17 / 17
終章
しおりを挟む無事に冬休みを迎えることができた私は、凪先輩と共に防波堤に座って、真冬の冷たい風にふかれていた。
マフラーと手袋とコートにブーツ。
完全防備している私の足は、防波堤からぶらぶらと海に投げ出されている。
凪先輩はすらりとした体にロングコートを着て、私の隣に座って、コンビニの袋からまだ暖かい肉饅を私に渡してくれた。
「新発売の、具たっぷり肉まんですよ、凪先輩。なんとタケノコが入ってます。タケノコ、好きなんですよね、私。シャクシャクしておいしい」
「それは良かったな、七瀬。好きなだけ食べて良い」
「じゃあ帰りも買ってください。寒い中一緒に来てあげたんですから」
凪先輩の片手には、花屋さんで買った花がある。
花の種類とかは詳しくないので、それが何の花なのかはわからないけれど、青と白の綺麗な花束だった。
凪先輩は、花束を海に落とすと、手を合わせた。
花束を包んでいたビニールは破ってしまったので、バラバラになった花が、波間に飲まれて消えていく。
私も肉饅を口にくわえながら、慌てて手を合わせる。
肉饅を食べ終わってからにするか、それとも食べる前にするかにして欲しかった。
人を弔う態度としては、あまりに不敬だと思う。
皐先輩なら、笑って許してくれそうだけれど。なんとなく。
「……皐先輩のことが、好きだったとか、そういうわけじゃないんだ」
「そうなんだ。私はてっきり、凪先輩は片思いしていたのかと思っていました」
「多少の憧れはあったと思う。絵に対する信念があってどこか危うくて、綺麗な人だったから。よく声をかけてくれるのは、嬉しかったような気がする」
「皐先輩は、結局誰が好きだったんでしょうね」
「さあ。誰だろうな。……七瀬、去年皐先輩が亡くなった時から俺はずっと、罪悪感を感じ続けていた。七瀬を守ることができなくて、皐先輩まで死なせてしまった。俺には生きる資格なんてないとずっと思っていた」
「何を言ってるんですか、凪先輩は。少し、考えすぎなんですよ」
「同じ夢を、繰り返し見ていた。皐先輩と一緒に死ぬ夢を。……でも、夢の内容が、最近変わったようだ」
「どうかわりました?」
「美術部の部室に倒れているお前を見つけた日から、……夢の終わりに、お前が溺れる俺を、助けてくれるようになった」
「それは良かった。悪夢から凪先輩を助けた私はさながら、スーパーヒーローってやつじゃないですか」
凪先輩は、私が見た白昼夢のようなものについては、何も覚えていないらしかった。
だから私は、ただ夢を見ただけなのかと思っていたけれど--どうやらそうでもないらしい。
何にせよ、凪先輩はもう、皐先輩を描くのをやめるらしい。
八音部長にほとほと怒られたのだと、苦笑まじりに言っていた。
それから多分、夢の内容が変化したことも、何か関係しているのだろうと思う。
口の中に、肉饅の甘辛い肉汁と、椎茸の香りが広がる。
もくもく噛み締めると、タケノコがシャリシャリする。タケノコ入りの肉饅は、特別感があって良い。
「夢の中のお前は、俺のことが好きだと言っていたな」
「好きですよ」
「兄のような存在だから?」
「違いますよ。凪先輩がお兄ちゃんだったら、こういうこと、しません」
私は凪先輩のコートの襟を引っ張ると、無理やり唇を合わせた。
多分、肉饅的な味がしたんじゃないかなと思う。
離れようとしたけれど、そのまま強く引き寄せられる。
凪先輩の腕の中は、このまま二人で海に落ちても大丈夫じゃないかと思えるほどに、あたたかかった。
10
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
*********
久しぶりに始めてみました
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
猫と王子と恋ちぐら
真霜ナオ
BL
高校一年生の橙(かぶち)は、とある理由から過呼吸になることを防ぐために、無音のヘッドホンを装着して過ごしていた。
ある時、電車内で音漏れ警察と呼ばれる中年男性に絡まれた橙は、過呼吸を起こしてしまう。
パニック状態の橙を助けてくれたのは、クラスで王子と呼ばれている千蔵(ちくら)だった。
『そうやっておまえが俺を甘やかしたりするから』
小さな秘密を持つ黒髪王子×過呼吸持ち金髪の高校生BLです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
七瀬ちゃんの凪先輩との距離感が良かったです。大事に気持ちに寄り添うのがいじらしくて。こういうワンコな感じは愛さずにいられないです。七瀬ちゃんの走るシーンが好きでした。
ありがとうございます、たまには現代青春ものが書きたい!と思って書いた話なのですが、感想までいただけて嬉しいです…!素直で可愛い女の子が好きなので、そう言ってくださると嬉しいです!