22 / 22
第3章 終焉
09 沈黙
しおりを挟む
アリスは目を疑った。死人と戦い逃げていると、街の外は広大な砂漠で広がっていたからだ。
「ここは黄色い大陸だ……」
あの四人組に行き先を変えられてから魔法のコンパスの狙いが不安定になってしまっている。
アリスは負を遠ざける呪文で死人を一時的に遠ざけた隙に近くに見える堅牢な建物の中へ逃げた。その建物の前には獅子の白い彫刻が正面に飾られてあった。あれはリョダリ国を示すものだ。その建物の中に入り扉を閉め鍵をかけると、広いロビーの天井から獅子の国旗が掲げられてある。やはり、リョダリ国だ。
リョダリ国……国旗が獅子であるその国は世界一の軍艦を持ち広大な領海を支配していた。その国はかつて黄色い大陸にあった大国を滅ぼした四カ国のうちの一国だ。他の三カ国が大国を攻め、退路を絶たせるようにリョダリは無数の戦艦で海を渡り黄色い大陸にある大国へ進行し、大国を挟み撃ちにし追い込んだ。元々水や食料に乏しかった大国に海まで絶たれたら敗北は時間の問題だった。そして、敗北した大国は国の名と共に地図から消えた。
となると、ここはリョダリが支配する土地ということになる。
ロビーの中央奥に階段があり、それを登ってゆっくり二階を覗いてみると、通路にはここの職員と思われる死人達がうろついていた。
ゆっくり引き返し、今度は地下へ続く階段を見つけ降りていく。
地下は異臭が漂い、そこは地下牢だと直ぐに分かった。鉄格子の中には死人となったエスクラヴ達が騒ぎ立てアリスを見ている。そのエスクラヴ達の肩には全員焼印がされてあった。女も子どももだ。エスクラヴに焼印をするのはリョダリ国だけだ。エスクラヴの見分けは外見で直ぐに判断出来るからだ。それが根強い差別として歴史に深く刻まれるわけだが。
あのエスクラヴの姫はリョダリ兵に見つけられたから、恐らくその時に焼印を押されたかもしれない。
その頃、焼印のされた肩をおさえるエスクラヴの姫は今にも破られそうな扉をじっと見ながら残された時間について考えていた。
「世界にあなたと私だけなんて、なんて最悪なの。ロマンすら感じないんだけど」
「こんな状況で何を言ってるんだ」
「こういう状況だからよ」
「分からんぞ。まだ生き残っている奴がいるかもな」
「あなたの家族? 親友? それとも全く知らない他人? 他人のことなんて考えてもいないのに、ここで他人を気にする筈ないもんねぇ。なら、あなたの奥さんかしら」
「俺に妻はいない」
「あっそ。でも、あなたその人をかなり信用してるみたいだったから。でなきゃ、こんな状況でまだ生き残ってる奴がいるかもしれないなんていちいち言わないでしょ。認めたくない事実だから反応した。私だったら言わないもの」
ランベルトはため息をついた。その背後で死が鳴り止まないでいた。
「死ぬのが怖い?」
「怖くない奴なんていない」
「私は違うわ。失うものがないもの。ああ、やっと楽になれるって。あなたは失うものがあるから、怖いと感じられる。あなたは知らないのよ。失うものがない人がいることを。目の前にいるっていうのに気づかないフリをしている」
「……」
「何も言わなくていいわ。最後の時間くらいお互い邪魔をするのをやめない?」
「……いいだろう」
二人は沈黙した。何を心に思ったのか、それを秘密にするように。
扉は破られ、死人は二人を襲った。
「ここは黄色い大陸だ……」
あの四人組に行き先を変えられてから魔法のコンパスの狙いが不安定になってしまっている。
アリスは負を遠ざける呪文で死人を一時的に遠ざけた隙に近くに見える堅牢な建物の中へ逃げた。その建物の前には獅子の白い彫刻が正面に飾られてあった。あれはリョダリ国を示すものだ。その建物の中に入り扉を閉め鍵をかけると、広いロビーの天井から獅子の国旗が掲げられてある。やはり、リョダリ国だ。
