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第3章 終焉
08 アリスと四人
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格闘には型があるように、魔法には形が存在する。ネクロマンサーの術は『負の形』と呼ばれ、その具現が形と成した呪い、死人になる。
魔法道具はその補助をする役割で、魔法のコンパスもその一つになる。その魔法のコンパスで自分の世界に渡って直ぐに出迎えたのは無数の死人達だった。アリスは剣を抜く。これもただの剣ではない。魔法武器と呼ばれる補助的なものだ。『救いの形』を剣に込めれば、刃は白く発光し呪いをその剣をもって断ち切る。そうやって次々襲ってくる死人を剣で倒していく。
「伸びろ!」
そう口にしたのは、言葉にすることでよりイメージが鮮明になるからだ。呪文を口にする時も同じだ。シンプルな言葉はイメージを鮮明にする。だが、シンプルならどんな言葉でもいいというわけではない。シンプルな言葉は魔法道具や魔法武器のように補助であり、古くから伝えられた言葉を基本使わなければならない。それは古い言葉で日常会話にある言葉とは全く違い、新しく言葉を覚えるようなものだ。それを魔法使いは覚えていき自分のものにしていく。古い言葉の方が力がある。とても難しいが。
伸びた剣先を鉾を振るうかのように払うと、一気に死人がバタバタと倒れていく。
いくら『救いの形』とはいえ、死人を生き返らせる力はない。呪われた魂を解放し安らかに眠らせることだ。
だが、それをたった一人で全世界の死人を救うのは流石のアリスにも無理だった。
重い空気と分厚い雲に遮られた天候と何度も轟く雷鳴。世の終わりとはまさにこのことだろう。
アリスはその中で数少ない生き残りだった。
そのアリスの行方を探しているのは異世界から来た日本人。来たというよりアリスの世界のトラブルに巻き込まれた被害者と言ってもいい。異世界転生のようにトラックに跳ねられたわけでも、女神に間違って殺されたわけでもなく、アリスが自分の世界に戻る際に近くにいたせいなのか、一緒に世界を跨いでしまい、そして戻れなくなっていた。戻る方法を探そうにも、死人や魔法消失のトラブル続きでそれどころではなくなっていた。気づけば、自分の悲運に呪い挙句の果てには自己嫌悪した時期もあったが、今は究極魔法の可能性をアリスに託そうと考えていた。そんな日本人と共にいるのが漁師で船長のデイヴィスと、家族を失ったエギル。他に仲間がいたが、死人に襲われ生き残ったのはたった三人だった。そんな三人でも世界の終焉に絶望的だったその時、別の魔法使いが現れた。それは白いローブの白い立派な髭を生やした老人だった。
小舟はデイヴィスの船の横につけ、老人は此方に勝手に乗り移ってきた。
「あんたは何者なんだ?」
「名を捨てた愚か者の兄だ」
「は? なんだって? いや、それより魔法使えるのか?」
「見ての通りだ」
「魔法消失で魔法使いはこの世からいなくなったと思っていたが……」
「魔法は完全に失ったわけではない。ただ、今のはストックしてあった魔法を使っただけだ。そういう意味では完全に失ってはいないという意味だ」
それは魔法道具の一つ、魔法瓶に呪文を放ち蓋をする。蓋を開けると、その呪文が発動するというもの。タイムカプセルに近い。
「そうか……やはり魔法消失は死人と関係あると思うか?」
「それもあるが、それよりずっと前から天秤は傾き始めていた。負が沈殿し蓄積されると重みが増してくる。魔法は全能ではない。怠惰の王エルモンはそれを知っていて何も策を講じず放置し世界を去った」
「去った?」
「責任を放棄し自分の最後の場所をつくり死んでいった。残された民は大勢死ぬことになる。戦争によって」
「それってまさか!?」
