら、まだ望みはあるってことよ」



 それから3時間後。空腹と喉に渇きを感じ、だいぶ歩いた筈なのに周囲の景色は殺風景と変わらず、どこまで進んだのかすら分からない、まるで広大な迷路のよう。このまま人と遭遇することもないかもしれない。そんな不安は死と隣り合わせで、飢えて干からびミイラになって死んでもおかしくはなかった。
 唯一の救いは自分一人ではないということ。
 そんな少女はというと
「最悪さ……虫を食べてしのぐ?」と提案してきた。
 こんな殺風景な場所にも虫は生息していた。例えば茶色い巨大な10本足の蜘蛛がいたり、巨大な蛾が空を飛んでいたり、探せばもっと見つかるかもしれない。
 俺達はというと、巨大なダンゴムシがゴロゴロと向かった方向へととりあえず歩いていた。あれだけの大きさ、それなりの餌(エネルギー)が必要になる筈だ。そして、その虫がその場所に向かって移動しているのなら、その先に救いが見つかるかもしれない……という期待だけだ。
「毒を持っていたらどうするんだ?」
「あぁ、確かに」
 天羽は納得した。



◇◆◇◆◇



 その頃、マルテンターサラン観察管は上司に呼び出されていた。自分の監視対象が消えたことで、自分も処分されるんだろうと覚悟して行ったら、突然目隠しをされてどこかへと連れ去られたと思ったら、目隠しを外され気づけば見知らぬ施設に自分はいた。
 白い証明に高い天井には無数の太さ様々なパイプが張り巡らせており、パイプに番号の札が吊るされてある。
 そんな天井からは低い唸るような音が響いていた。
 天井が初めて怖いと感じた。何故怖いと自分が感じたのか分からない。ただの音で怯えるなんてことはなかったのに。
 視線を落とすと、広い部屋の中央に飛行機の部品の残骸がゴミ置き場のように乱雑に置かれてあった。
「それは見ての通り異世界の飛行機だ」
 マルテンターサランは振り返った。すると後ろから黒いスーツの中年男性が歩きながら葉巻を吸っていた。
「飛行機はこの世界に突然現れ不時着した。乗客、パイロットは全員無事。そして、その全員がどうやってこの世界に来たのか方法が分からないと答えた。その残骸は我々が連中の乗り物を調べる為に分解し、組み立てが出来なくなり、そこに残骸を保管している」
「私は……どうなるのですか?」
「君には我々に協力をしてもらう。勿論、君に選択肢はない。その意味はよく分かる筈だ」



◇◆◇◆◇



「俺達、このまま死んじゃうんじゃないのか?」
「まだ死んでないでしょ」
「もう三日だよ。俺達はその間なにも食べていない」
 もう限界といっていい。
「そうね。三日は長い……でも、まだ今日が終わったわけじゃないでしょ。まだ、三日目よ」
「まるで希望がまだあるみたいな言い方だな」
「動けなくなって死ぬまではまだある。そういうあなたは諦めたわけ?」
「いや……」



