冬の水葬

束原ミヤコ

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終章

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 無事に冬休みを迎えることができた私は、凪先輩と共に防波堤に座って、真冬の冷たい風にふかれていた。
 マフラーと手袋とコートにブーツ。
 完全防備している私の足は、防波堤からぶらぶらと海に投げ出されている。

 凪先輩はすらりとした体にロングコートを着て、私の隣に座って、コンビニの袋からまだ暖かい肉饅を私に渡してくれた。

「新発売の、具たっぷり肉まんですよ、凪先輩。なんとタケノコが入ってます。タケノコ、好きなんですよね、私。シャクシャクしておいしい」

「それは良かったな、七瀬。好きなだけ食べて良い」

「じゃあ帰りも買ってください。寒い中一緒に来てあげたんですから」

 凪先輩の片手には、花屋さんで買った花がある。
 花の種類とかは詳しくないので、それが何の花なのかはわからないけれど、青と白の綺麗な花束だった。

 凪先輩は、花束を海に落とすと、手を合わせた。
 花束を包んでいたビニールは破ってしまったので、バラバラになった花が、波間に飲まれて消えていく。
 私も肉饅を口にくわえながら、慌てて手を合わせる。
 肉饅を食べ終わってからにするか、それとも食べる前にするかにして欲しかった。
 
 人を弔う態度としては、あまりに不敬だと思う。
 皐先輩なら、笑って許してくれそうだけれど。なんとなく。

「……皐先輩のことが、好きだったとか、そういうわけじゃないんだ」

「そうなんだ。私はてっきり、凪先輩は片思いしていたのかと思っていました」

「多少の憧れはあったと思う。絵に対する信念があってどこか危うくて、綺麗な人だったから。よく声をかけてくれるのは、嬉しかったような気がする」

「皐先輩は、結局誰が好きだったんでしょうね」

「さあ。誰だろうな。……七瀬、去年皐先輩が亡くなった時から俺はずっと、罪悪感を感じ続けていた。七瀬を守ることができなくて、皐先輩まで死なせてしまった。俺には生きる資格なんてないとずっと思っていた」

「何を言ってるんですか、凪先輩は。少し、考えすぎなんですよ」

「同じ夢を、繰り返し見ていた。皐先輩と一緒に死ぬ夢を。……でも、夢の内容が、最近変わったようだ」

「どうかわりました?」

「美術部の部室に倒れているお前を見つけた日から、……夢の終わりに、お前が溺れる俺を、助けてくれるようになった」

「それは良かった。悪夢から凪先輩を助けた私はさながら、スーパーヒーローってやつじゃないですか」

 凪先輩は、私が見た白昼夢のようなものについては、何も覚えていないらしかった。
 だから私は、ただ夢を見ただけなのかと思っていたけれど--どうやらそうでもないらしい。

 何にせよ、凪先輩はもう、皐先輩を描くのをやめるらしい。
 八音部長にほとほと怒られたのだと、苦笑まじりに言っていた。
 それから多分、夢の内容が変化したことも、何か関係しているのだろうと思う。
 口の中に、肉饅の甘辛い肉汁と、椎茸の香りが広がる。
 もくもく噛み締めると、タケノコがシャリシャリする。タケノコ入りの肉饅は、特別感があって良い。

「夢の中のお前は、俺のことが好きだと言っていたな」

「好きですよ」

「兄のような存在だから?」

「違いますよ。凪先輩がお兄ちゃんだったら、こういうこと、しません」

 私は凪先輩のコートの襟を引っ張ると、無理やり唇を合わせた。
 多分、肉饅的な味がしたんじゃないかなと思う。
 離れようとしたけれど、そのまま強く引き寄せられる。
 凪先輩の腕の中は、このまま二人で海に落ちても大丈夫じゃないかと思えるほどに、あたたかかった。


 
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感想 1

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みんなの感想(1件)

なな
2021.11.29 なな

七瀬ちゃんの凪先輩との距離感が良かったです。大事に気持ちに寄り添うのがいじらしくて。こういうワンコな感じは愛さずにいられないです。七瀬ちゃんの走るシーンが好きでした。

2021.12.11 束原ミヤコ

ありがとうございます、たまには現代青春ものが書きたい!と思って書いた話なのですが、感想までいただけて嬉しいです…!素直で可愛い女の子が好きなので、そう言ってくださると嬉しいです!

解除

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