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09 燃え盛る空 ②
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先生の部屋を出ると通路になっており、各先生方の部屋に繋がる扉が通路沿いに並んでいる。等間隔に花瓶に生けた花が飾られており、ドアには先生方の名前のプレートがある。
通路の突き当りには階段があり、二階から一階に降りると玄関口へと向かった。玄関出口正面にはゴシック建築のような特徴ある旧校舎がある。一階は研究室になっており、二階からは生徒達の教室になっている。
広大な敷地には芝生と庭があり、そこにはベンチがあって休憩場所としても使えた。
新校舎と校庭はここから少し離れた場所にあり、新校舎は最新のセキュリティが整備されており、関係者以外立ち入りが禁じられている。そこには重要な機器が沢山あった。
アンヘルブの車は大学の駐車スペースにある来客用にとめてあった。それはここからは近い場所にあった。
車は赤い目立つ色で四人乗りの車だったが、気になったのは電気虫ではなく別の虫がボンネットの上に搭載された新自動車であるということ。風船のような見た目に皮膚は薄く透明で中が見える不思議な虫で、口元はタコのようでそこから水蒸気を吐き出す。中にある水分がブクブクと泡を発生させ、触るとヤケドをするのか赤いシールで「触るな! キケン!!」と警告してあった。水を与えて刺激を与えれば水蒸気で動く自動車となるのだ。
相変わらず、この世界に生息する生き物達はかわったものばかりだといつも驚かされる。
その車に全員が乗り込むと、運転席にいるアンヘルブは車を発進させた。
駐車場を出て直ぐの通り沿いに大学専属の庭師が使う小屋があり、目の前を通り過ぎると大学の正門を抜け、大きな街に出た。
アクセルを踏み込みスピードを上げ、窓を開けると風が心地よく入ってきた。俺は後部座席で外の景色を眺めていると、アンヘルブは助手席に座る先生を一瞥し運転しながら喋り出した。
「想像出来ますか? 空から炎が迫ってくるのを。どこへ逃げたらいいのか分からないでしょう。とりあえずは屋根を探すかもしれない。そこに地下があれば望みはあると考えるかもしれません。しかし、町を滅ぼした炎は建物を燃やし、中にいた人々を丸焼きにした。出口を求め外に出たら炎に直撃、熱でその前に無事ではないかもしれない。そんな光景を想像出来ますか?」
「恐怖に感じた筈です。都会であれば大パニックが起きていた。都会には地下もありますが、そこに一斉に人は集まり大渋滞になるでしょう。そういった災害を想定した避難所はありませんから、全員が助かることはなかったでしょう。むしろ、あの町より犠牲者を出していた」
「そうでしょうね」
通り雨で出来た水溜りを車のタイヤが通過し、水が跳ねた。
◇◆◇◆◇
その頃、マルテンターサランは日本にいた。もう一人の金髪の白人女性は地球製のパソコンで世界のあらゆる情報をそれで見せた。
「この世界で分からないことは検索すればほぼ出るわ。ただ気をつけて欲しいのが、中には嘘の情報もあるから怪しいと思った内容は簡単に信じないで」
「それで、外に沢山飛んでいるアレは何?」
「あぁ……」
女はそう言って窓の外で飛んでいるドローンを一瞥した。
「あれは社会実験よ。大量のドローンを飛ばすの。一部安全性の問題で反対派もいたようだけど、世間はそれよりも面白がっている感じね。あれで荷物を運んだり、色んなことに活用する為よ。ドローンの制限箇所はあるけど、この国では宅配業者の人手不足にドローンの活用が期待されてるのよ」
「でも、さっき安全性の問題って言ってたけど、安全じゃないの?」
「あんなのが落ちてきたら危ないってことよ。まぁ、強風の時はやらないというルールはあるみたいだけど。私にはどうでもいいことね。気になる?」
「いえ……」
