たとえば君が

遠之森きゃお

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Scene2 デートなんかじゃない

Cut2

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――何度見ても変な階段だ。

 智哉は適当に乾かした髪をバサバサとやりながらその階段を見上げていた。
 この家には玄関から入ってすぐ正面に一般の家では考えられない、両手を広げても端に届かない程の広い階段がある。数段上がると踊り場になっており、その幅が更に増えて正面には壁。

 そこでくるりと百八十度向きを変えて玄関の方を見ると、二階まで伸びる階段が両端に一つずつある。
 階段の上部は二階の天井まで吹き抜けており、そこを中心に対象の作りとなっていた。

 二世帯で分離する時には真ん中に壁でも造る予定なのだろうが、それにしてもわざわざ階段を広く造っておくだなんて面倒に思える。智哉は納得いかないまま踊り場から見て右側にある階段を上がり始めた。

  二階の廊下は階段の吹き抜けの周りをくるりと一周囲むように繋がっている。ここを降りていくと舞踏会でも始まりそうだ。
 階段を上り切って周りをもう一度見回していると、朔夜が自分の部屋から出てきた。
 
「まだ時間かかりそう? あまり遅くなると人通りが増えちゃうから……」

「ああ、ごめん。すぐだから待ってて」

 智哉は急いで部屋に入り荷物を持つと、綺麗に片付いたクローゼットの中から薄手のニット帽を取り出す。
 一旦閉めかけてその手を止めると、智哉はもう一度中を覗き込み、黒いジャケットを手に取った。

「準備できた?」  

「ああ、うん」  

「じゃあ行きましょう」   

 案内役を引き受けたものの、朔夜はまだ智哉と目を合わせない。階段を数段降りた朔夜を見下ろしながら智哉は声を掛けた。  

「なあ、悪かったよ、さっきのは……ちょっとした言葉のあやって言うか」  

「そうね……もういいわ。私もクッション投げつけたし、それでおあいこって事にしましょう」 

 美沙子の言う通り、もう忘れる事にしたらしい。智哉はやっと和らいだ朔夜の雰囲気に胸を撫でおろした。
 まだ良く朔夜の事はわからなかったが、信頼できそうだと感じられた。何も知らないままに越して来たが、ここに来た事を後悔せずに済みそうだ。


 ――やっぱ、昨夜は惜しい事をしたかな――    


 不意にそう思ってしまい、智哉は自分のおでこを叩いた。


 玄関を開け、早朝の冷え込みも薄れ晴れ渡った空の下に出る。   

 朔夜は長袖カットソーに薄手のジャケットという春らしい装いだったが、智哉は風の冷たさに震え革のジャケットに袖を通した。  

「そんなに寒いの?」  

「うん」  

「夜や早朝はまだしも、もう日も差して暖かくなってきたと思うんだけど」  

「体感温度に差がありすぎんだろ……」   

 玄関前の庭を抜け門の扉を開けようとした時、二人の手が重なる。 
 バッと手を引っ込めた朔夜は、慌てたように扉を開け直すと先に歩き出す。智哉もそれについて歩く。朔夜の首から上は、真っ赤に染まっていた。

   
―――――― 


「ところでさ、鉄ちゃんって言ってたけど……どんな人」  

「鉄ちゃんは……私の、バイト先の……店長で……」  

「ふーん、バイトとかしてるんだ。で、その人が美容室紹介してくれるの?」

「違うわ、そのお店が……ダメ、無理!」 

 慣れない早足で歩き続けた朔夜は、息を切らし足を止めた。 
 智哉が後ろから追いかけて来るものだから、逃げるように朔夜のスピードもどんどん上がっていったのだ。 
 今はまだ顔を見られたくなかった。顔を赤くしているのに気付かれて、またファンなのかと思われてしまっては困る。  


 ――あの事を知られない為には少しでも疑われるような事は避けなきゃ―― 


 下を向き大きく肩を揺らしながら呼吸を整える。

「なんだよ、どうした急に」

「ちょっと……待って。智哉君歩くの速いから……」

 そう言ったかと思うと朔夜はその場にしゃがみこんで、膝の間に顔を埋めた。
 智哉とふいに手が触れてしまったせいで赤くなった顔は今や競歩まがいの早歩きのせいで赤くなっていたのだが、とにかく今は見せたくない。   
 荒くなった息を整えやっと顔を上げると、そこに智哉の姿はなかった。  

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