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しおりを挟む駅からの途中、華の好きな甘口のワインを買い足して帰った。
「おじゃましまーす。」
「はい、どうぞ。華んとこほど広くないけど、そっち、適当に座ってて。グラス持っていくから」
自分の部屋に、華がちょこんと座っているのを見て気分が高揚した。
つまみとグラスを持って部屋に入ると、華は真ん丸な目をして九州で気に入って買った酒の瓶を見ていた。
なんとなく、何を考えたのかわかった。
「これ日本酒?」
「そう。飲みやすいよ。飲んでみる?」
「うん、ありがとう。コレって
「どっかのバスケ部の3Pシューター思い出しただろ?」
「そう!」
「初めて見た時、俺も一瞬見間違えた。」
「あはは!やっぱり!」
乾杯をしてグラスに口を付けている彼女を見て聞いてみた。
「華、前に簡単に男を自宅に上げるなって言ったけど、一人暮らしの男の部屋にもほいほい上がりこむなよ?」
「ひどいなぁ、人をゴキブリみたいに……んー、これ美味しい。」
「ゴキブリって、他の表現ないのかよ。」
「あはは。大丈夫、雄二だけだよ~」
「なんか嬉しい言葉をもらったはずなんだけど、喜んではいけない気がするのはなぜだろう…」
「ん~?」
華はニコニコしながらグラスを傾け、いつの間にか飲み干していた。
「おい、ちょっとペース早くないか?まあ、酔って寝ちゃっても泊めてやるけど。」
「んふふ~ありがとう。そしたら後でシャワー借りるね」
「華はどこまでわかってるのか、無自覚なのかわかんなくなってきた。」
「何がー?」
「華、今日は俺とデートして、そのままデート相手の俺の部屋に泊まるって、どう言うことか認識ある?」
「…え!?」
デートを強調して言ってみた。華は、ピタっと固まった。
そして言葉を反芻し暫くした後、耳まで真っ赤にして俯いてしまった。
「はぁっ、やっぱり無かったんだ。」
「ううう。ごめんなさい?」
「なんで疑問形。もう今更だけど」
「だって、今日は二人でバレエ見に行って、ご飯食べて、雨降ってたけど夜景がキレイで…」
「うん、そうだね。世間ではそれをデートって言うんじゃねーの?」
「そう、だね…」
「しかもまんまとお持ち帰りされちゃって。」
「う……えーっと、あの、つまり、雄二は私とそういうことしたいの?」
恐る恐る俺の顔を覗き込んできたから、真っ直ぐ彼女の目を見て答えた。
「そうだよ。そういう事する関係になりたい。」
「……な、そんなこと真正面から真顔で言われると……恥ずかしい!」
「華、耳まで真っ赤。可愛い。」
「もう!からかわないでよ」
華はちょっと拗ねたように、そっぽを向いてしまった。
「本気だよ。だから真面目に話してる。また冗談ばっかりって流されたくないから。」
「でも、そんな突然言われても……」
「全然突然じゃないだろ。学生時代からずっと言い続けてる。」
「…そうだった?……かも」
「華、好きだよ。」
「……」
「こんな何度も食事に誘ったり予定合わせて出かけたり、バレエの公演状況調べてみたり、好きな子のためじゃなきゃしないよ。
華、こっち向いて?ちゃんと俺の目を見て話を聞いてよ。」
「…ぅぅうう!だめ!無理!」
「え!!」
まさかの拒絶の言葉に今度は俺が固まった。
テーブルに突っ伏してしまった彼女を見て愕然としていたら、華は慌てて否定した。
「あ!違う違う。そうじゃないよ。恥ずかしすぎて……
その、
……顔見れない。
顔見せられない。」
そう言ってラグの上にパタリと倒れてしまった。
「ええええ!!?お、おい華、大丈夫か!?」
心配して近寄って、肩を揺すったら突っ伏したまま返事をされた。
「ダメ。無理。恥ずかしすぎて死ねる。大丈夫じゃない。」
「あー焦った。華って、子供の頃からしょっちゅう男に告られてたのに、なんで今更俺なんかにこんな恥ずかしがってるの?」
「しょっちゅうじゃないよ。なんとも思ってない相手ならともかく、雄二はそうじゃないもん」
「……それって、つまり期待していいの?」
「……」
「華、顔見せて」
顔を覆っていた両手をどかしたら、真っ赤な顔をして涙目で睨まれたけど全然迫力はなかった。
「…ぃや、離して…雄二!」
なんか別の威力があった。
「……」
「やだ…もうダメ、お願い!」
そんな甘ったるい声でお願いなんて、反則だ。
「……華、とりあえず起きて。
この体勢でそれ、ヤバイ。破壊力抜群なんですけど……」
「……もう~!鼻から心臓出そう」
「ぶはっ!それ言うなら、口から心臓だろ。鼻から牛乳と混じってる。」
「あ、間違えた」
「くっ……ぶっ……!」
「ちょっと、笑いすぎ!」
甘い雰囲気は見事破壊されたけど、俺の理性と華からの信用は守った。
でも結局その後、華に理性を吹っ飛ばされた。
この日から俺と華は付き合い始めた。
***
真夜中目が覚めた。
目が覚める直前、すごく幸せな気持ちになる夢を見ていた気がする。
今日は遠慮すると言いつつ、華の話を聞いて涙をにじませてるのを見ていたら抑えられなくなった。
患部に手を当てて治療するから、手当てと言うように、重ねた肌から華を癒してあげられたらと思った。
華も素直に俺に身を任せ、甘えてくれた。
昨日から伝えようと思っていたことを、今日もやっぱり伝えられなかったことに気がついた。
ベッドに突っ伏す華を見て、後でもいいと思った。
華の話を聞いたらやっぱりもっと早く伝えておけばよかったと思った。ヘタレな自分に溜息を吐いた。
いつも、華は終わるとすぐ眠ってしまうからピロートークをする事は無い。代わりに、彼女のこの寝顔を見るのは最高に幸せな時間だった。
今日はそれがいつになく切ない気持ちになった。
腕の中にいた華が身じろぎをし、布団にくるまると俺の胸に頭をすり寄せてきた。
愛おしいと感じるのは何年経っても変わらない。
彼女を知れば知るほど、月日が重なるほど、その気持ちは強く大きくなった。
ああ、目が覚める直前の幸せな気持ちになったのはこれか、と気がついた。
「華、愛してるよ」
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