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しおりを挟む「今日からよろしくお願いします」
おじいちゃんが亡くなって、独りぼっちになった私。
心配した商店街の会長さんの奥さんが紹介してくださったのが、リーヌス様。
「こちらこそよろしく。……なんだか緊張するな」
伯爵家の五男で、騎士として身を立てている方。
貴族だけどおごったところがなく親しみやすい方で、この度私たちは結婚した。
「リーヌス様も? 私も緊張しています。きっとご迷惑をおかけすることもありますが、一生懸命頑張ります」
「お互いに初めてのことばかりだから、俺だって迷惑かけることもあるよ。だから、少しずつ歩み寄れたら嬉しい」
リーヌス様が差し出した手をきゅっと握る。
大きくて、ごつごつしていて、でも温かくてほっとした。
「カリン、俺達はもう夫婦なんだし堅苦しい話し方はしないでほしい。……そうは言ってもまだ会って4回目だもんな。少しずつ慣れていこう」
「はい、わか、ったわ」
なめらかに言葉が出なくてかぁっと顔が赤くなる。
「カリンも、慣れたらリーヌスって呼んでほしい」
優しそうに笑うから私は両手でリーヌス様の手を握った。
「はい……頑張ってみる」
私は20歳で成人したばかりで、リーヌス様は5つ年上の25歳。仕事柄がっちりした体つきだけれど、優しげな顔立ちで整っていると思う。
結婚は諦めていたそうだけど、爵位を継げなくても、どこかの貴族に婿入りの話や町娘にも人気があったのではないかと思うのに、不思議な縁だ。
「会長の奥さんが、これで44組目の夫婦が成立したって話していたね」
「はい、相性がわかるんだそうです、あ、わかるんだって言ってた」
目の前にいるのが大人の男の人だから、私の旦那様といってもついかしこまってしまう。
リーヌス様はそんな私にとても優しい。
「いいよ、ゆっくり始めよう。……44だなんて、4が重なってとてもめでたいね」
この国では4は幸運をもたらす数字といわれていて、かわりに13が嫌われている。
13組目の夫婦には近隣の陽気な国では幸運の数字だって教えたという、会長の奥さんは結婚の世話をするのが好きで、とくに騎士の方たちとの縁結びが得意みたい。
私の場合、おじいちゃんが職人として働いていたから顔見知りでもあって。
奥さんに「ちょっと会ってみない?」と声をかけられて顔を合わせた後、すぐにリーヌス様の方から早く進めてほしいと言われた。
ちょうど私の住んでいた家は、おじいちゃんが借りていたものだったからすぐに出ていくように言われた後で。
リーヌス様がすぐに既婚者用の寮に移れることになったこと、それらが重なって知り合ってたった1ヶ月で結婚した。
「足りないものは一緒に揃えていこう。……とりあえず、お腹は空いてないか?」
「はい。あの、よければ何か作りましょうか?」
リーヌス様が笑って言った。
「いや、大丈夫だよ。結婚式の夜ではあるけど簡単なものは用意してあるんだ。今日は疲れただろう?」
「そうですね、少し」
昼間、教会でひっそりと式を挙げた。
リーヌス様のご兄弟がいらして、出席できなかったご両親から心温まる手紙が届いて、嬉しかった。
それに会長の奥さんが満面に笑みを浮かべて喜んで、お祝いの歌を大きな声で歌ってくれたのも楽しくて。
「座っていていいよ」
「いえ、あの、私もキッチンの使い方を知りたいから」
「ん、わかった」
2人で並ぶと狭く感じるし、距離が近くて落ち着かない。
それに、男の人とキスしたのも結婚の誓いが初めてで、思ったよりも柔らかくて。
「カリン?」
そんなことを考えていたから、名前を呼ばれて驚いた。リーヌス様に近い距離でのぞきこまれて、唇から何とか視線をそらす。
「あ、……なんでしょう?」
「言葉が戻っている、のはまだ最初だから仕方ないよな。パンの厚さはこれくらいでいいか?」
「もう少し薄くて大丈夫」
切り分けたパンにハムやチーズをのせてはさみ、ピクルスを添えてくれた。
昼に皆さんと牛肉とたまねぎと芋とトマトを一緒に煮込んだスパイシーなスープや、ソーセージ、マッシュポテトといった温かくボリュームのある食事をとったから本当は食べなくてもいいくらい。
だけど2人きりでとる、初めての食事。
1人で食べてもらうのも味気ないから。
新居に入る前に私の住んでいた家の荷物を取りにいって、大家さんに最後の挨拶をした後、ここに運びこんだ。
身一つで来てほしいと言われて、だいたいのものは周りの人に譲ったから、大切な仕事道具と洋服や普段使いの品をまとめたくらい。
使い慣れた鉄の浅鍋はどうしても手放せなくて、リーヌス様に持っていっていいか確認したところ、笑顔で頷いてくれた。
使い慣れた道具が一番だからな、って。
今は調理台の脇にしっかり置かれている。
「おかわりもあるからね」
「はい。リーヌス様はたくさん召し上がるんですね」
「うーん……カリンからみたらそうかもしれないが、騎士団のやつらはもっと食べるよ」
私の2倍どころか3倍の量を用意して、テーブルについた。
貴族の出だからか、とても食べ方が綺麗で見ていて気持ちいい。
「どうした?」
「リーヌス様はとても料理の作りがいがあるなって、思いました」
「好き嫌いはない。いや。豆はあまり好きではないが、カリンが作るものなら多分、大丈夫だ」
「その辺りは少し考えながら……あの、好きなものは?」
最初からわざわざ苦手なものを出すこともないと思って訊く。
「実はそれほどこだわりがない。ビールとウィンナーがあれば」
照れたように笑うリーヌス様に私もつられて笑う。
とりあえず量を用意すればいいのかもしれない。
「明日から任せてください」
私たちの初めての夕食は穏やかな時間が流れた。
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