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しおりを挟む最悪だ。
信じらんない!
何をどうしたらそんな間違えをする!と、自分のやらかしたミスに呆然とした。
腹が立った。
煽りを受けた同僚や上司に申し訳なく、惨めな気持ちになった。泣きたくなった。
私の勤め先は残業に厳しく、ほぼ定時で帰らされる。
その日はさすがに、自分のミスの修正と巻き返しのため残業をした。
大声で怒鳴りたいのか、泣き出したいのかよく分からない感情は行き場に迷い、それでもなんとか体は家にたどり着いた。
メイクも落とさず着替えもせずベッドに突っ伏した。
しばらくして、雄二が帰ってきた。
ドタドタと足音を立て、ぷりぷり怒って近づいて来た。
「華、なんで家にいるのさ。こっちはずっと待ってたのに!メールくらい……」
はっと息を呑んだ後、恐る恐るベッドに近づいてくる気配を感じる。
「どうしたの?具合悪いの?ごめんね。事情も知らずに怒鳴りつけちゃって」
「……」
「華、大丈夫?メールも入れられないくらい悪かった?」
「メール? あ!」
今日は夕飯を食べに行く約束をしていたのを思い出し、ガバッと起き上がる。
「ごめん!忘れてた!」
あまりの勢いに雄二がびっくりしたような表情になる。
「あ、うん。病気じゃなさそうで良かった。顔洗って着替えてきなよ。」
あ、
やられた!間違えた。
またやってしまった!
このぐしゃぐしゃなひどい顔を見られた!
今朝に引き続き、なんで私はいつも雄二にはこんな油断しまくったところを見せてしまうのだろう。
あいにく泣いてパンダになったり、ドロドロになる程の濃い化粧はしていないのが救い、か?
「お風呂入ってくる。」
「一緒に入る?」
「嫌です。絶対お風呂だけじゃ済まなくなるでしょ。」
「はは。まあ、じゃあ今日は遠慮するよ。夕飯、簡単なの作るよ。」
「そうしてください。夕飯は……月見うどんが食べたい。」
「了解。準備しておきます。」
なんで私はいつもこうなんだろう。
失敗ばかり。
みっともないところばかり雄二に見せてしまう。
油断しまくり。
常に気合い入れまくりは疲れるけど、たまには可愛らしいところとかいい女なところとか見せてやりたい。
ん?
可愛らしいとかいい女とか、自分で言っちゃダメだろ。そう思うのは相手だ。
自分で自分が可愛らしいとか!
まあ、腐れ縁で付き合いもいい加減長いし、今更か。
***
片思いの未練は時間とともに薄れた。
3年になり、初めての恋人が出来た。
実らない想いに執着することに疲れ、愛するより愛される方が幸せなんだろうか?
と、当時猛アタックしてくれていた一つ上の先輩と付き合い出した。
しばらくは、初めてのデートや初めてのアレコレで舞い上がっていたが、程なく彼が内定取消に合いギクシャクし始めた。
事業悪化による内定取消だった。
その後ギクシャクしたものはなかなか回復せず、彼はもう戻って来ないだろうと感じていた。
こちらから別れを切り出そうかという時に、向こうから別れを切り出された。
「あの人とは付き合っていくうちに好きになるかと思ったけど…」
「けど?」
「情は湧いた。」
「好きにはなれなかった?」
「わかんない。でもいつかは好きって気持ちは薄れるものだってわかった。」
「ヒドイな。変わらず好いてくれる人もいるよ?」
「世の中にはいるのかもしれないけど、私は自分で見聞き体験したことじゃないから信じられない。」
「おいおい少なくともここに一人いるだろ?ま、別れたばっかりで心も荒んでるし仕方ないか。」
「卒業したら両親に紹介してくれるって、初ボーナスで指輪買ってくれるって…」
「ボーナスって、一年先まで買ってやらないつもりだったのかよ。婚約指輪のつもりだったなら、前のめりすぎじゃね?」
「うん。その時はまだ前の好きな人のこと引きずってたから、何この人一人で盛り上がってるんだろ、って思った。」
「だろうな。んで?そいつ『俺があいつのことなんて忘れさせてやる』とか『俺に惚れさせてやる』とか、大見得切ってたくせに。なのになんでこんなに早く別れた?なんか他にあった?」
「寝言で他の女の名前言ってた。」
「それはまた…ベタな」
「しかも、初めの頃と別れる間際で違う名前だった。」
「マジか!よくその間付き合ってたな。」
「だって、はじめは聞き間違いとか女家族の名前かもって思って……」
「2度目で確信したと……華ほどの女捕まえておいて許せん。」
「漫画とか小説とかじゃなくても、本当に有るんだね、こんな事。」
「……有るんだなあ、そんな事。だから俺にしとけ、って言ったじゃん。」
「言ったっけ?そんなこと。」
「覚えてないのかよ。じゃあ、次は俺にしろよ」
「ふふ。冗談ばっか。でもありがとう。少し涙おさまった。」
「なあ、華。」
「ん~?何?」
「お前、この課題と実験とレポートの嵐の中、どうやってスタジオ通うような時間作ってんの?」
「え~?どうって?がむしゃらに。週1でも思いっきり体動かして汗かいてストレス発散。雄二のところはそんなに忙しいっけ?」
「課題と研究とレポートとデータ収集に解析、徹夜なんてザラだし」
「ん~、集中力の問題?だらだら徹夜するよりちゃんと睡眠とって回復して、シャキッとした頭でサクサク片づけたほうがいいよ。」
「それはそうなんだが…なんか、根本的に華とは別の人種のような気がして来た。」
「ん~、とりあえず、無駄口叩いてないでとっととやる!」
「はい」
「ねえ、華って石井くんと付き合ってるの?」
「ん?雄二のこと?」
「そう、よくお昼とか一緒にいる人。」
「違うよ。1年の時とってる講義がかぶることが多かったから、よく話してたけど、あと恋人のことで相談に乗ってもらってた。」
「ふふふ。それって相談しているうちに好きになっちゃうってパターンじゃない?」
「まさかぁ。レポートに追われてそれどころじゃないし、それに小学校の時からの知り合いで今更そんな感じにはならないよ。」
「え~、それって幼馴染ってやつ?それはそれで憧れるなあ……」
「初恋をこじらせて、仕方ないからくっついちゃったって感じで私は嫌~。」
「ひどーい。夢のない言い方~!」
「……(夢なんてとっくの昔に敗れ去ってる)」
***
湯船に座り込み膝を抱え突っ伏した。
「考えてみれば、絶対こんな顔、人に見られたくないってのをことごとく見られてる気がする。」
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