異世界コラボ

アズ

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第3章 終焉

04 ドラゴンの炎

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 雨がその森の匂いを消した。分厚い雲が森の姿を隠した。俺達は頼りない小さな光を手に持ってなんとか森奥へと進む。風の音が森の音を消した。森に普段生息しているであろう鳥の鳴き声すら聞こえてこない。虫の姿もない。ただ、死人がいつ出現するか分からない恐怖がずっと背後にぴたっと張り付いて剥がれない。自分の中に飼っている恐怖の虫が羽をパタパタと羽ばたかせ、体を震わせる。大粒の雨粒が体温を奪い、ぬかるんだ足元は体力を奪う。流れる汗は雨で隠され怯えを皆から隠している。だけど、本当は怖い。いつ、死が自分のものになるのかと俺は怯えながらも皆と一緒に森の中に気づけば当たり前のように、ごく自然に体が動いていた。それは、孤独が怖いからでも、皆といれば怖くない集団心理でもなく、俺はこの森に吸い寄られていた。カサカサと葉が動く。だが、それは風のせいだ。まだ死人の気配ではない。紛らわしい音と障害物の多さとこの暗さはまるで目隠しされているかのようだ。先頭を歩くデイヴィスは護身用の拳銃を持っている。他の漁師二人もだ。死人が出現した世の中、自分の身を守る為に武器を持つのが当たり前になっていた。そんな俺の手は即席で作った松明だ。だが、それが雨と風で消えないか心配だ。大きな葉を傘替わりなんとか進む。
 離れず一緒に歩きながらそれぞれの方角に注意する。すると、ジャスミンの視界に一瞬だけ何かの影が横に動いた感じがした。だが、一瞬過ぎて見間違いかもしれないし、自分のせいで何でもなかったのに自分のせいでこんな森で立ち止まるわけにもいかない。皆に言うべきかどうか迷っていると、背後にいるテイラーが悲鳴をあげた。
 漁師三人は直ぐ様反応し「死人か?」と何もないように見える暗い森に銃口を向けた。だが、テイラーは自分の足元を必要以上に確認していた。
「さっき、何かに触れたわ」
「何もないぞ」とガストン。
 デイヴィスはテイラーに「頼むからそんなことでいちいち大声をあげないでくれ。わざわざ死人を呼び寄せるようなものだ」と忠告した。
 だが、テイラーは確かに何か触れたと言うのだ。しかし、誰も周囲を見渡しても何もなかった。恐怖がテイラーに錯覚を与えたのかもしれない。
 ジャスミンは何もないと分かってホっとしたその時だった。背後から男の死人が現れジャスミンの首に食らいついた。ジャスミンは悲鳴をあげ暗闇へと引っ張られていく。テイラーは「ジャスミン!」と叫び、三人の漁師は死人に銃口を向けるが、ジャスミンに当たりそうで中々撃てない。
 テイラーが「撃ってよ!」と懇願するが、デイヴィスは「ジャスミンに当たる」と引き金を引けないでいた。
「ジャスミンがやられちゃう!」
 リュウは「おおお!!」と声をあげ葛藤した。今撃たなきゃテイラーの言う通りどっちにしろ彼女は死んでしまう。決断したリュウは一か八か引き金を引いた。だが、リュウが放った弾丸は彼女の胸を貫いてしまった。絶命した彼女はそのまま死人に暗闇へと吸い込まれていった。
「ジャスミン!!」
 テイラーがパニックにそう彼女を叫ぶと、直後彼女の姿が消えた。
「うっ」
 何かに引っ張られた彼女は泥の中に倒れて姿が消えたように見えたのはそのせいだった。
「ほら……私の言った通りでしょ……」
 足を引っ張られ引きずらていくテイラーは同じく暗闇の茂みに連れ込まれていった。三人は必死に死人を探すが見当たらない。
「連中……この暗い森を利用してやがる」
「ジャスミンを襲った死人、ジャスミンに食らいついたぞ。そんなことこれまであったか?」
 リュウとガストンがそう話しているとデイヴィスは「とにかくこの森から離れるぞ」と言った。
 二人を失った今、俺達は来た道を引き返す。全力疾走、これまで運動会、体育祭では見せたことのない走りを俺は我武者羅に生きのびることだけを考え走った。背後でガストンの悲鳴があがる。振り返ると、ガストンはもういなくなっている。まるで、これまでの死人より更に知能をつけてこの土地を利用して俺達を襲っているんじゃないのか? まさか……死人が進化している? そんな事、考えたくもない。
 銃声が何発か森に響き渡る。ガストンがまだ抵抗して発砲したのだろうか。だが、聞こえた銃声はそれで最後だった。
 空から雷が鳴る。まるで、悲劇を風と雨と雷が劇場の舞台装置のごとくタイミングよく展開する。雨はより激しく、風は強くなってまるで自然も人の敵側になったかのように牙を向いてくる。
 いつだって自然が人の味方についたことはない。自然は単なる気まぐれ。しかし、不幸が続くとそれは人にとって凶器だ。それは刃物よりも鋭利えいりがあって、マシンガンより弾数のある無数の雨は地盤を破壊し土砂崩れを引き起こす巨大な弾丸と化す。雷は人間の発明する科学よりも強い力を持つ。その雷が次々と森へ落ち、火がつき激しく燃え広がる。その空から大きな影が飛んできた。広い翼を持ったその生き物の名はドラゴン。
「おい……嘘だろ……」
 デイヴィスが絶望するなか、ドラゴンは口を開き酸素を大量に吸い込む。火力には酸素は栄誉だ。赤色ではなく青色の炎が吐き出され、森を焼きながら炎は俺達に向かってくる。炎の中で何体かの死人の悲鳴が空まで轟く。船まではあと少しだ。絶望とすぐそこにある小さな希望の狭間で、運を失ったリュウが横から飛んできた死人に襲われその場に倒れ込む。直後、ドラゴンの炎に死人とリュウは巻き込まれ一瞬で焼かれた。
 運が最後まであったのは結局、俺とデイヴィスとエギルのたった三人だった。浜に着地し船に乗り込むとエンジンのかかった船はその場から離れ海へと逃げた。
 まるで、最初からそうしておけば良かったという後悔が、人間が住める土地はないと決定づけることになるなんて……俺達は思いもしなかった。
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