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その後

11 二人きりになって① 

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* 全五話、Rのお話です。







******


「ネッドさん、そろそろ休みましょうか」

 気持ちの通じ合った次の夜。
 ネッドさんに声をかけると、ピンっと彼の背筋が伸びた。

「……そうだな、あの……フィーは今夜、部屋は……」
「? 客間で寝ますけど……?」

 なんでそんなことを聞かれたのか分からなくて。
 昨日の夜だってコレットのいない客間の、二台のベッドで二人、並んで眠ったのに。
 ちょっと照れくさかったしどきどきしたけど、すごくよく眠れた。
 ネッドさんは布団に深く潜って、暑くないか気になったけど、朝は私より遅くまで眠っていた。

「フィオレンサ」

 私の目の前に立ったネッドさんが、緊張した面持ちで、口を開きかけては、閉じる。
 それを見ていたら、私もなんだか緊張してきた。
 
「ネッドさん……?」
「フィオレンサ」

 すー、っと大きく息を吸ってから、私の両肩に手を置いた。

「フィオレンサ、今夜から俺の部屋に来てくれないか……?」
「ネッドさんの、部屋……」

 それは、つまり。
 私達は恋人同士で、番だから。
 結婚は、私が二十歳になるのを待つと言ってくれたけど。
 私と触れ合いたいと思っているのかな。
 意味がわかって赤くなる私に、ネッドさんが慌てた。

「いや、その、フィーが嫌なことはしないし! その、せっかく恋人になったから俺の部屋で寛いでもらいたいし、俺の近くに慣れてほしい、なって……」

 ネッドさんの部屋には掃除の時に入ったけど、ベッドの大きさは客間と同じ大きさだから。

「くっついて寝ないと落ちちゃいます、よね……?」

 私の言葉にネッドさんがぎゅって抱き上げる。

「くっついて寝てくれる?」

 ネッドさんの顔が近くて、恥ずかしい。
 ドキドキしてどこを見ていいかわからなくなった。

「……はい」
「……フィー‼︎ 可愛い! 可愛すぎるよ!」

 いきなり小走りになるから、私はぎゅっとしがみつく。そのままネッドさんの部屋に連れて行かれた。

「ネッドさん……大好きです」

 とても小さな声でささやいたのに、さらにきつく抱きしめられて、幸せだけどちょっと苦しい。

 ネッドさんは扉を足で蹴って閉めた。

「……お行儀、悪いです」
「ベッドではお行儀、良くする」
「はい、蹴らないでくださいね」
「…………コレットみたいなことはしないよ」

 そうっと、ベッドに下ろしてくれて、そのままお互い横向きになった。
 じっとみつめてくるから、恥ずかしくなってネッドさんの胸に頭を寄せる。

 力強い心音は少し早い。
 どんどん早くなる。

「……フィー」

 ネッドさんが私のつむじに口づけを落とす。それから、髪をすいて首筋に触れた。
 大きな手が地肌に触れる感覚は、くすぐったいような、そうとも言えないような不思議な感覚で。

「ネッドさん、私も触れて、いいですか?」
「……っ。もちろん!」

 手を伸ばして髪に触れた。
 思ったよりも硬い黒髪。それから。

「ネッドさん、耳、触ってもいいですか……?」
「…………少し、だけなら」

 ネッドさんはあまり気が進まない様子だから、そっと、少しだけ。
 人間の耳より、大きくて滑らかな触り心地。

「気持ち、いい、ですね……すごく、いい、です」

 少しって約束したから、私は我慢してネッドさんの肩に手を置いた。
 短く息を吐く音が聞こえて。

「フィー……俺の、忍耐力を試している?」
「忍耐力……?」

 ぽかんとする私に、ネッドさんがゆっくり唇を重ねた。
 
「フィー、嫌だって思ったらやめるから。だから、もっとさわりたい」
「はい」
「え! いいの?」

 断られると思ったのかな。
 すごく驚いている。
 私はそんなネッドさんを見て幸せだと思った。

「ネッドさん、大好きです。あの、嫌だと思ったら止めますから……その、自由に」
「自由に⁉︎ フィー! 嬉しいけど! 男になんてこというんだ。嬉しい、けど! いや、これは逆に……」

 どこまで、どこまでだ、って口の中でもごもごつぶやくから首をかしげる。

「ネッドさん? 私、ネッドさんのこと、嫌いになることないですから」
「……フィオレンサのこと、大切にしたいんだ。優しく、したい。愛してる」

 ネッドさんが表情を引き締めて言うけれど、尻尾が千切れんばかりに激しく揺れているのが見えて。
 それも、すごく、愛しくて。

「ネッドさん、愛してます」

 私の生まれた国にあわせて、あと半年ちょっと結婚を待つって言ってくれたけど。 

「私、この国では大人なんですよね。早く、ネッドさんと家族になりたいです」
「……それ、って……。もしかして……俺のいいように受け止めていいのかな? すぐに結婚してくれる?」
「はい」

「明日! いや、明後日……? 仕事もひと段落ついているし、なるべく早く教会に行こう。それから、あとで兄一家に報告すればいいから。フィーのご家族にもそうなるけど……いい?」
「はい」
「……恋人でいられる時間が、短くなっちゃうけど、許してくれる?」

 そう言われて不思議に思っていると、私を恋人として甘やかしたいんだって。
 私には違いがよくわからないけど、気持ちが嬉しい。

「はい。ネッドさんは最初から優しくて、いつも私に甘いと、思います……」
「フィー……俺」

 ネッドさんはそのまま黙って、ふう、と息を漏らした。
 それはあきれたものじゃなくて、満ち足りているみたいに感じた。

 私は胸がいっぱいで、幸せで。
 この夜も、怖くない。
 だから、初めて私から口づけた。
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