「そう。で、あなたはこれからここでなにをしてもらうかを説明するけど構わないかしら」
「えぇ。でも、あなたも一緒に行動するわけじゃないの?」
「残念。私達はそれぞれ任務は異なるわ。私は最低限のあなたのサポートを任されているから質問には答えるし、出来る範囲の協力はするけど、私には他に自分の任務もあるから、ずっとあなたをサポートしてはいられないわ。だから、あなたが一人でやっていけるようにこれから教えていく」
マルテンターサランは頷いた。
「分かったわ」
◇◆◇◆◇
あれからどれぐらいの月日が経過したのか。未だ町へは規制線が引かれており、一般人の立ち入りは禁じられたままだった。とはいえ、見張りの軍人は立っているわけではなく無人のままだった。
車は規制線の前でとまり、俺達は降車した。
アンヘルブが三人の中で先頭を歩き、俺達はその後に続いた。規制線の下を潜り抜けると、廃墟の町が視界に広がった。建物は残骸がそのまま残されており、復旧する様子すらない。
「一様町の住人のファイルと鑑識の結果、遺体の解剖結果等の資料ぐらいは用意出来ます」
「町の損壊は聞いていた通りだな」
先生はそう言いながら全壊した町の様子をじっくりと見渡していく。
「どうですか、気になる点はありますか?」
「気になる点か……そうだな、炎は丁度町の中で留まっている。炎の影響がそれ以上広まった様子はない。これは偶然か?」
「分かりません」
「そう言えば確か事件があった当日、目撃者がいなかったか?」
「いました。その人物は町の人間ではなく、隣街の住人でした。名はビィーコス」
「その人物と会って話しがしたい」
「住所はそのままだから今から行けば夕方前には到着するでしょう」
「では急ごう」
◇◆◇◆◇
ビィーコスは独身で一人暮らしだった。ワンルームの賃貸に居住で、精悍な顔つきな男性だった。白いシャツに長ズボン、白人でスポーツ刈りの頭、瞳の色は黒かった。
「ビィーコスさんですね?」
「そうですが……」
「私は捜査官のアンヘルブです。こちらは大学教授とその助手です。実はビィーコスさんが見たという空に突然炎が出現した件について先生に同じ説明をしていただきたいのですが、今お時間は大丈夫ですか?」
「中へどうぞ」
三人はお言葉に甘えお邪魔することになった。部屋は片付いており、情報通り同居人の様子は伺えない。
ソファーに二人、丸椅子に俺とビィーコスが座った。丸椅子は使い込まれているのか、座面に細かい傷がついていた。
「あの話しを警察に話した時、俺を見る捜査官の目は疑いの目をしていた」
「私はその捜査官ではありません。ですが、前の捜査官に失礼な態度がありましたらお詫びします」
「いや、構わない。それで、今度は専門家を呼んだわけか」
「この事件は単純な火事では済みません。私達に必要なのは不可解なこの事件を解決する為の専門知識です」
ビィーコスは教授の方を見た。
「先生は俺の話しを信じるか?」
「まずは聞いてみないと」
「それは状況によってはあり得るということか?」
「ビィーコスさん、この世にはまだ私達の知らないことが存在する。それらはまだ科学で説明出来ないことだ。例えばサイコキネシス、テレパシー、心霊現象もそうでしょう」
「俺は幽霊は信じていない」
「そうですか。では、科学の話しをしましょう。現象には原因がある。原因と結果です。因果律とも言う。科学者はそれをもとに仮説を立てて一つ一つそれを立証しようとする。それが私達が唯一信じられるものだ。だが、同時に科学で本当に全ての出来事を説明することは可能なのだろうか? その疑問の答えをまだ私達は本当の意味で知らない。であるならば、科学という領域内で全てを語るのは危険だ。私は科学の外にあるものに大変興味がある」
「分かった」とビィーコスがそう言うと、その時の状況について説明しだした。
「あれは俺が用事があって町へ向かっている時だった。空でいきなりカミナリのような音がしたんだ」
「カミナリ?」
