赤いリボンに包まれた七不思議

アズ

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 やはり目立つか…… 。
 転校すれば制服の違いは登下校や教室で分かる。公立の中学でも、やはり僅かに制服に違いはあった。皆のセーラー服は黒だが、私のはやや青っぽさが入っている。クラスの女子からは逆に可愛いと言ってくれたが、慣れるまでは皆の視線を集めた。
「誰、あの子」みたいに。
 自宅から学校まで徒歩でだいたい20分。その20分のだいたい半分の時間は皆の目線が痛く、私はその間うつ向いていた。
 皆と違うのが嫌だからとかではなく、周りの同調主義的な意識が、私という異質に、受け入れていいのかどうか判断されているのが嫌だった。
 かと言って、わざわざ新しい制服をお願いする気にもならなかった。制服が高いものであることぐらい知っている。
 それに、どうせあと一年だ。正確には一年もない。
 私は、今年の春から引っ越しをし、学校も転校した。
 三年生だ。
 そう、あと一年くらいは引っ越しを待っていて欲しかった。そうすれば、中学校との友達とも一緒に卒業することができた。
 しかし、父の会社はそんな私の事情を酌んではくれない。勿論、父が会社にあと一年待って下さいなんてお願いしてくれるわけでもない。
 それは、大人達の事情だ。子供である私にはどうすることも出来ない。
 ただ、理不尽に感じる。私は父の転勤で思い出が崩されたのだ。学校という青春を。しかし、父は転勤で転校したという経験を持ってはいない。自分の時は不自由なく青春を、思い出を作っときながら、私の青春をぶち壊した父が嫌いになった。
 というより、もっと前から父のことが嫌いだった気がする。幾つの時からだろう、父とろくに話しをしていないのは。
 父の転勤が知らされた時、私は普段は出さない大声で「お父さん一人だけで行ってくればいいじゃん」と言った。引っ越しが春休み中だと決まった日だ。
「佳代子、そんなこと言わないで。お父さんの仕事なの」
 母はいつも父の味方だった。
 それも気に入らなかった。



