つぎはぎだらけの異世界

アズ

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07 調査

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 虫を使った乗り物は色々とある。例えば、巨大蜘蛛に掴まれば崖を登っていけるし、羽のある虫なら空を移動できる。この世界にいる虫は地球の虫よりはるかに大きい虫が沢山いた。そして、人々は生活の一部として虫と共存している。だが、それは地球でも似たものがある。蜂蜜がそうであるように、人は虫の特性を利用している。だが、ほとんどの場合は虫は嫌われものだ。一部、カブトムシなど人気ものはいるけど。
 そんな世界で面白いのが超大型虫の存在だ。知能があるとされ、俺と天羽が見た巨大なダンゴムシより大型の虫らしい。この世界の各地にその種が存在し、その生息区域へはまず一般人は近づかない。研究者ですら、遠くからその虫を観察する程度だ。理由は分からない。
 因みに、見た目巨大ムカデの乗り物で移動して田舎に到着してから約一ヶ月が経過しており、俺達は新たな住まいをなんとか借りることができ、その村で仕事をもらいながらなんとか生活していた。それは豊かな生活とは言えないが、雨風防げる屋内があるだけマシだと考えることにしている。
 田舎での生活は農作業がほとんどで、若者に関しては都会へと稼ぎに出てしまう為に若者は少ない。
 田舎だからなのか、人間関係は密であり、俺と天羽は完全に村では浮いた存在だった。だが、村の手伝いをこなしていくうちに徐々に村との距離感は短くなりつつあった。



「君たちが来てからというもの、仕事が早く終わって助かるよ。全く、君たちのような若い人がこんな田舎に来るなんて珍しいよ。大抵、若者はこんな田舎へは行きたがらないと思っていたが」
 白髪混じりの頭髪に首にタオルをかけ、たまに額の汗をそれで拭うその顔は、瞳が茶色で口元の髭は整っていた。シャツに半ズボンの姿は俺も同じ格好だった。名はシージェボット。この方には色々と世話をしてもらった。例えば住居の提供や仕事までくれた人だ。まさに恩人だ。シージェボットは「若い働き手が丁度欲しかった」と言って俺達は畑仕事や家具を作ったりしていた。家具は街に行けば店で買えるが、この世界の人達は全部を店で買って揃えたりはそもそもしないらしい。家具付き賃貸はともかくとして、大抵家具は自分でつくる。その家具を家族で長年使い回すのだ。例えば使わなくなった勉強机を自分の子どもに使わせたりと。この世界では物を大切にする文化が根づいていたのだ。俺達のいた地球では資本主義がものをいい、大量生産、大量消費が当たり前だった。それも見直されるようになったが、それでも大量のゴミ問題を見れば再利用が上手く機能しているとは言えなかった。だが、都市部では物が充実しているせいか、この村のような生活はあまり見えてはこなかった。
「田舎には田舎なりの良さがあると思います。実際、シージェボットさんのような方にお会いできました」
 シージェボットは苦笑した。
「褒めたってなにも出てこんぞ」
「本当のことを言っただけです」
「またまた……そうだ、君達が言っていた地球人の食べ物が気になってな、グリージブにある研究施設の職員に言ったら、その種の開発をやってくれるそうだぞ」
「え? グリージブの研究者に話したんですか?」
「なんだ? 何かあるのか?」
「いえ……それで、何か言ってましたか?」
「品種改良と味覚研究でやってみても、数年はかかるそうだ」
「味覚研究?」
「あぁ。最近出来た研究部門でな、元々は免疫力や健康を目的とした品種改良が優先的に行われていたんだが、最近は地球人の話す食べ物に研究所も興味を持ってな、それで出来た研究らしい」
「あなた達は味覚は感じないんですか?」
「成長とともに味覚は一番先に衰える。君達地球人のようにずっと味覚があるというのがワシにとっては不思議なんだ」
「そうなんですね。知りませんでした」
「むしろ驚きなのは地球人はかわりに視力の衰えが早いと聞いた。ワシらにはそういった衰えはない」
「そういえばこの世界の人達はメガネをかけている人はいませんでしたが、そういった理由があったんですね」
「どうやら同じように見えてやはり違うようだな」
「そのようです。驚きました。そんなことがあったなんて」
「ワシもだ」
 それから俺は雑談を暫く交わし、手伝いが終わると家に戻った。
 家には既に天羽が戻っていた。
「なにかあったの?」と天羽は俺の顔を見るなり第一声でそれを訊いてきた。
「実はシージェボットさんがグリージブの研究所に俺達のことを話したみたいなんだ」
「まさか気づかれた?」
「シージェボットさんは単に俺達地球人の食べ物の味覚を気にして研究所に相談しただけだ。でも、分からない。研究所が軍に必ずしも話すとは限らない」
「リスクは負えないわ」
「……そうだね。でも、出掛けるとしても明日にしよう。もう直ぐで外は夕方になる。田舎から次の町か村までには暗くなっちゃうよ」
「そうね。それじゃそうしましょう」



 窓を開ければ、夜の涼しい風が入ってくる。村の周りは自然に囲まれており、民家も煙突屋根に石造りの家か木の家がほとんどだ。高い家もビルもない。静かな夜は外から聞こえるのは虫の鳴き声だ。
 しかし、その夜は違った。複数の忍び寄る足、全員が夜の暗闇を利用して全身を黒で装備している。ナイフの先まで黒で光で反射しないよう施されている。無論、そんな必要はない。この田舎ではまず外灯はないし、明かりらしきものは空の虫たちが発光する小さな光の点々であり、その程度の光では注意の必要もなかった。
 ドアの鍵穴を一人が覗き込み細い棒状なものが二本入ると、30秒もせずに鍵が開いた。その音を逃さなかった天羽は目をパッチリと開けてベッドから飛び起きると、俺を揺すり起こした。
「天羽……どうしたの?」
 まだ俺の頭はまだ半分寝ぼけていた。
「静かに。誰か来る」
 それでようやく頭にエンジンがかかったが、時は遅かった。
 目出し帽で顔を隠した集団がぞろぞろと部屋の中に入っていくと、数人はナイフを見せつけてきた。
「抵抗するな!」
 そう言われたところでそもそも抵抗できる武器も力も俺達にはなかった。
 あっさりと俺達は黒い連中に拘束されると、静かな夜のうちに連行された。



◇◆◇◆◇



 軍の電気虫で動く車に乗せられ連行された後、俺と天羽は別々に連れていかれた。天羽の方は着ている衣服を全て脱がされ裸にされると、全てをチェックされた後に襤褸一枚渡され、それに着替えると足枷と手枷をかけられ窓のない牢へとぶち込まれた。対して俺も途中まで同様に受け、俺は牢ではなく別室へ連れられると、その部屋には怪しい装置と、コードで繋がれたこれまた怪しい椅子があった。俺はその椅子に座らされると、拘束具をつけられ椅子から立ち上がれないようにされた。更にコードが繋がったヘルメットのようなものを頭に装着された。
 準備が整うと軍服の男が俺の前に丸椅子を持って現れた。丸椅子を目の前に置き、そこに座ると、俺と男は正面を向き合うかたちとなった。
「さて、質問をする。答えなかったり嘘をついたらどうなるかは説明するまでもないだろ。では一つ目だ」
 俺が返事をする前に男は質問を始めた。
「お前はどこにいた? 正確にはこの世界にいなかった間のことだ」
 俺は正直に答えた。見知らぬ飛行場にいたことを。そして、直ぐにこちらの世界に戻ってきたことを。
「その飛行場には当然空を飛ぶ飛行機があった筈だ。見覚えのあるやつか?」
「いや、そんな感じじゃなかった。俺の見覚えのある飛行機とは違う」
「なるほど。お前は地球の現実世界ではなく、お前にとっては過去へと飛んだんだろう」
「それはタイムスリップをしたってこと?」
「質問は俺がする。お前は俺に聞かれたことだけ答えればいい」
「分かった」
「今のは質問じゃない。命令だ。では、次の質問だ。お前はその時誰かと会ったりしたか?」
「いや、会っていない。直ぐに戻ったから」
「お前はどうやってこの世界から別世界へと行けた?」
 俺は正直に例の不思議な体験をする森の話しをした。
「それ以上のことは俺にも分からない。どういう理屈かも」
「お前と一緒にいた女も地球人だな? お前の母国語と同じ言葉だったが、どこで会った」
「こちらの世界に戻った時に彼女はいた」
 その後も幾つかの質問に俺は答えるだけで、拷問のようなことは実際行われることはなかった。だが、いつまでもそうはいられないかもしれない。それはいつまで続くのか…… 。