「多分な。で、空を見ても別に雨が降りそうなわけでもなくて、それにカミナリが光っている様子もなかった。だから暫くは空を見上げていたんだが、するといきなり空が眩しく光って、あまりの眩しさに腕で視界を覆ったが、その間にも空から激しいカミナリのような音がずっと轟いていて、気づいた時には空は真っ赤な炎で覆われていたんだ。炎は下にいる町を襲い、俺は何が起こっているのか分からずとにかくその場から走って逃げた。その後さ。町は全壊し沢山の死者が出たと知ったのは」
「電気が火災の原因になることはある。落雷で木が燃えた例はあるが、空が燃えるなんてことは……他に気になることはありませんでしたか?」
「いや、逃げるのに必死で特には……」
「そうですか……」そう言って先生は口元に手を当てて考え込んだ。
「先生、それで何か分かりそうですか?」
「いえ、むしろ疑問が増えました」
「ええ!?」
「実は今回の事件は個人的にも興味がありました。いえ、私だけではなかったでしょう。気象の専門家に訊いたのですが、その日のその時間帯の雷注意報は出ていなかったそうです」
「それは知っています。前の捜査官がそのように言ってましたから」
「その気象データが間違っていたとは考えられません。だからといってあなたの証言が間違っているとも思えない」
「どういうことです?」
「つまり、矛盾。それが難点で、果たしてこの両方が両立する事態とは……」
先生はそう言いながら棚の方を見た。棚の中は隙間が広く、飾り物の他にある本は少なく、ほとんどが小説だった。
「お手洗いを借りても宜しいですか?」
「えぇ、どうぞ」
結局のところこれといった成果は得られず、ビィーコスから聞いた話しのだいたいは既に捜査官の聞き取り通りの内容だった。
だが、先生はそのことには気にしていない様子だった。そう分かるのは先生があの男に興味を示していたからだ。その理由に先生はあの男との話しの途中から部屋を時々は見渡していたからだ。それは当然アンヘルブも気づいていた。
「先生はビィーコスが怪しいと見ているんですか?」
アンヘルブは帰り道の運転中に隣に座る教授を一瞥しながらそう訊いた。
「あなたの前の捜査官もその男を怪しんでいた」
「それは現場近くにいたからです。放火事件の常習犯の場合、犯人は現場に戻って状況を見ようとする。勿論、今回の犯人像は分かっていませんし、町を全壊させる火災を一人で起こしたとは考えたくありませんが、捜査においてあらゆる可能性を考慮します。その上で現場近くにいた男は捜査官にとっては重要人物に位置づけられる。しかし、物的証拠はなく逮捕したとしても起訴は難しいと判断され、事件は未だ未解決のまま。正直、男の証言が真実でこれは超自然現象だと考える者も少なからずはいます」
「私があの男を怪しむ理由は他にあります。あなたからいただいたあの男に関する身辺調査ですが、その中に一つだけ怪しいところがあります」
「何です?」
「職業欄です。運送業者とありますが、それは単に身分を偽る為でしょう。運送業者と言えば、あの町を出入りしても怪しまれることはありませんからね。これはまだ確証ではありませんが、おそらくあの男の本職は軍人でしょう」
「軍? では、あれは軍の仕業というのか?」
「私がお手洗いを借りに席を立ったのを覚えていますか?」
「えぇ、覚えてます」
「洗面所に幾つかの薬がありました。私の知り合いの退役軍人が内服していた薬と同じものでした」
それを聞いて俺とアンヘルブは同じことを想像した。
「戦争こそこの世界ではありませんが、危険な任務がないわけではありません。軍については知人に軍を専門にしていて、その人が言うには軍の予算が毎年増額していることに不思議に感じていました。しかし、ご存知の通り軍の予算の振り分けを一般公開は軍の機密上されない」
「軍が勝手なことをしているというのか?」
「いえ、それはありえません。軍事国家ではありませんから予算の決定権はあくまでも政治家にあります。重大な決定権すら軍が持つことがないのは現法を見ても明らかです。問題は彼があの町でなにをしていたか。アンヘルブ捜査官、あの町の最新版の地図を出来るだけ早く手配してもらえませんか」
「分かった」
「まずは町のことを理解しなければ。廃墟では全く分かりませんからね」
通路の突き当りには階段があり、二階から一階に降りると玄関口へと向かった。玄関出口正面にはゴシック建築のような特徴ある旧校舎がある。一階は研究室になっており、二階からは生徒達の教室になっている。
広大な敷地には芝生と庭があり、そこにはベンチがあって休憩場所としても使えた。
新校舎と校庭はここから少し離れた場所にあり、新校舎は最新のセキュリティが整備されており、関係者以外立ち入りが禁じられている。そこには重要な機器が沢山あった。
アンヘルブの車は大学の駐車スペースにある来客用にとめてあった。それはここからは近い場所にあった。
車は赤い目立つ色で四人乗りの車だったが、気になったのは電気虫ではなく別の虫がボンネットの上に搭載された新自動車であるということ。風船のような見た目に皮膚は薄く透明で中が見える不思議な虫で、口元はタコのようでそこから水蒸気を吐き出す。中にある水分がブクブクと泡を発生させ、触るとヤケドをするのか赤いシールで「触るな! キケン!!」と警告してあった。水を与えて刺激を与えれば水蒸気で動く自動車となるのだ。
相変わらず、この世界に生息する生き物達はかわったものばかりだといつも驚かされる。
その車に全員が乗り込むと、運転席にいるアンヘルブは車を発進させた。
駐車場を出て直ぐの通り沿いに大学専属の庭師が使う小屋があり、目の前を通り過ぎると大学の正門を抜け、大きな街に出た。
アクセルを踏み込みスピードを上げ、窓を開けると風が心地よく入ってきた。俺は後部座席で外の景色を眺めていると、アンヘルブは助手席に座る先生を一瞥し運転しながら喋り出した。
「想像出来ますか? 空から炎が迫ってくるのを。どこへ逃げたらいいのか分からないでしょう。とりあえずは屋根を探すかもしれない。そこに地下があれば望みはあると考えるかもしれません。しかし、町を滅ぼした炎は建物を燃やし、中にいた人々を丸焼きにした。出口を求め外に出たら炎に直撃、熱でその前に無事ではないかもしれない。そんな光景を想像出来ますか?」
「恐怖に感じた筈です。都会であれば大パニックが起きていた。都会には地下もありますが、そこに一斉に人は集まり大渋滞になるでしょう。そういった災害を想定した避難所はありませんから、全員が助かることはなかったでしょう。むしろ、あの町より犠牲者を出していた」
「そうでしょうね」
通り雨で出来た水溜りを車のタイヤが通過し、水が跳ねた。
◇◆◇◆◇
その頃、マルテンターサランは日本にいた。もう一人の金髪の白人女性は地球製のパソコンで世界のあらゆる情報をそれで見せた。
「この世界で分からないことは検索すればほぼ出るわ。ただ気をつけて欲しいのが、中には嘘の情報もあるから怪しいと思った内容は簡単に信じないで」
「それで、外に沢山飛んでいるアレは何?」
「あぁ……」
女はそう言って窓の外で飛んでいるドローンを一瞥した。
「あれは社会実験よ。大量のドローンを飛ばすの。一部安全性の問題で反対派もいたようだけど、世間はそれよりも面白がっている感じね。あれで荷物を運んだり、色んなことに活用する為よ。ドローンの制限箇所はあるけど、この国では宅配業者の人手不足にドローンの活用が期待されてるのよ」
「でも、さっき安全性の問題って言ってたけど、安全じゃないの?」
「あんなのが落ちてきたら危ないってことよ。まぁ、強風の時はやらないというルールはあるみたいだけど。私にはどうでもいいことね。気になる?」
「いえ……」
「そう。で、あなたはこれからここでなにをしてもらうかを説明するけど構わないかしら」
「えぇ。でも、あなたも一緒に行動するわけじゃないの?」
