2 / 2
02
しおりを挟む
塾の帰りに必ずあるのがトンネルである。それは不気味な感じがして日の落ちた夜でも十分暑い日でも、そのトンネルを通る時だけは何故か不思議と背筋に寒気が走り、気づいたら鳥肌が立っているのだ。幽霊を見たことはないし、信じたくはないが、その長いトンネルは本当にいても不思議ではなかった。だが、そのトンネルを抜けなければ家へは辿り着くことが出来ない。だから塾のある日は夜のトンネルを渋々全速力で突っ切るのだ。オレンジ色の照明に、この時間帯は車の交通量も少ない。古いトンネルはよく響き、雨の日の夜は特に最悪だ。だから、梅雨の時期は本当に嫌になる。しかも長いから余計に怖い。そして、何故かトンネルの中に入ると出口が妙に遠く感じ更に長く感じるのだ。とはいえ、このトンネルについていくら調べても事故があったとかそういったことはない。なのに、何故高校になってもまだこんなに怖く感じるのか。
この日もやはり妙に長く感じた。それがようやく抜けると、早くトンネルから離れたいが為に暫くは全速力のまま走り続けた。
息が苦しくなり、足が重くなるとスピードを落としコンビニ前を通過する。コンビニの照明を見るとそこでいつもほっとした。こんなことなら、塾を変えたいと思ったことは何度かある。だけど、結局親には言い出せず、毎回あのトンネルを怖い思いをしながら俺は毎回コンビニの光でほっとしていた。
翌日。全校集会が行われた。夏休みに向け注意点と校長の子守唄のような話しを聞かされた。校長先生はなんでどの学校の校長もこんなに子守唄が上手いのか、日本七不思議の一つにしてもいいぐらいに驚いた。
学校が終わりいよいよ夏休み。時代の変化だろうか、学校の宿題はこれまでの紙ではなくタブレットで全て一つにまとめられ、データを送信することになっている。読書感想文だけは原稿用紙の提出になっていた。
最後の授業も終わり次々と下校するクラスメイト。俺も帰ろうと教室を出て廊下を歩いていると、たまたま現代文の先生とばったり遭遇した。
「結局、将来何になるのか決まったのか?」
「いえ、まだです」
「相変わらずだな」
「なりたいものが見つかっても、本当になれるかは分かりませんよね? 先生仰ってたじゃないですか。なりたいものになれないことの方が多いって」
「お前の場合、単に自信がないだけだろ。お前は自分を信じてないな。自分を信じられない奴は何者にもなれないし、何者でもない」
「先生、それはずるいですよ。先生が言ったんじゃないですか」
「お前の闇はプライドが高くて、ただ失敗したくないだけだろ」
「それは誰だって失敗したくないものじゃないんですか?」
「失敗はするぞ。誰だって。お前はとりあえずなんとかなればいいと祈ってばかりで、本当は何かに向かって努力したことなんてないんじゃないのか?」
そう言われて俺はハッとした。
何もしていない。した覚えがなかった。
「そうやって逃げ続けるのか」
逃げる……その言葉で国民的アニメ、エヴァを思い出す。その主人公で名台詞でネットではネタにされて、でも、あの主人公が自分にそう言い聞かせ逃げなかった、それは俺の人生の中で一度もやったことがなかったことだ。
「逃げちゃダメだ」
「そうだ。逃げるな。向き合え、自分の人生に」
俺は真夏の熱された自転車を走らせ、同時に頭の中の思考を回転させた。ペダルを漕ぐ足が早くなるにつれ、脳内の電気がバチッと鳴る。
蝉の鳴き声が聞こえ、青空を見上げ、額から汗が吹き出る。息が荒くなり、坂を登りきるとそこは商店街が見えてくる。近くで夏祭りの準備が行われ、看板には交通整理の予告がされてある。あの日の夏。俺は母に言ったことがある。その時初めて自分の本当のなりたい夢を語った。俺はそれを思い出した。
この日もやはり妙に長く感じた。それがようやく抜けると、早くトンネルから離れたいが為に暫くは全速力のまま走り続けた。
息が苦しくなり、足が重くなるとスピードを落としコンビニ前を通過する。コンビニの照明を見るとそこでいつもほっとした。こんなことなら、塾を変えたいと思ったことは何度かある。だけど、結局親には言い出せず、毎回あのトンネルを怖い思いをしながら俺は毎回コンビニの光でほっとしていた。
翌日。全校集会が行われた。夏休みに向け注意点と校長の子守唄のような話しを聞かされた。校長先生はなんでどの学校の校長もこんなに子守唄が上手いのか、日本七不思議の一つにしてもいいぐらいに驚いた。
学校が終わりいよいよ夏休み。時代の変化だろうか、学校の宿題はこれまでの紙ではなくタブレットで全て一つにまとめられ、データを送信することになっている。読書感想文だけは原稿用紙の提出になっていた。
最後の授業も終わり次々と下校するクラスメイト。俺も帰ろうと教室を出て廊下を歩いていると、たまたま現代文の先生とばったり遭遇した。
「結局、将来何になるのか決まったのか?」
「いえ、まだです」
「相変わらずだな」
「なりたいものが見つかっても、本当になれるかは分かりませんよね? 先生仰ってたじゃないですか。なりたいものになれないことの方が多いって」
「お前の場合、単に自信がないだけだろ。お前は自分を信じてないな。自分を信じられない奴は何者にもなれないし、何者でもない」
「先生、それはずるいですよ。先生が言ったんじゃないですか」
「お前の闇はプライドが高くて、ただ失敗したくないだけだろ」
「それは誰だって失敗したくないものじゃないんですか?」
「失敗はするぞ。誰だって。お前はとりあえずなんとかなればいいと祈ってばかりで、本当は何かに向かって努力したことなんてないんじゃないのか?」
そう言われて俺はハッとした。
何もしていない。した覚えがなかった。
「そうやって逃げ続けるのか」
逃げる……その言葉で国民的アニメ、エヴァを思い出す。その主人公で名台詞でネットではネタにされて、でも、あの主人公が自分にそう言い聞かせ逃げなかった、それは俺の人生の中で一度もやったことがなかったことだ。
「逃げちゃダメだ」
「そうだ。逃げるな。向き合え、自分の人生に」
俺は真夏の熱された自転車を走らせ、同時に頭の中の思考を回転させた。ペダルを漕ぐ足が早くなるにつれ、脳内の電気がバチッと鳴る。
蝉の鳴き声が聞こえ、青空を見上げ、額から汗が吹き出る。息が荒くなり、坂を登りきるとそこは商店街が見えてくる。近くで夏祭りの準備が行われ、看板には交通整理の予告がされてある。あの日の夏。俺は母に言ったことがある。その時初めて自分の本当のなりたい夢を語った。俺はそれを思い出した。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる