異世界コラボ

アズ

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第3章 終焉

09 沈黙

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 アリスは目を疑った。死人と戦い逃げていると、街の外は広大な砂漠で広がっていたからだ。
「ここは黄色い大陸ザフランだ……」
 あの四人組に行き先を変えられてから魔法のコンパスの狙いが不安定になってしまっている。
 アリスは負を遠ざける呪文で死人を一時的に遠ざけた隙に近くに見える堅牢な建物の中へ逃げた。その建物の前には獅子の白い彫刻が正面に飾られてあった。あれはリョダリ国を示すものだ。その建物の中に入り扉を閉め鍵をかけると、広いロビーの天井から獅子の国旗が掲げられてある。やはり、リョダリ国だ。
 リョダリ国……国旗が獅子であるその国は世界一の軍艦を持ち広大な領海を支配していた。その国はかつて黄色い大陸にあった大国を滅ぼした四カ国のうちの一国だ。他の三カ国が大国を攻め、退路を絶たせるようにリョダリは無数の戦艦で海を渡り黄色い大陸にある大国へ進行し、大国を挟み撃ちにし追い込んだ。元々水や食料に乏しかった大国に海まで絶たれたら敗北は時間の問題だった。そして、敗北した大国は国の名と共に地図から消えた。
 となると、ここはリョダリが支配する土地ということになる。
 ロビーの中央奥に階段があり、それを登ってゆっくり二階を覗いてみると、通路にはここの職員と思われる死人達がうろついていた。
 ゆっくり引き返し、今度は地下へ続く階段を見つけ降りていく。
 地下は異臭が漂い、そこは地下牢だと直ぐに分かった。鉄格子の中には死人となったエスクラヴ達が騒ぎ立てアリスを見ている。そのエスクラヴ達の肩には全員焼印がされてあった。女も子どももだ。エスクラヴに焼印をするのはリョダリ国だけだ。エスクラヴの見分けは外見で直ぐに判断出来るからだ。それが根強い差別として歴史に深く刻まれるわけだが。
 あのエスクラヴの姫はリョダリ兵に見つけられたから、恐らくその時に焼印を押されたかもしれない。




 その頃、焼印のされた肩をおさえるエスクラヴの姫は今にも破られそうな扉をじっと見ながら残された時間について考えていた。
「世界にあなたと私だけなんて、なんて最悪なの。ロマンすら感じないんだけど」
「こんな状況で何を言ってるんだ」
「こういう状況だからよ」
「分からんぞ。まだ生き残っている奴がいるかもな」
「あなたの家族? 親友? それとも全く知らない他人? 他人のことなんて考えてもいないのに、ここで他人を気にする筈ないもんねぇ。なら、あなたの奥さんかしら」
「俺に妻はいない」
「あっそ。でも、あなたその人をかなり信用してるみたいだったから。でなきゃ、こんな状況でまだ生き残ってる奴がいるかもしれないなんていちいち言わないでしょ。認めたくない事実だから反応した。私だったら言わないもの」
 ランベルトはため息をついた。その背後で死が鳴り止まないでいた。
「死ぬのが怖い?」
「怖くない奴なんていない」
「私は違うわ。失うものがないもの。ああ、やっと楽になれるって。あなたは失うものがあるから、怖いと感じられる。あなたは知らないのよ。失うものがない人がいることを。目の前にいるっていうのに気づかないフリをしている」
「……」
「何も言わなくていいわ。最後の時間くらいお互い邪魔をするのをやめない?」
「……いいだろう」
 二人は沈黙した。何を心に思ったのか、それを秘密にするように。
 扉は破られ、死人は二人を襲った。
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