「残念。私達はそれぞれ任務は異なるわ。私は最低限のあなたのサポートを任されているから質問には答えるし、出来る範囲の協力はするけど、私には他に自分の任務もあるから、ずっとあなたをサポートしてはいられないわ。だから、あなたが一人でやっていけるようにこれから教えていく」
マルテンターサランは頷いた。
「分かったわ」
◇◆◇◆◇
あれからどれぐらいの月日が経過したのか。未だ町へは規制線が引かれており、一般人の立ち入りは禁じられたままだった。とはいえ、見張りの軍人は立っているわけではなく無人のままだった。
車は規制線の前でとまり、俺達は降車した。
アンヘルブが三人の中で先頭を歩き、俺達はその後に続いた。規制線の下を潜り抜けると、廃墟の町が視界に広がった。建物は残骸がそのまま残されており、復旧する様子すらない。
「一様町の住人のファイルと鑑識の結果、遺体の解剖結果等の資料ぐらいは用意出来ます」
「町の損壊は聞いていた通りだな」
先生はそう言いながら全壊した町の様子をじっくりと見渡していく。
「どうですか、気になる点はありますか?」
「気になる点か……そうだな、炎は丁度町の中で留まっている。炎の影響がそれ以上広まった様子はない。これは偶然か?」
「分かりません」
「そう言えば確か事件があった当日、目撃者がいなかったか?」
「いました。その人物は町の人間ではなく、隣街の住人でした。名はビィーコス」
「その人物と会って話しがしたい」
「住所はそのままだから今から行けば夕方前には到着するでしょう」
「では急ごう」
◇◆◇◆◇
ビィーコスは独身で一人暮らしだった。ワンルームの賃貸に居住で、精悍な顔つきな男性だった。白いシャツに長ズボン、白人でスポーツ刈りの頭、瞳の色は黒かった。
「ビィーコスさんですね?」
「そうですが……」
「私は捜査官のアンヘルブです。こちらは大学教授とその助手です。実はビィーコスさんが見たという空に突然炎が出現した件について先生に同じ説明をしていただきたいのですが、今お時間は大丈夫ですか?」
「中へどうぞ」
三人はお言葉に甘えお邪魔することになった。部屋は片付いており、情報通り同居人の様子は伺えない。
ソファーに二人、丸椅子に俺とビィーコスが座った。丸椅子は使い込まれているのか、座面に細かい傷がついていた。
「あの話しを警察に話した時、俺を見る捜査官の目は疑いの目をしていた」
「私はその捜査官ではありません。ですが、前の捜査官に失礼な態度がありましたらお詫びします」
「いや、構わない。それで、今度は専門家を呼んだわけか」
「この事件は単純な火事では済みません。私達に必要なのは不可解なこの事件を解決する為の専門知識です」
ビィーコスは教授の方を見た。
「先生は俺の話しを信じるか?」
「まずは聞いてみないと」
「それは状況によってはあり得るということか?」
「ビィーコスさん、この世にはまだ私達の知らないことが存在する。それらはまだ科学で説明出来ないことだ。例えばサイコキネシス、テレパシー、心霊現象もそうでしょう」
「俺は幽霊は信じていない」
「そうですか。では、科学の話しをしましょう。現象には原因がある。原因と結果です。因果律とも言う。科学者はそれをもとに仮説を立てて一つ一つそれを立証しようとする。それが私達が唯一信じられるものだ。だが、同時に科学で本当に全ての出来事を説明することは可能なのだろうか? その疑問の答えをまだ私達は本当の意味で知らない。であるならば、科学という領域内で全てを語るのは危険だ。私は科学の外にあるものに大変興味がある」
「分かった」とビィーコスがそう言うと、その時の状況について説明しだした。
「あれは俺が用事があって町へ向かっている時だった。空でいきなりカミナリのような音がしたんだ」
「カミナリ?」
「多分な。で、空を見ても別に雨が降りそうなわけでもなくて、それにカミナリが光っている様子もなかった。だから暫くは空を見上げていたんだが、するといきなり空が眩しく光って、あまりの眩しさに腕で視界を覆ったが、その間にも空から激しいカミナリのような音がずっと轟いていて、気づいた時には空は真っ赤な炎で覆われていたんだ。炎は下にいる町を襲い、俺は何が起こっているのか分からずとにかくその場から走って逃げた。その後さ。町は全壊し沢山の死者が出たと知ったのは」
「電気が火災の原因になることはある。落雷で木が燃えた例はあるが、空が燃えるなんてことは……他に気になることはありませんでしたか?」
「いや、逃げるのに必死で特には……」
「そうですか……」そう言って先生は口元に手を当てて考え込んだ。
「先生、それで何か分かりそうですか?」
「いえ、むしろ疑問が増えました」
「ええ!?」
「実は今回の事件は個人的にも興味がありました。いえ、私だけではなかったでしょう。気象の専門家に訊いたのですが、その日のその時間帯の雷注意報は出ていなかったそうです」
「それは知っています。前の捜査官がそのように言ってましたから」
「その気象データが間違っていたとは考えられません。だからといってあなたの証言が間違っているとも思えない」
「どういうことです?」
「つまり、矛盾。それが難点で、果たしてこの両方が両立する事態とは……」
先生はそう言いながら棚の方を見た。棚の中は隙間が広く、飾り物の他にある本は少なく、ほとんどが小説だった。
「お手洗いを借りても宜しいですか?」
「えぇ、どうぞ」
結局のところこれといった成果は得られず、ビィーコスから聞いた話しのだいたいは既に捜査官の聞き取り通りの内容だった。
だが、先生はそのことには気にしていない様子だった。そう分かるのは先生があの男に興味を示していたからだ。その理由に先生はあの男との話しの途中から部屋を時々は見渡していたからだ。それは当然アンヘルブも気づいていた。
「先生はビィーコスが怪しいと見ているんですか?」
アンヘルブは帰り道の運転中に隣に座る教授を一瞥しながらそう訊いた。
「あなたの前の捜査官もその男を怪しんでいた」
「それは現場近くにいたからです。放火事件の常習犯の場合、犯人は現場に戻って状況を見ようとする。勿論、今回の犯人像は分かっていませんし、町を全壊させる火災を一人で起こしたとは考えたくありませんが、捜査においてあらゆる可能性を考慮します。その上で現場近くにいた男は捜査官にとっては重要人物に位置づけられる。しかし、物的証拠はなく逮捕したとしても起訴は難しいと判断され、事件は未だ未解決のまま。正直、男の証言が真実でこれは超自然現象だと考える者も少なからずはいます」
「私があの男を怪しむ理由は他にあります。あなたからいただいたあの男に関する身辺調査ですが、その中に一つだけ怪しいところがあります」
「何です?」
「職業欄です。運送業者とありますが、それは単に身分を偽る為でしょう。運送業者と言えば、あの町を出入りしても怪しまれることはありませんからね。これはまだ確証ではありませんが、おそらくあの男の本職は軍人でしょう」
「軍? では、あれは軍の仕業というのか?」
「私がお手洗いを借りに席を立ったのを覚えていますか?」
「えぇ、覚えてます」
「洗面所に幾つかの薬がありました。私の知り合いの退役軍人が内服していた薬と同じものでした」
それを聞いて俺とアンヘルブは同じことを想像した。
「戦争こそこの世界ではありませんが、危険な任務がないわけではありません。軍については知人に軍を専門にしていて、その人が言うには軍の予算が毎年増額していることに不思議に感じていました。しかし、ご存知の通り軍の予算の振り分けを一般公開は軍の機密上されない」
「軍が勝手なことをしているというのか?」
「いえ、それはありえません。軍事国家ではありませんから予算の決定権はあくまでも政治家にあります。重大な決定権すら軍が持つことがないのは現法を見ても明らかです。問題は彼があの町でなにをしていたか。アンヘルブ捜査官、あの町の最新版の地図を出来るだけ早く手配してもらえませんか」
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