◇◆◇◆◇



 その頃、マルテンターサランは小さな個室を与えられた。といっても、部屋の外では自由がない。通路や階段、どこへ行こうと監視カメラがあり、ずっと監視されている感じだ。実際にそうなんだろう。私が逃亡しないように。だが、そんな気なんてマルテンターサランにはなかった。
 昨日、自分の担当であった例の地球人の少年が見つかったとわざわざ軍の人間が私に伝えに来たが、私にはもうあの男のことなんかどうでも良かった。既に私の観察管としての任務は解かれている。
 それより自分のことで頭がいっぱいだ。このまま軍のいいように自分は使い捨てにされるのだろうか。
 マルテンターサランは部屋にあるベッドに座り壁に凭れ、膝を立て、その上で両手で尖塔をつくった。
 軍の連中の目的は地球の侵略、支配ではない。独裁者を目指しているわけではないと。
 あの男が語った内容で驚愕したのは二つ。一つはこの国の軍人の中に地球人が複数人いるということ。そのほとんどが元軍人か軍の研究者か防衛省等にいた人物だ。そして、彼らは積極的に地球の軍事情報を明かしている。これは売国というより地球を売っているようなものだ。そんな愛国心の欠片もない連中は危険で信用ならない筈なのに、何故軍に配属が許された? それが交渉の条件だったのだろうか。
 もう一つは私に与えられた任務だ。地球人とこちらの考えられる溝を埋める有効手段を見つけること。
 あくまでも戦争は回避し、地球人が我々を認識するまでは調査と技術の盗みを継続。
 そして、その手段として私は地球へと向かい、地球人のふりをしながら連中のことを知るというのが任務だ。
 既に何名かは地球に潜伏しており、地球人と同じ生活を送りながら情報収集につとめている。
 勿論、拒否は出来ない。
 地球への移動手段は極秘で教えては貰えない。麻酔をかけられ、意識を失っている間に地球へと送るというのだ。そして、調査期間が終了すると、こちらから引き戻すという。
 それを聞かされた時、頭の中がパニックになった。それだというのに、与えられた任務はなんとなく分かってしまった。
 だからこその地球の情報を覚えさせられたのかと今になってようやく理解出来た。
 任務の実行日は今から一週間後。
 引き返せないのは分かっている。だが、自分の任務の重要性は理解しつつも、その上司が信用出来ない。それに、これはとても危険だ。
 独裁を目指すわけでも、地球をなにかしようというより、ただ、今の状況が続けばという狙いが連中の本音だろう。もし、その状況で発覚すれば交渉ではむしろ相手に不信感を与え溝はむしろ深まるだろう。警戒よりむしろ逆に向かっている。だからといってそれじゃ何が正しいのかと問われればそれは分からない。
 この答えのない難題に私一人が考えたところで分かる筈もなかった。



◇◆◇◆◇



 そして、遂にその時がやってきた。
 地球人の格好としてスニーカーにシャツ、ズボンに着替え終わると、ベッドへと横になった。すると、例の葉巻男がやって来た。
「任務についてよく分かってるな?」
「はい」
「いいだろう。気分は?」
「複雑です」
「まぁ、そうだろう。だが、別宇宙に行けるのだ。これは滅多にない機会だ。むしろ、好奇心を持たないのか?」
「……」
「随分、緊張しているようだな」
 そこへ白衣のハンサム男がやって来た。
「皆、最初はそんなものです」
 葉巻男は白衣の男を一瞥すると「始めろ」と命令を下した。
「それじゃ始めるよ」
 男はマルテンターサランに麻酔を入れ始めた。
 意識は朦朧とし始め、やがて意識が遠のいていくとマルテンターサランは意識を失った。



 夢は見なかった。
 自分が意識を失っている間に何が行われたのか分からない。ただ、信じるだけだ。
 そして、意識が戻り目を開けると、見知らぬ部屋のベッドに自分は横になっていた。部屋を見渡すと寝室だろうか? 窓の外は明るく、ベッドから起き上がり窓へ向かうと、マルテンターサランは言葉を失った。
 それは高いビルが幾つもあり、下を見下ろすと地上は遠くにあって、沢山の人が小さく見えた。
「これは……」
 これが地上なのか!?
 すると、視界が少しぐらついた。
 目眩!?
 バランスを崩し倒れそうになったところで、誰かが自分の体を支えてくれた。
「誰?」
 振り向くと、金髪のブロンドの白人女性がいた。
「大丈夫?」
「えぇ……」
「無理しないで。最初は慣れないからまるで貧血と似た症状を起こすの。でも、何度か経験すれば慣れるわ」
「ということはあなたは……」
「えぇ、あなたのことは既に聞いているわ。私の役割はあなたが慣れるまでの面倒と、案内役よ」
「だとすると私は成功したってことね」
「えぇ、そうよ」
「ここは?」
「日本の東京よ。分かる?」
「東京!? ……えぇ、分かるわ」
 まさか、日本だとは……私の担当していた地球人が日本人だったからか?
「まずは暫く座って。水を持ってくるわ。それで少しはよくなる筈だから」
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