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SS
違和感
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玄関の鍵を開けて、私は大声で叫びながらドアを蹴り開けるようにして駆け込んだ
「お兄ちゃん!聞いてよー!!」
バンッ!
目の前に現れた光景に世界の時間は凍りついた。
ベッドには人魚のようにウェーブのかかった長い髪を流した女性、突き出された白い尻に兄がまさにマウント中だった。
油のさしていない機械のようにギギギっと首を巡らした兄と目があう。
ぎゃあああああ!
「華!!」
怒鳴られてギシギシ言いながら回れ右して外に出たのか、
悲鳴をあげて飛びずさり外へ出たのか、
何もなかった、とクルリと後ろを向いてスタスタと外に出たのか
どうやって玄関外に出たのか覚えていないが、ドアの脇に膝を抱えうずくまってしまった。
尻に根が生えたように動けない。
おでこは膝に強力な接着剤をつけられたように顔を上げられない。むしろめり込む。
しばらくして玄関のドアが開き、足音が通り過ぎた。
女だろう、兄にしては足音が軽かったから。
さらにしばらくして、ドアが開き気配が正面に止まった。
恐る恐る目を開けると、兄のスニーカーが目に入る。
「起きろ、こんなところで座り込むな。」
腕を掴まれ、立たされる。
ドアを開け中に放り込まれた。
「あ~ったく、どうしてくれんだよ」
どかっと床に座りながら溜息を吐く兄。
「ごめんなさい」
顔を見れず、その場で俯く私。
「チャイムぐらい鳴らせよ」
「チェーンかけてください」
「…」
「…」
「なあ「あの
思わず顔を上げれば目が合ってしまう。
慌てて目をそらした。
「なんか、用があってきたんだろ?なんだよ」
「……ショックで忘れた。」
「見られ損…!?」
「でも、用一つできた。これもう私持ってない方がいいと思う。彼女に渡して上げて。」
合鍵を返した。
「おう。次来る時は電話かメールしろ、俺の返事があってから来い」
「うん」
呆然としながらどうやってか、大学の駅までたどり着いた。駅近くのカフェでカフェオレを前に、一瞬目に入った光景がちらついて落ち着かない。『あんっ』と短く上がった女の声が耳から離れない。
今日何の用で兄の部屋に行ったのかは、忘れてなんかいない。愚痴りたかった。話を聞いてもらいたかった。
内容が内容で雄二にはとても話せない。今思うと兄になら話せたのか?疑問だ。
あまりに痛くて最後までできなかった。あんな気持ち良さそうな声なんか出ない。無理しないでいいよ、と言ってはくれたものの寝言で呟いたのは他の女の名前ともとれる単語だった。
うそ
妹がいるって言っていた。母親の名前かも、母親を名前で呼ぶ?妹だよね。昔の彼女?やだ!
でも、夢って眠る前の状況とか考えていることとかとは全く関係ないストーリーが展開される。思いもつかなかった古い友人が出てきたり。
そうだ、そういうことだ。
そうだよね
「華?」
パッと視線を上げると、遠くに雄二がいた。目が合う。あっと口を開いたのがわかる。
「華」
視界を塞ぐように人が割り込む。見上げると彼だった。
声をかけてくれた彼よりも先に、遠くにいた雄二に気がついた。なんなんだろう、この何処かが軋むような感覚。
強引にその違和感を押しやり、彼の顔を見つめ、微笑む。大きな彼の手を取った。
「お兄ちゃん!聞いてよー!!」
バンッ!
目の前に現れた光景に世界の時間は凍りついた。
ベッドには人魚のようにウェーブのかかった長い髪を流した女性、突き出された白い尻に兄がまさにマウント中だった。
油のさしていない機械のようにギギギっと首を巡らした兄と目があう。
ぎゃあああああ!
「華!!」
怒鳴られてギシギシ言いながら回れ右して外に出たのか、
悲鳴をあげて飛びずさり外へ出たのか、
何もなかった、とクルリと後ろを向いてスタスタと外に出たのか
どうやって玄関外に出たのか覚えていないが、ドアの脇に膝を抱えうずくまってしまった。
尻に根が生えたように動けない。
おでこは膝に強力な接着剤をつけられたように顔を上げられない。むしろめり込む。
しばらくして玄関のドアが開き、足音が通り過ぎた。
女だろう、兄にしては足音が軽かったから。
さらにしばらくして、ドアが開き気配が正面に止まった。
恐る恐る目を開けると、兄のスニーカーが目に入る。
「起きろ、こんなところで座り込むな。」
腕を掴まれ、立たされる。
ドアを開け中に放り込まれた。
「あ~ったく、どうしてくれんだよ」
どかっと床に座りながら溜息を吐く兄。
「ごめんなさい」
顔を見れず、その場で俯く私。
「チャイムぐらい鳴らせよ」
「チェーンかけてください」
「…」
「…」
「なあ「あの
思わず顔を上げれば目が合ってしまう。
慌てて目をそらした。
「なんか、用があってきたんだろ?なんだよ」
「……ショックで忘れた。」
「見られ損…!?」
「でも、用一つできた。これもう私持ってない方がいいと思う。彼女に渡して上げて。」
合鍵を返した。
「おう。次来る時は電話かメールしろ、俺の返事があってから来い」
「うん」
呆然としながらどうやってか、大学の駅までたどり着いた。駅近くのカフェでカフェオレを前に、一瞬目に入った光景がちらついて落ち着かない。『あんっ』と短く上がった女の声が耳から離れない。
今日何の用で兄の部屋に行ったのかは、忘れてなんかいない。愚痴りたかった。話を聞いてもらいたかった。
内容が内容で雄二にはとても話せない。今思うと兄になら話せたのか?疑問だ。
あまりに痛くて最後までできなかった。あんな気持ち良さそうな声なんか出ない。無理しないでいいよ、と言ってはくれたものの寝言で呟いたのは他の女の名前ともとれる単語だった。
うそ
妹がいるって言っていた。母親の名前かも、母親を名前で呼ぶ?妹だよね。昔の彼女?やだ!
でも、夢って眠る前の状況とか考えていることとかとは全く関係ないストーリーが展開される。思いもつかなかった古い友人が出てきたり。
そうだ、そういうことだ。
そうだよね
「華?」
パッと視線を上げると、遠くに雄二がいた。目が合う。あっと口を開いたのがわかる。
「華」
視界を塞ぐように人が割り込む。見上げると彼だった。
声をかけてくれた彼よりも先に、遠くにいた雄二に気がついた。なんなんだろう、この何処かが軋むような感覚。
強引にその違和感を押しやり、彼の顔を見つめ、微笑む。大きな彼の手を取った。
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