 荒野という何もない場所には沢山の時間があった。それは一日が長く感じるもので、しかし、明日、その次の日はどうなっているのか分からないという不安があった。
 今日をどう生きのびるかを考えることでいっぱいだった。
 すると突然、天羽は指を差した。俺はその先へと振り向いた。遠くには僅かな緑と、民家が見えた。
 それは希望だった。
 民家はどれも石造りで、玄関横にはだいたい必ずブランケットライトがついていた。
 町の中央に道が通っていて、それはそう長くはなかった。それだけで町の規模はそれ程大きくないことは分かったが、町の反対側の出口から定期的に他の町まで繋ぐ馬車が走っていた。馬車といったが実際は目が八つある4足の生き物だ。一日に一本しかないその馬車に運良く俺達は乗ることが出来た。
「あんた金あるの?」
 隣に座っていた天羽は小声でそう俺に質問してきた。
 確かに天羽はこの世界に来たばかりで当然この世界の通貨を持っていない。
「持ってるよ」
 そう言って俺はポケットに手を突っ込んだ。
「あ……」
「あ?」
「ない」
「嘘でしょ?」
「いや、本当にない」
「どうするの!?」
 もう、俺達は馬車に乗ってしまった。馬車は次の町へと既に進んでいる。代金は後払い。町に到着する前になんとかしなきゃ俺達は捕まってしまう。
「逃げる?」
 天羽はそう提案してきた。だが、相手は馬を持っている。どう逃げるというのだ。
「とりあえず町まで行こう。その町でコミュニティがあれば、お金を借りて支払うしかないよ」
「コミュニティ?」
「俺達以外にも地球人はいる。その人達が地球人同士のコミュニティを設けているんだ。ただ、次の町にそれがあるかは分からないけど……」
「なかったらいよいよ私達はおしまいね。こんなわけのわからない世界に来たと思ったら捕まるだなんて」
「俺はそうだった。収容所に入れられて、色々と地球のことを聞かされたよ。で、どうやってこの世界に来たんだって。そればっか」
「あなたは地球以外に生命があると思う?」
「はぁ? なんだよ急に。今、まさに目の当たりにしてるじゃないか」
「生命が誕生する条件って何かなって思って。だってほら、地球の外では生命を発見するに地球では至っていなかったでしょ? それは何故なのか? その確率がとても少ないからじゃないの? でも、多くは拡大し続ける宇宙では、私達の知らない宇宙では生命が誕生しているかもしれないとロマンに考えるわけだけど、本当にそれはあり得るのかしら? もしかすると、私達の誕生は神によって誕生させられたという話しは案外間違いじゃないかもよ? それぐらいの奇跡。でなきゃ、他の宇宙でもいずれ生命体は発見される筈よ」
「馬鹿な。宇宙の歴史の長さを考えれば、俺達の前に生命体がいて滅んだ可能性だってあるだろ。俺達はそれを知ることが出来ないだけかもしれない」
「私が言いたいのはね、二つよ。私達は結局なんで誕生出来たのか? そして、この世界にも何故人が誕生出来たのか? もし、人類が私達みたいに移動し元々一つの世界にしかいなかった人類が二つの世界に実在するようになったのなら、後者の問いはそれで説明がつくわ。突然行方不明になった飛行機や、神隠しとか」
「だが、それだと納得いかないことがある。この世界に地球の言葉がないことだ。俺達の知らない言葉さ。最近は地球人がこの世界の住人に言葉を教えてるから、地球の言葉を喋れる人も出てきたけど、数は少ない」
 天羽は少し考えた。
「もしかして……何かある?」
「何かって?」
「まだ分からない」



 暫くして見えてきた街は、青いドーム型の屋根が特徴な建物が幾つも建つ街並みだった。広場には噴水があり、小さな子どもたちは下着一枚で水遊びをしていた。
 驚いたのはその街には人間以外に二足歩行のロボットが住人の雑用を担っていたのだ。掃除や荷物運び、店のレジ打ち、工事や建設までロボットだ。人型の白いボディの頭上には小さなアンテナがあり、それで自動から遠隔操作も切り替えられるようになっていた。
「代金は500ね」
「え? 二人で100だって言ってたじゃないか」
「違う! 一人500、二人で1000だ。間違えてもらっちゃ困るよ。お客さん、桁間違えてるよ」
「いやいや、流石に聞き間違えるわけがない! 流石に高すぎるぞ」
「お客さん! まさかあんた支払わない気か!」
「俺は最初の値と違うと言ったんだ」
「あんたの聞き間違えだ。俺は払ってもらわなきゃ困る」
 天羽は言い合いをしているのに気になって、俺の肩をポンポンと叩いてそちらに向かせた。
「お金ないのバレたの?」
「いや、ぼったくりだよ。最初からその気だったんだよ」
「ちょっと待ってよ。街を繋ぐ唯一の馬車がそういうことする!? で、あなたは何て言ってるの?」
「正直、まだこの世界の言葉を流暢に話せるわけじゃないんだ。でも、数字ぐらいは聞き間違える筈はない」
「でも、うちらどっちにしろ私達は支払えないよ?」
 すると、知らない言語で二人が会話し始めたことが気に入らなかったのか運転手が苛立ちながら「何喋ってる!」と怒鳴り声をあげた。
「金が払わないなら警察呼ぶぞ!」
「いいぜ! 俺はあんたの好意を警察に言ってやる」
「こ、好意?」
「ん?」
 俺と難癖つけてきたおっさんと二人は首を傾げた。それを見て天羽も首を傾げる。
「あんたに好意なんて持ってない! 馬鹿なこと言うな」
「は?」
「え?」
 また、二人は首を傾げた。それを見て天羽も首を傾げる。
「もしかして……あんた言葉間違えてるんじゃないの?」
「え? そういうこと?」
 おっさんは気持ち悪そうな顔でこっちを見ている。
 そういうことらしい。
「違うんだ。そういう意味じゃない。間違えただけだ。俺はやりたいと言ったんだ」
 おっさんは悲鳴をあげて一目散に逃げ出した。
「何を言ったわけ?」
「分からない……」
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