「知らなかったのか? いや、無理もない。歴史は都合よく改ざんされる。よくある話しだ。今ではエルモンについては魔法の世界では伝説とだけ語られ、それは曖昧な言葉で綴られ完結している。だが、紛れもなくエルモンはエスクラヴだ。いや、実際はそうは呼ばれるのは敗戦後だったな。その敗戦のきっかけと国が滅んだ原因は間違いなく肝心な時に王がいなくなったからだ」
「となると、エスクラヴの姫はエルモンの血筋だっていうことになるのか!? いや、待てよ。だとしたら魔法は元はエスクラヴのものだった……それを俺達が使っている……なら、魔法消失の原因は魔法を生み出したエスクラヴの迫害ってことなのか?」
「いや、違う。だとしたらエスクラヴは何故魔法が使えない? それでは辻褄が合わない」
二人の聞きながら、ヤマトは思った。もう、天秤をもう一度傾けるのは無理なんじゃないかと。
「アリスは魔法が使えました。彼女は魔法消失の原因と、何故自分は魔法が使えるのか気にしていました。あなたは分かりますか?」
「恐らく魔法消失の原因を知っているからだろう。魔法消失の原因は神への冒涜だ。神に唾を吐き罵る。それを古い言葉で行うんだ。一度放った言葉は取り消せない。呪いより強力な魔法……恐らく史上最強の究極魔法にあたるだろう。その魔法は『滅びの形』の具現化だ」
「滅びの魔法……」
「本来、その魔法は自分にも跳ね返るものだが、ネクロマンサーがたまにやる身代わりを用意してあった場合、その身代わりに跳ね返るよう仕向け自分は無傷でいられる方法がある。言葉では簡単に聞こえるかもしれないが、とても複雑で難しい。もし、アリスとやらが……その魔法を放った本人なら、魔法が使えて当然だ」
「そんな!? アリスはそんなことするような奴じゃありません」
「ワシには分からんよ。ただ、もしそうだとしたら、魔法を取り戻す方法も知っている筈だ。だが、失敗すれば本人はおろか我々全員が魔法を取り戻すすべを確実に失うことになる」
「あなたが嘘を言っているようには思えないけど、これだけは言えます。アリスはそんなことしません」
「だが、確かめる必要はある」
何もなければそれくらい問題あるまい。なのに、胸の中でソワソワした。だって、それはこいつと同じでアリスを疑うってことになるからだ。
魔法道具はその補助をする役割で、魔法のコンパスもその一つになる。その魔法のコンパスで自分の世界に渡って直ぐに出迎えたのは無数の死人達だった。アリスは剣を抜く。これもただの剣ではない。魔法武器と呼ばれる補助的なものだ。『救いの形』を剣に込めれば、刃は白く発光し呪いをその剣をもって断ち切る。そうやって次々襲ってくる死人を剣で倒していく。
「伸びろ!」
そう口にしたのは、言葉にすることでよりイメージが鮮明になるからだ。呪文を口にする時も同じだ。シンプルな言葉はイメージを鮮明にする。だが、シンプルならどんな言葉でもいいというわけではない。シンプルな言葉は魔法道具や魔法武器のように補助であり、古くから伝えられた言葉を基本使わなければならない。それは古い言葉で日常会話にある言葉とは全く違い、新しく言葉を覚えるようなものだ。それを魔法使いは覚えていき自分のものにしていく。古い言葉の方が力がある。とても難しいが。
伸びた剣先を鉾を振るうかのように払うと、一気に死人がバタバタと倒れていく。
いくら『救いの形』とはいえ、死人を生き返らせる力はない。呪われた魂を解放し安らかに眠らせることだ。
だが、それをたった一人で全世界の死人を救うのは流石のアリスにも無理だった。
重い空気と分厚い雲に遮られた天候と何度も轟く雷鳴。世の終わりとはまさにこのことだろう。
アリスはその中で数少ない生き残りだった。
そのアリスの行方を探しているのは異世界から来た日本人。来たというよりアリスの世界のトラブルに巻き込まれた被害者と言ってもいい。異世界転生のようにトラックに跳ねられたわけでも、女神に間違って殺されたわけでもなく、アリスが自分の世界に戻る際に近くにいたせいなのか、一緒に世界を跨いでしまい、そして戻れなくなっていた。戻る方法を探そうにも、死人や魔法消失のトラブル続きでそれどころではなくなっていた。気づけば、自分の悲運に呪い挙句の果てには自己嫌悪した時期もあったが、今は究極魔法の可能性をアリスに託そうと考えていた。そんな日本人と共にいるのが漁師で船長のデイヴィスと、家族を失ったエギル。他に仲間がいたが、死人に襲われ生き残ったのはたった三人だった。そんな三人でも世界の終焉に絶望的だったその時、別の魔法使いが現れた。それは白いローブの白い立派な髭を生やした老人だった。
小舟はデイヴィスの船の横につけ、老人は此方に勝手に乗り移ってきた。
「あんたは何者なんだ?」
「名を捨てた愚か者の兄だ」
「は? なんだって? いや、それより魔法使えるのか?」
「見ての通りだ」
「魔法消失で魔法使いはこの世からいなくなったと思っていたが……」
「魔法は完全に失ったわけではない。ただ、今のはストックしてあった魔法を使っただけだ。そういう意味では完全に失ってはいないという意味だ」
それは魔法道具の一つ、魔法瓶に呪文を放ち蓋をする。蓋を開けると、その呪文が発動するというもの。タイムカプセルに近い。
「そうか……やはり魔法消失は死人と関係あると思うか?」
「それもあるが、それよりずっと前から天秤は傾き始めていた。負が沈殿し蓄積されると重みが増してくる。魔法は全能ではない。怠惰の王エルモンはそれを知っていて何も策を講じず放置し世界を去った」
「去った?」
「責任を放棄し自分の最後の場所をつくり死んでいった。残された民は大勢死ぬことになる。戦争によって」
「それってまさか!?」
「知らなかったのか? いや、無理もない。歴史は都合よく改ざんされる。よくある話しだ。今ではエルモンについては魔法の世界では伝説とだけ語られ、それは曖昧な言葉で綴られ完結している。だが、紛れもなくエルモンはエスクラヴだ。いや、実際はそうは呼ばれるのは敗戦後だったな。その敗戦のきっかけと国が滅んだ原因は間違いなく肝心な時に王がいなくなったからだ」
「となると、エスクラヴの姫はエルモンの血筋だっていうことになるのか!? いや、待てよ。だとしたら魔法は元はエスクラヴのものだった……それを俺達が使っている……なら、魔法消失の原因は魔法を生み出したエスクラヴの迫害ってことなのか?」
「いや、違う。だとしたらエスクラヴは何故魔法が使えない? それでは辻褄が合わない」
二人の聞きながら、ヤマトは思った。もう、天秤をもう一度傾けるのは無理なんじゃないかと。
「アリスは魔法が使えました。彼女は魔法消失の原因と、何故自分は魔法が使えるのか気にしていました。あなたは分かりますか?」
「恐らく魔法消失の原因を知っているからだろう。魔法消失の原因は神への冒涜だ。神に唾を吐き罵る。それを古い言葉で行うんだ。一度放った言葉は取り消せない。呪いより強力な魔法……恐らく史上最強の究極魔法にあたるだろう。その魔法は『滅びの形』の具現化だ」
「滅びの魔法……」
「本来、その魔法は自分にも跳ね返るものだが、ネクロマンサーがたまにやる身代わりを用意してあった場合、その身代わりに跳ね返るよう仕向け自分は無傷でいられる方法がある。言葉では簡単に聞こえるかもしれないが、とても複雑で難しい。もし、アリスとやらが……その魔法を放った本人なら、魔法が使えて当然だ」
「そんな!? アリスはそんなことするような奴じゃありません」
「ワシには分からんよ。ただ、もしそうだとしたら、魔法を取り戻す方法も知っている筈だ。だが、失敗すれば本人はおろか我々全員が魔法を取り戻すすべを確実に失うことになる」
「あなたが嘘を言っているようには思えないけど、これだけは言えます。アリスはそんなことしません」
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