 転校して間もなく、クラスの女子達の何人かは私に声をかけてくれた。
 多分、気を遣わせてしまったのだろう。
 しかし、そんな考えも友達になれば吹き飛んだ。
 声をかけてくれた女子は3人。裕子、菜月、愛佳。3人は三つ子だ。顔もその他の外見も見事に似ていて、正直未だに見分けがつかないでいた。唯一の救いは名札で、それでいつも分かった気でいた。せめて、髪型だけでも変えてくれって思うけど、3人はわざと揃えているのか、おかっぱ頭だった。
「ねぇねぇ、知ってる?」そう言ってきたのは裕子だ。
 名札を見て確認したから間違いない。
「この町の七不思議」
「七不思議? 学校の怪談的な感じじゃなくて?」
「うん。この学校はなにもないよ。つまらないくらいになにもない」
 確かに、学校にまつわる噂話しは今のところ耳にしていない。怪談もなければ、ヤンキーがいるわけでもない。変わった生徒がいるわけでも、芸能活動している子もいない。校舎はそれなりに古さを感じるぐらい。とは言え、そこまで古いわけでもない。平成の初期辺りに建てられた校舎なんだとか。そう言えば、この学校には二宮金次郎がいない。学校に像がなかった。これでは、夜中に動く二宮金次郎の怪談話しは出来ないな。まぁ、この学校に怪談がないのは私としては良かったけれど。
「町については引っ越したばかりだから分からない。なんなの、七不思議って?」
「うん。実はね、学校に行く途中にお寺があるでしょ? その裏にある墓地、あそこ、出るっいう噂らしいよ」
「え! 本当に?」
「違うわい!」
 突然、教室の前から男子が大声をあげた。
 その子は坊主で一見したら野球少年に見えるのだが、野球少年ではない。あの身なりで吹奏楽部だった。
「俺の寺をそんな変な噂で広めるな三つ子!」
 彼はその寺の息子だから、怒るのも無理はなかった。
「勝手に私達の話し聞かないでよ男子。変態、スケベ」
「お前達こそ勝手に寺の評判落とすような話しをするな」
「お寺なんだから、お経でも唱えてればいいじゃない」
「そういう問題じゃない」
「はいはい」裕子は適当にそう返事をしてから、私に振り向き、話しの続きを始めた。
「それが一つ。二つ目はね、この街には精霊がいるって話し」
「精霊?」
「そんなに疑うことじゃないわ。幽霊がいるなら精霊がいたってたいして変わらないじゃない」
「え? そういうもん?」
「そうよ。ほら、どこの宗教でも悪魔や天使や神様を信じているわけでしょ? 実際見たわけでもないのに、熱心になってる人だっているし、人生を捧げる人だっている。でしょ?」
「え、天使や悪魔もいるの?」
「いるわよ」
「ええ!? からかってる?」
「からかってないよ」
 すると、向こうからまた寺の息子の太郎がちょっかいを出す。
「そいつの話しは適当に聞き流せよ」
「なによ!」
「だってそうだろ。誰も信じちゃいないぜ、そんな話し」
「でも、噂になってる」
「その噂を信じるのが馬鹿だって言ってるんだよ」
「なによ、太郎のくせに。あなた、人を馬鹿呼ばわりできる程成績良かったっけ?」
「そういうことじゃねぇよ」
「同じよ。人がなにかを信じることがどうして馬鹿だと言いきれるわけ? いないなんて証拠はないでしょ?」
「そりゃ……ずるいぜ」
 太郎の言う通り、それは悪魔の証明というもの。どんなに優秀な学者を集めたところで、その問いの答えはない。
「それに、それじゃあ太郎の家はどうなのよ。何故、お経をお坊さんがよむわけ? 何の意味があるの?」
 これは太郎の負けだ。
「参ったよ」
 降参のポーズをとると、他の男子が見かねて太郎を誘い「行こうぜ」と言った。太郎はその誘いにのり、教室を出ていった。
 太郎の敗北の最大のミスは女子達の会話を二度盗み聞きし、更に間に入ってきたことになる。そのミスさえしなければ、太郎は傷つくことはなかった。
 小学生と違い中途半端に知識を持った中学生は頑張ってなんとか理屈っぽいことを言ってみようとする。合理的で利口そうに見られるからだ。
 それで失敗して、嘘つき呼ばわりされ、しまいには虐めの発端となり、不登校になった子を知っている。佳代子は前の学校で見たことがあったからだ。
「ごめん、ちょっとトイレに行ってくる」
 裕子はそう言うと、彼女も教室から出て行った。
「ちょっと見てくるよ」と愛佳は言って、彼女もまた裕子のあとを追いかけていった。
 裕子は太郎のことが好きなのだ。しかし、気持ちが裏返って太郎には強く当たってしまう。彼女が太郎意外にあれ程攻撃的な一面を見せたことはない。
 たった僅かな時でも、見ていたらだいたい予想がつく。というか、二人の間は分かりやすい。
 太郎も普段は女子の会話に全く興味を持たないし、ちょっかいを出したりはしない。
 ちょっかいするのは好きな人なんでしょ。
 不器用というか……最初から器用な人もいないと思うけど。
「ねぇ、それであの話し、どこまで本当なの?」
「ああ、気にしないで。いきなり裕子があの話しをしたのはあいつがいたからで」
「ああ、分かった」
 そう言ってから菜月はため息をついた。
「裕子が一番馬鹿なんだから」
「大変ね」
「分かる?」
「うん」



◇◆◇◆◇



 私は放課後、担任に呼び出された。それだけ聞くとまるで不良みたいだが、理由はなんとなく分かっていた。
 学校に生徒指導室と呼ばれる部屋はない。ただ、普段使用されていない教室が一つだけあった。何の為の部屋かは皆分かっていない。
 それは三年生の同じ校舎にあった。
 その教室は、他のクラスのように机と椅子が揃っていた。
 先生は対面できるよう真ん中の机を横に合わせて、奥側に座って既に待っていた。
「そこへ」
 私は空いている先生の向かいの席に向かい着席した。
「どうだ、転校してきて暫くたったが、皆とはうまくできているか」
「はい」
「そうか」
 先生は頷いて机の上に置いてある両手の指を合わせた。
「それでだが、部活はどうする? この学校に帰宅部はないぞ。そろそろ部活は決めたのか?」
 この学校では部活動は強制であることは事前に知らされてはいたが、中々入りたいと思える部活はなかった。前の学校でならテニス部を選んでいたが、この学校のテニス部の子とはまだ仲良くもできていない。あの三つ子に至っては、3人ともバスケ部で、バスケは正直体育の授業でも得意の方ではなかった。いっそ、スポーツではなく文化部を選ぼうかと思ったが、それも吹奏楽部か美術部しかない。今更吹奏楽部なんて無理だし、美術部は絵の才能がない。なんだかんだ悩んでみて、やはりテニス部だなとは考えてはいた。
「テニス部にしようかと思っています」
「そうか。入部届けは私に出してくれればいいから」
「はい」
「それと、進路相談についてだが」
 遂に本題だ。
 私は、進路調査で空欄で出していた。分かるわけがない、この付近の学校なんて。しかし、先生として困るわけで、私もこのままでいようとは思っていない。
 長い、進路相談が始まった。



 大抵、親ともよく相談してから学校の先生と相談するものではないかと考えるだろうが、うちの場合、母親に言っても「そういう大事な話しはお父さんとまずは話して」と言うから、私は相談をもう親にしていなかった。
 父親とは出来るだけ会話をしたくないからだ。なんなら一緒にいる時間が短ければいいとさえ思う。最近は、受験生という都合のいい言い訳が出来たので、食事も自室で済ましている。個室があるのが本当に救いだった。
 父親はどちらかと言えば他の家庭がどうかは知らないが、そこまで厳しい父親ではないと思う。ただ、意見が合わないし、とにかく体が拒絶反応を示している。ストレスを感じる。
 だから、顔も見たくない。
 昔は帰り道に図書館があって便利だったからついでによく利用していたが、引っ越してからはここの図書館は遠くになってしまった。
 家から遠くなると通うこともすっかりなくなっていた。
 寄り道することもなく、そのまま帰宅するようになり、母の家事の手伝いをしている。部活をやれば、それもできなくなるだろうが。
 帰宅中、例の寺が見えてきた。太郎の家は寺の隣にある。寺の前の道はアスファルトで、緩やかな坂になっている。寺と道があり、向かいが公園になっていた。と言っても散歩道とベンチぐらいで遊具はない。そもそも引っ越してからになるが、公園で遊んでいる小さな子供を見かけたことは記憶ではなかった。
 空はやや暗い。公園には外灯はあるが、まだ明かりはついていなかった。まだ、そんな時間ではない。今日は雲があるからやや暗かった。
 一学期のイベントとして待っているのは、順にいくと最初は中間テストになる。
 テストは受験生にとって重要だ。勉強の方は今までの成績ではそこそこ……ん?
 空に、というより宙に赤いリボンのようなものが浮遊している。それはカーブを描き寺の方に先が向いている。
「なにこれ」
 私は思ったことをそのまま口にした。
 すると、リボンは動き寺の敷地の中に入っていく。
「え!?」
 私はリボンにまるで引っ張られるかのような自然と気づいたらリボンのあとを追いかけていた。
 私も寺の敷地に入り、リボンはというと敷地の奥へとどんどん進んでいく。私もそこへ行くと、寺の裏側、つまり墓が現れた。
「七不思議……」
 私がそう言った直後、視界が真っ暗になった。
「え!?」
 私の意識はちゃんとある。証明が消えたかのように、外が真っ暗になったのだ。
 それから今が夜だと分かったのにはだいぶ時間を要した。
「え!? え、え!! ちょ、ちょっと待って。え? どういうこと??」
 いきなり夜になった。ここに来た直後に。
 まさか……噂は本当に!?
 私はその場から後退りしていると、なにかにぶつかった。
 後ろ!?
 振り向くと「どうしたの?」と懐中電灯を持ったお巡りさんが立っていた。
 私はビックリして思わず悲鳴をあげてしまった。
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