リョダリ国……国旗が獅子であるその国は世界一の軍艦を持ち広大な領海を支配していた。その国はかつて黄色い大陸にあった大国を滅ぼした四カ国のうちの一国だ。他の三カ国が大国を攻め、退路を絶たせるようにリョダリは無数の戦艦で海を渡り黄色い大陸にある大国へ進行し、大国を挟み撃ちにし追い込んだ。元々水や食料に乏しかった大国に海まで絶たれたら敗北は時間の問題だった。そして、敗北した大国は国の名と共に地図から消えた。
となると、ここはリョダリが支配する土地ということになる。
ロビーの中央奥に階段があり、それを登ってゆっくり二階を覗いてみると、通路にはここの職員と思われる死人達がうろついていた。
ゆっくり引き返し、今度は地下へ続く階段を見つけ降りていく。
地下は異臭が漂い、そこは地下牢だと直ぐに分かった。鉄格子の中には死人となったエスクラヴ達が騒ぎ立てアリスを見ている。そのエスクラヴ達の肩には全員焼印がされてあった。女も子どももだ。エスクラヴに焼印をするのはリョダリ国だけだ。エスクラヴの見分けは外見で直ぐに判断出来るからだ。それが根強い差別として歴史に深く刻まれるわけだが。
あのエスクラヴの姫はリョダリ兵に見つけられたから、恐らくその時に焼印を押されたかもしれない。
その頃、焼印のされた肩をおさえるエスクラヴの姫は今にも破られそうな扉をじっと見ながら残された時間について考えていた。
「世界にあなたと私だけなんて、なんて最悪なの。ロマンすら感じないんだけど」
「こんな状況で何を言ってるんだ」
「こういう状況だからよ」
「分からんぞ。まだ生き残っている奴がいるかもな」
「あなたの家族? 親友? それとも全く知らない他人? 他人のことなんて考えてもいないのに、ここで他人を気にする筈ないもんねぇ。なら、あなたの奥さんかしら」
「俺に妻はいない」
「あっそ。でも、あなたその人をかなり信用してるみたいだったから。でなきゃ、こんな状況でまだ生き残ってる奴がいるかもしれないなんていちいち言わないでしょ。認めたくない事実だから反応した。私だったら言わないもの」
ランベルトはため息をついた。その背後で死が鳴り止まないでいた。
「死ぬのが怖い?」
「怖くない奴なんていない」
「私は違うわ。失うものがないもの。ああ、やっと楽になれるって。あなたは失うものがあるから、怖いと感じられる。あなたは知らないのよ。失うものがない人がいることを。目の前にいるっていうのに気づかないフリをしている」
「……」
「何も言わなくていいわ。最後の時間くらいお互い邪魔をするのをやめない?」
「……いいだろう」
二人は沈黙した。何を心に思ったのか、それを秘密にするように。
扉は破られ、死人は二人を襲った。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
竜華族の愛に囚われて
澤谷弥(さわたに わたる)
キャラ文芸
近代化が進む中、竜華族が竜結界を築き魑魅魍魎から守る世界。
五芒星の中心に朝廷を据え、木竜、火竜、土竜、金竜、水竜という五柱が結界を維持し続けている。
これらの竜を世話する役割を担う一族が竜華族である。
赤沼泉美は、異能を持たない竜華族であるため、赤沼伯爵家で虐げられ、女中以下の生活を送っていた。
新月の夜、異能の暴走で苦しむ姉、百合を助けるため、母、雅代の命令で月光草を求めて竜尾山に入ったが、魔魅に襲われ絶体絶命。しかし、火宮公爵子息の臣哉に救われた。
そんな泉美が気になる臣哉は、彼女の出自について調べ始めるのだが――。
※某サイトの短編コン用に書いたやつ。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる