赤いリボンに包まれた七不思議

アズ

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 あれから二週間後。
 大変なことになった。恋の願いを叶えてくれるキューピット。それ事態はなにも害あるものではないし、むしろ恋を願う人にとってはありがたい神である、そんな神の前で罰当たりなことをした女子高生の為に協力した佳代子の中にある地縛霊は遂に、キューピットを完全に取り込んでしまった。
 え? と耳を疑ったぐらいの衝撃ニュース。それはテレビで流れるどのニュースよりも衝撃的だと俺は思う。
 そもそも、俺はキューピットを誤解していた。キューピットと言えば、弓矢を持ち、ハートの矢でその恋愛の願いを叶えさせる、そんなイメージを持っていた。
 しかし、実際にはキューピット弓矢を持っておらず、かわりに沢山の手を生やしている。キューピットは男女を引き合わせるようにお互いの手を取り、それを引っ張りその男女の手を繋げるという話しらしい。社長の言うことだから、専門家ではないし、あんなことがあったばかりだし、半ば信じられないのだが、確かに俺は瑞希から出た沢山の腕を見るに、それがキューピットの沢山の恋を繋げた出だったのかと想像したりはした。
 噴水の願いは必ずしも叶えてもらえるわけではなく、その基準は結局のところ分からないままだったが、キューピットがいたことは見た通りだろう。
 となれば、今のあの噴水にはキューピットはいないことになる。つまり、単なる噴水に戻ったわけだ。しかし、そもそも何故あの場所にキューピットが宿ってたりしたのか。
「そこまでは知らないよ。あの手がキューピットだと知ったのはあの住職から聞いた話しだしな」
 なんだ、そういうことか。
「しかし、今やそのキューピットの腕は地縛霊の腹の中」
「うえっ」
「正確には佳代子の腹の中で飼っている地縛霊の腹の中ということだな。神の腕を引きちぎってむしゃむしゃ食べたことだろう。まるで、佳代子の腹の虫が本当に飼っていたみたいな話しだな」
「うえっ(2回目)」
「もしかすると、その奪った腕を今度は背中に生やしたりしてな。翼の代わりに」
「佳代子さんの背中にですか? そんなグロい佳代子さんになったりしたら、俺達その神の手で早速殺されたりしませんかね」
「それが罰当たりに対する罰だったりしてな」
「社長、なんだか楽しそうですが僕は全く楽しくありませんよ」
「今のは冗談だ。実際食べたのとは違うだろう。取り込んだ、そうさっきも言っただろう。食べるというのは生物が生きていく上でエネルギーを摂取する行為だ。しかし、取り込むと言うのは、まさに進化する為の過程みたいじゃないか」
「俺達はそんなものに加担してしまったんですよ」
「まぁ、落ち着け。私だってもう一つの約束を忘れたわけじゃない。佳代子の地縛霊をなんとかするのも仕事の内だ。瑞希が解決して終わりにするつもりはないよ。そうだ、瑞希の方はどうなった」
「もうとっくに退院してますよ。瑞希の方は大きな怪我もなかったわけですし」
「そうなるともう一人の方は」
「いえ、それなんですがね」
「なんだ!? なにかあったのか」
「地縛霊がキューピットを取り込んでいる時、佳代子さんは夢遊病を発症してないんですよ」
「なんだと? つまり、あれか。地縛霊はキューピット相手に忙しかったから?」
「分かりませんがタイミング的にはそうなるんですかねぇ? とにかく、夢遊病を発症しないと、病院では判断出来ないと言うことで、とりあえず外傷も脳に異常もないことで、彼女も退院となりました」
「なに!? それはいつの話だ」
「3日前ですよ」
「何故それを早く私に報告しなかった」
「こっちも色々あったんですよ。そう言えば」
 そう、そう言えばだ。元はと言えばあの一万円札からキューピットの一連が始まった。一万円札を見たら女子高生が魔が差してもよくはないが分からなくもない。そもそも、いくら恋の為とは言え七不思議の一つキューピットを信じる為に一万円札を使ってしまうのはかなり思いきりがよすぎる。金持ちでもそんな使い方はしないだろう。多分。
「もし、噴水に入っていたお金が取られたら、そのお金で願いごとをした人はどうなってしまうんでしょうね? 叶わないとか?」
「例の一万円札の件のみと限定するなら答えは分かっている。叶わない」
「そうなんですか? そう言えば、社長その人のことについて何か言ってませんでしたか? なにか言ってた気がするんですが」
「思い出せないならそのまま忘れろ。もう、過ぎた話だ」



 金髪の彼が言っていることなら、私が覚えている。しかし、彼に伝えたとおり、もう既に終わったことだ。
 私だけが知る話しだが、和也は依頼主から一万円札が噴水に入っているかどうかを確認するよう依頼をした。もう、察しがいいのならそれで気付けるだろうが、その依頼主こそが一万円札を噴水に入れた人物である。因みに、性別は男だ。なんなら、小太り、無職、実家暮らし。
 その男は一万円札が噴水にまだあるかどうか不安になったのだろう。和也を使って確認をさせたが、途中、彼は依頼を変えた。そう、身辺調査だ。探偵事務所にはそういった依頼が来ることは別に珍しいほどではない。
 ただ、依頼主が身辺調査の対象にしたのが女性だったということ。察しがよければ、これも分かるだろうが一万円札を使ってまで叶えたい相手が身辺調査の対象者というわけだ。
 はいはい、いますよ、そういう人は。だから、うちは探偵事務所に依頼できる人はあらかじめ制限をかけてある。事件に発展する恐れがある場合、例え依頼であってもそれをお断りするケースがある。
 和也に忘れろと言ったのはそれが理由だった。結局、自分で働いた金でもない親の金でしょうもない願いをした為に、若い子が大迷惑したというしょうもない話だ。本当に全くだ。
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